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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅲ 《奴隷市場での覚醒譚》
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【#057】 Security -巫女と老人-

スマホから投稿中です。

ちょっとこのお話し辺りから、ほのぼの系=日常編が複数話展開していきます。

最後まで読んで戴ければ幸いです。

「あんな可愛らしい娘の肌を穢しやがって……」


「まだ幼い少女と一夜以上、一緒に過ごしただと……」


「ロリっ子娘とイチャイチャしやがって……」


「「「…万死に値する。この腐れ変態野郎が!!…」」」



 まだ名前のない奴隷少女の思わぬ発言と頬にされたキスで、俺。ヒロキは今思いっきりマズイ状況に陥っていた。


 何故かって? そりゃあ、まず一番に俺が問いたいさ。

 確かにアルファガレスト卿に一億セル位なら奴隷だった少女の世話ぐらい余裕だと思っていた。だから預けたんだ。

 足りなかった? そんな訳ない。一億セルを金貨に換算した場合は、一万枚だ。十分過ぎるほどの金額の筈だ。多分な。

 いや、間違いない。執事のクラネルさんだって、この金額は可笑しいーー。とか言って目を見開いていたほどだ。

 なら、他のことなのか?

 俺はそこで思考を加速してカルマとハガネに呼び掛け相談に乗って貰うが如く物思いに老け始める。


 それにしても、さっきのフレーズは聞き覚えがあるぞ。どこでだったっ気かな…。

 あっ! 思い出した。レインが勘違いしてカエデがフォローしてくれたアレと同じじゃんかよ。

 いや違うな。あの時はカエデがフォローしてくれたけど今回はいない。つまり…。


『死亡フラグが立ったな。おめでとう!』


 なんちゅうことを言ってんだよ!?

 ハガネは兎も角としてカルマ。お前が言ったらダメだろ。唯一の常識人が俺の中で消えちゃうよ。


『おい、今のは聞き捨てならんぞ。

 ヒロキは儂をなんだと思っているんだ』


 そんなん決まってんじゃん。

 狂人だろ。どこの廃人だよ。人を斬りたくてウズウズする人間がどこの世界にいるんだよ!?


『ここにいるぞ』


 えっへん。と威張るハガネが見えるようで見えない。

 そりゃあそうだ。見えるわけがない。対話しているとはいえ、俺の空想上で持ち上がった半透明な人型と話している感覚だからだ。


『冗談はさておき、どうするつもりだ?

 流石にこの人数を相手取るのは、いくらヒロキでもキツいぞ。

 放っておいても構わんが、町中探し回られて注目を浴びるのも、迷惑になることは今後のことも考えて避けた方がいいだろ』


 おお、それでこそカルマだな。

 確かにこの人数は骨が織れそうだ。

 なんせ、Fランクも少々混じっているとは言ってもだ。Eランク・Dランクの冒険者ともなると、黄金世代がいる。

 それは即ち、レベル五十クラスが束になって襲ってくる。そういうレベルの話だ。

 流石に俺だって、鳥肌が立つってもんだ。


 ーーー!!


 しかし予想外の人物の登場で騒動そのものが喪失することとなった。

 ソイツの身長は、二メートルの細身で筋肉質な仏頂面。一言で言えば、仁王像の巨神に近い存在だ。

 この町の出身者や来訪者から冒険者までもが彼のことを知っているようで、ほぼ全員が恐慌状態に囚われて逃げ出してしまうのだ。一体、何をしたらここまで恐れられるのかは不明だが、確かに顔は怖い。

 いつの間にか俺と名前のない元奴隷少女。そして俺に勝負を吹っ掛けたリグルは未だに冒険ギルドの中でくたばっている。

 カエデは知り合いのようで、彼の元へ駆け寄っていく。

 レインは彼が現れた途端に俺の後ろ。仁王像…彼の顔の怖さに怯えている元奴隷少女のさらに後ろで震えている。中々に可愛い。

 ニヤリ。とする俺に気付いたのか、レインはプイッと顔を背けられた。またそこも可愛いのだが、今度は白髪の元奴隷少女が頬を膨らませる。


 おいおい、俺はどうしたらいいんだ。


 そんな悩みも俺の心中では、更なる精神攻撃が突っついて来るが完全無視の方向で震えているレインには申し訳ないが彼について尋ねることにした。

 如何にもイヤそうな顔をして渋っていたレインだったが、お礼に団子屋【スマイ丸】のおやつ【草団子】を奢ってくれたら教えないでもない。と言うのでーー仕方ない。と言う俺の返答に乗っかって答えてくれた。

 

 仁王像の細身で筋肉質な人物の名は、ゴウ。

 五帝傑。伝説の存在とされて来た原初魔法を含めた四系統「火」「水」「風」「土」の属性魔法。それぞれを極めた世界最強の魔導士たちの一角。その中でも「火」を冠する《炎帝》だとか。

 その名は聞いたことがある。

 大地? 未だに名は思い出せないが、あのじいさんが言うには襲来した十万の悪魔を殲滅した武神。それがゴウと言う人物だった。

 この人物、気配や魂の波動を感じ取るだけでも質・格が桁外れに違う。【六芒星魔眼】を使わなくとも、それぐらいの判断は出来る。

 それにだ。俺と奴隷少女の場合は、「氣」を習得している時点で、ゆっくりと自然にだが漏れ流れる魔力が分かってしまう。

 恐らく定期的に魔力を放出しなくては、成らないような構造をしているのではないだろうか。と言ってもだ。この貯蔵魔力ゼロの俺が言ったところで説得力もゼロかもしれないが、これだけは分かる。

 このプレイヤーは強い。と俺の直感がそう言っている。


「ーーそうか、話は大体掴めた。

 しかし、よく事件・揉め事に巻き込まれる小僧よな。では行くとしようか。

 ーーと、その前に冒険者ヒロキにお連れの方、それから薬師レイン・魔弓使いのカエデ。主らには、夕刻六時に料亭「仙人亭」へ足を運んでもらいたい。これはマイト=ゴルディー殿のご意志だ。では、またなーー」


 そう言って去っていくのかと思われたが、近場の蕎麦屋に入っていく。

 全く持って嵐のような男である。

 唐突に現れたかと思えば、なんのことはない。騒ぎを聞き付けて出向いただけらしいが、その渦中にいた俺たち四人にどうやらマイトさん。国王が関係しているようだ。

 わざわざ呼びつけて、それも料亭に招待ともなるとーーどうも、また厄介事に巻き込まれそうな感じだ。


 しかしだ。

 「仙人亭」とは、名前からして何とも高そうな料亭だろうか。まあ太っ腹な国王の財布で食うタダ飯なら問題ないがな。

 お! そういえば、忘れるところだった。

 さっさと商人ギルドまで行って換金しなければ。

 …いや、ちょっと待てよ。今さっき薬師レインって言わなかったか。それに魔弓使いって、なんぞや?


「なあ、レイン。

 お前、薬師になれたのか?」


 俺の言葉に目を逸らすレインは、軽く頷いて抱き着いてきた。

 泣いている。俺は何となくだが察した。この原因は俺にあるのだと。どんなに必死になって夢を追いかけたかなんて、顔を見れば分かる。

 どれだけの努力を重ね、何度挫けそうになっても投げ出さず最後まで積み上げていったのか。目の下の隅を見れば、手の平に残る堅いマメ・潰れたマメを見れば苦労したことが一目瞭然である。

 ソッと抱き寄せて、感情移入してしまった俺は泣きそうな声で祝福する。


「がんばったな…」


 その声を聞いたレインは、溢す涙を震わせると軽く目を閉じて天使の微笑みを見せてくれた。

 その横から何故かは知る由もないが涙目の元奴隷少女が飛び込んで来て、レインに抱き着いて一緒に泣く姿を見ると姉妹のように見える。 ホッとする光景だ。


 しかし、俺への精神攻撃は終わらなかった。始まりはカエデの一言を皮切りに追い詰められた俺は、カエデにもおやつ【草団子】を奢らなくてはならなくなったのだ。

 なんの一言だって?

 そんなの決まってる。俺がどうしてロリっ子娘といるのか、そこのところ詳しく教えてーな。と言うカエデの似非関西弁のせいだ。


 あれさえなければ、逃げ仰せたのに。全く持ってカエデのヤツは、昔から……もういい面倒臭い。

 アレだけのこと。デスパレードの一件があったとは言え、もう昔のこと。二年という時間が経過しているのだ。ここでグチグチ言ってもしょうがないし、当時のカエデの言葉は正論だった。それに過ぎたことだ。

 まあ、それはさておきだ。

 システム通貨のセルでは【草団子】も奢れないので、俺たちはレインとカエデの案内のもと商人ギルドに足を運んだ。



◇シェンリル王国 中層 商人ギルド◇

  

 商人ギルドを訪れた俺たちを待っていたのは、一人の全く変わっていない顔見知り。もう一人は、俺の顔を見るや否や縫い合わせた額の傷が千切れそうな剣幕でぶちギレる青年だった。

 顔見知りの方は、俺が怒ってもいい対象の人間である。昔の話とは言ってもだ。限度と我慢の許容範囲が人にはそれぞれあるが、アレはマジでない。

 当時はギルド「六王獅軍」の専属商人をやっていた男、トウマである。


 PVP「モード20」という形式で戦った機関銃の使い手ダイン。というプレイヤーと一戦交える前に貰ったのが、赤と青のビー玉。PVPでは使う余裕がなかったが、修練中に使った結果とんでもない事態を生んだのだ。


 赤のビー玉の効力は、超大規模な爆炎と爆破を生んで一つのエリアが丸ごとドロドロに溶けたガラス状に。結果的に灼熱地獄の後に残ったのは灰色の世界だけだった。

 あの時はマジでビビったものだ。石像兵がいなければ今頃、溶解されていたところだ。

 危険? あれは危険なんてものじゃない。一種の兵器に近い物だ。


 で、だ。赤のビー玉がアレだけの危険性を持った兵器と認識した俺は、もう一つ別の色を持ったビー玉を実験するために別のエリアに放り込んだ。

 全く持って予想を裏切らないものである。

これも厄介極まりなかった。

 白煙と冷気が立ち込めるエリアになったり住んでいた生命体は、半永久的に凍った世界で生きることになるだろう。

 実験終了と同時に俺は誓ったのだ。

 生きてトウマに出会ったら思いっきりキツい一撃を顔面に決めてやろうと。

 そして…二年という歳月を経て、その瞬間はやって来た。


「とぉおおおおまあああああ!!」


 叫ぶと同時に構築能力【加速】で広いエントランスとロビーを突っ切って拳がトウマの顔面にクリーンヒットし豪快に吹っ飛ぶ予想だった。しかし結果は違った。

 エントランスで守衛を勤める警備員が三人係りでヒロキを止める。ーーが、守衛は油断していた。相手はたった一人の少年だと侮っていたのだ。

 守衛の平均レベル四十四。それを弾き飛ばしてロビーへ入ると思われたが、バッチーン。と渾身の一撃を阻んだのは見えない壁。

 俺はこれを一度目にしている。


「大した拳圧ですね…。

 ですが残念です。わたしの誇る最強の盾の前では、足元にも及びませんーー」


 見下す物言いで波打つ空間の揺れを振動で抑えて自分の支配下に置くのは、トウマの影に隠れ恐らく護衛していた少女。

 俺は彼女を知っている。

 あの時は無口で声さえ聞けなかったが、間違いなくこれは「結界」。ーーの一種だろう。一部の空間だけを固定した防御術式と言ったところか。

 でも、それなら。その程度なら……。


「アンタがここのセキュリティの要か。

 もし、そうなら…大したことないな」


「戯れ言を…」


 当時の彼女はもっとこう、何て言うかミステリアスな感じがあった。

 この二年で何があったかは知らないが、何かが吹っ切れた普通の勝ちにこだわっている女の子にしか見えない。


「彼の言う通りだよ、ホシヒメ。

 あの最弱の挑戦者が随分と強くなったものだ。ホシヒメの防御布陣の一陣を貫いて、ボクの頬に一撃を与えた。

 これはガイアス=マギ=ドラゴンが編み出した近接格闘術【虚空拳】の応用技でしょう。ヒロキさん、お久しぶりです」


 あのムカつくブロンドのオールバックは、間違いない。当時、ギルド「六王獅軍」専属商人をやっていたが今はなにやってんだ。

 ……って、そうじゃないだろ。


「おお、久しぶりじゃないかトウマ。

 じゃ、ねぇよ。 何が至高の一品だ。アレは試行の一品だろうが、あのビー玉のせいで二つのエリアが死滅したんだぞ!」


「死滅? それは興味深い。現状を詳しく聴かせてくれないか。勿論、情報次第では報酬金を約束しよう」


 この野郎、マジでもっかい殴りたい。

 なに取引を持ち掛けてんだよ。

 こっちは死ぬ思いで……ああ、もういいわぁ。今日は疲れたからな。その腑抜け面見たら、どうでも良くなったわ。


「ああ、もういいわ。なんか面倒臭い…。

 今日一日だけで色んなことがあって、久しぶりに仲間に会ったところだからな。今日、ぶちのめすのは止めるよ」


「それは助かります。

 此方はこれから大事なビジネスの会談がありますからね。ベルさん、さあ行きましょうか。面倒事は今しがたなくなりましたから」


 そう言ってトウマは怒りもせず、ベルと言われる貴族風の青年とストーカーのように背後にべったりと引っ付いている女騎士と共に奥へと歩いていく。

 ホシヒメは俺の方を暫くの間、睨んだ後風景に溶け込む感じでステルス状態に移行したようだが俺には丸見えだ。

 これも「氣」を習得している恩恵なのだろうか。


 それにしても、はて? である。

 額に縫合痕がある貴族風の青年には心当たりがないのだが、何処かで出会ったことがあるのだろうか?

 すんごい剣幕でこっちを睨んでいたが、全く記憶に残っていない。一体、誰だったのか謎である。

 カルマは何かと知ってそうだが、簡単には教えてくれなさそう。なのでレインとカエデに尋ねることにした。

 え、ハガネには聞かないのかって?

 アイツに聞いて知ってるわけがない。人を斬ることしか考えていない剣バカだからな。


「なあ、今のトウマと一緒に行ったヤツって誰だか分かるか?」


 ああ…うん。しょうがないね。といった感じで二人が頷いて答えてくれる。

 余程の重要人物なのか。周囲の視線が一斉に此方に向けられる辺りからして、そうなのだろうと予測付ける。


「まあ、知らないのも無理ないかな。

 彼の名前はベル=ホワイトさん。べったりとくっついていたのが彼の専属騎士でガーネット=シャネルさん。

 ベルさんは、ギルド商会の会長さんをしてるんだよ。ギルド商会の説明もした方がいいかな?」


 とレインが言うが知らない言葉ばかりの上、長話になりそうだ。

 なので、ロビー横の空室になっている待合室に入って説明を聞くことにした。流石に注目を浴び続けるのは、あらゆる意味合いで体に毒だと思ったからだ。


 邪魔だと思ったのか、レインは杖を。カエデは背中に装備していた弓を。それぞれイベントリに仕舞い込む。

 俺は…と言うと、魔剣は俺の中。異次元空間に保管されているので仕舞う必要はない。

 投擲用のナイフは、イベントリに仕舞うよりは何かあったときのために懐か裾の中に忍ばせている。

 因みに今の俺の装備は、こんな感じだ。


Armor

Head.1;頭部1【着脱式エンペラーフード[黒]】

Shirt;アンダーシャツ【二流ブランド品:丸型シャツ[灰]】

Body;胴部【カイエン@メイキングアーマー:死神の霊装鎧[黒]】

Arm;腕部【カイエン@メイキングアーマー:不死王の観音籠手[黒]】

Hand;手部【ーーー】

Waist.1;腰部1【ドロップアイテム:オーバーロードの袴】

Pants;アンダーウエア【二流ブランド品:トランクス[縦縞赤]】

Leg;脚部【ドロップアイテム:深淵のマジックブーツ】

Foot;足部【ーーー】


 殆どが黒一色の装備でダンジョン「黒結晶洞窟」の最深部で出会った魔剣の鍛冶師カイエンの力借りて、装備を一新していたのだ。

 まあ、当然だよね。アレだけ暴れて、壊れないわけがないのだ。全部が貰い物で申し訳なく思うところもあったが、自分の命には変えられないのでカイエンさんに頼んだのだ。

 無論、装備品の仕込みに必要な素材はダンジョン「魔窟」で倒したモンスターのドロップアイテムや採掘して入手した素材【黒結晶】を渡して作って貰った。


 死神シスを倒した際にドロップしたアイテム。素材【皇帝の羽衣】とカイエンが持っていた素材【魔術師のローブ】と組み合わせ出来たのが、【着脱式エンペラーフード[黒]】。

 頭部の装備で有りながら、羽織った黒のローブにフードが付いている物だ。

 無論、効力もある。移動中ではなく、足を止めた場合に限り意識することでステルス状態に移行出来る。と言うものらしいが、使ったことはない。


 順に説明したいところだが、ここで一旦切り替えよう。レインとカエデの長い説明を要約するとこうなる。

 ギルド商会とは、現実世界でいうところの役場・役所の扱いになるようだ。

 町中の◯◯ギルドを束ねて、その上位に位置し必要に応じて指示を出す。イベントの立ち上げから戸籍の移動・居住地や仕事探しまで請け負うことが仕事だという。

 そこまで言ってくれた辺りでおおよその見当は着いたので、トウマについて尋ねると。


「彼は今、銀行屋をしてる筈やで」


 とカエデが言う。

 そこでピンと閃いたのは、現在進行形で進められている政策「通貨換金政策」。アレ絡みならば納得だからだ。

 ギルド商会の会長ベル=ホワイト・銀行屋の頭取トウマ・そして恐らく商人ギルドの代表人物が集まっての会談となれば、それしかないだろう。


 納得がいき問題は解決したので、ここに来た目的を解消すべく鑑定士が在席するフロアまで上がる。

 中々に豪華絢爛な装飾品の数々が一望出来る第三フロアを通過した先に、黄金の鉄格子が目移りする鑑定所に辿り着いた。

 鉄格子の前の椅子に腰掛け読書に老ける老人がチラリと覗き込んでくる。


「なんじゃい、レインかいな…。

 お主は冒険者じゃああるまいて。カエデは兎も角として…。ああん、なんじゃい。見慣れん顔が二つあるのぉ」


 猫背の男か女かも分からない老人は、俺と元奴隷少女を見比べては立ち止まる。まじまじと覗き込むように俺を見るや否や、ホッホホー。と笑って続ける。


「認めようぞ。主等は悪人ではない。

 ーーさて、換金しに来たのじゃろ。ここに出しな。鑑定したる!」


 全く読めない老人の言葉をレインの顔を見て確認すると頷いて、大丈夫だよ。と言うので俺はイベントリに仕舞っていたすべての財宝を取り出した。


 イベントリから吐き出されるように、鑑定所を支配する黄金の山。

 積み重なるのは、古代人が作り上げたであろう目映いばかりの金貨や光沢が美しく清らかな銀貨。

 魔術や何らかの儀式に使う黄金の短剣。

 ゴブリンキングの王冠やゴブリンが盗み出した財宝の数々から古書や雑貨品などを引っ括めて、凡そ百二十点以上の未鑑定品を前にレインは思考停止フリーズ状態に。カエデと元奴隷少女はポカン。として開いた口が塞がらない。

 鑑定士の老人は、鑑定のし甲斐があるのー。と言って黙々と自分の仕事に専念している。

 暫くして結果が出たようで、鑑定済みのリストを受け取った。


「あ、どうもです。

 ーーって、え?」


 俺よりも早く結果が知りたいのか、三人はリストを奪って凝視する。


~~ 鑑定リスト ~~

……

……

古代人の金貨[×三千]:一千[三百万セル]

古代人の銀貨[×五千]:五百[二百五十万セル]

……

儀式専用の黄金杯:十六万二千五百セル

儀式専用の黄金短剣:二十万セル

……

ゴブリンソルジャーの朽ちた鎧:八千セル

ゴブリンナイトの朽ちた名剣:一万セル

……

ゴブリンキングの王冠:五百万セル

不死王の冠:七百万セル

……

素材【黒結晶】[×三十九]:一万[三十九万セル]

素材【紫結晶】[×六十二]:二千[十二万四千セル]

素材【魔硝石】[×四十一]:一万[四十一万セル]

……

……

雑貨【竹箒】[×十四]:三[四十二セル]

雑貨【タワシ】[×十九]:一[十九セル]

古書【地底図鑑】:十セル

……

総累計百三十六点:総額二億八千五百万セル

~~~~~~~~


 総累計が百三十六点あったせいもあって、かなり長めのリストの始めの章よりも終りの章に目を向けた彼女たちは揃って驚愕の声をあげる。

 総額、二億八千五百万セル。通貨換金で得たのは、一億セルで煌貨一枚に換金されると言うので煌貨二枚と金貨八千五百枚が手渡された。

 小金持ちを遥かに通り越して、富豪の仲間入りを果たした瞬間であった。


「私、初めて煌貨みたんだけど…」


「ウチもや」


「わたしは見たことはあるけど、身内で煌貨を持つ人は初めてだよ。だって煌貨は、王族の代紋みたいなものだもの」


 通貨換金政策で作られる硬貨の中で、最も多く製造されるのは金貨だと思われ勝ちだが実際は違う。

 冒険者や商人などの一般職に就いているプレイヤーが挙って遣うのは金貨。

 それに対してフリークエストで一攫千金や定職に就いていないプレイヤー、一般家庭を築いた庶民は大抵が銅貨や銀貨を遣う。

 富を振り翳す貴族たちやギルド商会で事務を勤める者・大商人・国を治める立場にある国王や大臣もやはり金貨。

 しかし、一国。一つの国が保有・貯蔵する硬貨は、決まって煌貨なのだ。

 その理由は、莫大な資金を動かすとなると非常に都合が悪いのだ。運搬だけでも時間・人・金が重なってしょうがない。そこで持ち上がったのが金貨の上をいく「煌貨」と言う訳だ。

 その上で硬貨には、それぞれ違う印象が浮かび上がってくるだろう。煌貨は王族。金貨は貴族。銀貨は冒険者。銅貨は庶民。となるようだ。


「ホッホホー。

 お主のことは、この国の国王から大体の話は聴いておったがまさかーー本当に黒結晶洞窟の繁殖期デスパレードを凌ぎ、伝説クエスト『水神湖の伝説』までも達成するとはのぉ」


「「「はい?」」」


 三人が奇妙な疑問符をあげて、老人に向けていた視線を俺に向けてくる。


 いやね。言いたいことは分かるよ。でもさ。しょうがないよね。

 アレはカルマ曰く卒業試験でもあり、元契約者エルリオット=フェメルとの解約。死神シスを討伐するしか手がなかったからな。


 視線を背ける俺に、説明求む。みたいな顔でしかもジト目で見てくる。

 三人は結局、団子屋【スマイ丸】で十本ずつおやつ【草団子】【吉備団子】【スマイ印の謹製蒸し団子】を思う存分平らげて許してくれたのだった。


 因みに俺の手持ち金額は、金貨五百枚を入れた革袋だ。残金の煌貨二枚と金貨八千枚は、二つに割ってトウマが立ち上げた銀行屋「恵比寿七福店」の預金口座に入れている。

 二つに割ったのは、俺の分とまだ名前はないが元奴隷少女の口座と使い分ける為だ。万が一、俺の身に何かあった時の保険と言う意味合いでだ。彼女の人生を買った以上、守らないといけない気がするからだ。

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