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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅲ 《奴隷市場での覚醒譚》
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【#059】 Banquet Part.Ⅰ -観測者の宴-

随分と遅れました。

今回の主役はヒロキではなく……。

最後まで読んで戴ければ幸いです。



 シェンリル王国の国王にして《五茫星英傑ペンタグラム》の一人、マイト=ゴルディー。

 カルマの情報が正しければ、ペンタグラムとは世界ハローワールド最強の五人のプレイヤーを指す言葉だと言う。その中でもマイト=ゴルディーは、『創造の英雄』と言う二つ名を持っているとのこと。

 ダンジョン「黒結晶洞窟」で出会ったガイアス=マギ=ドラゴンも最強の五人の一人らしく『破壊の英雄』。あの人らしいと言えば、確かにそうだ。と言えるだろう。

 創造と破壊。相反するもの同士、犬猿の仲のようで宴の最中でも永遠と愚痴を溢していた。


「あにょ野郎はな。兎に角、勝手なんだよ。この前もヒックーー。連絡なしのアポなしで王宮に来ては酒盛りを始める…ック。もう少し威厳ウィック。ってもんをにゅけてもりゃんたいもんざ」


 完全に出来上がっている。

 宴開始から一時間ちょいで呂律が回らないほどに、酔っぱらっている。

 これが太鼓酒の効果となると俺たちを歓迎するどころではない。ーーいや効果と言うよりも、恐らくだがマイトさんがお酒に弱すぎるだけではなかろうか。と思える。



 ゴウさんなんかは、相当嗜むようで冷酒、米焼酎、麦焼酎、芋焼酎、日本酒からのウイスキーやブランデーまでを好き放題に注文している。

 彼と一緒になって晩酌をしているのは、途中から参加してきた鍛冶師のカイエンさんだ。

 顔を真っ赤に晴らして今、二本目の泡盛を注文している。ゴーヤチャンプルーや鯵の干物を肴にしてゴウさんと盛り上がっている。



 魔導師の格好をした女性は、ルナさんと言うそうだ。何でも一昔前は、『英雄王』と名高いアカツキが作ったギルド「蒼穹の丘」で筆頭魔導師をしていたと言う。

 彼女は何かとレインを嫌っているかと思えば、魔法の教育を施している師匠なのだとか。

 なぜそうまでして、いがみ合っているのか? と問うと二年前にシェンリルを訪れた時に火災や爆発がどうのこうのと言っている。全くもってサッパリである。

 それはそうとしてだ。チラチラと視線を俺に向けては声を掛けようか、掛けまいか。とする行動が中々に可愛い。


 ルナさんはレインを弟子に取るまで、魔導から外れた錬金術の修練で最難関の「賢者の石」の生成に尽力を注いでいたらしい。

 賢者の石とは、永遠の生命を与える不老不死の法や卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬の一種だと言うのが有名な代物だ。

 物識り博士のカルマでさえ、賢者の石の生成方法は分からない。と言うのだ。

 生半可な修練や努力を重ねても決して届くこと叶わず。しかし、そこに死んだ筈の人間が生き返る。と言う異例事態が彼女の興味を駆り立てているのだろう。



 着ているのがヤンキーぽいが、華奢な身体をしている美少女クモ。彼女は裏の世界では、名の知れた情報屋らしくアルカディア大陸全土の情報のほとんどを統べると言われるほどだと言う。

 そんな彼女は今、鍛冶師のシロナさんとクーアとで座敷遊びをしている。

 遊戯のすべてを知り尽くしたクモだが、中身は男だと言うのが未だに信じられないが確かに言動はオッサン臭い。


「ハッハハハ、俺様の勝ちだ。

 よし! 次は野球拳をしよう。負けたら一つ一つ、服を脱いでいくアダルティーな時間だ。ぐふふふ……、さあーーー」


「止めなさい! 幼げな少女に何てものを教えるんよ。男同士で遣りなさい」


「私、野球拳知ってるよ」


 と言うクーアの言葉に全員が凍りつく。俺もだ。遊郭で働いていた。と言うのは聞いていたが何処まで知識が付いているのか。


 さて俺はと言うと、目の前の商人を相手に酒とメシを頂いている。楽しい筈の宴会でここだけテンションがやけに低い。

 この男こそ空席の人物、ベル=ホワイト。商人ギルドでトウマと一緒にいた妙に睨みを利かしていたヤツだ。酒を呑んでもこの面構え…俺に何を期待しているのか。



  ▲

  ▽



◇商人ギルド◇


 ーーー遡ること二時間前。

 ひんやりと冷たい大理石の通路を歩くのは四人。しかしメイン二人、残りの二人はメインの護衛として同行しているに過ぎない。

 エントランスと比較すれば小さいものの、内装費は軽く見積もっても十倍近い装飾が施されている大広間で護衛の二人は止まって一礼する。彼女たちの役目は、ここまでだからだ。

 大広間で待機しているのは、二人だけではない。この先の会談室に進んでいる重要人物たちの護衛たちだ。その中にはホシヒメとガーネットの知る者もいる。


「やあ、二年ぶりかな?

 ガーネットちゃんと『結界の巫女』ホシヒメちゃん…随分とキレイになったね」


 サバイバルスキル【隠蔽】で姿を隠していたのは黒装束の魔導師。

 ギルド「ロビンフッド」元メンバーのディアンマである。この男は二年前のカーニヴァル参加はしていないものの、実績は折上付きの魔法剣士だ。


「ディアンマさんがいるってことは、パムチャッカのゼン=ヘドリックさんですか。

 ーーそれに、そこで寝ているのは先代『剣聖』のユウセイさん。現代『剣聖』にして『聖騎士』のカナタくんまでとなると、国王様まで出席の会議ですか」


「仕方ありませんよ。国王様が発案した政策ですからね。出席は国務です」


 発言したのは、白い西洋風の鎧を装備した青年。話題の人物ことカナタである。

 カーニヴァル準優勝者。期待のエースとして、名を上げた青年でギルド「流星騎士団」団員だったが現在は国王を守護する『聖騎士』に転身している。


「国務ねぇ。どうせ、昔話に華を咲かせてるだけじゃね?」


「ユウセイさん。

 それは言い返せないですけど、重要な案件ですから前置きは必要ですよ。第一に我々の職務上、寝るわけには……」


 カナタが敬語を使って話しているのは、先代の『剣聖』にしてギルド「流星騎士団」第四師団団長のユウセイだ。この二年で変わったことと言えば、『剣聖』の二つ名をカナタに譲渡したくらいなものだ。

 二つ名『剣聖』とは、優れた剣術と柔軟・剛胆な力を有する剣士に送られる称号。

 ユウセイ指導の元、修練を積み続けたカナタこそが相応しいとのことから賞与を受け入れた。


「寝てても問題ないだろ。

 商人ギルドに突っ込んでくるバカ野郎なんて、このシェンリルの町に要るわけないよ」


「判らないですよ。もしかすると、賊が押しよ寄せて来るかもしれません。万が一のバックアップが護衛としては必要な義務です」


 ユウセイからは頭の固いヤツだな。とぼやかれる一方で、ホシヒメとガーネットは顔を背けて何かあった様子をしている。


「あれれ、その様子じゃあ何かあったって丸分かりだよ。僕の【魔力感知】にはキミ等以外の反応はなかったけど…」


「そのセンサー壊れてるんじゃないの。アレだけのことがあったのに、魔力が感じ取れないなんてーーそれこそ有り得ない」


 ディアンマの【魔力感知】は、此処にいる誰よりも感知においては長けているからだ。

 それでも感知能力センサーが壊れている。と言い切るホシヒメの意見もまた考慮しなければならない。と思う一同。

 此処にいる誰もが魔法を扱うが故に、魔法なしで戦う戦法が分からないのだ。しかし、そこでユウセイが放った一言を皮切りに二年前の事件を思い出すことになった。

 それはまた別の話。



 ………一方で、奥に進んだベルとトウマは会議室の用意された座席にそれぞれ座っていた。既に鎮座しているのは、九人の重鎮たちだが二人にとっては全員が顔見知りである。


 老舗の銀行屋『リッチマン』頭取のブランシュ=バレンタイン氏。立派な鼻下の如何にも金持ちな髭と中世の紳士服が特徴的な男性だ。

 

 老舗の温泉旅館『黄金郷』女将のアカネ=ヒュウマ氏。流れるように美しい黒髪に白化粧を施し、上品な蒼の着物を着付けた女性。


 シェンリル大通りで一番人気の揚げ物屋『トンガラシ』大将のマンプク氏。ふっくらとしたお腹回りと顔付きをしたブサメンだが、金回りはダントツの儲けを出している。


 同じくシェンリル大通り。老舗の料亭『仙人亭』統括のサブロウ=オウガイ氏。珍しいと言われる幻人[デウス]の仙人族で、この重鎮たちの中で最高齢にあたる男性だが料理の腕は超一流の現役のお爺様。


 同じくシェンリル大通り。王道の鍛冶屋『大黒天』名匠のトム=クロバ氏。何よりも毛深い男で身体中から鉄の臭いがキツいが、腕っぷしは確かで毎日欠かさず熱い鉄を打っているオヤジさん。


 ギルド「流星騎士団」総帥のヘイハチ=トウドウ氏。妙に疲労の目が見える壮年の男性の顔には、大きな刀傷が威厳を高めている。

 二年前の大事件を引き起こした中心のギルド「赤星聖教騎士団」との対峙で付いてしまった呪いのようでまだ痛むのだろう。苦々しい表情をしている。


 ギルド「レオンナイト」総帥のベルン氏。不満そうな態度は相変わらず、会談よりも戦いで語るタイプの人種には堪えるのだろう。いつも立っている金髪も今日に限っては、垂れ下がるほどダルそうだ。


 一番奥に鎮座しているのは、この中で最もVIPクラスの重鎮。シェンリル王国の国王マイト=ゴルディー氏は隣席に座っているゼン=ヘンドリックと話をしている。


「長らく御待たせしました。

 わたくしが本日付で商人ギルド。グランドマスターに昇進しました。銀行屋『恵比寿七福店』頭取兼支配人のトウマです」


 その言葉にピクリと身を震わせる重鎮たちは、各々が口々に真っ青な表情で言う。

 グランドマスターの称号と言うのは、頑張ったからと言って、努力に努力を重ねたところで獲得できるものではない。才能や素質そして何よりも運がなければのし上がれない。

 それこそ黄金世代の新生者であったとしても、不可能と言われ続けてきた状況下でのグランドマスターの獲得は、世間を一変させるほどの大事件だった。


 口々に不満の声を挙げる中で、落ち着け。と言って宥めるのはマイトとゼンを始めにベルが締め括る。


「落ち着いてください。

 ここに集まって貰ったのは、何も商人ギルドのグランドマスターを紹介する場ではありません。

 国王の提出された案件『通過換金政策』について。ーーですが、その前にご報告があります」


 一呼吸置いて、ベルは話を続ける。


「最下層の奴隷市場で、どうも妙な動きがあるようです。経済面が大幅に改善・補強された中で、不祥事を起こされては他国の信用を失い兼ねません」


 ざわつく会談室で一人だけが笑って、場の空気を制圧する。トウマだった。


「ーーおっと、失礼しました。

 ベルさん。それについては、彼に一任してはどうでしょうか?

 英雄伝説『黒結晶洞窟での英雄譚』の主人公にでも。マイトさんは既にご存じなのでしょ。彼は死の淵から帰還した英雄も同然。

 実力は、この目で確認しましたから間違いないでしょう。『結界の巫女』であるわたくしの身辺警護を勤めるホシヒメの結界術式を貫通させる格闘術の会得。申し分ないのではーー」


  △

  ▼


◇料亭『仙人亭』◇


 ベルは酒を呑んで頬を朱色に染めるヒロキを見て、どう見ても普通の人間にしか見えないでいた。こんな人間に任せても良いものか、今更ながら思うのだった。

 しかし自分はこの国の経済を円滑に回せるための責任がある。ギルド商会とは、国の秩序と経済を守るためにある。とそう実感したのは、二年前の事件だった。


 アルカディア大陸全土の経済を脅かす前代未聞の大事件『シェンリルの悲劇』は、当時のギルド「赤星聖教騎士団」と隣国の侯爵ティム=コーエル。

 そして兵器ブローカー率いる闇のギルド「ウロボロス」が企てた策略によって、隣国のフィラルに潜んでいた召喚師が召喚した悪魔数千体がシェンリルを襲撃し悲劇が始まった。

 『炎帝』ゴウさんのお陰で悪魔の殲滅には成功したものの、白金砂丘で陣を立てていたギルド「六王獅軍」六番隊は隊長のハナミチさんを残して全滅した。

 カーニヴァルの祭典の中で、参加者の黄金世代が動いていなければもっと大きな被害が出ていただろう。彼等のお陰で…ふざけるな。

 アレは俺達が引き起こした結果だ。尻拭いを新しい世代に任せてどうする。


 俺はアレから変わった。

 当然だ。当時はまだ貿易都市。町としての機能しか持っていなかった性もあって、他国の信用を大きく裏切った。

 ギルド「赤星聖教騎士団」は、町を守るために動いていた組織だった筈なのに。密入国者や密輸を不問でスルーしていた。これによって経済面は大打撃を受けた。

 この事態に大元のギルド商会が逸早く容疑がかかり、俺は逮捕直前にまで陥った。それを救ってくれたのが、今の国王マイトさんだ。


 マイトさんは俺の恩人であり、この街の。この国の英雄だ。その人が認める人物を俺はまだ信用できないていない。

 出会い方が不味かったから? 違う。

 二年前も額に傷を負った。でもそれは別の人間で、三十番の逃亡奴隷と幇助容疑で処刑された。

 でも彼は違った。彼には運があった。

 エントリー戦に参加し、既に勝ち星を九つ所有している。この二年間に何が合ったかは不明だが、黄金世代と渡り合えるだけの力を手に入れている。

 マイトさんから聞く限り才能も素質も十分にある。それでもーー。


「ベルさんも御一つ、どうですか?」


 気楽に酒を勧めてくる。

 俺はまだ信用できないでいると言うのに。

 しかし、ここで受け取らなければ彼は俺を信用しないだろう。


「…戴こう」


 グビッと一気に呑み干す。

 この程度じゃあ、何も変わらないのに。変わらない筈が…酔ったか?


「キミに折り入って頼みたいことがある…」


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