【#053】 No name -奴隷少女-
回想編最終話です。
~~四か月後~~
俺は鍛冶師のカイエンを護衛しながら地上を目指していた。
カイエンの言う近道を頼りにした性で、四か月の間黒結晶洞窟を彷徨う結果になったのでカルマの【魔導解析】と俺の魂の力で探知しながら最短ルートで漸く辿り着いたのがここだ。
♢シェンリル王国 最下層Cブロック 奴隷市場♢
「おお町だ」
「スマンかったな。
ワシの十年前のルートがまさか土砂崩れで通れんとは思いもよらず…」
それの関係者は俺です。とは言えず仕舞いでカイエンとはここで一旦別れることになった。
ギルド連盟からの依頼達成の報告をしなければいけないらしく、カイエンは最上層の王都に。俺はこの世界に転生してから初の町デビューを味わうために、ハガネ曰く定番の酒場に向かうことにしたのである。
それにしても、いいな。ザ・町感が何とも言えん。
俺にとっては二年以上もほとんどフィールドやダンジョンにいた性もあって、人混みや他人が自分の店を売り込む気合の入った声はジーンと心に染みわたる。
今まで相手取るのがモンスターと俺の中にいるカルマ・魔剣【ダークリパライザー】に憑依させて魔法契約を交わしたハガネとの雑談が多かったからな。こうして温かみのある声を聞くとついつい嬉しくなるのだ。
右側からは魔物肉を売り込む肉屋の野太い声が、
「はいはい!!
今回オススメの魔物肉は、黒結晶洞窟で討伐された新鮮なゴブリン肉だよ。
塩漬けして半日で美味しい【ゴブリンの干物】は絶品だよ。
今すぐって方は無難な焼き肉がオススメ!! どうだい? そこの旦那…」
左側からは如何わしい装飾品や薬品を売り込む麗しい声が、
「見ていきんさいよ、そこの旦那ぁ。
本日のオススメはぁ、この血銘酒【ドラゴンブラッド】やよ。
どうだい? 銀貨五百枚で…」
ん? なんだろ。いま銀貨とか聞こえたけど…。
物知りカルマさんに訊くが、さあな。の一言で締めくくられた。
……。ん!? いや、いま血銘酒って言ったか!
あの店に戻ろうにも人混みの圧に押し負けてズルズルと連れていかれる俺は、何とか細い裏路地に入れてホッとする。
べたべたになった他人の汗を布巾で拭っていると、暗い裏路地の通りを一列で歩く奇妙な集団と出くわした。
若い青年もいれば、幼い少女。老いたおじいさん、おばあさん。一年以上散髪していないボサボサの性別不詳の人間? など中にはネコミミ少女やトカゲ人間までありとあらゆるプレーヤーが両手首と両足首に真っ黒い枷を嵌められて歩いている。
ポカン。と見ている俺に声が掛かる。
「あんまり見てやるな。駆け出しのルーキー」
ん? と後ろを振り向くが誰もいない。
気配を辿って声の主を探すと左側に回り込む形で立つ大柄マッチョマンのオッサンが立っていた。武器や装飾品の内容で分かる。彼は拳闘師だと両腕に嵌められた真っ赤な手甲が俺にそう言っている。
自分の身長に合わせてくれたのか、膝を曲げて俺に言う。
「見てるとアレを見るのは初めてのようだし教えておこう。
アイツ等は両親に棄てられたり、借金の肩代わりを引き受けたり…と色々過去にトラウマを持つ奴隷たちだ。裏路地の通りを歩かせているのは、品を損なわせない為らしい」
なんだ品って…。
あんまり意味が分かっていない俺を見てか、男は本当に何も知らないのだな。そう言って溜め息をついて、ここではなんだ‥と話しを切り出して言う。
「‥どうだ?
駆け出しのルーキーが死罪になるのも俺としては寝覚めが悪いことだし、酒場で基本的な…えーとアレだ。この町のルールを聞いておかないか? 今後の為にも、転生し立ての開拓世代のプレイヤーさんよ」
あれぇ…。
まあ、いいか。きっと、このオッサンよりも戦闘では負けない自信があるけど…町のことに関しては素人も同然だからな。
しかし、俺って。まだ転生し立てのルーキーに見える物なのだろうか? と疑問に感じるところだがオッサンに便乗して酒場に向かった。
「ああ、分かったよ。俺はヒロキだ」
「おうよ。俺はトーマス。冒険者のトーマス=ダリルだ。よろしくなヒロキ!」
この時、トーマスは「ヒロキ」という何処かで聞いた覚えのある名前に少々は気に掛けたものの記憶を探るという時間がかかる面倒なことは嫌いなのでモヤモヤをすっ飛ばしてヒロキの手を引くのだった。
♢シェンリル王国 最下層Bブロック 酒場「小悪魔のルビー」♢
初めて入る店がまさかの酒場になろうとは、思っても見なかった。
かなり緊張する。あれから凡そ二年程が経過していたとしても、まだ十九歳の未成年だから落ち着かないのだ。その点、魔剣の中にいるハガネは嬉しそうだ。さっきから酒を注いでくれとかブランデーを呑ませろなど煩いったらない。
それにしても変わったお店の名前だったな。と思いながらトーマスがこっちこっちと呼んだテーブル席に腰を下ろす。
はあ、いいな。
イスがある。テーブルがある。ここは天国か…。と疑いながらも満足そうに座る俺を見てカルマがオーバーな奴だ。と言う。それでも俺は嬉しかったのだ。
今まで座ると言っても岩肌の上か、土埃の酷い地面・オッサン臭漂う布団と散々な目に遭ってきたからしょうがない。
「ヒロキ、好きなのを頼んでもいいぞ。
どうせ、システム通貨しか持ち合わせていないだろうしな。俺の奢りだ。ドンと頼むがいい」
「いいのか!?
じゃあ、肉料理【ゴブリン肉の煮込み】と野菜料理【フレンチセット】、えーとドリンク【腸エキサイト】で頼むよ」
かなりドン引きされつつも、あ‥ああ。と言ってトーマスは野菜料理だけを同じにして、別メニューの肉料理【ワイルドピッグのステーキ】とドリンク【ジンジャーエール】を注文するのだった。
お店のメイド服を着る店員も相当衝撃を受けたようで、え? これでいいのでしょうか。と再度確認して来たぐらいだ。俺の注文は間違ってはいないのだが、トーマスも店員も変な目で見て来る。
注文の確認を済ませた店員は、少々お待ち下さい。とぎこちない言葉遣いで俺達のテーブルを後にするのだった。
「なあ、トーマス。あの店員、可笑しくなかったか?」
純粋な質問をしたつもりだったのだが、帰ってきた答えは俺の予想を上回るものだったことは言うまでもない。
知らぬうちに俺が地下のダンジョン生活に馴染んでしまったのがすべての原因なわけだが、トーマスには俺の事情を知って貰う訳にも行かず旅人がくれたゴブリンの干物が美味しくて。とそう誤魔化したのである。
そう俺が話すと、何か通じたようだがとんでもない解釈で苦労人扱いされてしまった。まあ、間違ってはいないけどな。
兎に角その話しは置いといて、本題に入る前に気になっていることから解決すべく話しを進めることにした。
「なあトーマス、さっき言っていた。
システム通貨しかってどういうことだ? このセルじゃあ、買い物できないのか」
「出来なくはないんだが、この町では無理だな。
シェンリル王国の王様マイト=ゴルディーさんが筆頭となって進めている政策だからな。モデルケースをこの町から初めて周辺の隣国へと広める方針らしい…」
トーマスの話しだと、システム通貨の廃止には色んな裏話があるらしいのだが俺に話してくれたのはその中の一つ。
これから転生してくる世代に向けての貢献。元ゲーマーからはリアルの追求と言っているが実際はシステム通貨では買い物できるものに制限があるのが一番の問題解決だと言う。
システム通貨とは、商人とプレイヤーの遣り取りでしか使えない代物で生産職が商品を直に売り込もうとするとどうして仲介人として専属商人を雇う必要があるという。過去に知り合ったトウマがそうだろう。
そうなると生産職のプレイヤーはかなりの大金を投入することになる。専属商人の雇用には最低でも「10,000C」を毎月支払い、店を持つ者なら税金と店のローンの支払いに追われるのだ。これは生産職に限ったことではない。すべてのプレイヤーが通常価格の倍以上のシステム通貨を支払って買い物をしていたという。
それでは何時になっても国の借金が嵩むばかりだということで、王様になる前より考案していた一大プロジェクト「通貨換金政策」を実施したとのこと。
「なるほど。面白いな」
「ヒロキ、ちゃんと理解できたか?」
「要はシステム通貨を廃止させて、新しく作った硬貨を世界中に広めて誰もが安心する・便利な政策をこの国からスタートさせているってことだろ。
それでどこで換金できるんだ? 俺、結構持ってるぞ」
ハア~~。と何故かそこで溜め息をつかれる。
いいかヒロキ‥。から話しを切り出して忠告するように進める。
「通貨換金政策はまだモデルケースだからというのもあって、銅貨一枚が一セル。銀貨一枚が一千セル。金貨一枚が一万セルに換算されるんだ。
駆け出しの所持金じゃあ、銀貨一枚がいいところだろうし冒険ギルドで冒険者登録は必須事項だ。そこで提案なんだが…って、聴いてるか?」
普通の酒場や居酒屋なら窓がないのに対してこの店にはある。と言っても外から中の様子を伺うことは出来ず逆に中からなら外を見れるマジックミラーの窓を食入るようにみるヒロキ。彼の目に映る少女を見て、気の毒に思いながらも言葉を口にする。
「彼女も奴隷だ。
それも逃亡奴隷だ。アレには関わるなよって、オイ!」
トーマスの言葉がヒロキに伝わるよりも早く店の外に出たヒロキは、逃亡奴隷の少女を抱っこして店の中に入ってきた。
その行動にいくら苦労人の少年だとしても、自分の店を失いたくない店主ルビーはイヤな顔でヒロキを外へと追い出す。ごめなさいね。と言うが少女を見るなりバタンと強く酒場の扉が締められる。
他の人間も同じだった。
どうしてだ。と言う前にカーテンやシャッターを閉められて表通りだと言うのにヒロキと抱っこした銀髪の少女が残される。世界で独りぼっちな気分がヒロキを襲ったのだった。
♢シェンリル王国 最下層Bブロック クロス表通り♢
「何だよ、これ!
どうして誰も助けないんだよ。こんなの間違ってるだろ!!」
叫ぶ俺の声を無視してジャリッ。と地面を擦らせ現れた数人の男達の猟犬だろうか数匹のペットを連れて俺の言葉を全否定する。
「間違ってるのは君だよ。駆け出し君」
とても懐かしい。何処となく聞き覚えのある声だった。
顔を見て俺の中に焦り生まれていた。
奴がいたからだ。
俺とレインとカエデを地獄の底に落とした張本人コガネイ。
変わっていると言えば、片方の目を隠すように黒い眼帯が異様に見える程度。今だからこそ魔力が見えるが、【六芒星魔眼】は瞳の色が紫に変わるので右目だけをコガネイに向ける。
駆け出し君だと…ふざけやがって。
コイツ! 俺のことなんて、もう忘れたのか。いや違う。俺が死んだことになっているなら、忘れていても無理はないか。結局、俺はその程度の存在なんだ。
「逃亡奴隷の扱いは、死罪だと遥か昔から決まっている掟だ。
背く人間・手を貸す差し伸べる人間も同罪だ。君の甘さが生んだ結末だ」
その言葉が知っているぞ。
アイツが言った言葉だ。
アイツのまだ仲間なのか、それとも受け入りか、そんなことはどうでもいい。
倒れた少女を助けないで、守れないで、どうする。
俺のこの二年間は何だった? いま、証明してやるよ。
「笑えるな。
オマエはこの二年間、結局何も変わっていない。思い出させてやろうか?」
「何処かで会ったか?
随分と罪人風情が舐めた口を利く。ヘルハウンドと傭兵を投入し二人とも殺せ。これはこの町Bブロックを治める奴隷商人デイドラ様の命令に等しい我が名コガネイの勅命である!!」
猟犬の首輪が外され解放されると、何処から得たか炎を身に纏わせてグルルル。と唸り吠えるヘルハウンドが俺の周囲を囲む。
数は四。振り切れない数ではないが、その後方から厳つい武装を施した甲冑を纏う傭兵がガリガリ。と超重量級の大剣を引き摺らせながら向かって来ていた。
俺の手の中には、まだ荒い息を溢す少女が苦しそうにしている。彼女は見捨てられない。そう思う俺は逃走用の白煙玉を使って追手の視界を奪って逃走を計る。
裏路地を抜けて次と次の大通りをスルーして突っ切っていく。
その最中、若い貴族風の青年にぶつかってしまったが近づいて来る追手を見てすみません。と一言残して去る。関係のない人を巻き込まないようにするにはこれしかない。と思ったからだ。
~~ 二ヵ月後 ~~
俺は彼女を放ってはおけず、後から救の手を差し伸べてくれたトーマスに感謝しながら何とか宿屋だけは確保出来ていた。と言っても未だに最下層。それも端の馬小屋で彼女の看病をしている。
出会った当時は喋ることさえままならなかったのだが、次第に体調も回復して言葉を話せるようになっていた。
トーマスの話が本当なら、彼女は人間[ヒューマン]でも魔人[フェイスマン]でもなく世にも珍しい幻人[デウス]。それも部族が鬼人と言われる戦闘に特化したプレイヤー。こんな無垢な少女が戦い慣れしているとは到底思えないが、その分希少価値が高く金貨五百枚以上で取引されているらしい。
何とかならないかな? とトーマスに相談したのだが、流石に何処かのボンボンでない限り融資できないと言う。
それもその筈だ。金貨五百枚と言えば、システム通貨でいう五百万セルだ。一流の冒険者でもそんな大金持っていたら、今頃土地を購入して城を建てていることだろう。トーマスの昔話を聞く限り、冒険者ランクは良くてもCランク。無理強いは出来ない。
「どうしたものか…」
馬小屋の藁の上でスヤスヤと寝る彼女を見て思う。
彼女にはいま名前がない。
それは奴隷になった時に、すべての情報が買い取った奴隷商人によって商品として番号だけが与えられるからだ。
トーマスが言うには、奴隷でいる時間が長ければ長いほど自分の本名を忘れてしまうらしく、いまの彼女もそうだった。
三十番。それが今の彼女の名前だ。
それにしてもよく寝っている。
心の中にいるカルマは、まじまじと見てやるなよ。と言われハガネからは寝込みを襲ってこそ漢になるのだ。とか言って俺を揶揄ってくる。いつものことだけど。
それでもいまは真剣に考えていた。
このままではいけない。とトーマスにも言われたが自分でもそう思ってる。
でもどうすればいいのか? 答えが出ぬまま二ヵ月が過ぎてしまったのである。
俺のそんな気苦労も知らないで馬小屋に入ってきた貴族風の青年は、嫌みな顔で三十番を好き勝手に触ろうとする。
「オイ、手を出すな!」
「口を慎みたまえ。
私はトーマスの友人としてキミ達を匿っているに過ぎんのだ。いいのか、この私に逆らって。ここに奴隷商人を連れて来れば、キミもこの無垢な少女も死罪だ。
これは税金だと思えば軽いもんだろ?
なーに、こうやって彼女が寝ている内だけ肌に触れているだけだ。寝込みを襲おうなどという無粋な真似はしないさ」
さわさわ。と厭らしい手付きで三十番の白い肌を触っていく。
ピクリと身を震わし甘い吐息を漏らす少女に俺は何も出来ない。無様過ぎる。居ても立っても要られないのに。
いまの俺は無力だった。
この変態野郎を殺すのは訳ない。でも、それは恩人のトーマスを悲しませることになる。いまの俺には徹夜で三十番を見守ることしかできない無様な逃亡者にしか過ぎないのだから。
暫くすると三十番が目を開けて、自分の哀れようもない姿に羞恥し馬小屋の端っこに行く。貴族風の青年は、ニヤ着いた厭らしい目付きで撫でた掌を舐めて出て行った。
俺は大馬鹿野郎だ。
何にも出来ていない。
彼女に謝ることしかできない。
それなのに彼女は俺を許してくれるのだ。
天使の微笑みで慰めてくれた。
俺は彼女に甘えていたかったのかもしれない。
あの時までは。
数日後の深夜。あの日は近場で釣れた川魚を調理してお腹いっぱいになって、眠気に襲われてついウトウトしてしまっていた。
微かに藁の匂いで目を覚ました俺がそこで見たのは、裸にされて複数の男の強い力で押さえつけられて手と足の自由を奪われた三十番の姿があった。
口はロープでぐるぐる巻きにされて喋れずジタバタと暴れるも、男達が暴力を加えてびくびくと小刻みに震えている。一人だけ全裸の男がいままさに犯そうとしていた。
俺の中で何かが弾けた。
――――――。
―――。
気付いた時には、もう遅かった。
俺達が二ヵ月お世話になっていた馬小屋は火の海で、俺の胸中で泣く三十番を連れトーマスの宿舎を尋ねていた。ただ不運なことにトーマスは、討伐クエストに出ているらしく俺が宿舎を後にしようと居た矢先のことだった。
馬に騎乗した騎士が俺に告げたのだ。
「Aブロック統治者アルファガレスト卿の勅命により、駆け出しルーキー。
オマエとその逃亡奴隷を拘束させてもらう。着いてこい!」
とうとう。俺も終わりらしい。と思ったのが何故か俺と三十番は拘束も監禁もされずに屋敷に招待されたのである。
♢シェンリル王国 最下層Aブロック アルファガレスト郷邸宅♢
俺の小汚いローブと破れて異臭のする私服は廃棄処分され、しっくりくる・動きやすい衣服をメイドさんから貰って誰もいない書斎に一人でいた。
魔剣の存在はバレては大事になると思い、俺の中にある。魔法契約をハガネと交わしているのでバックパックやイベントリではなく、俺の中にある別空間に隠している。
それにしても、未だに信じられない。
コガネイも、あの貴族風の青年も死罪だと言っていたのに助けられている現実が信じられないのだ。
○○卿と言われるだけあって、あの青年と同じく貴族のなのだろうものなら権力で俺達の罪を消したのではないか。そうとしか考えられないが、なぜなのかが理解できなかった。
ガチャ。とドアを引いて杖を支えにして地味に疲れた顔をする壮年の男が入ってきた。
身につけている衣服や高級そうな金やプラチナの指輪をしていることから、彼が俺達を招待してくれたアルファガレスト郷ではないかと思う顔をする自分を見て、
「やあ、はじめまして。
騎士から聞いている通り、私はこのAブロックの奴隷市場を統治するアルファガレスト=マキナス=ゴルディー。今この国全体を統治する立場にあるマイト=ゴルディーの親族だ」
はいぃ!??
「ハハハ、久しく見ていなかったがいいものだな。
驚愕の顔とは実に面白い。年を取ると分かるのだよ。皺の折り目、表情、仕草、感情で分かる。ヒロキ君、君のことは兄貴から聴いている通り頭のいい子のようだ。
君と逃亡奴隷の彼女にはすまないことをしていると思っている」
ダッ。と駆け寄って俺は問う。
なぜなのか‥と。
「―――、君たちに提供させた馬小屋。アレは私が用意させたのだ。
だが誓って言おう。バカ息子が仕出かした数々の悪行は、私も知らぬことだったのだ。本当に申し訳ない」
頭を深々と下げるアルファガレスト卿に同情できるほど、俺は出来た人間じゃない。今にもぶん殴りたい気持ちになるが、それは駄目だと。カルマが必死になって止める。
どうしてだ。
どうして、こんなにこの世界は息苦しいんだ。
俺自身もグッと力を抑えて堪える。
「…トーマスとは、どういう関係なんです?」
「彼は私の友人だ。
バカ息子の友人ではないので、安心してくれ給え。
私が。君を匿うには、どうしても時間が必要だったのだ。奴隷制度は改正されても奴隷自体はなくならない。
兄貴マイトは、それを少しでも緩和するために今動いている」
「通貨換金政策ですか…」
「そうだ。兄貴の狙いは最初からそれだ。
魔法大戦を引き起したのは、兄貴じゃないのに責任を取ろうとしてる。
私はそんな兄貴が好きだ。だから兄貴の言葉は無視出来んのだ。
ハッキリと言おう。私が君を助けたのは、今や最強と謳われる黄金世代のラストピースだからでもあるが嘗て一緒に旅をした兄貴からの申し出があったからだ」
……俺は耐えきれなかった。
死んだ筈の人間をずっと待っていた。というマイトさんが俺を救ってくれたのだ。
それがどうしてなのかは分からない。
それでも嬉しかった。
待っていた。俺なんかをずっと待ち続ける人がいるだけで、こんなにも涙が止まらないことを初めて知ったのだ。
それから、さらに数日後。
逃亡奴隷だった三十番を助けた俺に責任があるので、アルファガレスト卿のコネを使って彼女を自分の奴隷として購入した。
アルファガレスト郷は、償いだと言ってお金のことは気にしないでくれと言うが俺自身が気にするので近々開催される「剣舞祭」で上位入賞を果たして、その賞金で恩返しをしようと思ったのである。
そうと決まれば、やることは一つ。俺は冒険ギルドに向かうことを決心した。
三十番はひと月の間は、この邸宅でお世話になることとなった。それはアルファガレスト卿の計らいでだ。バカ息子という青年については、現在婦女暴行の容疑者としてギルド「レオンナイツ」の屯所にいるので問題はない。とのことだ。
「さて、行くかね」
俺のすべての所持金、システム通貨総額にして一億セルを三十番の為に使ってくれと言って渡した。無一文だが、冒険者登録すれば財宝を換金できるので問題ないと思ったからだ。
邸宅から一歩外に出て、新しい一歩を踏み出した。
二年間の苦くて苦しい重みと。
守ると言う一心で磨き上げてきた修練の答えと。
まだ密かに眠る復讐心と多大なる恩を返すために中層にあると言う冒険ギルドを目指すのだった。
次話から本編です。
それとお知らせです。
4月1日から下旬まで投稿が出来ない可能性がありますので、ご了承ください。新しいタイプの光をセッティングするために時間を要します。それまで書きためておきますので接続が安定次第、投稿予定です。
来週の土日は投稿します。ご迷惑かけます。




