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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅱ 《黒結晶洞窟での英雄譚》
35/109

【#035】 Hero Part.Ⅰ -蛮勇と剣聖-

改稿している物に限りサブタイトルから「新」を抜き取っています。

一月中に30話分を誤字の修正・改稿し「小説大賞」に備えるつもりです。

応援して戴ければ幸いです。

前話【#034】改稿しています。読んで戴ければ幸いです。

 

 ダイア樹林帯「森林ポイント」抜けた先にあるアップルグリーンの丘の上。

 赴きのある石碑と石の台座と何かを祀るように大樹が雄大さを物語る通称「祭壇の丘」がある。

 一般的に広くは知られていない筈のその場所で盗賊たちは、罰当たり承知の上でか。強奪した料理や酒などの味を夜が更ける寸前まで楽しんでいたようで周囲一帯。アルコールと脂ぎる臭いが立ち込めている。その性もあって、普段棲み処にしているモンスターは疎か小動物さえ寄り付かないでいた。


 この絶好の好機を活かすために、まずユウセイが先陣を切って警備と監視を務める盗賊たちを音無く倒しては拘束を繰り返していく。その最中、ヒロキは解放したケンジと共に酒に溺れて泥酔しているプレイヤーだけに枷を掛けていく。

 不図思った。それ以上でもそれ以下でもない。これから奴隷にしようとして誘拐したヤツが、どうして同情したのかが気になっていた。ただそれだけのこと。何気ない質問のつもりでケンジに聞いた。


「なあ、アンタはなんで盗賊になったんだ?」

「………」

「あ、すいません。変なことを聞いてしまって…『敬語なんて…』――え?」


 しまった。と頭の中で思うもケンジが語り出し始める。


「敬語なんて使わなくていいよ。

 俺は罪人であって、君は英雄になるんだから。

 俺は、さ。転生前に、さ。人を殺しちまったんだ。当然の報いだ。

 勿論、世間一般で言うところの殺人鬼じゃねぇ~よ。でもな。同じなんだよ。

 俺がバカじゃなくて、族に入ってなくて、親に孝行できてりゃあ、今頃……」


 ケンジが語り出したのは、過去の転生前の話だった。

 当時、地元の暴走族の幹部だったケンジは友人数人といつものように峠と呼ばれる競争場で危険走行をしていたらしい。

 坂道を利用した時速九十キロという違反速度に達した時のことだったという。親友と一緒に跨り乗っていた単車がカーブを曲がり切れずにガードレールを突き破って崖下へ転落という事故が起きたのだ。単車は炎上。地面に激突した二人の内、ケンジ本人は軽傷で助かったが、違法な改造をした後部座席のシートが外れ衝撃で吹き飛ばされた親友は即死だったとか。

 確かに殺人鬼ではない。自分が良く知る間接的な死だ。運が悪かった。とそんなこと口が裂けても言えない。第一に自分が招いた。誘導したようなものなんだから。聞いた自分の言葉を後悔しながらケンジの言葉に耳を傾ける。


 親友が最期を迎える際の一言が、いまのケンジを作り上げたという。


『いいか。****。お前は、もっと自由になれや。

 もっと生きろや。俺のことなんか忘れて……』


 気付いた時には既にこの世界に転生していたという。

 親友の血がかかった血塗れの姿のまま転生したその名前は嘗て親友だったケンジだったことが運命だと感じた矢先。トカゲを模したリザードマンの襲撃を受けて死にかかったところへ救いの手を差し伸べてくれたのが盗賊ギルド「シルバーファング」だったらしい。

 シルバーファングは、一般人から見れば確かに悪人かも知れない。それでもケンジは生きなければ、という想いが心と体を引き止めていた。それを聞いて直感した。あの同情は本心からの答えだと。

 立ち上がるケンジは、何か大きな覚悟を決めたような顔つきで自分とは違う方向を見る。


「シルバーファングを辞めさせて貰います。かしら!!」


 グルルルル。と苛立つ心をさらに燃え上がらせ沸騰する蒸気が灰色の巨躯から湧き上がらせるのは、盗賊ギルド「シルバーファング」頭目である。

 彼の背後にはまだ捕らえていない残党が各々武器を持って狂気を顕わにしている。頭目を守る形で三人の獣人が陣を作って魔法の詠唱を始める。


「音よ、我に従え。反響と電磁気の力を解放せよ。

 音魔法【ノイズアクター】―――」

「雷よ、我に従いて彼を救え。電撃と熱を持って重なれ。

 風魔法【サンダー】―――」

「共鳴せよ。風魔法【サンダーノヴァ】―――!!」


 二つの魔法を一つの高位魔法に作り変えて放たれる。

 音魔法【ノイズアクター】と風魔法【サンダー】によって生まれた光球は、ビリビリ。と雷撃纏っている。

 光球はキレイな放物線を描いた一撃はヒロキとケンジを襲う。これを【加速】を使ってケンジを連れて難なく回避するヒロキのその姿を御伽話に出てくる英雄のように見え、驚くケンジは苦笑して一歩前へ出る。


「ありがとうヒロキ。でも、これは俺の戦いだ」


 ヒロキは思う。

 英雄はどっちだって話だ。いまの俺には逃げるのが、精一杯なんだ。今だって見ろよ。このガクブルと震える膝をよ。武者震いなんかじゃないんだ。俺には自殺する覚悟があったはずなのによ。結局、俺は臆病もんなんだよ。


「感情に浸った会話に見えるが、ケンジ。

 お前みたいな雑魚に何が出来る? 

 そこのルーキーに庇われるのが関の山だろう。お前を拾ったのは誤りだった」

「――否定すんじゃねぇ~よ」

「あぁ、何が言いたい?」

「俺ぁ、いい。だけどな。俺が救ったヤツまで否定するつもりか」

「はは、ハハハハハハ!! 救った、ねぇ? 

 てめぇが救ったのは、コイツ等のことか!??」


 どさ――。

 投げるように。棄てるように。放られたのはプレイヤーだったもの。

 ケンジが助けた。拾った。救ってきた後輩たちの死体だった。頭の中で蠢くのは、ひとつの言葉と決意だった。

 ケンジの頭は己の理解を越えて反逆した。

 でも無駄だった。

 言葉は止まらない。

 嘘だ。うそだ。ウソだ。うそだ。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘……。嘘に決まってる。くそが、あああああああああああああああああああああああ。

 心の声を口に。言葉に乗せて撒き散らせる。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 ヒロキを置き去りにして、地面を跳ねるケンジ。

 強い憤怒だけを力に変えて、最前線で頭目を守るように陣を組んでいた獣人の首を次々と刎ねていくその姿はまさに鬼である。その根源にあるのは、後輩を殺されてへの怒りか。命を弄び……恐らくは後者なのだろうと思うヒロキは止められない自分を哀れに…。


「考えるな」


 ユウセイだ。

 心の隙間まで入り込むエスパーかよ。と思うがユウセイなりにあまり深く考えるなという彼なりの忠告なのだろう。

 誰の目にも入らない死角。自分の影に身を落とすユウセイは、最高の好機を窺っているのだろう。一言を口にしてからというもの、息を殺してサバイバルスキル【隠蔽】を使っている。


 その間、単騎で挑むケンジと「シルバーファング」の残党との戦いは、クライマックスに向かっていた。

 固有能力【金剛】という物理防御力を引き上げる力で肉体強度を上げた分、魔法にも多少の免疫を得た素手での拳は風魔法【サンダー】や火炎魔法【ファイアーボール】を凌いで貫いていく。まさに鉄拳である。

 【ファイアーボール】の火球を数弾受け、炎上する「祭壇の丘」。

 火傷や麻痺を受けても一向に止まらないケンジを見る頭目は、口を歪ませて大剣で一閃を払い胴体を引き裂こうとするがそれを受け止める。

 掌の肉を食い尽そうとする刃から血液が零れ落ちるが、炎上する熱によって蒸発していく。


「戦力があっても、性格が変わらなければ同じことだ。沈めぇぇぇぇぇ!!」


 固有能力【金剛】は、物理攻撃に対して万能ではない。

 炎上によって生まれた熱を魔法に変換させ切れ味を引き上げた重みを乗せて肉を断って行く。

 掌が朽ちようとも。ぶった切れようとも。関係ないと思うケンジは、怒りに身を任せた瞬間。大きな爆発と同時に弾け飛んだのは大剣の刀身と原型を留めていないグチャグチャの拳。

 大声で叫びたい声を怒りで殺して、頭目を炎の中へと引きずり込んでいく。


「――っざけるな!!」

「吠えてんじゃねぇ~よ。

 テメエは今から俺と地獄に行くんだぁぁ。

 後悔はあの世でしやがれやぁぁ!!」

「あがァァァァががが、舐めんじゃねぇぇぞガキがァァァァ!!」


 必死に抵抗し続ける頭目は、地獄から起き上がるように。

 炎を掻き分けるが、英雄の所業を後押ししてケンジを救ったのは「シルバーファング」の幹部にして頭目の側近ゴザだった。

 残党が吹き飛ぶほどの衝撃波の後。飛び出したゴザは、ヒロキを一瞬捉えるが見ただけで手を出す様子もなく全身に重度の火傷負うケンジを拾い上げる。

 頭目に膝蹴りを食らわせて地獄へ逝く後押しをしたのだ。


「ゴザァァァァ!!」


 叫ぶ頭目。


「俺はアンタの部下になったつもりはない。

俺の上司は、今も昔もあの人だけだ」

「アアアアァァァァ!! なら、テメエも生贄だぁぁぁ!!」

「「「!!?」」」


 ヒロキ。ユウセイ。ゴザ。この場で意識を持ったプレイヤーが見たのは、一言で表わすならばバケモノである。

 オレンジ光と紅色が放つ炎の中からオオカミ人間は、灰色の毛並みを真っ赤に変質化させている。

 魂の輝きは既に瀕死状態にも関わらず、漆黒の色を灯す炎はオーラとなって身体を覆い……どうしてか。思った訳でもない。気付いた時でもない。認識したでもない。転がっていたのだ。目を向け先に。地面に横たわっていたのだ。俺だ。

 ヒロキの視界に映るのは、ねっとりした赤いもの。それが血液だと分かった時には、もう遅かった。逃げるべきだったのか。

 炎上する丘の上で、最後に目撃したのは赤いオーラを纏うオオカミ人間が吠え。ユウセイが真っ白な光の柱から大剣を取り出して構えた瞬間までだった。



  ▲

  ▼



「ほいほい。じゃ、ここからは僕のターンな」

「相変わらず、いいところ取りかよ。らしいと言えばらしいけど。

 やってることは、横取りですがね。団長殿」


 ゴザは、ヒロキを介抱して安全圏まで行くと頭部に負ったキズの手当てをすべく治癒魔法を掛けている。


「あはは。まあいいじゃない。

 こうして英雄勝りで将来有望なプレイヤーだって救えたことだし。

 結果オーライだよ。

 残念なのは、全員救えなかったことだけど。

 …当初の計画通りに事が進めれたのは事実だし、彼のお蔭で収穫が捗ったんだ。たまには英雄気分を味わってもいいんじゃないかな?と思うんだけど。

 どう思う。第三師団の副団長さんは」


 強敵を前に怯むことなく、平然と笑いながら会話する二人。

 会話を割るように。引き裂くように。理性を失ったオオカミ人間が牙を立てて、爪を立てて一方的に暴力を振るう。

 掠りもせず、空気を嬲るだけで息を荒げ始めたところで、ヒロキの応急措置を終えたゴザが、強烈なラリアットで安全圏から引き離す一撃を喰らわせる。

 だが、赤いオーラが消える様子もなく吹き飛ばされた瓦礫の下に沈んでいたオオカミ人間は、立ち上がるなり跳躍を連発して速度を上げていく。


「これは、オオカミ人間というよりはバネ人間だね」


 ヒロキなら目で追えなかったであろう。と思うユウセイは、呼吸を止めて目を閉じる。

 バネ人間が、飛び込んで来た感覚を信じて白い大剣を一気に振り上げた瞬間、声にならない奇声。その音さえも掻き消す勢いで、空間ごと真っ二つに斬り上げられて地面が唸る。

 僅かな地揺れと共に浮き上がる地面に向かって、斬り上げた刀身を力任せに叩き込んで元に戻す荒業に驚く者は誰もいない。

 ヒロキに意識があったなら、別かも知れないがゴザは違った。

 驚愕というよりは、あまりの変わりの無さに悲しくなっていたのだ。


「二年経っても変わりませんね。≪剣聖≫の名が泣きますよ」

「その肩書キライなんだよ」


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