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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅲ 《奴隷市場での覚醒譚》
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【#064】 Awake Part.Ⅰ -悪魔襲来-

遅くなりました。

昨日…日付が変わってしまったので一昨日から風邪に苛まれて、現在37.9℃まで落ち着いたところです。何が悪かったのかは不明ですが…第二章クライマックスシリーズ一話目です。残すところ、あと二話。最後まで読んで戴ければ幸いです。




「なあ…、―――オイって!」


 造船所の屋根の上を走る二人だが、一方は足が地に着く毎にどんどん速度を上げて突き離していく。もう一方は見失わないように、全力で追いかけるが差が縮まらないでいた。


 胴着に袴姿の追い掛ける側の青年は思う。

 一体、彼の身に何が起こったのか?

 それを知るのは彼だけだが、きっと狼煙が上がっていた件と関わりがあるのだろう。立ち止まったかと思えば、人間離れした身体能力で風を切っている。

 力強く走っているようで危うい。危険な感じがするのは…気の性じゃない。何を恐れてるんだ?

 ヒロキ、君はあんな強いのに……支えを失ったらどうなってしまうんだ?

 昔って言うよりは、二年前にあの人が騎士団を去る時に言っていたな。人間は支えを失くした時、絶望するか・壊れるか。それでも前に進める人間は限りなく少ないと言う。

 俺もそうだ。大切な昔馴染みのフェイやジーナ、騎士団のゴザさんやレガッツさん、師匠のユウセイさんとヘイハチさん、今の職場の仲間や国民が一人死ぬ毎に心は掻き乱される。口は嘘吐きでも、心は嘘をつかない。

 君は知っているかい。俺は二年前のあの日、君を助けにダンジョン『黒結晶洞窟』に同行した救援部隊にいたんだ。そこで初めてレインさんに出会った。だから俺はこれでも知っているつもりだよ。人の痛みも悲しみも苦しさも。



 やっとこそ追いついたカナタは、各階層を繋ぐ階段の手前で止まるヒロキを見て直ぐに分かった。既に事を知ったマイトが通り抜けの規制を設けて衛兵を立たせているのだ。流石は国王だと思う一方で、通せの一点張りを決め込むヒロキにカナタは肩を貸す。――と言うよりも顔を貸すことにした。


「‥‥―――だから、俺はどうしても下に行きたいんだ!」


 そう声を大にして叫ぶヒロキを何とかしようと、禍福層の門兵を任された衛兵は困った顔で対処していた。


「成りませんて。国王マイト=ゴルディー様の言い付けにより、これより下の階層には行けません。我々、国王守護部隊及びギルド『レオンナイツ』『流星騎士団』のみが出入り可能なのです。ご了承下さい」


 まったくである。

 もう少し言い方ってもんがあるのだろうが、いまのアイツの気持ちが分からないでもない。

 頭を掻きながらヒロキの隣に立つカナタは、やれやれといった感じで衛兵に説明することにした。


「通してやってくれないか。

 彼は強いよ。それに、これはギルド商会会長ベル=ホワイト様と国王マイト=ゴルディー殿の勅命である。バルバードは、引き続き門兵を頼むよ」


 いきなり現れた自分たちの高みであり、憧れの的が目の前にいる光景を信じられずに瞼を擦るバルバード。

 カナタ。その名を知らない者は、この国にはいない。若くして国王の最も近い位置側近として国王守護部隊『聖騎士』筆頭という肩書きだけでなく、先代の剣聖だったユウセイから認められた現代の剣聖なのだ。世代別の序列は、五位とされる。この国最強の守護者。

 そんな人物が、いま口論している人間が「強い」と言うのだ。これはもう信じる他にない。という心の声が囁きかけ、ハッ! と気合十分の返事をして敬礼する。


「さて行こうか‥‥」


 ヒロキの名を呼ぶ前に、その人物は現れる。

 長髪を後ろで一つに束ねて花を咲かせたようにしている少女は、カナタの前に現れるなり華奢な体を動かしてライダーキックをカナタの顔面に走らせる。――が腕でガードかと思わせた受け流しで流麗にかわして取り押さえる。

 うつ伏せ状態にさせて、足を拘束魔法で自由を奪い自分の手を使って両腕を押さえて相手の行動を阻害させるのが騎士としての正しい拘束法。しかし、カナタが取ったのは魂の力【念糸】で自由を完全に奪う遣り方だ。


「今度は緊縛プレイに目覚めたのかしら?」


 しれっ、とそんなことを言う少女。


「お前はよくもまあ、毎回思いつくな!

 この間は腕に触れただけでヘンタイ呼ばわりしやがって、その前はちょこっと太腿に触れただけで足フェッチとか言うし。いい加減にしろよな。第一な。

 今回はお前に構っている暇はないんだよ!」


 ったく、よう‥‥。と言ってカナタはヒロキへ説明するように人差し指を立ててコイツ呼ばわりして簡潔に紹介する。


「コイツはギルド『流星騎士団』第六師団団長のフェイだ。

 男嫌いで有名だから注意な。手を繋いだりした日には、公開処刑される運命だ」



 酷い言われようだな。

 そう思う俺だが、カナタの視界に入っていないフェイと言う少女を見ると頬を赤に染めて、「初めて会った人に紹介止めてくれる!」と叫んでいる。それも、もじもじしながらだ。恋愛に疎い俺にでも分かる。

 フェイはきっとカナタのことが好きなのだ。本人は自覚しているが、剣バカのカナタには分かっていない様子ってところだな。


「なあ、カナタ。俺には時間が一秒でも惜しいんだ。

 ラブコメは自分たちで勝手に遣ってくれないか?」


 真っ赤に紅潮させたフェイは、頭から湯気を漂わせて戸惑いながら憂いな否定をするが、気付いていないカナタは何を言っているか分からないと言う表情で完全否定する。ツンツンキャラに興味ないとか言っているが、見ていないところではデレている彼女がなんだろうか‥‥無性に応援したくなる。――でも今はそんな事はどうでもいい。

 クーアとレインに買って上げた髪飾りには、カルマ特製結界術式と迷子センサーを組み込んでいたが二つの機能が消失している。結界術式はそう簡単に破壊されるような安っぽいものではないのにだ。アレを破れるのは、クーア自身と言う可能性もあるが‥‥今は分からない。カルマ並みの知力《MP》と知識を持った魔導士なら有り得なくはないが、そんな強者が近隣にいれば俺でも感知できる。

 分からないことだらけだが、いま迷っている時間はない。どうもさっきの魔力の大爆発が気に掛かる。カルマの【魔導解析】によれば、天災級のモンスターが出現したとのことだ。


 因みに鍛冶師のカイエンさんとシロナさんが言うには、俺の知るモンスターの階級には少々誤りがあるらしい。

 底辺に位置づけされるのは、間違いなく『魔物級』でゴブリンやスライムなどの低俗モンスターだが、その中にあのゴブリンキングも含まれるらしい。次に『怪物級』でシロザメやサイクロプス。その次に『天災級』として、あのキマイラやリッチーがいる。ここまでは正しいらしいのだが、問題は次からだ。

 順当に行けば『伝説級』と思っていたが、このクラスの前に『王位級』が存在すると言う。伝説級には、俺が倒した死神シスも当然含まれるがまだ見ぬ竜種ドラゴンや麒麟・精霊などという霊獣種フェアリーもいる。一方で王位級には、妖鬼オニや幾千の配下・同胞を支配する王の器を持った知性あるモンスターだと言う。中には人の言葉を流暢に話す者もいるらしい。ゴブリンキングもそうだった気がするが、自然的に生まれたものではなく人工的に生まれたものでは環境が違うのでどうのこうのとかと言って言葉を濁していたな。

 最後に頂点に君臨するのが『神話級』。文字通り、神として崇められる部類のモンスターで出現した際には世界が滅亡の危険に見回れるほどで一応文献にも記載されているらしい。


 ‥‥けど、それはきっと二人で? 違うな、今度は三人でだ。

 レインを除け者にしたら、後が怖そうだ。クーアも歴史の勉強をしなきゃな。

 

 ほとぼりが冷めたところで俺達三人は、最下層の奴隷市場に向かったのだが‥‥。



♢シェンリル王国 最下層 奴隷市場♢


 俺達は生唾を呑みこんだ。

 一言で言えば、信じられない状況下にあったからだ。黒い軍隊は、蟻のようにむらむらわらわらと好き放題に暴れている。黒い身体をした人に見えるが、それは決して人とは相反する行動を取っている。

 残忍なほど容赦ない野放しにされた狂った殺人鬼のように、人を丸呑みにしては骨を吐きだす者もいれば、八つ裂きにして内臓だけを物好きそうに喰らうバケモノがそこら中を徘徊しているのだ。

 市場に足を運んでいた冒険者だろうか、大剣を振り回しては来るな! と叫ぶが人間の身体から獣の体に変換させる。肥大化した手は最早巨人種のそれだ。大柄の冒険者は象が蟻を潰すが如く地面に叩き付けられて、埋め込まれた地面に群がるバケモノたちは動けない彼を鎧だろうが何だろうが構わず引き千切って喰っている。

 屍鬼グールかと思ったが、カナタとフェイは愕然とした顔で目を見開いて俺の前に立つ。


「アレを見るのは初めてみたいだね。

 ヒロキ、アレが悪魔だよ。二年前の災厄の元凶がアレさ。隣国フィラルの一部の人間たちが災厄の火種を生んで同胞が次々と死んでいった。どこまで君が聞かされているかは知らないけど、アレの性で多くのギルドがなくなった。

 悪鬼よりも屍鬼よりも知性があり、大食いで下級冒険者の手には余る暴食の化身たち。それが奴等だ。下級悪魔レッサーデーモン、誰が召喚したかは知らんがこの数は異常だ」


 カナタの説明の後、補足するようにカルマが俺の中で思念伝達をしてくる。


『悪魔か。成る程な。通りで私の【魔導解析】に乱れが生じる訳だ』

(どういうことだ?)

『ヒロキにはまだ教えていなかったが、【魔導解析】にも限界がある。

 現状から説明すると、複数体それも幾百以上のモンスターに限ったことではないが魔力を制御しないで垂れ流していれば解析力が落ちる。まあ、簡潔に言わせれば妨害電波の影響を受けてと言えば分かるか』

(‥‥んん、しかしこれだけ魔力が満たされていれば六芒星魔眼が使い放題じゃないのか?)

『それは可能だ。六芒星魔眼は外界の魔素を魔力に変換させて自分の放つ魔法に代用するものだからな。

 しかし、感知系や解析などの魔法は阻害される。遠距離を感知するレーダーも電波と同じだからな。これだけ爆発的に魔力が蠢いている中でそれは不可能だ。それに下級悪魔は召喚させた主人でさえ手に余る存在』

(おいおい、それはどういうことだ?)

悪魔種デーモンには、例の如く階級がある。

 底辺が奴等、下級悪魔レッサーデーモン。本能のままにただ喰らい尽す暴食の化身たちであり喰らった数が上限に達した時、複数体の下級悪魔を生み落として増殖を続ける。

 次に上級悪魔グレーターデーモン。下級悪魔から進化した個体ではない彼等は、主人の契約通りに従いプレイヤーの霊魂を喰らうごとに戦闘能力が進化する。主人に名付けられている者。最初から名を持った上級悪魔は、固有能力を持っている。

 中位の階級を持つのが悪魔将校ジェネラルデーモンたちだ。少将・中将・大将で構成される悪魔たちは、その全員が固有能力を身に着けている。中には王位級モンスターもいるだろう。

 最後に悪魔種の頂点。悪魔公デーモンロードは、伝説級モンスターに位置づけられ人間が召喚することは不可能とされている。主人との契約を無視して場合によっては、主人すら喰う冷酷無慈悲なバケモノだ。いくらヒロキでもコイツにあったら逃げろ』

(……………)

『死を身をもって知るお前だから言うが、悪魔公アレは一冒険者が相手取るものではない。魔法を無効化する結界術式や肉体を蘇生不可能にする魔法を自在に操るなど文献によれば…聞いているのか?』

(関係ないな。カルマ…、らしくないぞ。

 もしも、ソイツが目の前に立ち塞がったなら枷を外して全力を出すだけだ。いまの俺は昔とは違う。一人じゃない。そうだろ。カルマって言う頭脳明晰な相棒とハガネって言う最強の剣がここにあるんだ)


 ”だから、俺は前に進むだけだ!”


 一歩前に出た俺をカナタとフェイが見る。

 どんな顔をしているのか。――そんなの決まってる。もう覚悟は既に剣に込めたのだから。

 カナタは頼もしい限りだよ。と言って剣を召喚する。これは一度目にした光景だ。二年前の盗賊退治でユウセイが真っ白な光の柱から大剣を取り出して構えた瞬間を思い出す。


「来い!―――我が血を持って契約を果たすがいい、聖剣【紅蓮朧】!!」


 出現したのは一本の太刀だ。

 何の毛皮かは分からないが…カルマの補足で霊獣種の白いオオカミの毛皮らしい。それを鞘の素材に使われた刀をカナタが抜くと、波紋は見えない高出力の炎が噴出してはカナタを包み込んで轟々と燃ゆる武装を施す。

 炎と一体化した剣士だ。刀の炎は消えることなく燃え盛り、向かって来た下級悪魔三体を熱だけで蒸発させる。刀を振るっただけで数十体の悪魔を葬り去る。

 おお‥う。と圧倒される俺を見てか、フェイが繰り出していくのは俺も持っている【物理限界突破】を行使した空中三角跳びや超高速の剣戟で肥大化した悪魔から順に殲滅していく。


「ふふん。どうよ、この剣捌き。何処の誰かは知らないけど…素人は帰った方がいいわよ。どうせ、あたしらの邪魔にしか…」


 空中を飛んでいるフェイは、ある物を見て凝視する。無論、巨大な悪魔を捌きながらだ。青い光の柱。

 悪魔の体内に保有されている魔力を片っ端から呑みこんで、吸い上げて、自身の体に【竜人武装】を施す。戦国時代の猛者たちに着させた職人の見事な武者鎧を青いオーラで具象化させ、顔には竜面を嵌めこんだ一種の霊装を想像したフェイは回避行動を速やかに取る。――が自身の想像を遥かに凌ぐ制御能力で空中まで攻撃が飛んでくることはなかった。


 ”竜人武技【天変地異】・・・”


 拳が地面を貫き、そこへ膨大な魂の力と氣を流し込み一気に爆発させることで発動する。このスキルは小規模の地震を発生させるだけではない。地割れに落ちた悪魔どもを自然の力『氣』で抑圧させ割れた地面を閉じさせる。発動範囲は、逃げ遅れたプレイヤーのいない半径二百メートル圏内に限られるが上手く事が運んだようだ。

 なんせあれだけ、派手に暴れるフェイとどう考えても目立ちすぎるカナタがいるのだ。全部とは行かなくとも、七割に及ぶ悪魔は掃討できている。計算通りだ。

 俺は直ぐに【竜人武装】を解いて、市場の中腹へと足早に向かう。


 それを見るフェイは、やるじゃん。と小さく呟いてカナタに加勢しようとした矢先だった。空間の一部が歪み吐き出された黒い肢体は、一秒と経たずに急激な進化を遂げる。思考加速の速度を越えて放たれた強引な突きはフェイの愛刀の双剣【神楽耶】を粉砕する。バラバラに崩れる愛刀の破片を悔やみながら、吹き飛ばされるが意地で向き直ったフェイは空中で術式を展開する。


 ”来たれり、【精霊武装】!!”


 フェイが使役する火の精霊の加護の下に顕現したのは、カナタと比べれば質や大きさは負けているかも知れないが炎の衣がこの地下では太陽に見える。頬に受けた打撲傷と骨折を炎尾狐ルビーと言われる小柄な精霊がペロッと小さな舌で可愛く舐めて治癒させる。

 体内の氣を解放させたフェイは、自分の両手に炎の双剣を作り上げて空中を蹴って黒い肢体をした悪魔と激しい剣戟が幕を上げた。――かに見えたが悪魔はあろうことか倒れた瀕死の下級悪魔を霊魂を喰らい、肉体を膨張させ弾け飛んだ。一見すれば自殺のようにも見えるがフェイの額には汗が募っていた。

 心の中で決まっていた覚悟が畏怖し、意識が散漫になったスキを狙ってとしか考えられない黒い魔法弾フレアが散弾銃のように撃ち込まれる。炎の衣で一命を取り留めるものの恐怖に負けそうになるフェイにルビーがしっかりしなさい。と言わんばかりに噛みつく。


「ごめん。ルビー、負けないよ!」


 両方の頬を両掌で叩いて正気に戻らせる。

 ルビーの助力を得て立ち直ったフェイは、【精霊武装】を別の形に変質化させ炎の双剣を再び作り上げた。【物理限界突破】と炎の双剣を駆使した本当の戦いが幕を上げたのだった。その一方でカナタに追いついたヒロキは、激しくぶつかり合う爆音を気にしながら話し掛けるも返ってくるのは彼女を信じ切った言葉だけであった。


「フェイは強いよ。

 昔馴染みの付き合いだから分かる。彼女は精霊に愛された嫉妬するほど羨ましいよ。団長として大役を一任されている身だ。問題ないさ。問題なのは…」


 確かにそうである。此方の方が余程問題なのだ。

 フェイが一戦交えているのは、上級悪魔だが潜在能力ポテンシャルはカルマが説明していた悪魔将校並みだろう。下級悪魔の魔力を吸い上げて肥大化させたのは、新しい人体の皮膚を作り上げるためのもの。ヘビの脱皮のようなものだ。

 カナタが強い。と言う以上信じない訳にはいかないが手助けは恐らく無理だろう。何故なら中腹へ向かうに連れて、主人を守る陣形で上級悪魔が犇めき合っている。どれだけのプレイヤーが餌食になったのかは不明だが、彼等にはもう既に食欲を満たした後のようで殺意がすべて俺達に向かって来る。

 それを撥ね退けるようにして俺の前に立ち塞がったカナタは、聖剣【紅蓮朧】を下段で構えて先に行くように言う。


「ヒロキ、ここで言うのは何だが俺もギルド『観測者の宴』のメンバーだ。

 だからという訳ではない。ヒロキの実力は、もうこの目で見た。フェイに俺でも足下に及ばないほど強い。だから先のことは任せるよ。それに本来、目的があってここに来たのはヒロキだ。俺はこの三下どもを蹴散らせていくよ」


 三下という見下す言葉に上級悪魔たちが反応を見せる。中には、如何やら悪魔将校が控えているようで魔力の桁が一味も二味も違う。それでも顔色を変えないところを見ると、俺と戦った時には見せていない切札や業があるのだろう。


(カルマ、空間転移術式は発動可能か?)

『ああ、問題ない。

 しかしな。これだけ上級悪魔が犇めき合っているとクーアの位置を捕捉するのは難しい。座標認識できない現状ではあまりお勧めは出来ないんだが、―――どうせやるんだろ』

(ああ、やるよ。カナタが全力で相手するんだ。それに答えるのが友人の務めだ)

「ああ、行くよ。ギルドには加入するつもりはないが、次に会ったら酒でも奢るよ」


 ふふ…。苦笑してカナタは刀に清い炎を織り込んで目を閉じる。

 全力を見たいところではあるが、俺はその場を後にしカルマが発動させた空間転移術式で空高く空中に転移してクーアのいどろを瞬時に察知した。【物理限界突破】と構築能力【加速】で悪魔の巣窟に向かう。

 それを感覚で確認したカナタは、目を開いてこの二年間の修練で漸く習得出来たアルティメットスキルを発動させる。


 聖剣と呼ばれる武器には、それぞれ持ち主の血液と魔鉱石と隕鉄に加えて聖魂石を素材に名匠が鍛えた清い剣とされ邪を払う。代々称号として『剣聖』しか持てないが為に同じ剣はない。故に修練方法も人によって異なり、生涯懸けて修練を積んでもアルティメットスキルや秘奥義と言う部類の業を習得する者は片手の指の本数にも満たないとされている。

 聖剣を使うアルティメットスキルは、とある文献には一撃で伝説級モンスターの竜種を葬ったなどと記載されているが、カナタの習得したのは剣術と体術を融合させて編み出した忍者のような術式【分身】を取り入れた【陽炎分身】。一定時間、最大で四体の分身を展開させてその全てが同じ戦闘能力で敵を殲滅する灼人となる。


「散開!」


 通常の分身なら本体を叩けば、分身体のすべてが消える。とされているのだがこの【陽炎分身】に偽物はいない。すべてが本体なのだ。故にダメージのすべてがフィードバックして蓄積される一方で、経験値は最大で四倍取り込むことが出来る。つまり、これを展開した時点からカナタは戦いの最中でも進化を続けていられるのだ。

 一体一体がまるで違う動きをしているが、それも戦況を瓦解する策の一つ。上級悪魔は、ソロプレイヤーと変わりないワンマンアーミーだと知るからこそできる芸当である。粗方だが片付いたところへ、その悪魔は姿を見せる。

 目を血走ってもがく上級悪魔を簡単に踏み潰す。明らかに異質な邪を孕んだ黒い肢体の悪魔は鼻で笑って消えた。消えたと思った瞬間に四体の【陽炎分身】は、崩壊した市場の瓦礫となった壁まで弾かれる。


「死ぬかと思ったよ」


 瓦礫から普通に立ち上がったカナタは既に【陽炎分身】を解除していた。パンパンッとテンポよく土埃を叩き落として言葉を続ける。


「上級…違うな。悪魔将校の少将クラスか」


 へー、知ってんだ。と言って子供のように無邪気に笑って答える。


「僕の名はアブル。主人マスターによれば君は、この国最強の守護神らしいね。だけど残念だ。だって僕に遊ばれここで死ぬんだから」


 殺気に塗れた威圧ほど重いものはない。

 上級悪魔が可愛く見えたカナタは、呼吸を整えて目を閉じる。それを不思議がるアブルだったが、終息に向かうカウントダウンは始まっていた。知らないのは、お子様アブルだけである。

 聖剣の真に恐ろしいところは、強力で清い力が内包されていることでも邪を払う最強の剣と言われるからでもない。聖剣は人間と同じように生きた意識のある生命体なのだ。紅蓮朧は、カナタの血から生まれたものであり一部でもあるそれは大抵同じ性格をしている。朧とは、ぼうっと薄く霞んでいる様子をいう。その意味を含んだ認識阻害の効力でアブルはまだ自分が生きていると、そう思い込んでいたのである。


「遊戯は大人になってからだ」


 立ち去るカナタにそう言われて、そこで初めて認識した時にはもう遅かった。

 妙に低く感じる視界を見下ろせば、あるのは赤黒い地面だけであって自分の肉体も腕も足もないのだ。全身どころか、ある頭部だけに激痛が襲い向かうところは死だけであった。

 さてと。追いつこうかと思った時だった。

 カナタは自分の犯した自惚れに気付くべきだった後悔した時には、もう遅かった。腹部に突き立てられたナイフと熱く痛い強烈な毒性の痛みが脳裏を圧迫する。何が起こったのか? その疑問は無邪気な言葉であっさりと返される。


「残念! 僕はさ、アブル。悪魔将校の中将”嘘吐きアブル”なんだ。

 知ってるよ。君の聖剣【紅蓮朧】の固有能力は調査済みだよ。だって僕の固有能力は未来予知だからね! さあ、ここからはずっと僕のターンだ。遊ぼうよ、大人の遊戯を教えてくれるんでしょ」


 終息に向かっていた筈の戦いは、逆手を取られ盤上で踊るアブルの後手から形勢逆転の狼煙から幕切れが無邪気な笑みと共に始まった。


 それを知らずに悪魔の巣窟に一足早く到着したヒロキにも魔の手が迫っていた。門を抜けた先で待ち構えていたのは、知った顔が一つと凶悪な悪魔が三体。

 悪魔は解析しなくとも分かるが、カルマの【魔導解析】の結果から悪魔将校の大将クラス。右から炎の化身悪魔アモン・中央は三つの頭を持つバラム・左には黒い鳥の頭をした翼持ちの悪魔アンドラスという解析反応があった。ヒロキはそれらを知っていた。ゴエティアの悪魔たちである。

 ゴエティアとは、十七世紀から伝わる作者不明の魔導書グリモア『レメゲトン』の第一書の表題。悪魔なんてのは空想上の産物だと思っていたが、この世界は如何やらすべてを含み呑みこんでいると確信する。――がそんな事は、この知った顔の人物の前では霞んでしまう。

 三度目だ。

 コイツに出会うのは、


「コガネイ!!!」


 二年越しの決着をつける幕がいま上がった。


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