【#006】 Silver ring -銀色の先駆者-
大変お待たせしました。
第一部第一章【#001】からRestartしています。
先々週から先週そして恐らく今週に掛けても、大忙しの仕事を熟した結果、風邪をこじらせながらも仕事三昧の日々を送っています。
{2015.6.28}→{2016.1.10}改稿完了しました。
…数日が経過した安全圏で。
俺は対人訓練用のカカシ相手に、マイトから借りた木刀を片手に振り上げていた。
案山子と言っても固定されてその位置から動くことはなくとも、AI機能が付与されている為自動で防御もすれば。ロケットパンチや矢を放ってくる。などハイスペックなロボットだ。
近接。カカシとの距離ゼロ地点から三メートル範囲で、繰り出されるストレートパンチ。
赤いボクシンググローブを身に着けた拳で攻撃を接触寸前で躱す。
俺は木刀の切っ先を頭部に突きを放つ。
胴体内部に仕込まれた絡繰り技術で関節が稼働し、細かな動きを再現する。
背を僅かに沿るカカシ。
ストレートで繰り出した右肘の関節を直角に曲げて、有り得ない攻撃を放つ。
ロケットパンチが飛び出す。
――え、嘘!?
常識がまるで通じない有り得ない動作をする。
まさかの攻撃を真面に喰らう。
「――ぐっ…」
ロケットパンチの威力によって近接エリアと設定された範囲から弾き出される。
カカシに備わるAIが対象の位置を捕捉するまでの時間コンマ二秒。
右の近接武器の拳から左の遠距離武器の石弓へ移り変わる。
ボウガンのようにも見えるが威力や射程が小さく訓練用に作られた石弓は、通常一本から三本程度の矢を射出する。
頭部に仕込まれた自動補正プログラムによって、正確に弾道予測とタイミングを瞬時に計算する。
射出されるその攻撃は頭部や心臓などの急所部位。
脚部や砂地などへ打ち込んで逃げ道を塞いでいく。
このレベルでまだ初心者コースだ。とマイトは言っていた。
掠り傷を負いながらも回避行動を何度も繰り返して、近接エリアへ足を向ける。
「うおおおおおおおおお」
全速力。
勿論。構築能力を一切使わずに、身体能力だけで走り出すその行動は無謀とも取れる。
慣らし続けた動体視力で矢を時には体を動かして躱す。
時には、射出タイミングを合わせ木刀で薙ぎ払う。
近接エリア。カカシとの距離二メートルから空中へ跳躍する。
そんな事をすれば、身動きがうまく取れない空中は格好の的になるがヒロキはそれを狙っていた。
このタイミングで空中へのダイレクトな攻撃をロケットパンチひとつに絞ることで、敢えてこの選択をした狙い通り拳が射出した反動を見事に見切り、胴体を捻じらせる。
最小限の回避で飛んできた拳を見事に躱すと、素早く下方へ重心移動させて着地。
下段から上に振り上げる木刀で初めて攻撃が当たった。
『訓練用木刀による初撃を確認。動作停止。記録を更新しました。
おめでとうございます。初撃タイムは一分五十九秒四ニ。
二分の記録を更新しましたので初心者コースを無事攻略しました。
中堅者コースに移りますか?』
「いいえ、だ」
『了解しました。AI機能をオフライン後、稼働を全停止。お疲れさまでした』
「はあ――、やっと終わった」
木刀を持ったまま砂地に座り込む。
そんな俺の頬に冷たい金属製の容器が当たる。
この訓練の考案者が飲み水を持って現れたのだ。
本当なら繰り返し激しい動きに合わせて、スポーツドリンクを飲んで水分と塩分を補給することが最適なのだが自動販売機も湧き水さえない広大な砂丘のど真ん中。
放浪者たちが予め長旅の用意していた貴重な飲料水で補われる。
それが分かっているからこそ、一気に飲み干そうとはせず体に染み渡るように時間をかけて口の中に流し込んでいく。
「僕はこんな性格だから、さ。
言わせてもらうけど。君は自殺志願者だね」
「――!?」
「驚くことはない。僕もそうだった。
いや現在進行形で「そうだ」と言った方がいいかな。
僕がこの世界に転生した時代は荒々しくてね。
国同士、プレイヤー同士が争った醜い戦争の時代でね。
二度目の人生を遣り直す前に流れ弾で。魔法で。斬撃で多くの仲間たちが逝ってしまった。
そんな世界で僕は死に場所を求めたんだ。
多くのプレイヤーが強さを求める一方で僕は危険を自らの手足で突き進み。
死ぬことに憧れを何時しか抱き始めていた。
強敵に挑み続けることで味わう絶対的な恐怖をアドレナリンに変えて。
僕が手にしたのは狂った戦士の異名だけだった」
「どうして、俺にそんな話を」
「君は僕に似ている。
だから僕が師弟関係を結んで君に戦い方をレクチャーしている訳だ。
君は死ぬことに憧れを抱いてはいけない。
そう言うのも君の動きを見ていれば、そうだと断言できるからだよ。
並大抵の人間では、あそこまで自分を犠牲にした行動は出来ない。
過去、どんな困難があったかは聞かない。
でも無理強いはしないと約束してくれ。
僕の生き方では、きっと仲間を失うことになる」
「クルスさん、貴方は…」
確かに感じた。この人が言っていることが本当で、きっと大切な仲間を失ったのだと苦しく心臓を圧迫される感覚を。
「しんみりした話になったね。悪い。
僕のことはクルスでいいよ。
それと予定通り明日にはここを発つから。
バイモンとの野外行動は早めに切り上げて、夕暮れには最終テストだ」
「はい!」
マイトから借りたバックパックを背負い、数歩歩いて巨漢の人物に話しかける。
マイト。クルス。バイモン。そして最終テストの対人実戦の相手ゲイルを入れたフォーマンセル。
パーティー加入条件として俺はここ数日間、この安全圏で学習を続けていた。
事の始まりはゲイルの挑発めいた発言からだ。
『こんなお荷物、俺等の足を引っ張るだけ。こんな砂の上で干物になるのは勘弁だぜ。俺に一太刀で当たれば話は別だがな』という挑発に乗ってしまった自分の敗因からだが後悔はしていない。
寧ろ感謝している。
必要最低限なシステムアシストの操作方法を学んだことによって、今まで開くことが出来なかった地図情報やアイテムや武器をある程度収納するイベントリにもアクセス出来るようになった。
背負い込むバックパックを装備したのは、このイベントリの収納スペースを拡張して重量制限三十五キログラムから二倍の七十キログラムまで収納可能になるから持っていけ。とマイトに言われたからだ。
背負うことで若干動きにくく走ることは出来ないのが難ではあるが、野外での小型モンスターの捕獲やよくよく探せば見つかる多肉植物と薬草の採取には有難い品だ。
このパーティー唯一の衛生兵でヒーラーと呼ばれるバイモン。
特徴的なマイトと同様にがっしりした筋肉質なボディービルダーのような体型とこの暑さでベレー帽を被っているがスキンヘッドの彼を追いかけるように歩き続けて数十分。
到着したのは凹のように窪み日陰が出来ている昨日訪れた安息地だ。
身体を休ませるには丁度いい傾斜と日陰で水分補給をすることも勿論ひとつの目的だがここに薬草が生えているのだ。
この場所で採取するのは、二つの品種。
多肉植物サボテンの白兜
生育分布;アルカディア大陸【白金砂丘】の日陰
希少価値A;レアリティー☆2[10C]
希少価値B;天然物の白兜の青根に限り、レアリティー☆4[50C]
備考欄;日差しに弱く日陰でしか白い花を咲かさず、トゲのないサボテンとして隣国フィラルで人気の観葉植物で知名度が高い。
美しい白い花の花粉には強烈な催眠効果があるため、モンスターが出没するフィールドでは採取困難で一時一万セルと高価であったが人工栽培方法発見に伴い下落。
白兜の果肉から抽出したエキスと花粉を調合することで、催眠薬もしくは麻酔薬が作れる。
また、稀に白兜の根が青いものは乾燥させて粉末状にすれば、滋養強壮剤に変わる。
香辛植物ネギの芭仙葱
生育分布;アルカディア大陸の水気のない日陰
希少価値;レアリティー☆1→4[100C→2,000C]
備考欄;食生活には欠かせない薬味で誰もが知る薬草食材。アルカディア大陸全土で流通しているが品不足で納品が不十分なために価格が上がっている。
「ヒロキ、今日はこれを使え」
昨日は誤って花粉を吸ってしまってか、翌朝までの記憶がない。
どうしてバイモンは平気なんだ? 疑問に思いながらも、睡眠対策としてバイモンが用意してくれたゴーグルとマスクを装着して採取に挑む。
極力刺激させないように根元の部分よりも数センチほど離れたところから砂を掻く。
根っこも丸ごと傷つけないように採取がなんとか終える。
その内にバイモンは次々と慣れた手付きでイベントリに収めていた。
バイモンの話によれば、このパーティーで自分の存在と言うのは若干違うという。
転生者が現実世界からの参入者に対して、この世界で生まれた「新生者」という立場上、クルスが言っていた戦争時、最も迫害を受けたらしい。
VRWの世界では必ず存在する筈のNPCがいない「HelloWorld」で、転生者同士が愛し合って生まれた新生者は人間と呼んでいいものか多くのプレイヤーが悩み苦しんだ結果――。戦争の時代を中心に自殺者。敵陣への自爆兵に遣われるなど痛ましい事件として、今も多くの新生者が心の病で寝たきりのプレイヤーがいるとのこと。
戦争終結後。
大きな迫害は受けなくなったものの今後の影響を考えて立ち上がっていった者たちがいた。
それがバイモンの生みの親だったらしい。
家族を築き上げたプレイヤーには、家名を名付けることが出来る権利を与えられる。
つまりマイトも家庭を持っているということになる。
元からバイモンの父親イデルは、現実世界で医者だったらしく。
傷を負った多くのプレイヤーを回復魔法。
薬学の知識を独自の研究で状態異常を処置する処方薬を作っていった功労者となったという。
しかし戦争の最中、顔見知りでさえない赤の他人を庇って戦死。
戦死を知った母親テミスが、夫イデルの研究を受け継いで「医療ギルド」を作ったという。
双子の弟ギデオンも研究を参考に雑貨屋を開業したらしい。
父親の遺伝なのかバイモンは、戦場の最前線でプレイヤーを助けたいと願い。
このパーティーに加入したと彼は言った。
「ヒロキ。そのまま立って持っていてくれ。その青い根は希少なんだ」
「確か滋養強壮剤になるっていう」
「そうだ。人工栽培では青い根は腐るだけだからな」
ゆっくり採取用のハサミで切り落とす。
緑の果肉部位と花は、だらりと枯れてマスクを装着していても漂うツンとくる腐敗臭は漂う。
ゾンビがぶら下げていた臓物よりも酷い。
苦痛とも言える。この匂いに吐きそうになるが喉元まで押し寄せる酸っぱい味を抑えて飲み込む。
ここで吐いてしまえば、更なる水分補給が必要になるからだ。
節水のためにも嘔吐を押さえたヒロキだが、結局気絶してしまうのだった。
目を覚ました時には太陽が傾け始めて、橙色の夕焼け雲が見える安全圏のテントの中。
またやってしまった。と額を擦る。
念の為に教えて貰ったやり方で自分のステータスを確認する。
本来なら多くのプレイヤーは、大きな都市や町でギルドに所属する為。
加入時に身元証明書の役割を担う「ギルドカード」を発行してそれに記載されているのを見る。
だが生憎、まだ砂丘を彷徨っている俺は持ち合わせていない。
なので一々、イベントリホームを開いて複数の画面を広げて面倒な作業をしなければならない。
それも毎回行わなければならない。―――面倒くさいことこの上ない。
イベントリホームから自分のステータスを見るには、まず「プレイヤー認証」するために大きなサークルに手の平を乗せて指紋でも認識させるのか? その辺のことはよく分からないが乗せる。
自分の今の名前「ヒロキ」を念じることで「ステータス画面」が表示される。
Status
Name;ヒロキ
Age[Sex];17[♂]
Tribe;人間[ヒューマン]
Job[Rank];放浪者[Fランク]
Level;12
Days;4
DNALevel;2
Ability
HP;体力値1350
STR;筋力値70〈+5〉
AGI;俊敏値80〈+15〉
VIT;耐久値80〈+9〉
DEX;器用値140
MP;魔力値0
Core;コア8
Tolerance;耐性【―――】
Penalty;状態異常【―――】
Skill
CombatSkill;武装スキル【竜の力-Level.1】
EffectSkill;技術スキル:調合スキル【調合】【採取】【解体】【解剖】
ConstructionSkill;構築スキル【加速】【跳躍】【硬化】【集中】【増幅】
PersoSkill;身体技能スキル【瓦割り】
FightingSkill;格闘スキル【スプラッシュ・ブレイド】
SurvivalSkill;サバイバルスキル:【サーチ】【隠蔽】
Weapon
Right;右手武器【訓練用木刀】
Left;左手武器【―――】
WeaponBonus
STR+5;筋力値+5
Armor
Head.1;頭部1【―――】
Shirt;アンダーシャツ【ノーブランド品-V字シャツ[白]】
Body;胴部【軽装軍服[砂迷彩]】
Arm;腕部【訓練用籠手】
Hand;手部【ガードマンブランド品-クロガネ】
Waist.1;腰部1【―――】
Pants;アンダーウエア【ノーブランド品-トランクス[縦縞青]】
Leg;脚部【軽装軍服[砂迷彩]】
Foot;足部【ガードマンブランド品-ヤミクモ】
ArmorBonus
VIT+9;耐久値+9
砂迷彩;砂漠もしくは砂丘エリア移動中、モンスターに警戒・発見されにくい
Accessory
Head.2;頭部2【―――】
Eye;目部【―――】
Ear;耳部【―――】
Nose;鼻部【―――】
Neck;首部【ガーディアンヘルメスブランド品-蒼天の首飾り】
Back;背中【バックパック】
Finger;指部【ガーディアンヘルメスブランド品-蒼天の指輪】
Waist.2;腰部2【魔人の鍛冶屋ブランド品-スロットルエクスⅡ】
AccessoryBonus
AGI+15;俊敏値+15
イベントリ拡張×2
武器スロットル+2
「ペナルティは付いていないな」
良かった。
昨日の採取の後、起きたら体中が痺れて動けなかったからな。
白兜の睡眠効果で熟睡してしまった。
昨日襲ったのは、ペナルティという名の状態異常だった。
砂丘を歩いている時にも経験したアレだ。
あの時は【栄養失調】。一定時間食事をせずに行動していると発生する状態異常。
空腹状態になり体力値が落ちやすくなるものらしい。
【熱中症】砂丘や砂漠など平均気温二十五℃を越えるエリアを休まずに行動していると発生する。
行動時に体力値への負荷効果があるという。
白兜。特有の催眠効果で引き起こされる状態異常【昏倒】で目が眩んで倒れた。
それに加えて【麻痺】により体中が痺れて動けなかった。
幸いバイモンの調合した処方薬でペナルティは回復した。
しかし薬の副作用で、丸一日動けなかった経験からステータスを開いたのだ。
「それにしても、この能力値…いいのか?」
ステータスを見れば、自分のすべての現状が分かると言っても過言ではない。
マイトやクルスから初期装備でこの砂丘を行動するなど馬鹿の一つ覚えだと言われ、一通りの防具とアクセサリーを装備した。
装備方法は簡単。
イベントリを開いてジャンル別に分けられた『Armor』『Accessory』『Weapon』『Item』。
その内『Armor』『Accessory』をそれぞれ選択。
受け取った物を認識することで自動装備される。
装備したのはステータスにも記載されている通り。
アンダーシャツとアンダーウエアは、初期装備のまま胴部と脚部に【軽装軍服[砂迷彩]】。
体感重量はほとんど感じられない私服と変わらない。
これだけでもモンスターの警戒発見されにくくなる作用があるのに驚きだ。
手部と足部には初心者がよく装備する品でそれほど高価ではないが、ダメージを最低限防いでくれる有難い品々だ。
腕部には訓練用カカシに挑戦する際に貰った。
見た目は剣道で装着する籠手と大差ない。
アクセサリー品については、俺のスタイルに合わせてくれている。
一部の能力値が跳ね上がっている。
AGIという俊敏値を示す能力値だけが「+15」という異常値に達している。
この数値が一体どれほどの効力を、秘めているのかはまだ分からない。
その前にあることが自分の脳を悩まされるのだった。……彼との勝負が待っているからだ。
初日の一方的な挑発に乗ったのは俺だ。
プレイヤー同士が合意の上でひとつの事柄を賭ける公式な賭け試合「PVP」に挑戦した。
結果は言うまでもなく―――惨敗だった。
一瞬で勝敗が付くほど圧倒的。
絶望的な差を前に俺に救いの手を差し伸べたのがマイトとクルスだった。
『勝てないのが当たり前だ。
世界はそう甘くはない。
レベル十二の初心者にレベル百五十オーバーのプロが、容赦なく全力を出すバカは置いておいて。
ヒロキ。君はあの時「生きたい」と言った。
それは決して強者に挑み続けて生きた証を残すことではない。
自分を大切にしろ。お前はまず…』
『それじゃあ、ダメなんだ。
俺は二度と逃げたくない。
立ち止まってしまったら、俺は…過去の自分に戻ってしまう。
迷惑なのは百も承知だ。
でも俺は前を見たい。後悔したくはない。ここで投げ出したら、一生悔いる』
『ヒロキ…』
『マイトさん、なら僕が教えますよ。
ここで才能や素質が云々言っても仕方ないですし。
第一、初心者に挑発するバカがバカですからね。
まあそれでも五日以内に成果がでなければそれまで、ということで』
『バカバカ言うんじゃねぇ。
再戦でもしろっていうのか、たった五日で変われるほど才能があるようには見えねぇが。
お前もなんかいったれ、バイモン』
『自分バカではないので』
『て、てめえ。絞めるぞ、肉壁』
『その辺にしておけゲイル。
再戦は五日後。
言いだしっぺで原因を作ったゲイルに初太刀でも当たり負けた場合は、そうだな。
…貿易都市まで全員の荷物を背負ってもらおう。
時間制限は十分。
これを過ぎるもしくは意識を失った場合ヒロキには、貿易都市に辿り着くまでの間料理を任せるとしよう。クルスとバイモン、後のことは任せたぞ』
それから今の今まで生きるために必要な最低限のサバイバルな知識をマイトとバイモンから。
基礎的な戦闘技術をクルスから教わり、マイトが取り決めた五日後が今日。
俺は実戦に向けてインスピレーションを深めていく。
初戦負ける大きな原因となったことを考える。
スピードもテクニックも桁違いの敵。
それはシロザメ以上に怖いほど鋭い殺気で形成された攻撃がものをいう。
「ダメだ。勝てる気がしない」
スピードとテクニック。全く反射できないのにどうやって対応しろと。
ごろりとシーツの上に転がる。
唸りながら考える。
魔法を行使できる才能が欠けている。
訓練用カカシとの修練の休憩時のことだ。
魔法がないことをクルスに言うと驚いて考えるポーズをする。
ハッと何かに気付いたかのように、俺の両腕を掴み「腕輪を見せてくれないか」と懇願してきた。
えっ。と右手を見る。
そこにあったはずのリングがない。
『意識しない限りはそれが現れることはない。
あまり他人に見せていいものではないが、もしかすると君は銀、シルバーリングではないか?』
『ええ、このダイヤモンド形状のコアも銀色ですけど何かあるんですか』
『やはりそうか。
それはプレイヤーの個性の印なんだ。
例えば僕の場合は、青色コアをしている。
これには色の意味合いが組み込まれているんだ』
『意味合い?
つまり、青色の象徴がクルスさんの性格や個性ってことですか』
『そうだ。
青色には冷静。平和。誠実なんていうイメージがある。
季節感で言えば、冷たさ。過去、現実世界で苦しんだトラウマがこのリングに現れる』
『銀には本質が冷たいものが…』
『別の意味合いもある。
洗練。硬さ。そして歴代の銀色の先駆者たちもそうだった。
何かに固執していた。
例えば最初に発現した先駆者は、戦闘能力皆無の出来損ないと言われていた。
でもモンスターを使役して最終的にはドラゴンさえも手懐けた。
二人目は身体能力が絶望的だったが魔法を極めて世界を救い、世界を殺そうとしている。
三人目は錬金術を極めて賢者のイスに座っている。
君で四人目だ。
過去を越えるのは難しいことだが、まずは自分を知ることだ。
きっと見えてくるはずだ。君の本質が、さ』
俺の本質。
俺にしかないもの。
過去の経験を活かす。と言ったらアレしかないだろう。
イメージする力だけが俺の全てなのか?
違うだろ。
知識。少なくともシロザメには現実世界で学んだことが役に立った。
なら迷うことはない。
「十七年間学んだ経験を上乗せさせる。
イメージをインスピレーションする力。
俺にはこれしかない」
どうでしたでしょうか?
誤字・脱字がありましたら、ご報告お願いします。