【#004】 Fool Part.Ⅰ -頂点に挑む愚者-
遅い投稿になりました。ごめんなさい。
第一部第一章からRestartしています。
改稿完了しました{2015.6.6}→{2016.1.5}
硬く踏み均された地面やアスファルトと違い、衝突した砂の粒子の一部が流体となって衝撃を吸収するため砂を蹴ったとしても飛距離が出ない。
ただこの状況下では、遣らざるを得ない状況であった。
だからこそ、持てる力を膝に込めて片足で蹴る。
右方へ飛び跳ねた状態から頭の中で想像した情報を中枢神経に流し込むようにインストールする。
過去の記憶を出力したに過ぎなかったのだが、正常に稼働するプログラムのように言葉は身体を即応させる。
即効的な回避力から生まれたひとつの詠唱。
その強制力を持って止まっていた。ほんの少しの上空から右斜めに真っ直ぐ飛んだ。それは宛ら、低空飛行する燕のように空を飛んでいた。
これが飛ぶということなのか。
ヒロキは我ながら感動していた。
人工。
人の技術によって作られた飛行機やヘリコプターに乗っている時とはまるで別物である。
何かに心を揺すぶらせていた。
まさに自分自身が燕になり加速状態を味わっている。
風の冷たさと空気抵抗の影響を受けて生まれる痛さが伝わってくる。
燕のように翼を広げてはためかせることなく、上空を飛ぶこの高揚感は素晴らしいと思ったのだが。…それは最初だけだった。
情報を出力して形となった【加速】という構築能力によって回避したところまでは良かった。
ただ…着地の仕方まで考えていなかったヒロキは八メートルほど空中を飛行したあと砂丘へ顔面から着地してしまった。
白金砂丘の白い砂の正式名称は、白老砂と呼ばれているが人体への影響は皆無である。
だが顔面からの着地した性で鼻と口から体内へ侵入したことで呼吸が出来ず咽むせていた。
「ゴホ、ゴホ…」
これは全くの誤算だ。
取り敢えず口内の砂だけ吐き捨てた直後。
そんなこと知ったことか。と言わんばかりに躊躇なくシロザメは、ヒロキ向けて口を大きく開けて迫って来ていた。
ヒロキは構築能力を使った後も視界の異変を察知していた。
サバイバルスキル【サーチ】を使用した時と同様、銀色コアに数字が出ていたことに。
スキル使用直後はカウントが三十から始まっていることに対して、構築能力使用直後は二十からそれぞれ数値がカウントダウンしている。
つまりスキル発動から次のスキルまたは、構築能力。恐らくそれ以外の力を発動するまでの時間は各々違うことを指すのだろう。とヒロキは認識した。
連続できる行動の最大回数はコアの数から考えて四回。
着地からして構築能力を立て続けに連発する訳にも行かない状況で、
どうすればいい?
考える時間を待ってはくれないシロザメの攻撃を柔道の受け身だけで回避を繰り返す。
その中で思考するが、なかなか良い名案は出てこなかった。
なにか戦う武器があればいいのだが、ここは道場でもなければ街中でもない。
一言で言うなら、何もない。
左斜め前から右斜め後ろへ…。
回避。回避。回避の連続。
受け身を取った後、自分の手ではなく腕に注目する。
なんでもありなら……。
これでもいけるのではないか?というひとつの思考から生み出された答えに迷いはなかった。
バカなことだって分かってる。
それでも、だ。
思いつき。一瞬の閃き。アイデアを無駄にはしたくなかった。
活かす価値のある投資を。自身を信用したヒロキは愚者となった。
英雄でもない。
勇者でもない。
死に直面した少年の人生は、ここから変わろうとしていた。
自分自身が身投げして自殺することよりも。
最悪な結果に成り得る選択をした愚者の口元は恐怖の性か。困惑の性か。それとも緊張からなのか。一歩でも、ワンミスでも、間違えば、誤れば、死に至ることを知っているのに巨大な敵を前にして何故か笑っていた。
彼の感情が情報となって出力。
表現されたわけではない。
彼は望んだのだ。
生と死の境界線を踏み渡る。
そんな世界の愉しさを心の奥に隠されていた本性が望んだのだ。
自分で言うのもなんだが俺は読書家だった。
好奇心旺盛だった灰色の中学時代を送っていた当時の俺には、本しかないというのが真実である。
有名な著名人が執筆した小説「時をかける少女」「宇宙戦争」「怪人二十面相」「屍鬼」「魔王」………などを読破したのだが満足できず、次に読み始めたのが図鑑である。
校内に設けられている図書室では限界がある。
そこで市内の市立図書館に足を運んでは、様々な分野の図鑑や雑誌「専門料理」「美しい人体図鑑」「元素図鑑」「世界の危険生物」「世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑」………などを在学中に読んでいった。
その性もあって大抵の危険生物の弱点を予め知っていた。
ヒレや歯の形状や動きから仮設の段階ではあるが、この生物の弱点が分かる。
頭部に小さな穴が点々と開いていて、その穴の奥に詰まったゼリー状の物質が筒状の構造をするロレンチーニ器官がある。百万分の一ボルトという、極僅かな電位差でも感知することが出来る。
筋肉が発する微弱な電流から捕食対象を感知する敏感な感覚器官は、例えば乾電池を海中に投入した速やかに放電が起こる。
あまりにも近くで放電されるとサメは驚いて逃げてしまうという。
この現象を用いれば勝機はある。という仮説をたてた。
仮説、と位置付けたには理由がある。
サメの頭部、鼻先のロレンチーニ瓶を叩くという行為は現実世界では通用するが果たして同じようにこのやけに白いサメに効果があるかは不明だったからだ。
遣ってみる価値はあるが、なんでこんなにニヤケてるんだっけ?
薄らした不敵な笑み今になって気付く。
当然だ。
彼は意識的にそんな顔をしている訳ではないからだ。
ニヤケが止まらない理由は、心では分かっている。
ただそれが無意識であることを認識していないだけのこと。
彼の本心は理科もしくは生物学の実験に心が躍る表向き。
サメを素手で屠れるのか?という疑問・謎が好奇心へと変わり胸を高鳴らせていた。
自分の腕にスキルを発動するタイミングに可能性を賭け、頭の中でイメージした【加速】の情報に補強を加えて、物理の法則に基づいて計算を当て嵌める。
シロザメが時速と突っ込んでくる距離およそ十メートルの位置からヒロキは最初の攻撃に備える。
初めてかもしれない。
一度でもこんな愉しみを実感したことがない。
只管一直線に挑戦したことなどもない。
極限状態という状況下から手に入れたこの感情は、冷たくなっていた心を奮い立たせた事実と死の際でも冷静な分析で生き残る術を見つける圧倒的な達成感に覚悟は既に決まっていた。
「―――跳躍ちょうやく!!」
バネ。主に金属の弾性体の復元力を利用した弾性エネルギーを蓄積するイメージをしたスプリング効果を情報として構築能力に置き換えて足の筋肉を拡張させる。
上空十メートルほど跳ね上がる驚異的な力に今更驚くことなく視線は目標となる部位へ向ける。
鼻先のロレンチーニ瓶に狙いを定めたまま右手にイメージを集中……する。
右手首から指先までの部分に石をも砕く大槌になれ。という情報から生まれた【硬化】をインストール。
ギュッ、と握りしめた大槌を跳躍した頂点十メートルを始点Aとして、鼻先のロレンチーニ瓶を終点Bまでを距離捕捉して【加速】の構築能力を発動した。
振り下ろす拳は赤い閃光を灯す。
鼻先目掛けて過去柔剣道の予習するために閲覧した。
動画サイトで格闘家が披露した空手の「瓦割り」を参考にした手刀に切り替えて振り下ろす。
鈍器で岩を砕いたような鈍い衝撃音と共に、手刀と鼻先が計算した終点Bよりも大きく降下する。
ミシミシという拳の限界を越えて自分の全力をぶつける。
ヒロキが砂地に着地した瞬間から巻き起こる砂埃から身を隠して、距離を図るために脱出する。
自分にとって餌の存在であった筈の弱者に目を霞ませる。
弱者というイメージを払拭する予想しえない攻撃を受けたシロザメは怯んでいた。
自分よりも大型の生物を食い散らかす際に二、三本抜ける程度の自慢の鋭利な歯が五、六本抜け落ちていた。逃げられない痛みは、全身の至る所に反射して結果、ジタバタと身体を捻って動き回る始末である。
経験上、当然の結末である。
堅甲種サメの討伐・撃退に来る狩猟者或いは冒険者、行商人たちの武装は異なるものの、素手での攻撃を繰り出すような格闘家や格闘士などのストライカーがメインではなく遠距離から攻撃する魔法使いや弓術士などの後衛陣をメインにしたパーティーで挑むのがベストで無難である。
しかし、そうではないのだ。
今まで敵対してきたプレイヤーとはまるで違う。予想しえない攻撃法。それも致命傷にも成り得る部位にクリティカルダメージ与えられたら、混乱するのは必然だ。
砂埃の中で暴れ回るサメのバケモノから距離を取るヒロキは、体力値が僅かに散ったことに見向きもせず、左手で右手首を押さえていた。
「痛ってぇ―――…」
それもその筈だ。
堅甲種サメ。という個体種の異常な硬度と性質を知らなかったのだ。
白金砂丘で生きるほとんどの肉食生物は、白い表皮で餌となる生物から身を隠すステータスを持っている。また自分と同レベルの怪物から身を守り、常に王者であることを誇示し続ける。強靭な骨格密度が異常な防御力を生んでいる。この影響もあって、表皮は薄く。直ぐ下でどっしり、と構えている厚み百センチの鋼鉄並みの骨で形成されている。
背中にはガタガタとした異なる形をした折れた骨が突き抜けている。
凹凸激しいがヒレの切れ味は、錆びた包丁並みで攻撃力は皆無だ。ということさえ知らなかった。
赤く腫れあがったビリビリと痛む右手を左手で庇う中、サメに恐怖するヒロキは現実世界でイジメ受けていた時とは比べ物にならないものを感じていた。強く。鋭く。冷酷な殺気を放出するオーラが身体を縛り上げるように睨みつけられていたからだ。
砂地に腹部を擦りつけて真っ直ぐ。真っ黒な両目で餌を捉えたシロザメは、顎の関節をボキボキ、と外して異形なバケモノの口を開く。
グオオオオオオオオオオオオオォォォオォォォォォォォォォォォォ!!!!
澄み切った青空に轟く悲痛な声は、白金砂丘全域を掌握するような怒号を生む。シロザメのブチギレタ息吹に当てられた風は唸りる。悲鳴を上げて地獄のような緊迫感で空気を。空間を支配して最も近距離にいる餌を恐怖で殺した。
これは、想定外だ。いや違う。計算上は誤算ではない。誤算だったのは……。
知っていた。誤算だったのは過信していたからだ。
ここまでやれば大丈夫だろう。足止め出来るだろう。と絶対的な確信がない計算を誤認していた。
恐怖が支配するエリアでいままで経験したことのない精神的重圧感が、奮い立たせた心を再び冷え始めている。というのに何故か不思議と…冷や汗と一緒に笑みがこぼれていた。
背筋も笑う。思いも。感情も。神経も。何もかもが震えている感覚を俺は知っている。
武者震いっていうヤツだ。
ああ、面白い。こんな世界が永遠に続くなら、俺がここで求めたいもの。
それがこれなのか。分析? 戦い?
違う。俺はまだ知らないこの世界を探求したいんだ。
実感が湧いていた。いや違う。
溢れて、止まらないんだ。
挑戦し続ける執着心。敵を分析する好奇心。絶対的な強者と戦い続ける動物的本能に揺すぶられて自分自身が可笑しくなったのかもしれないな。でもこれだけは言える。
「始めようか…」
なら、答えは簡単だろ。いまの自分を受け入れるしかないじゃん。
自殺? イジメ? そんなものはどうだっていい。
現実を捨てた自身に誓いを立てようじゃないか。
俺は生きるための冒険をする。逃げない。止まらない。
死ぬまで走り続けてやろうじゃんか。
心の中で宣言したからには倒すつもりでいる。
ただそれは百歩譲っても不可能に近い。
なので生き残る可能性を掴むためにもうひとつの弱点を突くことにした。
サメの大きなダメージを与える弱点は二つ存在する。頭部の鼻先への攻撃はサメを驚かして、その場から逃げる為だったがいま試した限り…逃げれないことは確率論からいって無理がある。
頭部の目、即ち眼球でる。
ほとんどの生物にとって目は必要不可欠なもので例外はない。サメの瞼は大きく分けて瞬膜と瞬皺と呼ばれる二種類があろうと関係ない。だってそうだろ。すでに一つ目の弱点は実証済みなんだから。問題なくいけるという強い確信があった。
この世界には確かに裏切られた。でもだ。
人間が生きようと思えば、なんだってできる。理性と誇りをなくしても、今まで培ってきた知識が本能を包んでくれる。象の糞から水分を取ることだって、やろうと思えばできる。それとバケモノと戦うことが比例しなくてもいい。生き残れる可能性があるなら。流石に手刀で目を抉えぐるのには抵抗がある。だが思考を巡らせるゆとりはない。
三百六十度。障害物のない白い砂丘に囲まれ逃げ場のない絶望的な状況の中、右手を手刀の構えをとってイメージを乗せること以外思いつかなかったヒロキは攻撃の姿勢に入る。
その時だった。視界右斜め下の「過去の足跡」に動きがあることに気付いた。
{フィールドが更新されました。}
{距離500キロメートルで大獣種トカゲのシニワニが<白金砂丘の王者>に捕食されました。}
{堅甲種サメ、Level.45の<白金砂丘の王者>シロザメ×1が出現しました。}
{ヒロキは構築能力【加速】を発動しました。}
{シロザメの攻撃、【大喰らい】Level.1を回避しました。}
{ヒロキは回避コードを17回連続して発動しました。}
{ヒロキのステータスが更新。
15回以上連続回避コードの成功報酬を獲得。身体能力と俊敏値が強化されました。}
{身体技能初期スキルを獲得、俊敏値;50→56に強化されました。}
{ヒロキは脚に【跳躍】、右拳に【硬化】を付与、【加速】を発動しました。}
{ヒロキの攻撃。
【硬化】+【加速】=身体技能スキル【瓦割り】Level.1が弱点部位に炸裂しました。}
{ヒロキは格闘スキル【チョップ・ブレイド】を獲得しました。}
{堅甲種サメのシロザメに、クリティカルダメージを与えました。カウントダメージ[通常+急所];25ポイント+100ポイント、シロザメは状態異常【混乱】【錯乱】になりました。}
{シロザメのステータスが更新。
激昂により体力値;45000→40000、筋力値;420→450、俊敏値;645→645、耐久値;875→750、器用値;400→400、魔力値;250→200。}
{シロザメは臨戦態勢に入りました。}
{ヒロキは格闘スキル【チョップ・ブレイド】を発動しました。}
それにしても、このログ怖いな。ここまで詳細に敵の情報だけでなく自分の行動までが入ってくるとなると、何処からか監視されているような恐怖さえ感じるぞ。
ふむふむ。しかし、あれだな。逆にこの正確性から奴が臨戦態勢に入ったことが分かったから便利ではあるな。
ヒロキは改めて、いまの自分の状態を確認する。
体力値は無傷の状態でMAXに近かったものの、【瓦割り】の影響で微々たる値ではあるが減っている量。状態異常によるダメージから推測しての反動。感覚的な僅かな痛みにも体力値に動きがあると確証を得た。因みに現在の体力値は95%未満といったところ。銀色コアは四つの内、三つコアがそれぞれのカウントダウンしている。
{跳躍10/20}{硬化13/20}{加速15/20}{XXXXXX}
この表示からして構築能力三タイプで発動した身体技能スキル【瓦割り】には、発動でさらにコアを消費する必要はないように見受けられる。
ひとつのスキルに三つもコアを消費してしまう難点があることに加えて、ほぼ同時展開しているとはいえ、カウントダウンする時間が僅かながらズレが生じている点。サバイバルスキル【サーチ】の使用に消費される時間は三十とするならば、これは元からシステム構築されたスキルの方が大きく構築消費しないで済むという利点があるように見受けられる。
現在、利き腕に発動している付け刃のようなこの【チョップ・ブレイド】にはカウントダウン数値がなく罰点マーク、これは常時発動タイプだからだろうか? いままでどれもが単発物ばかりだったからか?
立ち位置もしくは踏み止まった位置から足の筋肉を超人的なバネのようにスプリングさせて飛び上る構築能力【跳躍】。肌もしくは衣服の上に薄くコーティングするような感覚で物質の硬さを上げる構築能力【硬化】。立ち位置もしくは踏み止まった位置または駆けている途中からでも速度を上げることが出来る構築能力【加速】。
【加速】【跳躍】に関して言えば、A点からB点というように距離を予め脳内でイメージ設定しておくとその距離以上に出力することがない。しかし重力の影響で下に行く力は強くなってしまう。
このいくつもの点から考えて彼女の言う通り。この構築能力はプログラミングだと理解できそういう発想に至る。…のだが、まだまだ調べるかいがありそうだ。と心の内で呟く。
最速での消費コストを考えれば、現状で発動している【チョップ・ブレイド】をメインで利用しながら、構築能力で補助もしくは支援することがベストな手だが問題は…。
ここで問題となるのは、シロザメの攻撃を躱すことよりも寧ろ行動のバリエーションが頭に引っ掻かる。これだけ多彩な攻撃手段があるならば、敵にも豊富過ぎる武器や攻撃があるに違いないと考えた方がしっくりくるからだ。
そうでなくとも目に見えるものだけでも異常なほど脅威となるのは、Levelの差だ。
{ヒロキLevel.6}
{シロザメLevel.45}
ここで熟練ゲーマーなら九割方のプレイヤーが「逃げる」を選択する。残り一割のプレイヤーがすることは「自殺」だろう。
VRWの世界観でファンタジー系のゲームならプレイヤーが死ぬもしくはダメージ負荷により気絶することで安全圏へ脱出することをまず前提に考えるが、この世界「HelloWorld」は違う。
「逃げる」ことを選ぶプレイヤーが考えることはひとつ、一秒でも長く明日を生きたいこと。
一方で「自殺」を選ぶプレイヤーが考えることもひとつ、一秒でも早くこの苦しみから脱したいと思っているのだ。
ヒロキが選んだのは第三の最も愚かな選択肢だった。
色々なことを頭の中で交差させながらも、撃退もしくは討伐するための攻略法をイメージ力で補い編み出していた。シロザメの攻撃力を視野に入れて自分のLevelと比例した場合、一撃でもまともにダメージを負えば確実に死ぬことが予測される。
そこから考えた作戦はたったひとつ。
無謀な賭けになるがこの方法しか今はない。一撃必殺でサメに大ダメージを与える先程の攻撃手順に身体技能スキルではなく、格闘スキルを使ってシロザメの目だけでなく呼吸器官であるエラを切り裂けば確実な致命傷を与えられる。と考えていた。
「さて、一丁やりますか」
ここには助けてくれる人間はいない。あの時と同じだ。
イジメを受けていたあの時と同じ。―――違うのはやり返す武器があって、不思議とプレッシャーも恐怖心もなく、そこにあったのは挑戦者となったひとりの戦士とは程遠い。
…愚者の姿だった。
全神経を集中して、細かい動きひとつひとつに目を配る。
真っ黒な瞳の視線。
ヒレや腹部の脈打つ動き。
口元から垂れる涎よだれの量と噴き乱れる白い吐息。
全身隈なく冷静に観察する中、シロザメの涎が数滴砂地に零れ落ちた瞬間。
尾ヒレと目には見えないが、力強い骨同士の関節を使って顎の五段階からなる関節を全て外した。
顎を広げ、歪などこかのパニック映画のとあるシーンのように飛んできた。
この時点で現実世界の生き物とは、別種の行動もヒロキのイメージする中では想定内である。
自分から飛び込んできたこのタイミングを利用してシロザメ攻略戦の幕をあげるのだった。
読んで戴きありがとうございました。
気に入った方はブクマ保存・誤字や脱字・感想があればお願いします。
次回は、兵隊さんたちとの出会いまでを新筆出来れば…と思っています。
それでは、またお会いしましょう。おやすみなさい。