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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅱ 《黒結晶洞窟での英雄譚》
48/109

【#048】 To be continue ? -起死回生-

Episode.Ⅱ《黒結晶洞窟での英雄譚》最終話クライマックスです。

次話より第二章「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」Episode.Ⅲの始まりとなります。

前話【#047】昨日改稿完了しておりますので、そちらから読んで戴ければ幸いです。



「………………」


 ドラゴンの仮面に鎧武者の格好をする。今にも燃え尽きんばかりの神々しくも儚い人間の少年は無言で、怒気を込めたであろう障壁を展開させる。

 トカゲ人間は思う。

 アレはヤバい。と先のゴブリンキングが余興と言って始めた決戦において、触れただけで剣も鎧も肉体さえをも一瞬で炭化させる熱量があの薄い膜にはあると知っていたからだ。

 ゴブリンナイトと同じ高速移動で退くものの、自分が自分の為にと作り上げたゴブリンキングが一触即発。一瞬で炭化させるのを見たトカゲ人間は、面白い! と思うのだった。

 後退で五段目のゴブリンキングの頭部を形どった石像上に立って反転。

 全てを炭化させる瞬炎の膜が消失し、自分を認識した竜面の少年がこちらを見下ろした時、


「話しをしようじゃないか」


 と言うトカゲ人間の言葉など耳に入ることもなく、ゴブリンキングの<ゴブリン王>の肥えた霊魂を丸呑みにして火焔の衝撃波がエリア「王の間」を襲う。

 バキ、ドッドッドッドッドドドド―――。と最上の壇上が強烈な圧と共に粉砕、崩壊、消滅した後、猛烈に吹き荒れる嵐のような暴風が衝撃波となって六段目。五段目。四段目。三段目。二段目の壇上に敷かれたレッドカーペットを引き裂く。

 大理石の床には風圧と大きな力で抉られた爪痕が無残に残り、一段目の広い壇上を次々と裏返して謁見室だった空間は一瞬で廃屋となったのだった。


 五段目の石像を踏み台にしていたトカゲ人間は、目を丸くしてその光景を見ていた。新しい人間の進化体の姿を。

 瞬炎の膜中でゴポゴポと唸りを上げて、数百の魂が高周波の悲鳴を上げる。

 悲鳴に呼応するように、炭化し命を物理的に奪ったゴブリンナイト十の霊魂が瞬炎の膜の周囲をぐるぐると回っていたのだが、淡い青い十の霊魂は次第に紅蓮へと変わっていく。

 それだけではない。

 紅蓮へと変質化した霊魂は、均等に五個ずつ左右へ分かれ強大なバケモノ如き獣の手に変わる。それで自分を攻撃して来ようというのか!? と思えば、二つの手はトカゲ人間ではなく通り過ぎていく。

 緊張が押し寄せる中、数分後戻ってきた二つの手にはモンスターの死体があった。

 <不死王>のリッチー。魂亡き遺体のゾンビたち。幽鬼のバラバラになった骨。産まれたてのゴブリンの残虐な遺体。巨大な単眼を失った巨人のサイクロプスの遺体。

 その肉片と骨をも呑みこむ瞬炎の膜は。あの竜面の少年は一体何を望むのか。トカゲ人間は、意図を掴むことが出来なかったのだが産まれた新たな異端の存在を見て驚愕と戦慄が神経を駆け巡ることとなった。


「俺の名はヒロキ。もう、人間じゃあない」


 いつの間にか瞬炎の膜が繭状となっていた。そこから繭を破って現れたのは、至って普通の何処にでもいる少年。しかしトカゲ人間には、分かっていた。

 空気が熱を持つ。熱が言葉になる。言葉が威圧を孕む。威圧が衝撃を生む。衝撃がトカゲ人間の思考を歪ませる。思考がアドレナリンとなって全身で感じ取るトカゲ人間は、嗤って答える。


「そうか、ヒロキ。それは悪かった。

 俺の名は、ハガネ=ヒユウ。セカンドプレイヤーだ」



  ▲

  ▽



 時間は少々、遡る。

 紅蓮の繭の中で俺という一人の人間は死に至った。

 当然のことだ。暴走した自身の魂魄を抑えきれず、爆発した仮初めの心臓がアレを作ったのだ。

 ドラゴンを模した竜面。鎧武者の武装。双対の紅蓮刃。まだまだ、本質には程遠いのだろう。不安定な形だけで力さえコントロール出来ないのだから。



♢紅蓮の繭の中♢


 ゴブリンキングの肥大化した霊魂を呑みこんだ瞬間、俺の内側は爆発した。

 竜面と鎧武者の格好は言わば、俺の器となって爆発した肉片と骨と血を留めていたに過ぎない。元々、オロチ戦の時に限界を迎えていた肉体なのだ。よく持ったものだ。と今更ながら思う。

 

(思う?)


 死んだはずの俺は、何故か自分を。自分という存在を認識できていたことに気付いたのだ。あるのは血と肉片と骨だけの筈なのに「思考」が生きている。

 有り得ない。

 これは何なんだ?

 その無機質な質問に答えてくれたのは、一度だけ聞いたあの声だ。


『人間の魂は、感情と熱と暖かな心で構築されている。

 我は何者か?

 我の声が聞こえるお主は、人間か? 怪物か? 英雄か? 愚者か?

 我はここにいるぞ。お主の魂は、何を望む…―――』

(アンタはなんだ?

 どうして俺に問い掛ける。これは何なんだ!)

『我…言い直そう。私はオマエという存在を待っていた。オマエが私を拾ったのだ』

(拾った?)

『私という存在は、元々とある賢者の持ち物だった。賢者は…。

 水神湖の伝説は知っているな。

 死の淵を歩いていた賢者は、「封印の法」の中に新たに強力な呪いを組み込んで、深淵の洞窟に魔物を生み出した。賢者は人間を辞めて、怪物。<死神>シスとなって自分ごと封印した人間たちに復讐するために、不死の軍団。<不死王>エルダーリッチーを引き連れて貴族から眩い金銀財宝や王族の秘宝を強奪して、強欲な人間を虐殺した。ここまでは知っているな』

(ああ、カエデから聞いた。節々、モンスターの名前は知らなかったけど)

『アレには続きがある。

 全ての賢者と言われる者は必ず、魔導書を持っている。それも秘匿されるレベルの代物から災厄レベル物もあれば、私のように自我を持った魔導書もある』

(いや、待て! 俺はあの時表紙と文面から読み取って、魔導書の類は持ち帰っていなかった筈だぞ)

『私は魔導書だぞ。レシピ集のように偽装してフェイクを仕掛けることなど造作もない』

(は!?)

『さて話しを進めようか。

 お前は転生者だろ。その肉体が自分の物ではないと知っているか?

 転生とは、お前たちで言うところの「現実世界リアル」から記憶と能力値を束ねた情報体をこの世界ハローワールドで言うところの魂魄に刻み込み、死した肉体にその魂を定着させる。それが転生者だ。転生者のオマエならこの方法が適用できる』

(おい、待て。――じゃあこれは、この血肉は俺じゃなくて死んでいた誰かなのか)

『転生者の原初の解明は、まだ成されていない。今語ったことは賢者エルリオット=フェメルが口にしていたことだ。私はそれを記憶したに過ぎん』


 エルリオット=フェメル?

 何処かで聞いた名だ。どこだ。どこで聞いたんだ。

 俺はない頭で悩む。悩んだ結果、出てきたのはある人物との会話だった。


『この世界《HelloWorld》がですか。

 ハッキリ言って、リアルではないかと疑うほど現実味を帯び過ぎているように思います。

 とても感覚が通っている。まるで本物の血液がこの身体を流れているような。

 でもこれは、この世界は仮想世界なんですよね?』


 ああ、思い出した。

 ゼンさんだ。ギルド「パムチャッカ」のギルドマスターの。


『それは吾輩にも分からん。としか今は言えない。

 実際にクリアした人間がいるという話だけあって鵜呑みには出来んしのう。

 この目でクリアした瞬間を目の当たりにしたわけでもない。

 だが、その件に関して、とあるプレイヤーが推測を立てた…。


 仮説。と言った方がいいかもしれんが。

 エルリオット=フェメルという新生者が遺した文献「仮説定義」によれば、だが。

 すべてのプレイヤーの共通項『死の直前に現れるメッセージ』と『不可避のトラウマ』が該当する。

 人間がこの二つの事柄や兆候に行き着いて要る点に関して。またこの世界。共通認識の総称で「HelloWorld」の行動範囲を考慮した結果。

 肉体を離れて魂もしくは、感覚を備えた個人の意識がプレイヤーという情報体。つまりはアバターに介入しているのではないか。というそんな仮説がある』


 これだ。

 あの時は何気なく聞いていただけだけど、今思えばコイツ。魔導書が言っていることが合致する。あくまで仮説という話だったが、現状が現状だから。強ち本当かも知れない。つまりだ。


(つまり、いまの俺は魂魄ということか。

 自分を意識し、こうして会話できている時点でまだ俺という人間は死んだけど。存在は消えていない)

『そういうことになるな。そこでだ。ヒロキ、オマエはまだ生きたいか?』

(なに言ってんだ。俺の肉体は死んでる。アンタがいま俺にそう言ったじゃねぇか。生きたいか? …だと。そんなの決まってるだろ。

 もう一度チャンスがあるなら、蜘蛛の糸でもいい。縋ってでも生きたいさ。レインとカエデに約束したんだ。名も知らない少女とも約束した。師匠のクルスにも。喧嘩別れしたクロムとも約束したんだ。でも、でも。もう帰る肉体がないんだ…)

『めそめそするな。私は賢者の魔導書。

 自分の名さえ覚えていないが、今まで賢者が書き留めた魔法が。私が記憶した魔法が発動できぬほど老てはおらんわ。

 これより禁忌魔法を発動する。魔物の肉と骨と血で再構築し、魂魄であるヒロキがイメージし自分の肉体を作り出せ。これは今しか出来んからな』

(どういうことだ?)

『禁忌魔法【創造世界】に必要な物は三つある。

 再構築するための血肉。これはヒロキがこの黒結晶洞窟で命を奪ったモンスターの肉体で補う。

 肉体を再構築する上で形どるための意識体。これはいまのオマエ自身の魂魄。

 もう一つはオマエ自身の血肉。これを基本素体メインベースとして使う。

 私はただの仲介人役でしかないのだ。いいか。今のオマエは私の底に眠る魔力で器をどうにか固定させているが尽きてしまえば、器は解けてオマエは死ぬ』

(……。

 考えるまでもない。やってくれ。例え、人間に戻れなくてもいい。

 俺は生きたい。生きて約束を守るために…。でも、その前に訊かせてくれないか。アンタはどうして俺を助けたいんだ?)


 素朴な疑問だった。

 こうして丁寧に俺の質問に答えてくれている点はいい奴に見なくもないが、こういういい話の裏には疚しいことや悪だくみがあっても可笑しくないのだ。

 ここまで来てアレだが、俺はただ訊きたかった。

 ほとんど死んだ人間に、どうしてそこまでするのかを。


『私は長年、あの書庫に隠れていた。賢者が<死神>となって持ち主を失った私は時間と共に消滅する筈だった。なのに私という存在は消えなかった。

 それは私がセカンドプレイヤーだからではないか。と【念話】で伝えられた。彼女は妖精女王と名乗った。暫く彼女とは、友達のように毎日話したものだ。そんな時とある少年の話を聞いたのだ。

 少年は強く強靭な魂を持っていたと。それも優しい器を持った強い子だと言っていたが、彼女はこう言って話に終止符を打った。彼の運命は残酷で苦難苦行の道を自分から進んでしまい残念でならないと。

 それから数日と経たずオマエが来た。これは運命だと思った。オマエの逝く道を確認した上でどんな生き様を晒すのか。ずっと見ていた。だからだよ。

 オマエは。ヒロキは、ここで死んでいい人間ではない。

 それに私自身が望んでいるのだ。ヒロキという新しい持ち主と共に、見てみたいのだ。知りたいのだ。世界ハローワールドの深淵をな』


 分かるような気がする。

 魔導書は。彼が外を見たい気が何となくわかる。知らない世界に一歩を踏み出した時、そこから始まる新しい冒険をしたい。そんなワクワクする高揚感を俺自身が良く知っているからだ。


(ああ、行こうぜ。一緒に…でも、その前に俺が復活したら付けてやるよ。)

『何をだ?』

(魔導書やアンタ。じゃあ、しっくりこないからな。いい名前をプレゼントするよ)

『フフフ、感謝するぞヒロキよ』


 俺と魔導書は、そこから自身の血肉と魔物モンスターの血肉と骨を掻き集めて器を再構築した。ステータス上には、こうある。


Status

Name;ヒロキ

Age[Sex];17[♂]

Tribe;魔人[フェイスマン]

Job[Rank];放浪者[G]

Level;40

Days;15

DNALevel;1

Ability

HP;体力値4980

STR;筋力値145

AGI;俊敏値205〈+15〉

VIT;耐久値187

DEX;器用値240〈+7〉

MP;魔力値0

Core;コア40

Tolerance;耐性【―――】

Penalty;状態異常【―――】

Title;称号【*愚者*】【*魔法才能皆無*】【*実力者への道*】【*初心者卒業*】【*ゴブリンスレイヤー*】【*巨人狩り*】【*ゴーストバスター*】【*虐殺者*】【*不死狩り*】【*竜を従えし者*】

Skill

CombatSkill;武装スキル【覇竜の力Level.1】【覇竜武装】【サーチアイ】

UniqueSkill;固有スキル【学習】【六芒星魔眼】

EffectSkill;技術スキル【天災級の声帯】【剛毅】【超人耐性】【霊魂喰らい】【物理限界突破】【竜の威圧】【物質変換】【魔導解析】/調合スキル【調合】【採取】【解体】【解剖】

ConstructionSkill;構築スキル【加速】【跳躍】【硬化】【集中】【増幅】【弾道加速】【反射】【発火】【爆裂】【形態補正】【球体補正】【凝縮】

PersoSkill;身体技能スキル【瓦割り】

CustomSkill;連技【反射装甲】【加速装甲】【無音暗殺】【幻影移動】

SwordSkill;剣術スキル【一閃】【兜割り】【飛勇一天流】

FightingSkill;格闘スキル【スプラッシュ・ブレイド】

SurvivalSkill;サバイバルスキル:【サーチ】【隠蔽】

UltimateSkill;アルティメットスキル【ソウルライジング】【ドラゴンライジング】



 これは何というか。チート過ぎやしないだろうか。

 色々と項目がプラスされてイマイチ分からん上、能力値がヤバいレベルだぞ。

 それに…。


(この魔眼やヒユウイッテンリュウってなんだよ)

『魔眼の方はヒロキの左目に移植しておいた。移植と言っても普通の目と変わらん。使いたい時だけ六芒星の模様が浮かび上がる程度だ。

 飛勇一天流は、剣術スキルだ。繭の外でヒロキを待っているセカンドプレイヤー。トカゲ人間のハガネ=ヒユウが最初の一撃を【魔導解析】して流派を手に入れておいた。何か問題だったか?』


 マジでか。

 この【魔導解析】はかなり危険な代物のようだ。

 ウインドウを開いても分かる通りだ。



~~スキルウインドウ~~

EffectSkill;技術スキル【魔導解析】

レア度;★7

解析履歴;SwordSkill:剣術スキル【飛勇一天流】

     ハガネ=ヒユウの思考解析完了

備考欄;全てのスキルを解析後、可能なら全てのスキルを発動できる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



(これは俺が言うまで封印な)

『何か怒っているのか?』

(いや、怒ってはいないぞ。ただ、これは危険すぎるから……ってオイ待て。まさか魔法が使えたりするのか。このスキルは――)

『魔力値』はゼロのままだから魔法は使えんが、外界にある魔素を代用して使うことは出来るぞ。その為の【六芒星魔眼】だ』

(そういう設定か…)

『いや設定ではなく…いや今その話しはいい。そろそろ、行かないか?』


 ソワソワしてるな。

 余程、外界がどうなっているか興味津々のようだ。

 まっ、俺も人のこと言えないけど。

 新しいこの肉体がどういう物なのかじっくり検証しようではないか。

 目の前にゴブリンキングを生み出した黒幕がいるようだし、実験体には丁度いい。


(さて、カルマ。行こうか、俺たちの新しい一歩だ)

『カルマ?』

(アンタの新しい名前だよ。

 俺がこれから冒険していく上で、今起こったことは忘れないように刻み込む。カルマも記憶能力は確かでも忘れないようにという願いからだ)

『カルマとは、現在行ったその行為や行動が未来に役割を持って影響を与えることだ。ふむ。良かろう。その名、確かに頂戴した』


 かなり気に入ったようだ。

 人の形をしたシルエット模様に薄いピンク色が頬を染めて、ニヤニヤしているのが見える。いや見えないけどな。


 俺は歩く。

 なかった。亡くなった足を再び動かして一歩を噛み締める。

 俺は手を動かして繭を破る。

 動かなかった。ズタズタになった神経は蘇り、外界に存在する魔素を肌で感じ取って敵対者を目で見る。

 【竜の威圧】を乗せて歩く俺を敵視するハガネ=ヒユウは、既に抜刀している刀を向けて来る。



  △

  ▼



 時間は再び動きだす。


♢黒結晶洞窟 4F 王の間♢


「俺の名はヒロキ。

 魔人となった愚かな愚者だ。オマエの思考は既に解析済みだ。

 会いたかったんだろ。より強い強者と邂逅を果たして自身が「最強」になるためにお前は自身の手で飛勇家の人間と門下生を殺した。ゴブリンキングを作って階級社会を成り立たせて、ゴブリンナイトを作り出した。育てたのも。その全部が自身の強化のためだとはな」


 ギリッ。と歯を食い縛るハガネはふざけるな! と怒鳴り声を上げる。


「たかが、イレギュラーに俺の計画を邪魔される? ふざけるな!!

 人間風情が―――【飛勇一天流】剣術、【木枯らし】!!」


 ゴブリンナイトが繰り出した高速移動に自分の剣術を組み込んで発動したスキルは、刃に氣を流し込み放つ胴切りだ。

 知ってる。

 思考のすべてを掌握したいまの俺には、どうやって捌くかも。次の一手は何なのかも。すべてが分かってしまう。

 これをチートって言うんだよ。

 俺も少し前まで知らなかったけどな。

 でもだ。チート上等。


「【飛勇一天流】剣術、最終奥義【氷点の調】」

「なんだと!?」


 最終奥義らしい剣術だ。

 本来は剣と剣では競り合った時や斬りかかった時に生まれるのは摩擦熱だが、この剣術は根本から違うのだ。

 「氣」という外界の超自然的な特有の力を一点に集約させ、何もない虚空から氷の剣を作るのだ。そして驚くべきことに、この剣術は肉体を貫いた瞬間から敵対者の感覚のすべてを奪って氷漬けにするというのだ。

 中々にファンタジックな剣術だが、彼も誇らしいだろう。

 なんせ、「俺」という継承者がいま誕生したのだから。


 構築能力【加速】を使わずに身体能力だけで、スッ――。と背後に忍び寄った俺はハガネの心臓目掛けて刃の切っ先を突く。

 スルリ。と抵抗なく擦り抜けるように懐へと刀身が入った途端、白い冷気がハガネを覆う。そこに、刀身を掴む感触が伝わった。


「ぐふっ。―――ふざけた餓鬼だ。見ただけで俺の剣術を奪う?

 さい、最高じゃねぇか。テメエの言った通り、だ。俺は強者を求めた。

 ガハッ。それがこの代償とはな、いいぜ。

 持って行け、コイツをテメエにくれてやる。俺、ゆ‥唯一の相棒だ―――――」


 俺はまた一つの命を奪った。

 悲しみはない。

 哀しみもない。

 喜びもない。

 怒りもない。

 ただ。

 ただ俺は彼の握っていた刀を抜き取ってエリア「王の間」を後にする。

 自分がやった瓦礫の地面を歩いて、氷漬けとなった彼にありがとう。とそう呟いて俺は戻る。約束した仲間と師と…まだ名も知らぬ彼女の元に。


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