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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#071】 Lord of Square Part.Ⅰ -王宮都の歩み-

●王宮都編●

今回短めのシリーズ編一話目になります。

予定通り、土曜日出勤の為次週に投稿延期します。と言っても日曜の執筆状況次第ですが…。

それでは、明日も早いのでおやすみなさい。




 この国の王様マイト=ゴルディーに謁見を求めるには、最上層の王宮都まで足を運ぶ必要がある。しかし、問題なのは俺の冒険者ランクでは上層に行くことさえ叶わない。

 そこでレインに協力を求めたのだ。この二年間で薬師の職業だけでなく、国王守護部隊『魔導』の筆頭という立場はかなり大きい。職権乱用と言われれば何も言えないが、出来れば直ぐにでも俺が抱えている『問題』は片付ける必要がある。それも旧友としてのマイトさんではなく、国王としてのマイトさんに尋ねる必要があるあるからだ。

 ともあれ、段階は踏まなければならない。正規の手段に少々干渉して出来るだけ無理のない方法で謁見を試みることにした。俺とレインはそういう算段の基に王宮都へ。一方でクーアは、世にも珍しい白銀の羽毛をした梟と一緒に出掛けてしまった。

 梟は元々、レインの部屋に飾れていた剥製の梟で『希少種フクロウのギンコ』と言うらしく、その価値は金貨五十枚は下らない一級品だとか。ーーえ? なんで、剥製が動くのかって? そりゃあ"魂無き遺骸"と同じだから【反魂術式】でカルマを容れておいたから動くさ。それに例え梟が喋ったとしてもファンタジー世界だから大丈夫だよ。と言うレインの意見に同意したのだ。

 まっ、問題はなかろう。何かあった時には、カルマ梟さんが手助けしてくれるだろうし、カルマの考えることだ。どうせ、腹黒いことを考えて実行に移す気だろし、心配事がないわけではないが気にしても仕方ない。


 あっちのことは、置いといてだ。

 問題は今のこっちの現状だろうか。王宮都に行くと言った矢先にレイン監修の服装のコーディネートが始まったのである。もう、かれこれ一時間が経過するのに一向に決まらない。こんなのは、冒険者な訳だし普通の装備品で問題ないのでは? と俺が言えば帰って来た言葉は「却下」の一言。そこで駄々をこねると、その事情を教えてくれた。

 王宮都とは、そもそも国の中枢部であって多くの貴族や他国の大臣・要人が集まる首都らしく正しい着付けをした正装でないと最悪は追い出されるとのこと。要は他人の目を気にしているのだろうし、国の上層部としてはカッコ悪い部分を見せたくないと言う心情があるように感じられるな。

 確かにそれなら、仕方ないわな。

 変に目立つのは、俺個人としてもイヤだしな。しかし、そうなると食事等のマナーも注意されるのだろうか? こういう時に限ってカルマの存在が重要に思えてくるのは俺だけだろう。


"常識人を分離させるんじゃなかったぜ"


 心の内側で『おいおい、俺は?』とジャーが言ったようだが無視スルーだ。ハガネにしたってそうだ。呑んだくれの落武者イメージのハガネと安っぽい蜂蜜酒片手に酔っぱらう傭兵イメージのジャーよりもよっぽどエリート系魔導師イメージのカルマの方がしっくり来るってもんだ。

 早くも失敗した感じが拭えない。

 でも、遣るっきゃねぇよな。レインがいるんだ。女子力=常識マナーには強い筈・・・多分ね。


 で・・・・・・だ。

 どういうわけか、レインがコーディネートしてくれた服装は何処にでもいるごく一般的な男子の私服となっていた。しかもレインと比べるとかなり対照的だ。

 レインは魔導師としての正装だと言う茶色ぽいフード付きの魔導ローブを羽織って、フードは被らずそのまま。ローブの下には薄手の白いワンピースと此方も茶色ぽいブーツでお出掛けになるらしい。

 それに対して俺はと言うと、黒色のTシャツの表側に描かれた一つの黄金刺繍の竜眼と一緒に付属で付いてきた鷹のシルバーネックレス。いい趣味をしているのか、悪い趣味なのか俺にはさっぱりだ。そして下のズボンは、丈が少々長めな茶色のカーゴパンツという組み合わせだ。


 あかんでしょ! コレは目立つよ。という感じの目でサインをそれなりに送ったつもりなのだが、帰ってきたのは似合うよと言う親指を立てた『b』サイン。

 物凄く悲しくなって逃げたい心情も無視して、俺の手を強引に引っ張るレインは結構楽しそうだ。

 周囲の視線が押しピンとなって襲ってくる針の蓆をレインの笑顔が和らげてくれているのだろうけど、自分の視界に入ってくる男性連中の表情は険しいものばかり。

 そんな俺はーー、なんすか? コイツ等は、ひょっとして顔芸職人さんか何かかな。位にしか思っていなかった。そこへ突如、一人の巨身をしたヤクザ顔のお兄さんがレインの前に立ちはだかる。


 私服以前に、まず先に視線が腹部に巻かれたジャラジャラと金属音が擦れる鎖に行ってしまう。鎖帷子にしては可笑しいのだ。巻かれている部位が上半身の腹部限定のまるで腹巻きにしか見えない。

 法被を羽織っているが、あまりにもサイズが合っていない性で地面スレスレ。真っ白な布地の武道着を履いていたのだろうが黒色の斑点や飛沫痕が其処らじゅうに飛び散っている点から見て、武道家だろうか? と思ったのだが彼の挨拶がそれをあっさりと否定させる。それも難いに似合わず返事が軽いのだ。


「レインちゃん、久し振り!

 そっちの彼は、彼氏ですか・・・いいッスネ! 僕はディアンマっつう、しがない傭兵業をしている魔法剣士です」


 魔法剣士!?

 俄には信じられないことだ。カルマから数多の職業を一応教えて貰っているが、魔法剣士って言うのは装備する自分の剣に魔力を流して魔法攻撃力を武器にする戦闘職だった筈。ーーだが、どう見てもコイツは武道家だ。とすれば・・・相当に強いな。


「ふんふん・・・」


「なんだよ?」


 苦笑するディアンマに、どうして笑っているのか尋ねると見透かされたような目で俺を見て・・・ではなく隣のレインを見ていた。

 怯えている?


「彼氏さんよ、僕は悪人じゃけど敵じゃねぇ~んだ。狂気に浸る目とその表情は、良くね~ぞ。ーーっつても、悪いのは僕だけど。

 ついつい、強者に反応して【威圧】したんだ。悪かったな」


 威圧か、なるほどね。

 長年の洞窟暮らしに慣れすぎて自分の表情なんて気にしなかったけど、どうやら狂人の顔になっていたようだ。それにしても、悪人であることは認めるんだな。


「もう、妙に威圧なんてしないの。

 ヒロキもだよ。そうやって直ぐに臨戦態勢に移らない!」


「「ああ・・・、悪い悪い」」


 二人して同じ言動と悪かったと頭を掻く仕草を見て、レインはクスクスと笑う。似た者同士には見えないが、まぁこっちも悪かったと握手を求める。すると、向こうも同じように握手を求めてくるもんだから、もう笑うしかないだろ。

 互いに握手した後、どうやらディアンマも王宮都に用事があるようで一緒に行くことになった。


 歩きながら彼の昔話を聞く限り、三年以上放浪生活を送り世界中を旅しているときに薬師のゼンさんに出会ったとか。今は次の旅に向けての資金作りに傭兵業を生業として暫くは滞在しているらしい。

 傭兵業は主に依頼主クライアントの依頼を何でもこなすらしく、その中には犯罪者レッド・プレイヤーの殺害もあったとか。普通は逮捕されて刑務所行きなところだが依頼主の免除証があれば別だと言う。

 他にも賞金稼ぎにモンスターの狩猟や希少素材の採取・賭博で一儲けしたこともあるとか。その全てを今までソロでこなして来たと言うのだから驚きだ。



◇最上層 王宮都◇


 シェンリル王国の中枢部だと言うから、中層や禍福層よりも大きいと思っていたのだが面積は中層と同じか一回り大きいくらいだろう。上層は素通りのようで中層の近衛兵の誘導でエレベーターに乗って最上層に来ている。

 随分と近代的だが、原動力は電気エネルギーではなく魔力炉を使ったファンタジー的エレベーターといった方がしっくりくるものがある。魔力炉については、レインの専門分野だろうから後程聞けばいいだろう。

 町には活気が溢れているように見えるが、中層と比べればその違いがよく分かる。

 客引きの看板娘やおじさんが叫んでいることはない。飲食店は香辛料と肉汁の薫りで客を引き寄せて、衣服店や鍛冶屋は個性的な建造物の風格や味気とショーケースに保管・飾られている上等な一級品に興味を惹かせる。それが最上層の商売なのだろう。


 ポケ~。と街並みを眺めて立ち止まる俺にレインは小さな手を引かれて石畳の階段を降りていく。下った先でディアンマとは、そこで別れた。

 彼曰く、傭兵業の新しい依頼人に此れから会って依頼内容と報酬金額を確認すると言う。後程、昼食に『大喰らい』という食堂に立ち寄ると言っていた。

 レインが知る限り、最上層唯一の低予算で食事できる居酒屋だと言う。居酒屋と言えば、大抵は夕方~深夜若しくは朝方まで営業するというスタイルが大半だが『大喰らい』は二十四時間制の朝食・昼食・夕食・飲み会という四つのタイプに分けて営業する特殊な居酒屋だと言う。


 レインに連れられて歩くとよく分かる。

 大半が高級料亭やマナーに厳しそうなレストランが殆どを占めている。中には串焼きやバーガー店などが見受けられるが、食材や香辛料が希少な物を扱っているらしくお品書きの値段が目に入った瞬間立ち眩みがした。

 他の飲食店だけでなく、化粧品店や装飾品売り場でも同じこと。どれもこれも物価が異常に高いのだ。


「なあ、レイン。

 ここって、何時もこんなに高いのか?」


「うん、そうだよ。

 最上層を訪れるお客さんの殆どが貴族やお嬢様だったりするから物価が、中層の三倍以上するお店もあるんだよ。特にジュエリーショップなんかは中層の職人さんが手作りって言うのも勿論あるんだけど、使われている貴金属や宝石の素材が入手困難な物ばかりだから高いけどデザインが凝ってるんだよ」


「レインもやっぱり、そう言うのに興味ある?」


「うん・・・。

 わたしだって女の子だよ。光り物だとか、お化粧品とか女の子は気にするもの。こうやって、お出掛けする時や好きな異性ひとと過ごすのには特に気を使うもんだよ」


 ジッと見てくるレイン。

 ん? なんだろうか。という目で返すと、小さく溜め息をついては小言を言っているようだが巧く聞こえない。断片的に『鈍感』や『アホ』とは聞こえるものの言葉が繋がらない。女の子ってヤツは、本当に良く分からん生き物だ。


 人通りの多い繁華街と高級街を抜けて、漸く行政区らしい建物が建ち並びシェンリルの国旗が掲げられている赤や青の旗が目に入ってくれば、同じ鎧を纏う騎士たちが此方を見てくる。

 目的地が近いようでレインの表情も何となく固い感じだ。ーーそれにしても殺風景というか何と言うか、この石の煉瓦は繁華街の物と違って随分と歴史が感じられる。材質も違うようだし、何よりも古い。

 石の煉瓦に松の緑は良く映える。ーーけど、何だろうか? 街並みの配置やデザインと行政区の風景はまるで別人がそれぞれ建てたみたいだ。


 随分と歩いた。

 鉄格子のゲートの手前に到着した俺は、足を一旦止めてレインに告げる。


「ここまでサンキューな。

 此処からは俺だけで行くよ。

 レイン、俺はさ。自分のことを知らなくても前には進める。ーーけど、どうしても知っておかなくちゃならない」


「うん、分かった。

 待ってる・・・、ヒロキ。わたしはずっと味方だからね。もし、誰かに酷い仕打ちを受けても・・裏切られても、わたしは、わたしだけは・・・・・・」


 その言葉だけで充分だ。

 それに今の言葉で分かった。レインは多分だけど・・・違和感を覚えているんだろう。そんな感じがする。

 レインとマイトさんの接点は、この国? いや違う。

 国王守護部隊か? それとも、ギルドか?

 『観測者の宴』は、どうして俺を誘った?

 国の重要人物が揃いに揃って、世界の秘密を追っている? それはつまり歴史を追うことじゃないのか。

 "クリアした人間"とは、御伽噺【竜を織り成す者】に登場した"最古の魔王"のこと。マイトさんは、きっと俺が知っていることを全部知っている。

 そして、知っている筈だ。

 俺が一体何者なのかも、魔王の存在意義も。焦りすぎている。そんなのは分かってる。でも、ここに来たのはたった一言を聞くだけの為にだ。

 いま知りたいのは、ひとつの"真実"たったそれだけで充分だ。


 鉄格子のゲートが自動的に左右に引かれて開いた道を歩み、前だけを見る。後ろを見たら立ち止まっちまう気がしたからだ。


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