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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅱ 《黒結晶洞窟での英雄譚》
42/109

【#042】 Short respite -束の間の休息-

今回、短いです。

次話より盛大に戦闘回が入る予定です。お楽しみにお待ちください。

最後まで読んで戴ければ幸いです。


 黒結晶洞窟。

 滝の上で俺たちはレインの体力回復までの時間だけでも、ここに留まることにしていた。というのも昨晩目覚めて、さあ翌日出発だ。にはならない。

 俺だって、そこまで鬼じゃない。

 繁殖期の最悪な時期に早く脱出してしまいたい。という思いがない訳ではない。それでも今は、今だけは休養が必要だという俺とカエデの案だ。

 

 昨夜。俺が調理した「アロワナの煮込み」は次の通り評価を受けて、耐性が付加していた。


煮込み[魚];アロワナの煮込み料理

調理評価;54/100点

カロリー;851kcal[一鍋]

備考欄A;鱗をキレイに取り除いた身に十字切りを入れて、味を染み込ませたほっくりした淡泊。生姜の風味が料理を上質化している一品。

備考欄B;50点以上の調理評価が検出された為、水属性に対して「+20%」。


 ここでは、あまり役に立たないかも知れないが素人の調理で「50点」が付くことはレイン曰く、珍しいとのこと。パムチャッカで出されたクロム考案の「筍メシ」でも調理評価は「60点」だったようで、凄い驚かれた。

 実際、特には何もしていない。調味料も適量の上、十字切りなんて魚料理の基本だと思うしな。それにだ。この評価は、あくまでシステムが味を検出しているに過ぎない。食べるのは俺たちだからな。

 それでも、美味しい。と言われれば正直なところ嬉しいものだ。


 メシを喰ったら風呂に入りたいものだ。

 ごろごろと休養するのもいいかもしれんが、温かいお湯に浸って血行を良くすることも重要だ。ということで今俺は洞窟限定露天風呂を制作中である。

 制作は簡単。滝から離れたところに、まず大まかなサイズをピッケルの切っ先で傷付けて程好い円を描く。円の中心から自分の膝が沈む程度まで掘り進めて、後は掘り広げていくだけである。言うだけなら簡単なのだが、掘るのは俺自身。

 制作は徹夜で励んだ結果。明朝に完成した。俺の血と汗と努力のおかげだ。

 ああ、勿論だけど領域指定して構築能力【無音】で騒音を掻き消してレインとカエデはスヤスヤと寝ている。疲れてるのに起こしちゃ悪いからな。

 

 大体の風呂の器が出来たので、次に作るのは水路だ。

 温泉の源泉があればいいのだが、それを見つけるスキルは俺にはないので小さな湖に溜まっている水を利用する。調理前に自分で水を飲んで、確かめたので変なウイルスは入っていないので問題はない。

 決壊しないよう階段状に水路を作って、水を張るが溢れないように逆方向へ出口を作ってやる。こちらも階段状で長めに作ることが肝だ。

 水の循環も必要だが、温かい水をそのまま還元するわけにはいかない。長めな水路なら流れる間に水は冷えていく。これなら、ここの環境が変質化することもないだろう。そんな理由が含まれている。


 これで後はこの石を入れてやればいい。

 ん? 何を入れるのかって。それはコレだよ。

 俺が入れたのは冒険者の必需品「火打石」だ。コイツには感謝してばかりだ。俺にとっては、かなり使い勝手いい品だからだ。

 ある時は、焚き火の火種に。ある時は、構築能力との合わせ技の火種に。またある時は、こうして水につけておけばふつふつと炭酸効果のある温泉にもなる優れもの。


 後はレインとカエデに入って貰えばいい。そう思って、二人を呼びに行ったのだがまだ寝てらっしゃる。システム上の正確な時間は「AM 9:07」を指しているが、この心地良さそうな顔を見ると、無理強いは出来ない。

 仕方ないので一番風呂に入ることにした。


「ふぁあああ……」


 アホな声を出しているのは勿論俺だ。

 無論誰にも聞こえないよう【無音】は、まだ解除していない。

 やっぱり風呂はいいものだ。これを考えた昔の日本人バンザイと静かに思い、背筋を伸ばして軽くストレッチする。湯上りでするのが一番いいのだが、湯船に浸かりながらやるのも中々乙である。


 ふいいい。しかしアレだな。ここまでの道が苦難だけあったけど、お湯に浸かってるとイヤなことなんて忘れちまうな。

 俺は十数分程度、自分の作った温泉に満喫し出ようと腰を上げた瞬間だった。


「わあああ、あったかいね」

「お、お邪魔します」


 そう言って寝ていた筈の二人が温泉に入ってきた。

 え、嘘? と俺は腰を再び下ろして湯船に浸かる。俺の存在に気付いてか、近付いてお湯が跳ね上がる音が聞こえる。音がピタッと止まるが数秒後、俺の背中にふわりとした柔らかい感触と濡れたタオルの感触に包まれる。

 カエデが俺の背中に飛び付いて、レインが俺の左腕を鷲掴みして来たのである。

 タオルの布地に阻まれても、カエデの豊満な胸の揺れが。タオルなしで直に当たる小さいけど魅力的で可愛いレインの胸の突起物が俺を包んでいる。


 ぐわああ、ヤバいヤバい。と心の中で叫ぶ悲鳴を知らない二人。特にカエデは、羞恥に覚えがないのか。うりうりと胸を何度も当てて来たり、擦らせて来る。こんなことをされて喜ばない男子はいない。…が俺は違う。

 既に瀕死状態である。長時間、湯船に浸かっての「逆上せ」も含まれるが色んな意味で理性の線が切れかかって頭が痛いのだ。

 どうして、こうなった? と問いたい俺は二人に尋ねる。


「あのさ。俺、何かした?」


 俺の声に反応してか、レインが俺の腕から離れていき小さな声で答える。


「…ヒロキは、わたしのカラダに興味ない?」


 ちょ‥何を言い出すんですか、この͡娘は!?

 俺は咄嗟に驚いて、レインの方に目を向ける。そこにいたのは、なんとも可愛らしい少女。素肌。産まれたままの姿のレインが、小さな手で自分の胸を隠している。白い湯気でギリギリ見えないがかなり際どい。

 自然と鼻の下が伸びるよりも早く、勢いよく噴出したのは赤い血だった。なんとも情けない元男子高校生の姿がそこにはあった。俺だけどな。

……………

………

 混濁する意識の中で俺は、声を聞いた。

 カエデでもレインでもない。聞き覚えのない男の声だった。

 無論クロムやクルスでもない。


『人間の魂は、感情と熱と暖かな心で構築されている。

 我は何者か?

 我の声が聞こえるお主は、人間か? 怪物か? 英雄か? 愚者か?

 我はここにいるぞ。お主の魂は、何を望む…―――』


 知らぬ声はそこで途絶えた。

 誰だったのか? いまの俺には知る由もない。

 ただ、その声は叫んでいた。

 口調は悲しいのに。何かを求めているように辛く苦しい声が俺の心を突いて来る。


 俺は目を開ける。

 最初に焼き付く様に飛び込んで来たのは、濡れたタオル。お風呂上がりの女の子特有のふんわり。柔らかな甘い香りが俺に危険信号を送る。

 ヤバい。マジヤバい。ここで起きたら出血多量でショック死する。

 そんな理由で俺は寝たフリを決め込んだ。


「ヒロキ、起きないよ…」

「よし、それならアレしか…人工呼吸しかないやろ」


 なんですと!?

 ど…どういう展開だ。どうして、そうなるんだ。

 ドキドキ。と俺の心臓は暴発寸前。自分でも知らぬ間に紅潮している表情にレインが違和感を覚える。


「ヒロキ、苦しそう…だよぉ。わたしがやってみる」


 なぬ!? レイン、早まるな。


 唇に荒く甘い香りと温かい吐息が近づいて来る。俺が僅かに目を開けると、恥ずかしそうに目を閉じてプルンと柔らかいレインの小さな唇があと数センチまで迫っていた。カエデの姿は見えない。

 チュ。唇と唇が接触したその瞬間、俺の心臓が爆発した。

 ドックン。という大きな鼓動がレインにも伝わったのだろう。大きな紫の瞳が俺の目と合う。猛烈に恥ずかしくなったのか、レインは俺から離れて桃色に染める頬を隠すように両手で抑える。俺自身も途轍もなく恥ずかしく感じて目を背ける。

 桃色の居ても立ってもいられない空間を俺とレインが作る中、割り込む形で【念話】が頭の中を駆け巡る。


『ヒロ、レイン。お取込み中のところ悪いけど、魂の力「索敵」してみいや』


 はう…。と照れた顔を隠すレイン。

 ………。と高ぶった感情を抑えつつ冷静な心情に持って行く俺たちは、カエデに言われた通り魂の力「索敵」と「領域索敵」を使って驚きである。

 滝の下。俺たちが昇ってきた絶壁の下に多数の赤いオーラを検出したのだ。

 既に絶壁の下を見下ろすカエデは絶句している。


 俺たちも恐る恐る覘くと、そこには夥しい人型モンスターが群れを成している。全員がそれぞれ変わった武器を所持しているのが目視出来る。棍棒。栗坊鍋。フライパン。錆びた剣や弓までが見える。

 俺たちは、その存在を知っていた。

 ほぼ全裸に近い深い緑色の体表。溝色の布きれで下腹部から膝までを覆っているだけの人型と言えば最底辺の魔物級モンスター「悪鬼種オニのゴブリン」しかいない。

 俺は盗賊拠点アジトで図鑑を見たので知っている。ゴブリンは、最大でも四体までしか群れて動かないということを。そこから俺はある考えに至る。

 黒結晶洞窟の繁殖期がいま始まったのだ。


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