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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅰ 《ダイア樹林帯での冒険譚》
30/109

【新#030】 弾幕の射手

先週はダインとの一騎打ちを描く予定でいましたが、仕事疲れや飲み会などが重なり改稿が思うように進みませんでした。

{2015.12.20}途中まで改稿→{2015.12.23}後半大幅加筆により改稿完了

サブタイトルを付けしました。

次話執筆中ですが投稿は恐らく無理なので、途中更新ではない完成させた状態の物を27日は無理でした。

急な仕事量の増加に(*´Д`)ポカーンとしています。

なので31日以降に新規更新予定です。

正月休みまで寝る暇を惜しんで働く所存ですので、少々お待ち戴ければ幸いです。

 

 修練ポイント中央に二人のプレイヤーが立っていた。

 一人は挑戦者であるヒロキである。

 試したくて仕方がないスキルと賊との戦闘で火が付いたのか込み上げてくるよく分からない感情が燻ぶって胸が熱く焼けるようだったのはほんの数秒前の話である。

 何せ、悪徳商人に騙され持ってしまったアンティークなボウガン一式の取っ手パーツが壊れて破損代を払う破目になるは、ギルド「六王獅軍」専属商人から試作物のビー玉を渡されるついでにこれまたよく分からん利き腕だけに装着する籠手と思われる防具を渡されるのだから溜まったものではない。


「準備はいいか」

「ああ、問題ない」


 実際は問題大アリだが口にはしない。

 ここでああだ、こうだと言っても変わらないのだから敢えて口にはしない。

 それが礼儀ってもんだ。

 誰に対しての礼儀かと聞かれれば、目の前の純粋なる戦いを望む俺の対戦者だろう。


 対戦者はギルド「六王獅軍」四番隊第五席というからには、相当な実力者なのだろう。

 生憎、四番隊がどういう仕事を請け負っているかは分からないがだ…第五席が意味する処ぐらいの察しが付くヒロキは、今の自分にとって申し分ない相手だと認識していた。

 それは当然のことだった。

 ヒロキはクロムとレインに自分を知って貰うためにクルスに提案された自己紹介の時に言われた言葉が喉元に突き刺さっていたからである。

 『チート』それほどまでに自分のステータスが異常であった事実を知ったのだ。

 自分よりも遥かにレベルが高いクロムとレインよりもステータスの数値が高い…まあ、別にそこまで強く気にも留めなかったことだけれども対等に戦えるモンスターを期待していたのに鉱石の採掘で心があちらこちらへ向く様になっていた。

 でもだ。

 ホムンクルスとの一戦で心に残った余熱が自分を逃がしてはくれなかった。

 試したいスキルがあるのは確かだ…でもそれよりも確かめたいことがある。

 自分のこと…これから自分は如何すべきなのかを今この場で見極めたい、という一心で対戦者に目をやる。


 ダイン。

 彼は強い。

 多くの経験を積んだ熟練者や才能の片鱗を開花させたり、人間離れした資質を持っていたりする達人ならば一瞥で力量を計れると言うが、ヒロキにはそれがない。

 それでも嘘ではない。

 伊達に実戦訓練をカカシとだけでなく、クルスと積み上げてきたわけではないのだ。

 迫力でも分かるが、魂の波動が全てを物語っている。

 ダインが『関わりたくない』と言ったのがよく分かる。

 ユナンは同世代とは思えないほどの高い絶壁が見えた…それほどの強者だと分かるのも魂の力の影響が大きいだろう。

 今にも暴発、決壊しそうな強大な黒い炎が『虐殺』という言葉に反応していたのだ。

 彼と事も理解できるし、何よりも『恐怖』する感情が修練ポイントにいるプレイヤーを支配するのだから、あのままユナンがキリエさんと戦っていたならば確実に死んでいただろう。


 ダインの持つ装備品に目を持って行く。

 右手に握られているのは、第二次世界大戦に活躍した歩兵装備のトムソン銃によく似るデザインをした短機関銃。

 腰のホルスターに差さってあるために口径が見えないので、銀色に輝く自動拳銃ということしか分からない。

 今までのPvPにおける戦いは、剣を扱う者同士や拳での殴り合いだった性もあって落ち着かない。

 達人並みの剣士と戦場を闊歩してきた兵士とが戦った場合、勝つのは兵士だと七割以上の者が口にすることと同じなのだ。

 今まで築き上げてきた舞台も違えば、兵士という職の方が段違いで戦術に特化していると言えるからというのもあるが射程がまるで違う。

 近接戦闘を得意とする剣士と中距離から遠距離までの間合いを取る兵士では勝ち目がない。

 ここまで言えば、お分かりだろう。


―――いまの俺にダインを倒せる訳がない。でも勝率はある。

確かにだ。俺にはダインのような熟練者でもなければ、ユナンのようなバケモノでもないし、全転生者に備わっているであろうゲーム経験もない。

魔法も使えない欠陥人間もいいところだが、試したいスキル…俺唯一の切り札である構築能力を進化させることが出来れば勝機はある。


 周囲に目を配ると、いつの間にか多く商人やら観光客やらが観客となって群衆を作っては『誰に賭ける?』『張った張った』などとギャンブルの動きがある。

 観客の声を聞く限り、その多くはダインに流れたようで掲示板には『45:2』と圧倒的な票差であったが逆に言えば自分を応援してくれるプレイヤーが二人もいるというところに安心する。


「確認だ。今回のPvPはポピュラーな実戦形式とされるモード20」

「指定されたフィールドで制限時間二十分」


 今回のPvPの内容を互いにヒロキ、ダインの順で確認していく。


「魔法は全般的に制限が掛かり使用不可」

「体力回復に用いるポーションの類も使えない」

「構築能力は使っても問題なし」

「体力値二割りを切った時点で試合終了」


 ここでダインがホルスターに仕舞っていた銀色の拳銃と右手に握っていた短機関銃を見せてきた。

 それもご丁寧に詳細情報が分かるようにウインドウズ画面を開いて見せてくれた。


「互いの武器を出そうか。

自分のメインウェポンは、アサルトライフルのトマホークMark.II。

ハンドガンのデザートイーグル六型。どちらもゴム弾を使用する」



右手武器[アサルトライフル];トマホークMark.II

入手可能地域;アルカディア大陸全土

希少価値;レアリティー☆5[287,000Cセル~]

弾倉[ゴム弾];500/500

耐久値;10,000/10,000

魔改造;可能

魔改造履歴;4回

通常弾攻撃力[急所];70[100]

ゴム弾攻撃力[急所];30[――]

備考欄;通常弾を用いた火力はアサルトライフルの中でも十本の指に入る。魔改造2回で耐久値を最大にしている。魔改造1回で弾倉を拡張している。魔改造1回で



右手武器[ハンドガン];デザートイーグル六型

入手可能地域;アルカディア大陸『ヤマト大国』

希少価値;レアリティー☆5[875,000Cセル~]

弾倉[ゴム弾];11/10

耐久値;10,000/10,000

魔改造;可能

魔改造履歴;6回

通常弾攻撃力[急所];250[400]

ゴム弾攻撃力[急所];150[――]

備考欄;通常弾を用いた火力はハンドガンの中でも五本の指に入る。魔改造3回で耐久値を最大にしている。魔改造2回で弾倉を拡張している。魔改造1回で工作精度を向上している。



「俺はコイツ一本だ。ナイフのガーディアンライト」



右手武器[ナイフ];ガーディアンライト

入手可能ダンジョン;アルカディア大陸『サイオウの深淵洞窟』

希少価値;レアリティー★8[100,000Cセル~]

業物Level;10/30

耐久値;1028/1200

魔改造;可能

魔改造履歴;なし

基本攻撃力[急所];50[500]

備考欄;必殺のナイフ。セラミックよりも軽く、切れ味は使い手のレベルによって引き上げられるが対人用であるためにモンスターとの戦闘には向かない。



「誓おう。ルールに遵守しこの試合を楽しむことを」

「同意だ」


 ガーディアンライトの柄を掴んで姿勢を低くするヒロキは集中して、呼吸を整えダインと目を合わせる。

 両者が睨みあう中で、試合のゴング鳴るカウントダウンがいま始まろうとしていた。

『10、9…………

 その最中、一人の興味有り気な青年が立って傍観しながら、立つのがメンドウそうに鎮座して愚痴を溢す少年が会話をしていた。


「どう思う? 上司と言う立場上だから彼に賭けたのかい。それとも、ただの暇つぶしかな」

「後者だ。ガキでも分かるだろ。こんなオフザケの試合に意味なんてない。アイツも良くやるよ。PvPにしたのは殺さない為だろうけど、オレからしたら暇つぶしにしか見えない」

『7、6…………

「相変わらず、性格捻じ曲がってんな。お前が求めるのは、鉄分と水分を多く含んだ血液が欲しいのか? それとも殺戮、虐殺する異常な感覚そのものが欲しいのか?」

「捻じ曲がる? バカか、オマエは。捻くれ者は寧ろ、オマエの方だろう。研究の成果を確認するが為だけに試作品を安易に渡すバカがどこにいる」

「ふっふっふ、ここにいますね」

「ドヤ顔でいうな!! まあいい、説明ぐらいはしてくれるんだろうな。あのビー玉について」

『3、2、1………Go!!



 捻くれ者と捻じ曲がった二人の会話を割るように始まったPvP。

 初手を叩き込んだのは誰もが想像した通りダインのメインウェポン[アサルトライフル]のトマホークMark.IIの銃口からの発砲音だった。

 だがしかし、それはあくまで傍観者の耳が察知した聴覚による認識であって実際は、正反対のものだったことにいち早く気付いていたのは恐らくは彼だけだろう。

 彼曰くダインも当初、半分は遊びの乗り気であったのは事実だった…目の前の対戦者ヒロキが自分の予想していた戦術と全く違うという認識がなければ、アサルトライフルの連射で決着が着くはずだったからである。

 カウントダウン直後のことだった。

 本来ならば重火器と剣では、圧倒的に分が悪い故にスタートダッシュは距離を取ることから始めるのが基本。

 これに対してコイツ(ヒロキ)はバカなのか、と思うほどに一直線にツッコんで来たのだ。

 馬鹿正直という言葉は、コイツ以上に似合うものはいないと思い至った瞬間。

 ダインが目撃したのは嘗ての師であった軍人の動きが重なって見えていた。


「お前は…」


 初手は確かに躱せた。

 それなのにダインは、いま初めて真新しい感情に疑問を抱きながらも遊びだった心のすべてを本気にさせて目の色を変える。

 ヒロキが放ったナイフによる「突き」を半歩下がり、最小限の動きで回避したダインは近接迎撃用ハンドガンのデザートイーグルで死角になる背中へ撃ち込む。

 射撃を予測していたかのように行動の一つ一つ後に素早く動くヒロキは、僅かに乱れ動く残像を作ってはダインの攻撃を躱していく。

 そんな行動を取っていれば当然、酸欠によって動きが鈍くなるだろうと予測していたのだが鈍くなるどころか、徐々に上がっていく速度にダインが足を一歩動かした瞬間にそれは起こった。


「―――ッ!?」


 魔法陣もないというのに噴き上がる白煙と共にオレンジ光の爆炎がダインを呑み込む。

 PvPの試合場には一応、巻き込まれを予防する為に予め設置されていた防護壁の結界が張られているのだが、その結界が爆風と振動が揺らいでいる。

 しかし、そんなことを興奮で掻き消して傍観する観客は白煙の隙間から現れるダインとすべての一撃に必殺を掛けるヒロキに声援を送っていた。

 想定外の戦法を披露して圧倒して来たヒロキに目を丸くするユナンに苦笑するトウマ。


「興味を持ったみたいだね。ユナン、君は誤解している。ボクが何の考えもなしに試作品を渡したりなんてしない。彼はまだまだ粗削りのナマクラのままかも知れない。でも彼は新人だ。粗削りの新人にボクが賭けたのは、彼の未来性さ」


 ガッツポーズで熱く語るトウマおいてけぼりにして、ユナンは関わりのない他人視線で言葉を口にする。


「それよか、説明しろ。アレはどういう手品だ。魔法が使えないこの場でどうやって弾丸を躱し、さらには爆炎など、起こりうるはずが…!?まさか」

「そうだよ。アレは単なる地雷だろうね。試合前にここぞとばかりに火打石を購入していたから。火打石の原理は至極簡単。物理的な接触があれば簡単に起爆するが、問題は…」

「聞いたことはある。魔法でも錬金術でもない。この世界独自の戦術、コアを用いた構築能力を使った技は使用者のイメージで変わる」

「ゆ…ユナン、お前。意外に博識だったのか? それとも、熱でもあるのか」

「………オマエ、殺されたいのか…」


 冗談を真に受けるユナン相手にカラカラ嗤うトウマたちの素性に気付いたのか、周囲のプレイヤーがヒソヒソ声と共に避けていき周囲に誰もいないからの空間が生まれていた。

 冗談を言っている最中でも戦いは続いていた。

 観客の視界上には昔懐かしみの深い弾幕シューティングが現実に起こっている状態だったからである。

 弾幕シューティングとは、大量で低速な弾を敵が放ち、その間に生まれる僅かな隙間を縫うように回避することができるほどプレイヤーの当たり判定が小さいことを特徴とするシューティングゲームである。

 ヒロキがやっているのは、常人が見えない弾道を予測しているような動きで距離を縮めていっているそれらを見てダインに賭けていた凡そ半数のプレイヤーが今はヒロキも応援している状態に変わっていた。

 はいはい冗談冗談、と言ってユナンを抑えるトウマは、この変化に苦笑しながら途中で止めた自分の言葉の続きを語り始める。



「魔法を行使する対価は自分の体に宿る精神エネルギーと同一視されている魔力。錬金術を発動するのにも、それ相応のエネルギー物質が必要不可欠。

それに対して構築能力は、プレイヤーが持つコアという名の変換性結晶体を対価にする。しかし…」


 トウマが言葉を濁した理由をここにいる誰もが知っていた。

 構築能力だけの戦術なんて物は存在しないと。

 その答えは物心がつく新生者でも魔力が小さく戦うことの出来ない労働者だろうと知っている当たり前のことだった。

 すべてのプレイヤーが所有する変換性結晶体。

通称コアの持ち数は熟練のレベル三百を越える冒険者や名立たる英雄がそうだったように最高六つが限界であったからだ。


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