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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅱ 《黒結晶洞窟での英雄譚》
34/109

【#034】 Wild tribes -月下に眠る蛮族-

やっぱり短めになってしまいますね。

改稿している物に限りサブタイトルから「新」を抜き取っています。

一月中に30話分を誤字の修正・改稿し「小説大賞」に備えるつもりです。

応援して戴ければ幸いです。

{2016.1.9}改稿完了。

 

 夜の森ほど怖いものはない。

 何処からともなく聞こえてくる動物たちの奇怪な声と木々を抜けて寒さを全身に与える風が恐怖の味を引き立てる。

 グルルルル。とその中でヒロキたちが耳にしたのは、腹を空かせた獣の声である。


「なあ、今のって………」

「ああ、間違いない。恐らくアイツが盗賊団のボスだ」


 ユウセイは反射装甲リミットカウンターの内部から人差し指で灰色のもふもふした毛並みをした巨躯を指す。明らかに人間[ヒューマン]ではない。

 火山灰のような毛並みが開いたかと思えば、俺たちが目撃したの尖った歯先と二つの凶暴な大きな牙。どこぞのボディービルダーのように筋肉質の腹黒な胴体には無駄な脂肪は付いていない。ガチガチムキムキの肉体凶器が二人の頬を引き攣らせる。当然である。その姿は大きなヒト型を模したオオカミなのだから。


 獣人[アニマ]は、様々な種類の動物と人間[ヒューマン]の混血らしいのだが、詳しい起源については専門家曰く「分からない」ということだ。

 獣人の特性は、混血となる動物のステータスに依存するらしく個々によって大きく違うとか。なので敢えて獣人全員が持つのは何か?と言われれば、その答えは人間よりも優れた過敏性だとか。

 オオカミの力を有する盗賊団のボスには、最高時速七十キロの移動速度を持つバケモノである可能性が非常に高いのだ。それは今まで現実と酷使したモンスターを相手にしたヒロキだからこその答えである。


「なんだ!? あのバケモノは、よ!!」

「ノープログラム。ミー、囮オッケー?」

「バカか。俺を殺す気か!!

 なに勝手なこと抜かしてんだ。っていうより、何でいま英語になった!?

 夜明けまで待ってとか、言ったくせにノープランかよ」


 とか言って、憤慨する場合ではないことなど一目瞭然。

 しかし計画なしでツッコむ愚者になったところで人質になっているレインやカエデが傷つくことを恐れたヒロキたちは思考を重ねた結果。……矢張り、明朝狙うのがスジではないかという提案を承諾するほかなかった。

 なぜなら盗賊たちは、お盛んなことにセーフティーポイントでくすねた料理や酒で宴会を始めたからだ。

 何の勝利を祝してか? 一泡吹かせてやったぞ!! とかって聞こえるが、酒盛りをするなら明朝というタイミングは俺たちにとっての好機となることは変わらないのだから。

 レインとカエデの安否を監視しつつ夜が更けるのを待つのだった。



  ▲

  ▼



 盗賊たちが皿に盛って食しているのは、クロムの作った「マキナガ海老のピラフ」である。

 ピラフとはそもそも、炒めた米を様々な具とともに出汁で炊いた料理のことでトルコ料理が有名なのだが、インドから中近東、南欧ギリシャにまで幅広く見られる米料理である。

 マキナガ海老のピラフは、シェンリルの近海で獲れたという「堅甲種エビのマキナガエビ」という食材モンスターをメインにしたもの。巻いた尾が特徴的なマキナガエビの生肉とコカトリスの肉をバターで炒め、マキナガエビが朱色。コカトリスの肉は黄金色に変わった処で玉葱と微塵切りにしたエリリンギを炒めて具材Aが完成。

 剥いたエビの殻と同じく近海で獲れた貝類をベースにした出汁でピラフに合う白銀米というライスを炒め、ここで具材Aを投入し数分炒めれば………シェンリル近海の味を堪能できる「マキナガ海老のピラフ」の完成である。


「ガハハハ、うっめぇーな。流石は料理人が作った本格メシは」

「絶品ヤスね」

「絶妙な塩加減が食材の味を引き上げて…」

「うん。まあ、それはさて置き、」

「「だな」」

「「「こんなカワイイ女の子を目の保養に喰うメシは、最高に尽きるな!!」」」


 茶髪少女のほっそりとした白い足を下からスカートの端までを舐め回す見る者もいれば、キツネ尻尾娘のたゆんたゆん揺れる大きな胸囲を凝視している者の方が多い。

 そして全員が全員。身体を見た後。最後に顔を見ると、同じことを考えるのだった。こんなカワイイ美少女がいる筈がないと。

 しかし、そうこう考えたところで彼女たちの未来がないことは変わりない現実だ。と盗賊たちは知っていた。


「その辺にしとけ。彼女たちには悪いが、これは俺たちの未来のためだ」

「……どうにか、なんないですか?」


 盗賊団の幹部メンバーが言い放った決定事項に食い下がる無知の雑用に目を向けるなり、胸倉を強く掴んで睨みを利かす。


「お前、名前は? この賊に入って何週になる?」

「は? ケンジです。ロケーション【鯨の墓場】に転生したところを拾ってもらって、二カ月半ってところですかね」

「ああ、そうか……………じゃあ、死んどけ」


 胸倉を強く掴まれての近距離からの頭突き。

 ガツンと言う衝撃音がケンジを襲った。

 幹部は普段から鍛えている性もあってなのか外傷はなく、数メートル吹き飛んだケンジの方が打撲。スリ傷。出血と誰が見ても重傷の一言に尽きる。

 ヨタヨタ。と立ち上がるケンジに手を貸す者は誰もいなかった。

 自力で立ち上がったケンジが再び目にしたのは、手を引いてくれる幹部ではなく次々と拳を浴びさせる暴力の断行。

 ドカドカ。と鞭打つ鮮やかな蹴りが胴体にクリティカルヒットを連発させる。体力値が二割を割り込んだあたりで蹴りを止めるなり、仲間に冷水をぶっかけて意識を強制的に叩き起こさせる。


「転生者なら、尚更知って置かんとこの世界じゃあ生きていけん。

 いいか小僧。今回だけ、特別に教授したる。

 耳の穴かっぽじって、よおく聞いとけぇ。ええのう。

 盗賊たる俺等の儲け口の多くは、高収入の貴族や王族が保管しとる値打ちモンだったのは過去の話や。戦争で多くの国が借金返済の為に、商人に売り渡した性で盗賊事情が変わってもうた。今や俺たちに就く専属商人はおらん。

 そこでだ。俺たちが目をつけたんが奴隷や。

 プライドを棄てて奴隷商人の足下に座り込んで、奴等が所望する商品を見つけては引き渡す。分かるか雑用。俺等、幹部も。雑用も。お頭でさえ、奴隷っていう名の商品に生かされてんだ」


 身に染みて通じたのかケンジは土下座して謝っていた。

 それが気に喰わないのか。目障りなのか。

 ケンジを見下ろす幹部は、短剣で首を斬り落とそうとした矢先のこと。

 短剣の刀身を砕いて殺害を止めたのは、灰色の毛並をした巨躯のオオカミ人間だった。それが誰なのか直ぐに分かった幹部は、「申し訳ありません。お頭!!」と言って頭を地面に叩き付けて非礼を詫びる。


「仲間の血に飢える程ぉ、ゴザ。

 テメエは落ちぶれてんのか。もういい、頭を上げろ。

 もう十分、ソイツも分かったろ。殺したら殺したで………ああ、そうだな伝説の生贄にするなら丁度いい逸材かもな」


 頭目なる人物の一言で今まで一緒に行動していたメンバーも。自分が拾って育てた後輩たちも。友人だった筈の幹部も。誰もが目の色を変えてケンジの身体を拘束した。

 ただ拘束に使ったのは魔法という間接的な縛りではなく、錆び付いた鎖で直接腕を縛る扱いに愕然とした。

 自分が一体どれだけの悪行をしても許してくれたメンバーが、地べたに落ちている虫けらのような扱いで見捨てられた現実に。

 それも最悪なことに、あの伝説の生贄になるぐらいなら死にたい。しかし現実は甘くない。舌も咬めない拘束で身動き一つ出来なかったからである。


 竜神湖の伝説。

 貿易都市シェンリルを中心に居を構えたり、お得意様であったりする盗賊はみんな知っている一種の御伽話のように子供は聞かされて育つという。

 転生者には金銀財宝の隠しスポットや冒険者が望む羨む伝説があると教えられていた。だからケンジは自分なりに「竜神湖にある財宝」について調べて分かっていた。

 財宝とは名ばかりの「グラスポット」という錬金素材になる植物の群生地なだけであって、財宝があるという確証はどこにもない。

 ただ強いて言うなら、財宝を求めて水神湖を目指した冒険者の亡骸から持ち物を拝借出来るぐらいのものである。この伝説は財宝ではなく、その場所に生きる「怪物級モンスター」の一角として恐れられる「大獣種ヘビのオロチ」という馬鹿みたいに大きなヘビが棲み処にしていること。


 プレイヤーと敵対するモンスターやプレイヤーの装備品には、それぞれ階級クラス希少価値レアリティーがギルド連盟によって設けられている。

 ゴブリンやスライムなどの低俗モンスターを始めに、オーガやオークなどの人間の体格よりも三倍までのサイズをした中級モンスターをまとめて「魔物級モンスター」と呼ぶ。これらから剥ぎ取った素材で鍛えた装備品がレアリティー「☆1~5」の一般向け冒険者装備が出来上がる。

 魔物級モンスターの上位が「怪物級モンスター」である。

 熟練の冒険者数人がかりで討伐・撃退する。この近辺で有名なのシロザメ、オロチの他にも飛龍種ワイバーンや巨人種サイクロプスが対象である。これらから剥ぎ取った素材からはレアリティー「☆6~10」の精鋭揃いの戦士装備が作られる。

 さらにその上位には「天災級モンスター」が身を潜めている。

 別種のDNAを掛けて雑じりあった混合種キメラや精霊種ゴーレムやエレメンタルという魔力の集合体と言われる面々などが控えており、これらからはレアリティー「★1~4」の魔導騎士の装備品が。

 天災級の上位にもドラゴンやヴァンパイアなどをカウントした「伝説級モンスター」からはレアリティー「★5~9」の法具やバケモノ級の禍々しさを持つ武具が作れるとか。

 フェンリルやユニコーン、麒麟キリンなど耳を疑うような御伽話フェアリーテイルの世界観に存在する「神話級モンスター」からは、レアリティー「★10~12」という万物の創造主である神や天使もしくは魔王などが扱う神具や聖剣、魔剣以上の世界を滅することが出来る兵器が作れるという。


 そう言う風に言われれば、怪物級モンスターなんぞ雑魚じゃね。という冒険者は痛い目を見る。それがこの世界「HelloWorld」では普通のこと。それが痛々しく苦しい現実なのだ。

 最底辺のゴブリンやスライムにだって気を抜いてしまえば、あっさり殺されてしまうことを知るケンジは明日を恐れていた。


「なんで、俺ぁ。こんな目に遭わねぇといけねぇんだ」


 奴隷商人に売り渡す彼女たちの待遇と違って、錆びた鎖で拘束された状態で寒く冷たい地べたに放置されたケンジはガクブルさせながらも暖を取ろうと動かす。足の一部を擦らせる。尿意を我慢せずに垂れ流しでも、僅かに取れる暖に惜しみなく味わうのだった。

 明朝を思わせる朝の光を感じた瞬間。一気に身体が零下の気温まで落ちるのを感じた。なぜなら静かな中で聞こえる二人分の足音が自分の最期を告げていたからである。身を震わせるケンジは覚悟を決めたのだが聞き覚えのない若い少年の声に、ついに頭まで可笑しくなったか…と思いきやどうやら違うようだと希望が差す。


「おいおい、コイツ垂れ流しじゃんか」

「気にしてる場合かよ。時間がないんだ。外すの手伝えよ」


 カチャ、カチャガチャガチガチャ…と。如何やら自分の意識がとん挫した後さらに多くの鎖で拘束されたようで枷を外すのに手間取っているようだ。

 カチャガチャガチャ――と。枷が漸く外られたようだ。視界を覆っていた手拭いを取られる。転生してからというもの、二カ月半の中で両者とも顔に見覚えが全くないところから見て逸れ者だろうか? 余所者だろうか? 考える暇もなく自分の手を引く黒髪の少年。

 その横でイヤそうな表情で枷を遠くに放置して、バックパックから革製の水筒を取り出して手を洗う少年は腰の武器スロットルにグラディウスに酷似した大剣を差している点から剣士と察する。

 もう一人のこの少年は、自分の手を引くなり棄てられ盗賊の身である自分にケガの処置をしてくれている点から僧侶かな?と考える。


「罪は償う。頼む――『助けないよ』………」

「おい、ユウセイ!」

「ヒロキは優しすぎるよ。

罪人が償う、と言って。頼む、と言って。何人が正直な人間だった。

第一にあの二人を誘拐。拉致して。奴隷商人に売ろうとした奴等の仲間だよ。

君はそれでも助けるのかい?」


「俺は、さ。罪人のすべてが悪ではない。って思ってる。

その答えで不満なら、コイツが裏切った時、始末をつけるのは俺でいい」

「ほいほい。そこまで言うなら、信じようじゃないか。ああ勘違いすんなよ。僕が信じるのは、罪人のアンタの言葉じゃなくてヒロキ。英雄の言葉を信じるよ」

「おいおい、いつから英雄ヒーローになった?」

「小説やゲーム、アニメじゃあよくあるだろう。

ハッピーエンドを目指す主人公がヒロインの美少女を救ったらさ。

誰だって英雄になれる。ご都合主義ってヤツだよ」


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