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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅰ 《ダイア樹林帯での冒険譚》
29/109

【新#029】 ファーストコンタクト Part.II

当初予定と違いますが、これからEpisode.1クライマックスに向けて執筆を急ぐ次第です。温泉回であることは間違いありませんが、百合展開は少なめ。

次話からの予定ですが、バトル展開は極めて多くなるかな?

{2015.12.13}更新しました。

今年もあと少しで新しい年を迎えますが、頑張りますので応援のほどをよろしくお願いします。


 温泉処_霧の湯。

 知る人ぞ知る隠れた名湯と名高い温泉処_霧の湯は、番台におばあさんが座っている。

 男湯と女湯へ行く入り口の間に構えられた番台は、味の深い木造と昔ながらの風格を持つおばあさんの笑顔が来訪者の心を自然と和らげてくれる。

 料金は一律、老若男女問わず「500C」を支払った来訪者を最初に歓迎してくれるのは、日本文化の極みと言って差し支えないガラス張りの向こうに設けられた和の景色である。

 苔とは言わせない見事な大自然が作り出す緑の絨毯に、源泉だろうか温かみを帯びた白い煙がまばゆい霧を作り上げて、中央から湧きあがっているだろうお湯を組み上げている木造の井戸が癒してくれる幻想的な和みが迎え入れてくれる。


 渡り廊下を歩いて脱衣所からそれぞれの引き戸を開いたその瞬間から心の芯までを解してくれる薄い霧の間を抜けた先に広がるのは、男女別の屋内の温泉から野外に設けられた露天風呂の数々である。

 薬湯の場には、炭酸ガスが溶けていて細かい泡が出る「泡の湯」や「ラムネの湯」とも言われている血管の拡張が強くなって血圧が下げてくれるものの他に、海水の成分に似た食塩を含み入浴後の肌に付いた塩分が発汗を抑える保温効果抜群の「熱の湯」がある。

 また生傷の絶えない冒険者には必須の飲むと苦味のある古くから「傷の湯」が大好評であったり、女性客にはアルカリ成分が皮膚を柔らかにして汚れをとる「美肌の湯」が文句なしで人気であったりと嬉しいことばかりの温泉処であるが観光客の目玉は別である。

 露天風呂あっての温泉だという観光客の為に作られた湯船からの景色は、トリミング撮影にもってこいの絶景が広がっている。

 ダイア樹林帯の天井、地肌に生えている透明度の高い石英の結晶体が外の景色を映している『ガーネットスカイ』琥珀色の夕焼けなどの希少な現象を湯船に浸かりながら味わえるのだからこれほど素晴らしいことはないと言えるだろう。

 温泉処であって宿屋を設けていないので本来ならば、「いい湯だったなー」という終わりを迎える訳だが温泉の他にサウナ室や卓球台からマッサージまで整ってその全てが「500C」という破格な幸加減が次の客を呼ぶ。

 時には国の重要人物であったり、最強と言われる有名人から名を上げようと意気込む冒険者だったりと多種多様なプレイヤーが訪れる。



 この人物もその一人に相当する。

 気品の令嬢やヤマト大国の守り神と謳われる絶世の美少女は、白衣を纏う護衛に囲まれて男湯や女湯とは違うVIP御用達のプライベートルームに入ったのだが戸惑った視線で目の前の少女を見る。

 プライベート空間であるこの場所には、一般客は疎か店主である番台のおばあさんも無断ではけして入室不可な結界が張られている筈なのに少女は可愛らしく首を傾げてこちらを見上げる。

 その愛らしい姿を見て一瞬で心を奪われてしまったカサネは、新しいぬいぐるみを抱く様に連れ去って気付けば一緒にふわふわっとした泡だらけで全身を包み込み身体を洗いっこする仲になっていた。

 そんな二人は打ち解けるようにサウナ室でお互いに自己紹介する。


「わたしの名は、カサネといいます。

ヤマト大国出身の新生者です。これからもお付き合いのほどをよろしくお願いします」

「あ、いえ、こちらこそ。転生者のレインです」


 改まって自己紹介するとお互いに変な感じですね、と苦笑する。

 レインは改めて自分の胸囲と友人となったカサネの胸囲を比べてがっくりと肩を下ろす。


「ふふふ、レインはまだまだこれからですので問題ありません。何なら占って差し上げましょうか」

「ふえ、カサネは占い師なの?」

「少し違いますかね。レインは血統能力をご存知ですか」


 うん、と頷くレイン。

 金髪の長い髪を震わせて汗を拭うカサネは、レインを連れてサウナ室を出て水浴びを済ませて再び薬湯の場にある「美肌の湯」に浸かって腰を下ろす。


「ゼンさん、わたしの師匠が言うには親から子へと引き継がれる血の繋がりで両親が持っていた固有能力を開花する力のこと」

「その通りです。わたしの家系は特殊でしてね。過去から現在まで同じ。

【竜の力】を宿す父様と【朱雀の力】を受け継いできた母様の間に生まれたのがわたしなの。代々、母親の力を強く受け継ぐのは必ず女の子として生まれて来て武装スキル【朱雀の力】と固有能力【星天占い】を持つのです。それに加えて成人を迎えれば、母親の仕事を引き継ぐ決まりごとになっているの。

ごめんね。暗い話になって…」


 う‥ううん、と横に首を振るレインに癒されながらも話しを続ける。


「ヤマト大国の比翼議会と呼ばれる国の最高幹部をまとめる長役をしている籠の中の鳥というのが、わたしの立場。でもね。わたしはいまとても嬉しいんだ。レインっていう友人が出来て、ほんのちょっとの自由があるんだもん」

「う、うん。わたしも嬉しいよ。こっちに来て四人目の親友だから」


 ニッコリと微笑むレインを見てカサネの心はいま撃ち抜かれた。

 女神…ではなく可愛らしい天使の微笑みに今にも抱き付きたい心境だったのだが、やっと出来た初めての友人が嫌がる姿を見たくないカサネは押し留まる。

 気を取り直してカサネは、タオルを巻くことなくこの世に生を受けた裸のまま湯船から出るなり青い量子が放つ魔法陣を展開する。


「我、星天の守護を持つ者なり。契約の名の下に我に力を貸し給え」

『契約により召喚完了――。主人曰く、【朱雀の力】を有す十八代目カサネの命により参上仕った。十八の眷属けんぞくの一つ、タバネである。

要件は何用じゃ…って、その女子おなごは何者じゃ。カサネよ。教えた筈じゃ。眷属召喚の儀式に他人を巻き込むなと。それにこうも言った筈じゃ。友人を持つなと。友なんぞ、裏切られて棄てられた挙句、心が壊れるだけじゃとな』

「母様、わたしの目は節穴ではございません。

自分の歩く道は、自分の意志で決めます」

『良かろう。好きにするといい…が、今のわたしはお主の母ではない。タバネという名を持つ契約者カサネの眷属である。母なんぞと呼ぶ出ない』

「はい…。では早速ですが、星天占いをお願いします」

『仕方ないのう。女子よ、一歩前へ寄りて名を申せ』


 レインは親子?の話なのか、何が何だか分からないというオロオロと表情をカサネが「大丈夫だよ」という笑顔で心情を解く。

 召喚された青白い光の粒子を放つ掌サイズの紙鶴の前に一歩寄って、自分の名前を名乗る。

 展開していた魔法陣は一層輝きを増して、屋内だというのに吹き荒れる風がレインとカサネの髪を天井に巻き上げて一時の間真っ白な光で視界を自ら閉ざすがタバネに声を掛けられて目を見開く。


「…………?」

『レインと申したか、女子よ。星天占いとは、占い師を職業にする星占いとは違うてな。的中率は百パーセントの予知に近い』

「え、と。悪い未来でも…見えたんですか?」

『…………。カサネ、彼女は【竜の力】を宿す少年を知っている』

「はい?」

『星天占いの的中率は百発百中のハズレなし。ハッキリと言おう。その少年はレイン、アナタを助けるために死を迎える未来が見えた』


 いきなり仲間の死の宣告を告げられて真っ青になって硬直しているレイン。


「そ…そんな、ヒロキが死ぬ? ヤダ、ヤダヤダ。ヒロキはわたしに勇気を分けてくれた大切な仲間だもん。死なせたくない。お願いします。助けて下さい」

「そうですよ。母様、いえタバネ。【竜の力】を宿す者がその少年ならば、助けなければ…」

『カサネ、貴方は自分の立場を弁えなさい。レイン、いいですか。この未来を覆すことは叶いません。彼のことは諦めなさい。カサネ、【竜の力】を持つ者はこの世に…「ダメです」…聞きなさいカサネ』

「初めて出来た友人を救えないで何がヤマト大国の守り神ですか」

『ならば、手を決して離さないこと。それが一番の救いとなるでしょう』

「は、はい。ありがとうございます」


 ぺこっとお辞儀して退出するレインは、カサネに一言残して笑顔を振りまうのだった。


「会えてよかったよ。カサネ、次に会う時はシェンリルでね」

「うん。また、会おうレイン」


 カサネは魂の力を用いた感知能力で遠くまで行ったことを確認すると、タバネに弱弱しい口調で尋ねた。


「母様、どうして嘘を言ったんですか」

『はぁ…わたしのことはタバネと、まあいいでしょう。カサネ、貴方はヤマト大国の長なのです。自覚を持ちなさい。【竜の力】【虎の力】【玄武の力】【朱雀の力】を持つ者達にはそれぞれがこの世界の運命を背負っているのです。その中でも【竜の力】を持つ者は過酷な運命を辿らなければならない。それが故に生き続ける者はより強者と成るのです。強い子を作ることも立派な貴方の役目なのです』

「わたしはそれでも…」


 カサネはそれでも救いたかった。

 初めて出来た友人とその仲間であるヒロキという少年の運命を変えてあげたいと心から願うカサネは召喚魔法を閉じて、一人泣き崩れるのだった。


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