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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第一章 「裏切られた世界」
3/109

【#003】 King -白金砂丘の王者-

第一部【#001】からRestartしています。

時間が大幅に掛かりましたが、その分面白い内容になって要る筈です。

今後次話も修正していく予定です。

{2016.1.2}改稿完了。

 この世界は二次元の平面上ではない。

 空間が縦と横と高さの三つ座標で表せるのは、この世界が三次元であるということに他ならない。

 砂粒を握って確かめるこの感触は本物だ。

 砂遊びをした記憶を思い出そうにも、その時分を思い出せない。

 一種の記憶喪失らしい。

 中学時代よりも過去の記憶がすっぽりと抜け落ちている。

 極めて特異なケースだ。

 記憶を思い出したいとは思わない。

 記憶というひとつのデータが二次元的でも三次元的でも、脳というハードディスクに読み込まれた上書きが今の記憶を壊してしまうのではないか、と恐れているからだ。



「さて、どうしたものか」


 将大は首を捻って、三次元上の世界を見渡していた。

 どこまでも白く。

 雲ひとつとない青い空と地表を照らす凛とした太陽の光が輝いている。

 瞼を見開くその世界は、美しかった。

 まるで現実世界リアルと区別がつかないほどの美麗さ。

 躍動する心臓の音。

 温かい熱や時折吹くそよ風が肌に当たる感覚。

 風が運んでくる荒々しい酸素と砂の味。

 ここが人間の作りだした仮想世界なのか疑わしく思うものがあった……が、まずは自分の格好だ。

 ボサボサであった筈の伸びきった髪の毛は、散髪され短くなっている。

 いつかは切ろう、と考えていた自分にとって都合のいい事この上ないが。


 まあ…、いいか。

 鏡となる物がないにもかかわらず、すっきりした視界を確保できただけで満足していた。

 服装はなんとも言えないほど、ノーマルな私服と言って差し支えない。

 肌心地で分かる安物のV字白シャツ一枚に、ワザと穴をあけてボロく見たてた青味が掛かったジーパン。

 見たくはないが、トランクス一枚を履いているぽい。

 腕時計らしきものは見当たらないので、正確な時間が分からないのは難だ。

 しっくりくる。と言っていいのか重さと違和感が湧かないリングが手首に嵌っている。


 すごく気になる。

 ボタンがないか。タッチセンサーによる反応がないか。と手さぐりで探すものの何も起こらない。

 手さぐりと言っても利き手となる右の手首に嵌っているので左手一本であれやこれやしたが警告音すら鳴らないので後回しにした。

 足下を見る。

 見慣れない革製の何故かサンダルを着用している点から想像すれば、するほど意味が分からない格好をしている。


 これは、あれだな。

 バカンスに来た貧乏な学生が道に迷った感じか。


 熟練のゲーマーから素人までが聞いたとしても笑えるほどの低級な感想に辿り着いていた。

 天然の塊だ。と誤解されても仕方がないだろう。

 何故なら十六年という人生で一度でもTVゲームに触れたこともなければ、視ることもなく生きてきた彼はいま無縁な存在であった筈のものに向き合っていたからだ。

 例えば彼が一目で見て一番に想像したのは、アメリカ合衆国の南西部に位置するニューメキシコ州の中央都市アルバカーキから南下するとサボテンに地平線といった西部劇を沸騰とさせる風景が広がっていると聞く赤茶けた荒野に突然現れる真っ白な砂丘ホワイトサンズだったからだ。

 でも違う。

 ここはアメリカなどではない。

 頭上に固定された自分の略称と二つのゲージ。

 ダイヤモンド状のコアが現実ではないと告げている。

 彼女は言っていた。

『―――この世界に隠された九つの秘宝を見つけ、九つの謎を解明すること』

 それが事実なら今すべきことは…………。

 …………なんだろう?

 将大、今からヒロキと名乗る少年は天然だった。


 取り敢えず迷っていても解決しないので、大きな町を探すために海辺に向かうことにした。

 ここでゲーム知識の備わった人間がする定番業と言えばアイテムの探索。

 一番ノーマルなことだが、ヒロキにそんなゲーム知識もなく廃墟となった石造りの家屋の探索なしで歩き始めていた。

 因みに捜索していれば、周辺地域の情報が少なくとも理解できる「欠けたマップ」シリーズがⅠとⅡと掛け合わせてサブミッション目的地となる集落までの道のりがマッピングされた地図が入手できていただろう。

 重要アイテムの類は考えることなく分かるように目印がある。

 例えば足下に置かれたアイテムなどを忘れずに回収させるために「▽」や「▼」下三角の印が成されているのだ。


 地平線の彼方どこまでも続く白いホワイトサンズによく似る白い砂丘を歩くヒロキは、脳内ハードディスクに記憶された情報から「サバイバル」フォルダの扉をこじ開けて必要な知識を引っ張り出すのだった。

 それもその筈。

 歩くうちにだが頭上に固定された二つあるゲージの一本が赤く点滅。

 カウントダウンする数値が、確実に減っていっていたことに気付いたからだ。

 それどころか。

 みるみる数値が減ることに影響してか、身体が大病を患ったかのように重く疲れが増す一方で汗が滲み出ている。

 原因は分かっているが、理解できなかった。

 一点の曇りのない青空に聳える凛とした太陽がギラギラした日差しを容赦なく自分と白い砂丘に注いでいる性もあって暑さと熱気でダウン寸前。

 ただヒロキには納得いかなかった。

 仮想世界『School‐Life‐Online』での経験上でなくとも現実世界においても有り得ない現象だからだ。


 文部科学省が運営することに関係なく二〇四一年の世界にとって、危険なプログラムは徹底して自動カットされていた。

 例えば熱中症の場合。

 建造物の屋外であろうと屋内であろうとも体温の急上昇をセンサーが感知し、遠隔無人機ドローンが素早くAEDや救急医療の知識を基にヒューマノイドまたは人間が救助してくれる。

 ここまで過酷な環境設定された世界は、少なくとも日本人が作り上げたものではない。と確固たる証拠と共に断言できる。


 VRW規定違反法第一条に当て嵌めることが出来るからだ。

 これは世界で大きな波紋の渦を巻き起こした海外の企業が産んだ事件を切っ掛けに、ほぼ無法だった当時の規定を日本の法律に引き込んだものだ。

 第一条;『一定以上の痛覚や倦怠感など身体に影響を及ぼす障害ステータスは、【R-18】年齢指定であってもLevel.Ⅲ「日本刀でバッサリ胴体を斬られる、もしくは拳銃で一発撃たれたダメージ」以上を設定してはならない』。

 海外の法律ではダメージにおける障害ステータスは五つまで認定されているが、日本では三つめのLevel.Ⅲまでしか認証されていない。


Level.Ⅰ;「デコピンによる打撃、もしくは環境による中ダメージ」。

Level.Ⅱ;「カッターナイフやフォークによる刺し傷、もしくは環境による高ダメージ」。

Level.Ⅲ;「日本刀でバッサリ胴体を斬られる、もしくは拳銃で一発撃たれたダメージ」。

Level.Ⅳ;「内臓物を引き裂かれる、もしくは車両で牽かれるダメージ」。

Level.Ⅴ;「急所部位を壊される、もしくは死亡原因になるダメージ」。


これでまだ、Level.Ⅱで体温カットオフ機能もなしとは。

ん? 俺は死にたかったはずなのに、どうして生きようとしている?

彼女から「生きろ」と遠回しに言われたからか、それとも何もかもから逃げようとしているのか。

逃げる? 俺はずっと逃げていたのか、生きることから。

なら、せめて生きてみようか。この…裏切られた世界で。


 こじ開けた「サバイバル」フォルダから引っ張り出したのは、生きるための知恵や先人たちの技術を一覧メモした文面をそれぞれピースに置き換えてパズルを組み立てていく。

 組み立てた六面体のパズルの塊を情報源に知恵を振り絞る。

 遭難時に最も注意すべき事は的確に状況を判断することで、正しい知識と共に本能の赴くまま直情的に行動する事であるならば、水分補給が現時点最前の策として行動に移す。


 現実に存在するホワイトサンズなら白く輝く砂はアラバスターと呼ばれる石膏せっこうが、本来は透明だが風によって擦れ合うことで傷がつき白く見えるらしい。

 そんな純白の砂丘に生きる生物を肉眼で見つけようとしていた。

 環境に適応するためにある種の動物や昆虫は偽装して天敵から身を隠す生命を探すのは、素人の目では至難の業と言えるだろう。

 しかしヒロキは本能で感覚を研ぎ澄まし、音を聞き分けることに集中する。

 記憶に保存されている技術をフル活用して音源をカットしていく、彼女の言葉に習ってイメージを膨らませる。

 心を落ち着かせて自分の体内で動く心臓や血液が通う脈音を小さく。

 白い砂を撫でるように吹く風の音。

 撫でられた砂が空中で擦れ合う音など環境を取り巻く雑音ノイズをしらみ潰しにカットオフしていく中…数分後。

 生き物の生存本能がこの世界にリンクした。

 捉えた音は、砂を這うように胴体が擦れる小さな希望にヒロキの目が輝く。

 音だけを頼りに距離と位置を把握すべく知恵を絞る。

 観察眼だけでは、限界があると知っていたからだ。

 実際のところ、環境に溶け込んだ生き物を今まで人間たちは専門家の眼力を使っても未だにすべての種を発見できていないのだから当然のこと。

 学生が閲覧できる資料とハッキングで入手した情報の二つだけでも十分な知識とは言えないと答えを出すヒロキにはそれ以上に経験が不足している。

 素人目線を補うためにイメージを拡張ブーストしていく。


『――拡張機能のレベルアップが確認されました。

習得スキルをアップデートしました。

サバイバルスキル【サーチ】です。コアをひとつ消費します。詠唱後、制限時間内に生き物が発するエネルギーを感知することが可能になりました』


 まただ。

 外部から聴こえず頭に直接聞こえるアナウンスがヒロキに情報を伝えてくれた。

 懇切丁寧な説明ではある。

 ただそれだけでヘルプ機能が欲しい、と心の底から叫びたい処ではあるが抑える。

 物は試し、ということわざからあやかってアナウンスが言う「詠唱」をしてみることにしたヒロキは述べる。


「サーチ」


 驚いた。口答だけでこんな力があるなんて、まるで声紋認証か特定の言葉に反応を示すセンサーシステムがあるとは。でも古いタイプだ。


 サーチ。という言葉を認証して発動したのはブルーの量子領域。

 空間に作用しているようで白い砂の上から数十メートルほどまでを青色ブルーの細かい粒子の波が見えている視界の角度だけでなく三百六十度の全方位に発現する。

 一定の位置で止まった波はヒロキが数歩歩いても動くことがなく、如何やら固定されているようだ。

 アナウンスの言葉通り銀色コアはひとつ消費している。

 コア枠内部で数字がカウントダウンしている様子から見てこれが「制限時間」だろうと予測する。

 青い波が視界から薄れて消える。

 白い砂の上に目視できる青色発光している物が数点あることに気付いたヒロキは近寄っていく。

 距離十メートルの位置から見た物は、環境に溶け込み擬態させた白い甲殻で外敵からのダメージを軽減させトライデント三つの矛先で捕食対象を威嚇する武器を身に纏ったサソリがカサカサと砂を蹴って歩いている様子だった。

 見た目から肉質はなくトライデントの槍部位である尻尾の毒を気にするのが一般的ではあるが、食に飢えた生き物は生存本能に従って殺意と音を消して近づいて尻尾を捕らえた。

 毒気の多い部位で知られる尻尾を潰して、堅そうな甲殻を指でこじ開けて生のまま肉に喰らいつく。

 その姿は大きな赤い甲殻が特徴的で香りと味と目を幸せにしてくれる蟹を捌いて食べることとは印象が全く異なりダイナミックで残酷すぎる光景ではあるが、マナーを守っている時間など無く放り込んだ肉の味は美味だった。

 これは飢えが極限にまで高められたことによる錯覚でも幻覚でもなく、このサソリ本来の味覚だ。


甲殻種サソリのホワイトダガー

生存分布;アルカディア大陸【白金砂丘】

希少価値;☆8[100,000Cセル~]

備考欄;専門家や冒険者でも見つけることがほとんど出来ない為、希少価値は高く一匹の無傷捕獲で100,000Cという破格な値段が付けられる。

値段に釣り合うホワイトダガーの肉は高級料亭でしか食べることが出来ず、一獲千金を目指す冒険者は少なくないことで有名。また美しい白い甲殻と尻尾がダガーのように見えることからその名が付いたとされている。


 そんなモンスターをホイホイ、と口の中へ放り込んでいく。

 十数匹目を口にした辺りでレベルアップしたことを告げられるのだが、食べることに夢中になっていた彼を止めてくれるものは警告音だけだった。

 痛い警告音に何事かときょろきょろ、と視線を左右に動かしているとサソリを捕食前にはなかった視界右斜め下にログが記載されていたことに気付いた。

 ログを意識して上部に視線を落として、順々に目で追っていく。


{ヒロキはハローワールドに歓迎されました。}

{アルカディア大陸【セラフ領;白金砂丘】に人間[アルティマ]として転生されました。}

{初めて他の転生者と出会いました。}

{転生者から平手打ちを受けました。}

{ダメージカウント;0、悪意がない為フィールドで転生者から受けるダメージカウントはありません。}

{赤髪の転生者からチュートリアルを教わりました。}

{赤髪の転生者は教養経験値Exp.100、与えられました。}

{隠獣種ネズミのラッドが【霊薬;威厳の香料瓶】を割りました。}

{【霊薬;威厳の香辛料】の影響で環境ホルモンのバランスが崩れました。}

{Level.5の屍者種ゾンビの魂亡き遺体×23が出現しました。}

{赤髪の転生者はウィザードランス専用スキル【カッターガンナー】を発動しました。}

{屍者種ゾンビの魂亡き遺体に、クリティカルダメージを与えました。}

{カウントダメージ;3000ポイント。

オーバーキルにより取得アイテムが半減されました。}

{赤髪の転生者はExp.23。

怪物の血液瓶×23、不死の心臓×10、不死の脳髄×3、不死の眼球×2、不死者のメダル×1を獲得しました。}

{ヒロキはExp.2300。不死者の霊魂×1を獲得しました。}

{ヒロキはレベルアップしました。}

{Level.1からLevel.5までの初期機能[増幅機能、拡張機能、本能機能]を習得しました。}

{ヒロキのステータスを更新。

体力値;100→580、筋力値;32→40、俊敏値;40→45、耐久値;33→34、器用値;75→80、魔力値;0→0。}

{赤髪の転生者からクリア条件を教わりました。}

{赤髪の転生者は教養経験値Exp.100。}

{赤髪の転生者と別れました。}

{ヒロキは白金砂丘を歩き始めました。}

{ヒロキのステータスが更新。

状態異常【栄養失調】と【熱中症】を患いカウントダメージ分速10ポイント。}

{ヒロキは拡張機能のLevelを上げました。}

{サバイバルスキル【サーチ】を習得しました。}

{【サーチ】を発動しました。}

{生命エネルギー青、捕食可能対象×4を捕捉しました。}

{ヒロキは甲殻種サソリのホワイトダガーを発見と図鑑登録しました。}

{ヒロキは初めてモンスターの捕食をしました。}

{ヒロキのステータスが更新。

ホワイトダガーの肉に含まれる成分が状態異常を中和しました。}

{ヒロキのステータスが更新。

ホワイトダガーの肉により体力値;217/580→580+/580になりました。}

{ヒロキのステータスが更新。

状態異常【満腹】により30分間スタミナ消費量が-50%になりました。}

{捕食総数15匹を更新しました。}

{捕食経験値Exp.1500を獲得しました。}

{ヒロキのLevelが5→6になりました。}

{ヒロキのステータスを更新。

体力値;580→600、筋力値;40→42、俊敏値;45→50、耐久値;34→36、器用値;80→85、魔力値;0→0。}

{…警告。}

{フィールドが更新されました。}

{距離500キロメートルで大獣種トカゲのシニワニが<白金砂丘の王者>に捕食されました。}


 事細かに記載された明らかな個人情報よりも連なり続ける固有名詞の数に首を傾げる。

 この情報から察するに、行動によるアクションや教養によるレクチャーだけでなくあの白いサソリを捕食することでも自分の身体的規格が成長していることが分かる。

 相も変らず最初に出会った少女の名前は分からず仕舞い。

 しかしだ。

 この情報は遣える、と確信するヒロキだが警告情報の下記に記載された新しい固有名詞とモンスター同士が共食いしているという異常事態に頭を悩ませるのだった。


「ハア…、説明書がほしい」



  ▲

  ▼



 ヒロキの位置から南東へ五百キロメートル辺りの白金砂丘にて、大獣種の中でもかなりの大物とされる一匹のケモノがもがいていた。

 鰐顔に褐色の体表をした見た目は河馬のような体格を持つ体長三十メートル級のシニワニは砂中でもがき苦しみながら泡を吹いていた。

 シニワニは臆病な性格でプレイヤーを襲うことはほとんどないとされているが、危険を察知すると砂中にダイブし逃走を図る目撃情報がある。

 捕食の対象となるのは自分の体長よりも小さな個体、例えば高級食材とされているホワイトダガーなど大獣種以外の個体種に限られる。

 天敵となるのは、この白金砂丘に生存する中でも最強と目される一個体。

 それもこの砂丘に二体ほどしか確認されておらず、ほとんど出会うことはないのだがその低い確率にシニワニは喰われた。


堅甲種サメのシロザメ

生存分布;アルカディア大陸【白金砂丘】

希少価値;☆8[全身無傷捕獲:5,000,000Cセル~]

備考欄;白金砂丘の事実上、最強の捕食者とされる別名<白金砂丘の王者>。

体長六十メートル級の真っ白な体をした堅甲種サメは現実世界ではありえない砂を泳ぐ特性を持つ。

捕食対象となる中型クラス以上の生命エネルギー青を音波で探知するプレイヤーのサバイバルスキル【サーチ】とは格が異なり、個体差によっては500キロメートル以上まで探知できる能力が備わっている。

時速三十五キロ以上の速さで砂を泳ぎ、歯の形状は単尖頭の牙状で内側に向かってやや湾曲している歯で捕食の際、砂中に引きずり込み顎の強い力で行動を不能にさせたあと砂の中ではなく一度地上から上空へ投げ飛ばすように打ち上げた後、地上で大きな顎の関節を二段階外して完食に至る。

また顎の関節を最大五段階にわたって外して自慢の鋭利な牙で餌食にする破壊力は、例えLevel.100の冒険者が完全武装しても即死するアルカディア大陸上に存在する怪物級モンスターの一体に数えられている。

仮に討伐した。または討伐に貢献した場合、例外なくExp.10,000が賞与される。討伐者にはセラフ領の領主から莫大な報酬金と称号【*モンスターハンターへの一歩*】を獲得する。

プレイヤーがシロザメに立ち向かえる最低Level.15とされているが、余裕を持たせて30以上まで引き上げて闘う者がほとんどとされているものの毎年討伐数は減少している。


 シニワニを完食し終えたシロザメはまだ何かに対して苛立ちが消えないのだろう大きな顎をグワッと広げて上空に向かって叫んだ。

 本来なら反響する障害物がないこのエリアだが、音波の微妙な違和感に気付いたシロザメは次の捕食対象ターゲットとして選んだのは、唯一近距離にて微かに反響した障害物。

 甲殻種サソリのホワイトダガーを捕食しながら南下している自分の現状を今知ったヒロキだった。

 黒澄んだ瞳が振動と音波を捉えて、捕食を終えたシニワニのグロテスクな赤い肉が残る骨を地上に吐き捨てる。

 砂中へ白いヒレだけを隠さず静かに気配を掻き消して泳ぎ始めた。

 ザザザザザ―――、と徐々に速度を上げてシロザメは助走していく。


「サメ? オイオイ、嘘だろ」


 ヒロキは運に恵まれていた。

 サバイバルスキル【サーチ】の発現圏内ギリギリの範囲に飛び込んで来た生命エネルギー赤が物凄い速度で真っ直ぐ突っ込んで来たことが分かったことから全速力で駆け数秒後、右へ『School‐Life‐Online』の体育の選択科目;柔剣道で習った通りに受け身をとって回避した。

 受け身を取ったせいか、体力値は満タンのまま変わらず銀色コアの消費もなかった。

 流石にあの速度からスピードダウンして方向転換は無理だろうと思ったからだ。

 これは車両に関しても同じことが言える。

 時速百キロでカーブを曲がるにはサイドブレーキを引く、という人為的な手法で乗り切るしかないからだ。

 猪突猛進を乗り切るにはタイミングを見計らって回避していく方がいい…が決して効率がいいとは言えなかった。

 いくらサソリを捕食しているとはいえ、回避ばかりでは恐らくどころか絶対的にそう易々と逃がしてはもらえないだろうことは目に見えていた。


 ヒロキの推測通りシロザメは速度を落として、四十五度ほど身体を捻り百八十度方向転換してシロザメの視界に映る生命エネルギー青となった捕食対象者ヒロキに向け速度を上げる。

 顎の関節を一段階外してグロテスクな血だらけの鋭利な湾曲した牙を覗かせて目一杯広げたエグイ怪物口を開いたまま砂地から三メートル程跳ね上がった。

 将大は異様な光景に硬直して動けなかった。

 ゾンビよりはマシだが腐敗臭が漂うエグイ怪物口と赤い肉やら骨が突き刺さったグロテスクな牙を見て一歩も動くことが出来なかった。

 ただ思考は止めなかった。


 死ぬのか?

 ここで俺の人生はこんなワケの分からないバケモノに喰われて栄養に変わるのか。

 痛いだろうな。いや、即死なら痛覚が遮断されてこんな思いはしなくても済むのだろうな。

 …………

 ………

 ……

 いや違うだろ。

 コイツを倒す? バカか俺は。なんの武器もなく素手だけでサメを倒すなんて不可能だ。

 不可能? 不可能なことなのか。

 考えろ、考えろ、考えろ。理想論を捨てろ。確率なんてクソ喰らえだ。

 こじ開けろ、サメの対処法を戦い方に変えろ。

 赤髪の少女が言ったことを思い出せ。

 『力の使い方・発動条件はすでに教えているわ』

 違う。もっと前……

 『基本は構築能力よ、集中して・・・』

 これだ!! 構築・集中から導き出される答えは想像する力だ。


 ヒロキは今まで描いて来た理想を。確率を捨てて。人生で初めて賭けた。

 自分の命を賭ける。という大きなリスクを背負ってこの場から逃げる「回避」を最大級の事象イメージを頭の中で膨らませて大声で詠唱した。


「―――加速!!」



ここまで読んで下さった方々、誤字・抜け字。

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