【#066】 Awake Part.Ⅲ -邪竜の覚醒-
すんません、今回で第二章完結する予定が引き延ばす形になりました。
Part.IVで終わる予定ですが、今週末ライブ参戦の為に執筆不可なので出来るだけ平日に細々と書いて繋げる予定です。本当にすんません。
時間は少々遡る。
悪魔の巣窟に辿り着いたヒロキは悪魔将校”大将”の三体。炎の化身悪魔アモン・三つの頭を持った悪魔バラム・黒い鳥頭に翼を持った悪魔アンドラス。十七世紀から伝わる作者不明の魔導書『レメゲトン』第一書に記されている空想上の産物と思われていたゴエティアの悪魔たちが、これ以上先には行かさんぞ! と言うように立ちはだかっていた。
さらにその後ろには、魔眼持ちの卑しい男コガネイが漆黒のローブを身に纏い地べたにはサークル状の青く光る陣が形成されているのが見えた。陣の中心地上空に空間固定されたクーアを見てヒロキは高まった感情を曝け出すように叫ぶ。
「コガネイ!!!」
自分の仮の名を呼ばれてコガネイは、侵入者を目視で捉える。
憶えのある顔だ。また邪魔伊達するつもりなのだろう。
奴隷市場で最初に出会った時もそうだったが、過去に一度としてコイツの顔が見当たらん。この男コガネイの肉体を調達し合えたのはシンジのお蔭だが奴は刑務所の中だ。スキル【頭脳操作】で魔王の眷属を支配下におけたはいいが、接続は不完全なまま。
これでは、あの御方に忠義を尽くすなど‥‥土台無理な話し。だがここで投げ出すわけにはいかんのだ。
何の為に奴隷をこの町に引き入れたと思っている。悪魔召喚の材料でしかない出来損ないの下等生物に幸を与えるなど不要である。――がこの鬼人族の娘だけは別だ。血統スキル【鬼人化】をこの齢で習得する者は少ない。天は我を救いなされたのだ。
あと残すのは、二年前の災厄を再び引き起こしこの地が鮮血で染まれば私の役目は終わる。因果から解放され、我が魂と収集した魂とを引き換えにレイニー殿を復活させる算段だったのに――だ。
(オーダー、スキル【頭脳操作】!)
「デイドラ、奴を殺せ。
私はこれより魔王復活の儀を執り行う。この少女の血液を捧げ、魂魄を喰らい、肉体を呪わせ、骨の髄まで切り裂く―――。もう分かるだろう、人間よ。足掻こうが無意味なのだ。時間は刻々と経過し貴様は目撃者となる。この世界に終焉を齎す魔王降臨のな」
敵うはずがない。と高を括るコガネイだったが、それは瞬時に間違いだったと頭の中で訂正されることになる。
外に放った上級悪魔と悪魔将校を除いてでも、デイドラの召喚した。魔王の眷属が召喚した悪魔たちには、それぞれ恐るべき”生命力”が組み込まれ通常の死では死に得ない肉体になっている。それは即ち細胞の断片にしても、強靭な生命力によって肉体が復活を強いられる。乾燥した血液が下級悪魔に触れれば、複数体の上級悪魔を生み出せる驚異の力と言って差し支えない。
―――なのにだ。自分の前で引き起ったのは現実が幻想にしか思えなかったのである。有り得ない話だ。一撃、たったの一撃で悪魔将校の大将クラスを屠り倒す。
”不可能だ!” と脳が訴える。――がそれを覆す侵入者を見据え、漂う纏った恐ろしい予感に腐食した黒い腕を振るい上げて術式を展開する。
「オーダー、スキル【断魔結界】―――と、闇より出でよ最高クラスの悪魔よ!」
自分の半身と魔力をエネルギーに発動させた結界術式は、儀式を執り行う場から離れた空間にヒロキを囲むようにしてドーム状の結界を張る。断魔とは、名の通り『魔力』『魔素』を外界から断ち切るもの。
そして、そのドーム状の結界内部に生み落としたのは悪魔将校の上に君臨する爵位悪魔たちの上位。悪魔公である。悪魔将校にそれぞれ”少将”・”中将”・”大将”と階級があるように爵位悪魔にもお互いの序列を付けるように上下関係が築かれている。
伯爵が下位、侯爵が中位、公爵が上位に位置付けられる。伯爵は人間を玩具のように扱い戯れる者。侯爵は魔物と戯れて殺戮を好む者。公爵は存在そのものが悪鬼羅刹であり、鮮血の海をこよなく愛する虐殺者。
ヒロキの手前に立ちはだかったのは、地獄の深淵から生み出された人間。しかし、容姿で人間を判断してはならない。美しい顔立ちの青年に見える人物は、大量殺人を犯した大犯罪者。
青年は、自分を召喚した人間を見て直ぐにヒロキに視線を向ける。――がより正確には、死した哀れな悪魔将校”大将”を一度目を配ってヒロキに向けている。そして、彼の吐く最初の言葉はコガネイの疑問を解消することとなる。
「―――人間よ、随分と珍妙な能力を持っているようだな。
ソウルイーター。魔物たちに備わった霊魂を喰らい肉を断つことで”生命力”は霧散に終わる。しかし―――、それだけでは…まあいい。私は外界の空気を吸わせてもらう」
「何をしている!?」
コガネイがそう言うのも無理なかった。
召喚したというのに、術者の意思に刃向う自由人に言葉で止めようとするが軽くあしらわれる。
「人間、いや人造人間の分際でこの私を止めるなど笑止――。
私に指図出来るのは、敬愛すべき御方。魔王レイニー殿だけだと知るがいい……ーー!?」
「邪魔だ」
会話を濁して間を割って入ってきた侵入者は、此処にいる誰よりも愚か者であった。それでも、魔王の眷族と悪魔公だと言う最強の敵を相手にしれっと刃を突き立ててくる愚者であるからこその強みがあると彼等は初めて知ることになる。
何処ともなく現れた黒剣の矛先が悪魔公の喉元を突くが意図も簡単に弾かれる。それでも貫通した打撃力が色白の美青年を押し退けるものの、厳つい漆黒の騎士がそれを止め投げ捨てるように外界へと転移させる。
またしても、勝手な判断で大きな戦力を失ったと思うコガネイだったが最早構っている時間さえ惜しい。自分の命の残量と儀式を執り行う時間がギリギリに差し掛かっているのだ。これ以上の遊びは危険であると直感的な行動に移行することを決意したのである。
この際、どうでもいいのだ。なんせ、デイドラ=”ダークナイト”=ギブソンは魔王レイニー=”ルシフェル”=サタン様の眷属なのだ。何を恐れる必要があろうか。万が一の場合はデイドラを贄として代用すればいいのだ。と言っても、万が一など起こり得る筈もなし。セカンドプレイヤーに勝てる冒険者などこの世に存在するわけがないのだから。
コガネイは計略を脳内で加速させ、スキル【頭脳操作】で最後の命令言を言い放つ。
「デイドラ=”ダークナイト”=ギブソンよ、最後の命令言を言い渡す!
全身武装と最強の武器を持って奴隷市場にいる人間を殲滅し、魂魄を収集せよ!」
操作系統の魔法やスキルには、『命令言』という自分の魔力を乗せた言葉によって忠実に従う。それが例え格上であろうとも、既に意識を支配された者に抵抗する力は薄れて容易に発動が可能となる。
ただし…、
「コガネイ…、いやギルマス。
我輩を何時から精神的支配下に置いたかは知らんが、効力と支配範囲が分かれば意図も容易く解除は可能なのだよ。貴様の死に様は、まさに滑稽そのもの。――しかし、中々面白いではないか。スキル【思考同調】で盗み聞けば、至高の魔王様を復活させるとか。
ハッハハハハハ、願ってもいなかった。そのようなことが可能ならば、我輩の最高戦力をもって虐殺しようではないか。…それに貴様とて【頭脳操作】の欠点が有耶無耶になったのだ。有難く想えよ」
一体いつ? 解除されていたかは最早問題ではない。
デイドラの言う通り【頭脳操作】には効力において大きな欠点がある。それは力加減である。精神支配した傀儡と感情高ぶった狂人では、制圧力がまるで違うのだ。コガネイが長年に亘ってデイドラを精神支配したのは、ただ単にあまりにも力が強大であったから。
生前の私には権力はあっても、魔力は人並みに過ぎなかった。その点、デイドラは私とは常に対照的な存在であった。強大な力をコントロールするには物理的な縛りではなく、精神的な縛りがどうしても必要だった。だが私も人の子よ。魔王の眷属に私のすべてをおじゃんにされた。――が、いまとなっては好都合。
理由はどうであれ、駒を最大限利用できる。これ以上に都合のいいことはない。
止めろ! とほざく奴がいるがもう意味はないのだ。
「言っただろう。
もう時間がないのだ。その喚きは祝砲として受け取るぞ小僧よ!
ダークナイト、その小僧の首を持って祝賀杯と洒落こもうぞ。悪魔将校では話にならん。つい先程もアブルを仕留めた者もおるようだしのぉ。爵位悪魔どもを召喚し二年前の災厄の再現というのも面白いやも知れんぞ」
コガネイの言葉にデイドラは全身武装【暗黒騎士】に換装し、別次元の空間から一本の大剣を取り出す。それは伝説級モンスター最強種ドラゴンの咢を素材に用いた魔剣【アガル・フリード】。災厄の魔剣と呼ばれる超重量系の大剣を軽々と片手で持ち地面に突き立てる。
黒い瘴気を生み出しては黒光りする魔法陣を展開する。魔法陣の中から瘴気を掻き分けるように現れた悪魔たちはどれもが人間に近しい存在感を醸し出していた。先程召喚した悪魔将校とは明らかに纏うものが異質であると感じられる。
侵入者を一瞥。
――ドン。という地を蹴る音の後ではなく、耳に聞こえる直前で音よりも早く喉の軌道が遮られ圧迫と同時に壁まで弾き出されてもがく侵入者に手刀が振り下ろされる。
グチ、ドッパァ。と鈍い戦慄を奏でる音が振り下ろした悪魔だけではなく、コガネイにもデイドラの耳にも届く。勝利を確信するにはこれほどの快楽はなかろう。そう思ったのだが、危機感を覚えて戦線を離脱した爵位悪魔を目にして『…まさか』と逆に戦慄されてしまう。
爵位悪魔は自分の身に何が起きたのかと腕を見やると、引き千切られた真っ黒な肉片と骨が突き出ていた。歪む視界の中から侵入者を見やると、
「時間がないのはお互い様だ。
カルマ、枷を二つまで解除。ハガネ、出番だ。
加減は必要ない。全力を持って儀式を止めるぞ!
―――――”竜人武装”――と出でよ、魔剣【ダークリパライザー】ァァァ!!」
爵位悪魔四体と暗黒騎士デイドラの前に顕現した竜面の鎧武者は、歪な純黒の刀身をした何処となく禍々しさを感じる一本の太刀を目にしてギョッとしてしまう。理由は簡単だ。一介の冒険者が魔剣を持つなど有り得はしないし、何よりも”竜人武装”などは悪魔たちにとって天敵にしか成り得ないのだから。
悪魔たちもバカではない。地獄の深淵から生み出された悪魔たちの多くは、生前この世界で死んでいった大犯罪者たちの哀れな失墜体。階級は強さと同時に生前どれだけ残忍なことをしたか。という証明でもある。故に下級悪魔は赤子から巨人型であっても小さな罪で犯した弱者である。悪魔公とまでなれば、個体差はあれど魔導士に匹敵する魔力量と賢者を凌駕する知識を持つ。
爵位悪魔の”伯爵”・”侯爵”の地位に着く彼等は知っているのだ。竜人武装の圧倒的な脅威を。辛うじて【断魔結界】によって魔力が枯渇している状態ではある。――しかし見たこともない魔剣の戦闘能力を再び見て算段が追いつかない状況に思考が一時的に停止した。
その油断が命取りになることも知らずに。
生まれた隙を見逃さない侵入者は、一太刀。一振りの圧倒的な衝撃を持って一体の爵位悪魔が消した飛んだのを皮切りに血戦の火蓋がいま切られた。
……………
………
…
一太刀で二体はイケると言う確信があったにも拘らず、一体の消失しか確認できずに悔しく思う侵入者にとある声が頭の中で助言する。
『ヒロキ、過信はよくない。
頭に来るのは分からないでもないが、枷を解いてまだ数秒だ』
枷。俺がカルマに頼んで付加して貰ったリミッターは三つある。
一つは俺が人間から魔人へと進化してしまった性であまりにも化物染みた力を制限を敷いた肉体面への枷だ。
魔人[フェイスマン]は、人間[ヒューマン]と比べて耐久力は勿論だが他のステータスが一気に上昇した。これによりアルティメットスキルを何度行使しようとも肉体に掛かる負担はほぼないに等しい。戦闘の際には便利ではある――が日常生活に難がある。例えば、リンゴを持っただけで砕けるなんてアホみたいな能力は目立つ。そういう理由で常時枷で縛ってお蔵入りをしていたものだ。
現にだ。ニナさんに計って貰った時も枷の効力が発揮していたのだろう。いま計測した場合でも泡を吹いて倒れそうだがそんな野暮はしない。それにこの【魔人化】は容姿を変えてしまう。こんな姿をレインやクーアに見せれば幻滅してしまうだろう。
だから封じてきたと言うのに…。
でもまあ、完全な竜人武装の前じゃあ俺の姿は見えないだろうけどな。
二つ目の枷は、魔剣【ダークリパライザー】の全面開放を封じている錠である。
カルマ曰く、魔剣とは超自然的現象が生み出した天然物と人工の創造物に大きく分かれるがその内、俺の所持する魔剣【ダークリパライザー】は後者に値する。怪物級・天災級のモンスターの素材を鋳造して素材【黒刃剣】とハガネから譲り受けた名剣【ソウルイーター】を用いて作られている。
前者の魔剣の方がより純粋で能力値が高い。のだが、カイエンさんが言うに素材【黒刃剣】は曰く付きの一品で素材的価値は鑑定不能だとか。市場にも出回らない一級品で存在自体も名匠ランクの鍛冶師か、よっぽどの好き者でないと知らないと言うのだから。どれだけの能力を秘めているかと試したことがある。
テストは重要だからね。
それでだ。結果は言うまでもなくご覧の通り、地面が割れて渓谷が出来るレベルの切れ味だった。ただ、それはあくまでリミッターをした状態でだ。いま振るった一太刀は全力で間違いない。なのに峡谷が出来ていないということは、爵位悪魔一個体に邪魔された。と言うことになる。
―――まあ、それでも全力の一太刀を浴びせてメリットはあったな。そう思うヒロキは爵位悪魔一体の排斥とスキル【断魔結界】の状態を情報の一部として目視で収集していた。目に見える視点からだけでは、ドーム状に見える結界だったが抉れた地面でそれが違うと分かる。
これは球体だ。
断魔と言うだけはある。空間中の魔素だけでなく地中に含まれる魔素さえも枯渇状態になっている。魔法を使う気はないが、これでは奴等も魔法発動に制限が掛かるのではないだろうか? と思ったのだが説教から始まる説明をカルマから受けるのであった。
要約すると、こうなる。
悪魔の体内に貯蔵される魔力だけで俺を弄ぶ力を有しているらしいが、この魔剣の前では意味を成さない。名剣【ソウルイーター】の能力を引き継いでいる性もあって、一太刀でも浴びさせればモンスターの霊魂を喰らい俺の力の糧となる。
もう時間がない。
カルマが言うには、儀式を執り行うのにかなりの労力と魔力が必要だというし、あのコガネイがコガネイであってそうではないなどと訳の分からないことを言い出すわ。俺を混乱させたいのかは知らんが、今は目の前の障害物を叩く。ただ、それだけだ。
――――”加速”!!
躊躇う余地はない。
構築能力と飛躍した超進化が与えてくれた身体能力によって生まれた音速の打突は、体術だけで爵位悪魔”伯爵”の頭部を粉砕して首根っこを掴んだままドッレドヘアの”侯爵”に投げつける。半身半裸のドレッドヘアの悪魔は、投げつけられた同胞の肉体を腕力で潰して下劣な嗤いを見せてコウモリの翼を背から出現させると、はためかせて宙に浮かせて複数体の分身を作り出す。
その間、別の爵位悪魔”侯爵”。坊主の格好をした僧侶は、シャラン――と杖の柄が地面を叩いて念仏でも唱えるのかと思えば、何もない虚空から感覚からして大量の上級悪魔と一体の爵位悪魔”伯爵”を召喚して来た。数にして三十体は有に越えている。数で押し切るつもりかと思えばそうではない。
坊主が召喚した三体目の爵位悪魔”伯爵”。例外なく異端のバケモノにしか見えない獅子の頭部を持つソイツは、召喚した上級悪魔の半数をグチャグチャと肉も骨も喰らい尽して唸り声を上げる。人間の体躯は二本の腕が本来の形だが、この野郎は完全に常識を逸脱していやがる。二本の腕以外に背中から四本の異様に長いホラーチックな腕と口からさらに二本の腕がグロテスクに出て来ている。
こりゃあ、笑えねぇわ。
でも、邪魔な奴は消すだけだ!
ヒロキは竜人武装を別の型に変形させる。
「―――”竜人武装[阿修羅]”」
武人に特化した近接戦闘の体現である武装に鎧はない。
防御力は飛躍的に劣化するものの、回避力・攻撃回数が大幅に上昇し魔人[フェイスマン]と構築能力【加速】が掛け合わさった最高速度は音速の世界を越えて、光速の世界へと到達する。それは単なるハイスピードではない。光速の連打による超攻撃はドレッドヘアのコウモリ悪魔の分身体を嘲笑うようにミンチにして肉塊にする。光の速度の前では力など関係ないのだ。
しかし、そう甘くはなかった。”生命力”の恩恵を授かった悪魔は、通り去るヒロキの肩を掴み砕こうと目論むものの左目に映った六芒星が悪魔の肉体と霊魂を一瞬にして焼き尽くす。
「オーダー、爆裂魔法【フィジカルボム・バーストトリガー】」
敵の出現と同時にカルマの【魔導解析】で予め霊魂の位置は把握していた。
魔法など使いたくはなかったが、これで牽制は出来ただろ。【断魔結界】の内部で絶対に使えない筈の魔法。それも上級魔法を平然と放ち、ズタボロであろうとも”侯爵”を意図も容易く葬り去ったのだから。そして、この牽制という反応こそが最高の好機。上級悪魔の貯蔵している魔力を喰らいて続けざまに爆裂魔法【フィジカルボム】を発動させる。
次々と霊魂が膨張して弾け飛んでは爆発していく様に、坊主は顔色一つ変えずに俺を見て来る。赤い瞳に映る口の歪みを見て、俺は更なる狂気に堕ちていく。
―――”物理限界突破”!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……
もう誰にも止められない。
坊さん? 何それ、美味しいの?
ライオン? 何それ、強いの?
坊主の目に映った漆黒の炎が身を焼き裂いた後、襲い来る獅子なのか蜘蛛なのか分からない悪魔の胴体が魔剣【アガル・フリード】により分断と吸収される。
コキッと首を傾げるヒロキは、小声で呟く。
”お前も俺の邪魔をするのか?”
その瞬間、ヒロキの意識体は漆黒の炎の檻に閉じ込められる。
熱くもない炎にもがきながら抵抗するが、まるで意志を持っているように捉える火の手は深淵の世界に引き摺りこんでいく。
意識がなくなったヒロキに止めを刺そうと、暗黒騎士デイドラは魔剣【アガル・フリード】を天に捧げる。――が、それは起きた。起きてしまった。決して起こしてはならない最狂のバケモノを覚醒させてしまったのである。
それは一度、欠伸がてらに奴隷市場の一端を火の海に変えてしまった存在―――。
高ぶった感情が封印の鎖を手繰り寄せて、枷が一つ外れたことで吐息が心の奥に眠っていた”邪”を掘り起こす。二つ目の枷が解き放たれて”邪”は全身に巡り、バケモノは永劫の眠りから覚醒に至る。
言葉は威厳をもって、暗黒騎士デイドラの最強の盾であり誇りの漆黒の騎士鎧を滅却する。驚愕と戦慄を覚えるが、もう遅いのだ。
真っ黒な炎を身に纏った人間の形を模したバケモノは、背からコウモリなどと言う貧弱なものではなく異形にして歪な竜の翼を顕現させる。人間の形から竜種に転換する様を見てコガネイさえも手を止める。
震える声でコガネイがそれを口にする。
「…”堕天の邪竜”…」
轟く竜種の覚醒に頬を引き攣らせるコガネイは、狂ったかのように嗤いだす。
「最早、遅いわ!
既に儀式は最終段階にあるのだ。小娘の贄だけで偉大なる魔王様が復活なさる。創世期の竜種程度、それも不安定な存在の怪物に何が出来ると言うの―――だ?」
カハ――。吐血する理由が分からずに手元を見れば、味方であった筈のデイドラが自分に魔剣を突き刺している。それも見る見る内に肌が黒ずんでいく。限界時間にはまだ早いと言うのに蝕まれていく体に頭が追いついて行かないコガネイは、震える手でデイドラの胸元を手繰り寄せて口と口を重ね合わせる。
暫くしてブラ~ン。と垂れさがる哀れな自分の容姿を見て暗黒騎士は剣を引き抜いて、贄の前に立つ。
「フハハハハ、これで私は闇社会の王の右腕になるのだ」
暗黒騎士が贄として選んだ小娘に魔剣を突き刺した直後、黒と白の閃光が爆散して周囲を呑みこむのだった。




