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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅱ 《黒結晶洞窟での英雄譚》
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【#036】 Hero Part.Ⅱ -蛮勇と勇気-

翌週の土日で改稿予定→{2016.1.23}改稿完了。

後半に連れて大幅加筆しています。

明日も出来れば、投稿予定しています。

感想・ブクマ保存ありがとうございます。これから、バトルバトル。戦いが連続する最高の盛り上がりを見せる山場になるだろうことをお約束します。それではみなさん。おやすみなさい(-_-)zzz


「いつつつ………」


 頭部に痛みを感じながら起き上がる。

 オオカミ人間との戦いは終わった後のようで、あのキレイだったアップルグリーンの丘は黒焦げの焼け野原に変わっていた。

 ユウセイは盗賊ギルド頭目の側近だった筈のゴザと真剣な話しをしている。


「………」

「………」

「………どう思う?」

「どうも、こうもないでしょ。

 盗賊ギルドの頭目までが、麻薬ポーションを所持している以上。もう事は一刻を争うレベルですからね。ここは一度、騎士団本部に戻って総帥の指示を仰ぐ他ないでしょ」


 麻薬ポーションか。

 そういや、いきなりオオカミ人間の力が大きくなったのはその性か。

 それにしても………何があったのか、さっぱりだな。

 最後の記憶から分析して、ユウセイが倒したんだろうけど……?


「おお、やっと気付いたか」


 起き上がった俺に真っ先に声を掛けたのは、ユウセイだった。

 差し出された手を引いて立ち上がる。

 俺にはふたつ気掛かりなことがあった。一つはレインとカエデの安否だ。彼女たちの救出が今回の目的だからな。二つ目はケンジのことだ。ヒドイ火傷を負っていたところまでは覚えているんだけど…オオカミ人間が、大きな力を解放した瞬間から記憶が………曖昧だな。


「ユウセイ。あのさ、二人は、ケンジはどうなったんだ」

「……大丈夫だ。彼女たちの方はゴザの部下が介抱しているし、ケンジも部下の治癒魔法で火傷治療から始めてるよ。

 それよりな。他人を心配する前に、自分のキズを治せ」

「キズは問題ない。戦いの中でとはいえ、応急処置も手当てもしている。

 今やるすべきことは、盗賊団拠点アジトからの情報収集と黒幕への糸口にある。動けるようなら、ヒロキも手伝ってくれ」


 ということなので俺とユウセイは、ゴザの案内で一緒に着いて行った。

 着いて行く中、ユウセイから聞いた話とゴザの分かりやすい説明を頭の中で整理するとこうなる。


 「流星騎士団」の本部がシェンリルにあって、同じ黄金世代のユウセイがそこの第三師団団長であったという驚きの事実。また≪剣聖≫という二つ名を持つ大剣使いであることが判明した。同じく第三師団の副団長がこの大柄な男ゴザである。

 ゴザという男は、中々の苦労人で二年間単独で盗賊団に潜入していたらしいのだ。

 今まで奴隷と盗品の売買すべてがギルドに籍を置く商人を奴隷商人に仕立てて取引していたとか、この二年の内に五人ほどが「流星騎士団」の潜入員スパイだという。

 その間ユウセイはというと、総帥と言われる彼等のギルドマスターの指示が出るまで遊郭で羽目を外していたとか聞いた時はゴザに「ご苦労様です」と内心思ったことは言うまでもない。


 兎に角だ。

 ユウセイは、ギルド内で仕事以外は「役立たず」というレッテルが張られているようだが戦い、特に大剣を使っての剣術では負け知らずの上、総帥とのPVPで勝利をおさめる程の実力者だとゴザが言うのだ。ここまで来ると、ゴザの言うことは信じられる。変な感じだが仕方ない。

 ゴザは言う。

 人の上に立つ人間という奴は、実績がものを言うのだ、と。

 実際、ユウセイが≪剣聖≫と呼ばれるようになったのは多くの猛者を倒していったからというのもあるがそれは違うのだとか。剣術の才能。寛大な器量。判断能力を買われて団長の座に就いたらしいのだが……本人に聞くと「うん。興味ない」とのこと。

 ユウセイは自分なりに考えて行動しているのだろうと勝手に解釈するうちに着いたようでゴザの足が止まる。


「ここが頭目と幹部が使っていた拠点アジトだ」


 と言われたのだが、そこには何もなかった。

 焼け野原になった「祭壇の丘」から数キロ離れたこの場所にあるものは、雑草の山である。緑の葉に滴る朝露が弾けて、水分で満たされ地べたがびしょ濡れ以外何もない。

 小鳥がチュンチュンと囀る音だけが虚しく聞こえるのは、気の性だろうか。

 迷子になったのでは? と思うも口に出してはいけない気がしたのだが、


「迷子か?」


 気になったことをサラッと言ってしまう辺りは、本当に「役立たず」というレッテルがお似合いだと不覚にも思ってしまった自分が情けなく思う。

 いや、これはユウセイが悪いと勝手に心中でワルモノに仕立てところでゴザが下に指を差していることに気付くのだった。

 サバイバルスキル【サーチ】で下を見ると、拠点アジトらしき構造があるのは確かのようだが地下への扉もなければ、階段もない。


「我、銀靡なびく誇りある盗賊団の盾なり。矛よ、道標となりその道を示せ」


 暗号か。合言葉かは分からないが、そう言った後、灰色の短剣を地面に向かって投下する。

 真っ直ぐに刺さった短剣は、刀身から黒い輝きを放って地面に白い円陣を作り出している。


「これは、転移魔法の魔法陣か」


 ユウセイの言った言葉を最後に、黒と白の光が俺たちを包んで魔法が発動した。

 次に目を開いた時には、もう暗がりの洞窟の中で俺たちに反応してか青い炎が次々と灯って視界を照らす。道幅がかなり広いのは体の大きな頭目に合わせた構造になっているのだろう。

 ゴザの提案でここからは、手分けをした方が効率いいだろう。ということで、それぞれ違うルートで情報を収集することになった。

 ヒロキは真っ直ぐ目の前の道。

 ユウセイは右のくねくねと曲がった道。

 ゴザは下へと下っていく道をそれぞれ選んで進んでいく。


 歩いて直ぐに見つけたのは、書庫だった。

 数百。数千と積まれた薄い本から分厚い本の山の先には、石で造られた本棚がある。

 一冊の本を取って開くが、日本語ではない。幻想砂漠で見たのと同じ言語なのだろう。四角い模様一つ一つにどんな意味があるのか分からない。

 これじゃあ翻訳も出来んし、どうしたものかと思えば裏面にびっしりと記された解読方法に従って原文の紐を解いていく。


{分析スキルが更新。

【鑑定】を獲得。熟練度が10になりました。}

{分析スキルが更新。

【解読】を獲得。熟練度が15になりました。}

{【解読】により「ハカナリの民族言語」を習得しました。}


 過去の足跡。クルス曰く、「ログ」という自分の行動を読み取った履歴を見る限り勝手な自分の憶測にしか過ぎないが「ハカナリの民族言語」以外にもあるだろうと思う。

 まあ、それはさて置き一頁目を開いて目次を読む。


1.大獣種ウルフのおいしいレシピ

2.大獣種トカゲのおいしいレシピ

3.怪物級モンスターの解体新書<上>

4.怪物級モンスターの解体新書<下>

5.≪白金砂丘の王者≫のおいしいレシピ

6.≪水神湖の守り神≫のおいしいレシピ


 って、料理本かよ。


 きょろきょろと辺りを見回す。

 誰もいないことを確認してイベントリに収納する。

 あとあと必要になると思ったからであって、盗みではないよ。


 その後も事件絡みの資料を探すも、収穫したのはモンスターの料理本や財宝の隠し場所を記した地図。安くておいしいレストランの名前。盗みやすい貴族の家などで習得した言語は六つと能力が上がっただけで終わってしまった。

 他の部屋でも盗品らしきアイテムは見つかるのだが、肝心の物は見つからず仕舞いで合流地点に向かう中でユウセイに出くわした。


 部屋に入った瞬間、金色の光が視界を覆った。

 宝物庫だろう。青い炎の灯りで輝くのは、黄金のネックレスやリング。ベルトなどの装飾品の数々。大きな赤い宝箱から溢れ出す金の宝剣や銀の骸骨。大粒のルビーやダイヤモンド。王様の頭の上に乗る王冠やざっと見積もっても億、兆に値する数万枚の金貨で埋め尽くされていた。

 その中で回収に勤しむのは、金に目を眩ませたユウセイだった。

 俺の存在に気付いたようで、振り向くなり持っていた王冠をスッと元の位置に戻して……てへぺろ、している。


「古いよ!」

「ふっふっふ。甘いな。

 前時代の言葉と表現は、語り継がれることで真の力を発揮するのだ」

「いやいや、そんな顔面汗まみれで言われても説得力ないよ」


 ユウセイの顔どころか。全身びしょ濡れになるほどの冷や汗で、盗み気満々なのは直ぐに分かった。確かに「役立たず」だと再認識することになった。

 結局ユウセイに、ああだこうだと言われ説得されたのは俺の方だ。

 なんでもアドベンチャーゲームの真髄は、落ちている「ドロップアイテム」や盗賊・海賊が見つけたり盗んだりした財宝を横取りするゲームだと言うのだが俄かに信じがたい。

 どんなゲームだよ? と聞くと帰ってきた答えは、

 え? アサクリとかアンチャと言うのだがTVゲームに触れて来なかった自分にとっては暗号にしか聞こえないだけで、結局分からず仕舞いだ。

 そこでゴザに改めて聞いてみると、

 要は宝物や財宝などを手に入れるまでの過程、即ち数多くの仕掛けられたトラップやライバルたちの放つ銃撃を躱して乗り越えていくスリル。古代遺跡や石板、現実にあった歴史などからヒントを得て謎を辿るパズル感覚が面白いのだとか。

 確かにそう言われれば、不思議と胸が昂揚する。

 うん、やっぱりゴザは頼れる奴だと思った。


 宝物庫でワイワイ騒いでいた性か、騒々しいと言って入ってきたゴザは、眩しいばかりの黄金を見るなり十数ものウインドウを一斉に開いた。

 何かをチェックしているようだ。


「何をしてるんです?」

「俺たち騎士団の仕事は、さっき言った通りなんだがシェンリルには「流星騎士団」の他に「レオンナイツ」「赤星聖教騎士団」があってな。それぞれ役割が課せられている。

 レオンナイツには、町で起こった暴行事件や殺人事件の早期解決。

 赤星聖教騎士団には、町に違法な麻薬ポーションや許可申請の必要な霊薬などを不正な取引や密輸をしていないかの監視。

 そして俺たち流星騎士団に与えれた役割は、経済面。金銭面のトラブルや商人と交渉する窓口を担っている。とまで言えば分かるか」

「盗品のチェックリストですか」

「そっ。まあでも、今回の……『ヒロキは知ってるよ』――いいのか?

 一応は領主勅令の極秘任務だろ」


 領主勅令と言う言葉を聞いて、この事件の裏には相当根深い事情があるのだろうと思った。

 戦争には巨額の資金や物資が必要となるが、クーデターは違う。

 国家資産の一部や自国の軍事戦力を身内に向ける。卑劣な行為だが、状況にもよる。でもな。俺にはその状況が分からない。クルスは言っていた。


『この件に一切関わるなとか首を突っ込むなとは言わない』

『時には感情に任せてみるのも一興だ』


 ……。

 まだ知る必要があるかもしれない。

 俺はまだこの世界を知らなすぎる。クルス、俺は知りたいんだ。

 俺たちを襲った盗賊団。麻薬ポーションの脅威。

 自分のことはいいんだ。でも、仲間に向いた矛先を許すわけにはいかない。

 もう決めたんだ。クルス、俺は自分を犠牲にしてでも仲間を守りたいって思っちまった。


「………」

「……おーい、行くぞヒロキ」

「悪い。直ぐに行くよ」


 何やらユウセイが涙目で宝物庫を見ているが、うん。ほっといこう。

 結局のところ、ゴザが隠し部屋に保管していた麻薬ポーションと黒い密書など数点を押収。宝物庫の盗品の回収などなど。大手柄だ。

 ユウセイは宝物庫で盗んだ盗品をゴザに回収対象にされ、実質ゴザ一人の手柄で終わったのだった。

 盗賊ギルド「シルバーファング」の拠点から出た俺たちを待っていたのは、泣きじゃくる二人。レインとカエデだ。レインは分からないでもないが、カエデまで泣いているとなると相当な目に遭ったのだろう。

 何はともあれ二人を救出したということで、ユウセイとゴザとはここで別れることになった。

 ユウセイは言う。


「じゃあな。僕たちはもう行くよ。総帥に今回の一件を報告しなきゃいけない。一言言っておくぞ。蛮勇と勇気は違う。ヒロキ、僕の言ってること解かるよな」

「………………」


 エスパーかよ。


「たまにはいい事言うな」

「たまに、とはなんだ。僕だって、ちゃんと考えてるんだぞ」


 ゴザの体が大きいせいか、ユウセイが子供に見えて苦笑してしまった。

 ユウセイからは笑うな! と言われたが団長なのに笑ってしまう。

 ゴザは言う。


「ヒロキ。取り敢えず、礼を言っておくぞ。ありがとう。情報提供感謝する。

 お前はもう立派な英雄だよ。ヒロキが団長に逢わなければ、この作戦を切り出せなかっただろう。勇気ある行動で、こうして彼女らを救えた。もっと自分に誇りを持っていい。

 まあ、そのなんだ。盗品を譲る訳にもいかんから、シェンリルの町に着いたら流星騎士団本部に寄ってくれ。謝礼は、そこでしよう」

「ありがとう。ゴザさん」


 そう言って、二人と別れキャンプ場に戻るのだが俺たちは、一つ大きな勘違いをしていたのだ。捕虜にしたトモキチが所属していたのは、「シルバーファング」ではなく別の組織だったということに。

 帰路を辿る俺たち三人の前に現れたのは、盗賊団を雇っていた上位組織。その証拠に目視出来るだけで数十体の人造人間ホムンクルス。サバイバルスキル【隠蔽】で気配を殺していたであろう数人の武装集団。その中には盗賊団の中にいた何とかでヤスよ、とかって言ってた奴もいる。

 俺の頭の中では、既に答えが出ていた。

 盗賊を下請けにする輩。それは奴隷商人だということに。


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