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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅰ 《ダイア樹林帯での冒険譚》
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【新#028】 ファーストコンタクト Part.I

サブタイトルを付け加えました。

今回のお話は分かりやすくルート別にしたつもりですが、どうなのかな?

前半も僅かに修正していますが、前話【新#027】を改稿していますので、そちらから読んで戴くことを推奨します。

{2015.11.14}→{2015.11.15}→{2015.11.23}改稿完了しました。

 そもそも風呂という言葉を閃いたのは、わだかまり出来ては進展し辛い状態を改善すべく発言したに過ぎない。

 一緒に湯水に浸って心も体もリフレッシュする「裸の付き合い」と言われる日本の伝統や儀式だとかで親交を深めることが出来るという。

 そういう古書…アーカイブを読んだことがあって、発案した訳だが温泉があるとは予想外である。

 聞けば、非常に効能が高い地下数千メートルから汲み上げた名水をセーフティーポイントで唯一発見された地熱の熱源を利用した温泉だとかで、観光がてら立ち寄る冒険者も多いそうだ。

 ただ分からないことがある。

 風呂に行こうという、ただその一言が切っ掛けとなったのか?

 一致団結したように男同士で肩を抱き寄せては『さっきは悪かったねー』やら『話が分かるねー旦那は』と言って手の平を返してくる元暴走者たちの陰からまだ睨みを利かすのはクロムとサブマスのレイモンドだった。



 彼等が手の平を返してきた理由は、客人の権限があるせいだからだ…と口の軽いロビンフッドのメンバーが話してくれた。

 さっきの遣り取りでも分かるように、客人優先というのがこのギルドに設けられたルールらしいのだ。

 だからこそ例え、それが客人の命令…という訳ではないが望みを極力叶えたいということなのだとか。

 ロビンフッドのメンバー、特に男性プレイヤーにとって入浴自体が娯楽に近いものらしく、さっきの遣り取りが嘘のように手の平を返してきたという訳だ。

 気持ちが分からない訳でもないが…何とも受け応えしづらい状態にクロムがそれを解消するように背中をバシッと一喝入れてきた。


「よくやった」

「はい?」

「何を呆けている? 我が同胞よ。風呂と言えば、板と板の隙間からチラリと覗くチラリズム。壁を越えて誰にも気付かせないステルス状態で、彼女たちがいつも隠している純白の素肌を見ることが出来る。ああ、温泉。俺たちが果たすべきことは、もう分かるだろう…皆の衆!!」

―――ちょ…。

「流石は師匠―――!!」

「よっ、料理できる男は違いますな」

「ムッツリーニ将軍レイモンドさんに認められただけはある」

―――ちょっと…。


 それ犯ざ…、訴えを最後まで聞き入れる間もなく瞬時に睨む血走った眼光からは『よく言ううぜコイツ、姐さんの裸を…見といて』や『レインの裸は俺が死守する』などという心の声が聞こえたヒロキは巻き込まれることを避けるように脱出を図った。

 ただ単に仲直り出来そうにないと思った訳はなく、このままアイツ等といたら確実に自分の身が持たず尚且つ女性プレイヤーから集中攻撃を凌ぐには無理があるという判断でだ。



 温泉処_霧の湯。

 中々どうしてか、昔…一九九〇年代に建てられたような田舎の下宿みたいな風格を醸し出す木造とこの世界の価値観からとても高価な素材であるガラスが使われた和の玄関を通り抜ける。

 番台のおばあちゃんに通常料金の五百セルを支払って男女別の脱衣所まで行くところではあるが、その場を脱出するヒロキを魂の力で感知されたことにも気付かず走り抜けていく。

 風呂だ風呂だ、とはしゃぐ女性プレイヤーの中心でなだめるキリさんは走り抜けていく人影に目を向ける。

 あの先にある修練ポイントと呼ばれる自己の強化に努める場所に空間を捻じ曲げて、一瞬で目的地に辿り着く移動方法で出向かうことにしたキリことキリエは他の女性プレイヤーに一言残してその場を去る。


「すまないが、先に用事を済ませてくる」

「え? キリエさん、何処に…『キリエさんのことだもん』『そうそう、行こう』…あ、うん」


 少女はイヤな感覚と魂の力で得た予知が訴えかけているように感じられたが、キリエを止めようとはしなかった。

 それは彼女が事実上、自分の所属するギルドで二番目に強い冷徹なるプレイヤーだからと言えばその通りだが…何となくと言うレベルなので追うのを諦めたのだ。



 セーフティーポイントと森林ポイントを挟むように位置する小さな…と言えど野球とサッカーの二つのスポーツが出来るほどの広さを持った修練ポイントがある。

 ただし硬式ボールやサッカーボールの類はない。

 何の修練に用いるのか不明な洞窟に真似た一方通行の穴倉。

 赤・黄・青、信号機で使われる三色がそれぞれ染められたコンテナがこの場所を異質なものに変えているが、いつかに訓練で励んだカカシが数体設置されているところから修練所と呼べなくもない。

 間反対には商人らしき怪しげな人物たちが露店を開いて、若い冒険者を引き止めて並べた商品の説明を施している。


 温泉処から逃亡を図ったヒロキは、別段と修練ポイントを目的地として選んだ訳ではない。

 魂の力を利用した探知能力が捉えた極めて大きな魂の波動と美味しそうな臭いに誘われたのだ。

 探知能力の結果通り、ポールが数本地面に刺さった修練ポイントの入り口から見る限り修練所には三人のプレイヤーが見える。

 ガラの悪い死神の刺繍を施されている黒いジャケットに、黒いフードで頭を隠している一見不良にしか見えないプレイヤーが、火を灯していないタバコを咥えてベンチを占領している。

 淡い水色を基調とした着物を着こんだレインよりも小さな容姿をしたプレイヤーは撫子だろうか、と思えるほど和に包まれ洞窟内でも日傘を差して修練に勤しむプレイヤーを見詰めている。

 もう一人のプレイヤーは訓練用のカカシ数体を相手に何の装備もなく、素手で急激に変化する攻撃を受け流して目と感覚だけで避けているように見える。

 時間制限が設定されていたようで数分が過ぎた辺りでカカシの動きが止まる。

 カカシの電源を切って撫子の少女からタオルを受け取る若い男は、掻いた汗を拭いながらこちらを見てきた。


「…アンタ、ルーキーだろう」


 その言葉を聞いた途端に撫子の少女は、幽霊や幻影のように消えて行く様子から見て何らかの魔法を行使しているのだろう。

 不良は寝ているように見えるが、魂の力によってそれがフリだと分かる。


「だったら、なんだよ。初対面の相手に言うセリフじゃないと思うけど…」

「…そうだな。

俺はダイン。ギルド「六王獅軍」四番隊第五席の狙撃手スナイパーだ。

いまステルス状態になったのが、ホシヒメ。同じギルドの五番隊第三席の巫女ヒメ

あそこで寝たふりをしているのがユナン。四番隊首席『魔王の右腕』だ」

「おっと、悪い‥俺の名前は―――『ソイツ等に名乗る必要はない』‥え?」


 数十センチ離れた真横に宙に浮く球体が出現したそれはそう言った。

 捻じ曲がる空間の裂け目と言っていいのか狭間と言った方がいいのかは定かではないが、彼女キリさんことキリエが現れた。

 それが魔法の一種なのか悩むところではあるが、いまは彼女の言動の意味を知りたかった。


「六王獅軍、ソイツ等が歩くところには骨と灰しか残らない戦場を闊歩する。血に飢えた狂犬どもだ。イヤな予感はしたが…最悪だな」

「そんなにオレが怖い?」



 ゾッとした。

 寝たフリをしていた不良がいつの間にか自分たちの目の前にいるのだ。

 それだけではない。

 キリエさんの冷酷なるインフェルノの囁きよりも恐怖する…悪意に満ちた問いに訊かれてもいない自分の足が竦ませる。

 狂犬と言ったが、犬よりも遥かに怖い存在を知っていた。


 答えは人間だ。

 人間という生き物以上に怖いものはいない。

 言葉というありふれた文字の塊を変換させた一種の凶器は、他人や自分の深い闇の部分を掘り起こして刺激する。

 感情、呼吸、脈拍、目の動き、気配、気温、体温などのステータスのすべてが密接に雑じりあった時、言葉の凶悪さは際立ち真価が発揮される。

 恐れを悪意に変換させた暴力を言葉に顕現させることが出来るのは人間だけだ。

 どんな凶悪な武器よりも強力なそれを保有する人間は、この世界で息づくモンスターの存在よりも環境が与えるバッドステータスよりも根深く怖いものだとヒロキは経験上知っていた。

 イジメ、それは残酷なほど人間が理解しえない究極の問題だ。

 自分がいた二〇四一年でも解決できていないのだから…つまるところ、人類は自分たちの心の自由なまでの在り方について解き明かしてはいないということに繋がる。

 それがたった一言。

 何の素っ気ない一言で個人の理解は、他人の思考を越えた予想外の化学反応を起こす。

 容赦なく突きつけられた無法な言葉は、視覚情報から読み取ることの出来ない解析不能な自分の心を蝕んでいった。

 それでも彼の言葉は語るように衝撃の真実を口にして続けた。


「オレは、ね。

クソッタレな世界をこの手で壊したいんだ。最悪で結構じゃないか。

それでこそオレの異名である『魔王の右腕』が映えるってもんだ。

ルーキーも知っておいて損はないぜ。

この世界でまだ一度も英雄祭を見ていない転生者たちとこの世界で生を受けた成人たちの黄金世代で最強と呼ばれているのは四人だけ。

四神の力【朱雀の力】を有する予言者『太陽の巫女』カサネ。

古参が嫉妬する情報力と情報網を持つ天秤『銀翼の鷹』クモ。

史上最速でレベル百に到達した怪物『紅蓮の閃光』アリア。

不動のレベル一にして暴力の化身『魔王の右腕』ことオレ、ユナンだ!!」


 四年に一度開催されるオリンピックのようなビックイベント「英雄祭」の終日から次の「英雄祭」始まりまでの四年間に転生を果たしたプレイヤーと四年という期間で成人この世界で十六歳になった新生者たちを世代別で分けている。

 ヒロキを含めたレインやクロムにカエデたちが対象となる世代をクルス曰く「黄金世代」と呼んでいたことを思い出す。

 黄金世代と名付けられた由来は、プレイヤーの平均ステータス値が非常に優れたものであることと歴史上飛び抜けた偉才を持っていることが確認されているらしいからとのこと。

 それにこうも言っていた。

『ヒロキは恵まれているよ』

 それが意味するのは、きっとクルスが魔法大戦の一歩手前「暗黒世代」のプレイヤーたちの一人だからという訳ではなく、それ以前の何かを感じられたが…いま、思い老けることではない。


「…名乗っても無駄です。

彼は恐らく黄金世代、最後の転生者でしょうから中二病を自慢する愚かなチンピラにしか見えていません」

「へぇー、なら身体に教え込んどくか」


 暴力だった。

 身構えるよりも反射神経が追いつかない。

 無茶振りの豪快な力が圧縮された白い弾丸は、ヒロキの顔面に迫った時漸く認識できるそれは鼻をかすめて消失する。

 何が起こったのか理解の範疇を越えた戦闘技術よりも、口元が歪むユナンの表情の方が数十倍怖かった。

 一言で済ませる思考が途中で途切れ、次に目を見開いた時だった。

想像を絶する光景が広がっていた。

ないのだ。

 自分の前に立ち塞がった彼女キリエさんの右腕がない。

 いや正確には、宙で浮いている棒切れが腕なのだろうけど繋がっていない切り離された面影だけを残して自分の顔に液体がぶちまけられた。

 それが彼女の血液だと知るよりも早く、機関銃のように白い弾丸をキリエさん目掛けて撃ち込まれていく。

 …が、それを許さないキリエさんが空間を捻じ曲げて必死に自分を守る姿が見えた。

 悪意だ。

 彼の存在そのものが漆黒に包まれた闇に蹂躙された絶対的な悪魔。

 感覚神経と命令を与える意思の集合体と言われる脳。

 肉体のすべてを円滑に動かす循環の中枢器官である心臓。

 張り巡らされた細胞素子と神経の糸が真っ黒でなければ、この惨状を笑って過ごせるわけがないと確信する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 叫びよりも早くか無意識に動くヒロキの身体を止めるのは、空間を捻じ曲げた水色のビードロを模した盾だ。

 キリエさんを見ると、素顔が見えないが笑って答えてくれたが声の印象からユナンの強さが滲み出ている。


「君が心配するようなことではない」


 それを証明するように現代科学でも自分の想像を遥かに超越した全く新しい神秘の現象が目の前で起こっていた。

 切り離された骨が突き抜けた真っ赤な肉片から細く美しいクリアで水色の糸が、キリエさんの失った腕に繋がっている奇妙な光景。

 連射する白い弾丸に当たろうとも千切れずに幻を突き抜けるようにあっさりと貫通していく。


「流石はロビンフッドのサブマス。そうでなくちゃ。虐殺のし甲斐がないだろ」


 ネジがぶっ飛んでやがる、と正直に思った。

 一方的な攻撃、反撃の隙もない連弾連射を打ち込んでいる人間のセリフとは到底思えない。

 忘れるところだったが、さっきからあの男ダインとかって言ったか見ぬフリをしているのか興味を持ち合わせていないそんな表情でこちらを見ている。

 何よりもあのホシヒメとかいう女の子も見当たらないし、これだけの騒ぎでなぜみんな気付かないのは…。


「…そんなに可笑しいことか?」


 声の印象からダインの言葉だと分かるが、今まで何も干渉しなかった奴が今更何をという顔で見ると涼しい表情で自分を見てきた。


「異名の言葉を知れば、理解できる範囲だと期待していたが想像以上に無知なのだな君は。

『結界の巫女』その名の通り、ホシヒメの固有能力ユニークスキルを示したそれは防衛の切札。封印結界術を用いた絶対防御は何も守備力を上げるものではない。

結界内の空間で発生する音や衝撃を漏らさない役割を持つ…『防音効果か』そういうことだ」

「アンタはなぜ手を出さない」

「あの人に関わりたくない。巻き添えを食うのは御免だ。

それに自分が求めるのは、純粋な戦いであって虐殺ではない。他に質問は?」

「そうか、安心した」

「安心? 何を言ってる」

「対人試合で試したいスキルがあるんだ。一応は修練ポイントな訳だし、付き合ってもらえないかな。勿論、希望は純粋な戦いで」

「…面白いな。君。名前を聞いておこうか」

「シェンリルを目指す放浪者のヒロキだ」




 ヒロキが提案したのは、PvPの中でもポピュラーな実戦形式とされる「モード20」。

 指定されたフィールドで制限時間二十分の中、魔法禁止と回復アイテムなしの絶対的な制限を敷いた軍事ギルドでよく使われているダイン曰く純粋なモノらしいが、ヒロキにとってこれ以上に都合のいい試合はないだろうと思うところがある。

 準備を整えるために怪しげな商人からアイテムを買い揃える。

 魂の力を使って自分のメインウェポンに近い火打石の特に良質なものを選び抜いて、単価五十セルを二十数個購入して装備する。

 堅甲種クモのクワトコスパイダーが生み出す素材アイテムで、ナイフでも切れない上質で柔軟な金属の糸と言われる単価二百セルの鋼糸を十本。

 何処でも購入可能な鉛製の矢じりと鉄製の撒菱、各単価六十セルを十個×五セット。

 これで準備OK…な訳がない。


―――困ったな。相手ダインの装備は、機関銃サブマシンガンと大口径の自動拳銃と分かっているものの…経験がないからな。

「お客さん、お困りで?」

「ああ、うん。PvPのモード20をこれからするんだけど、重火器メインのプレイヤーと戦ったことがなくてね。どうしたものかと…悩んでるところなんだ」

「おお、それでしたら……これは如何でしょう」


 商人から手渡されたのは、アンティークなボウガン一式である。

 なぜにこれなのか、と尋ねる前に商人の方から説明があった。


「お客さん、見たところ転生者様でしょう。この世界の通貨については、どの程度の知識がございますか?」

「共通認識の通貨はセルで、システムを通して支払いをするために現実的な物質がない仮想硬貨に近いもの…かな。悪い。まだ、こっちに来てからというもの商人に出会ってなくてイマイチ分からないけど、合ってるかな」

「ほうほう。では転生者と新生者の違いはお分かりですかな」

「……もしかして、貧乏だと思われてる?」

「おおう、頭の回転はいいようですね。その通り、わたしも一端の商人ですからね。品物の選別から客の懐まで見切るのがプロってもんですので安価で尚且つ頑丈な代物を紹介したまでです」

―――うわあ、客人を一発で貧乏人と見極めるなり安物しか売りつけんとか悪徳商人かよ。まあ…確かに、財布を見る限り「315,000C」とあるがこれを日本円に換算するとどうなるのだろうか、の前に安価で頑丈というわりには高くないかコレ?


 木製のアンティークなボウガン一式を持ち上げて、動作確認をしようとした矢先のことだった。


「止めときなよ。お兄さん。その装備一式を持った瞬間に壊れて慰謝料を取り立てる仕組みだよ。露店の商品よりもボクの作ったシコウの一品をプレゼントしよう。おっと申し遅れたな。ボクはさっきPvPを申し込んだダインたちギルド「六王獅軍」専属商人のトウマです。お見知り置きを」

「ああ、どうも…」


 プレゼントされたそれは、赤いビー玉と青いビー玉がそれぞれ五個づつ入っていた訳だが…この時のヒロキには遊ばれてるなこれは、という発想しか思い浮かばなかったがトウマ曰く『ボクの実験に役立つモルモットになってくれ給え』と言っていたことから至高ではなく今更ながら試行だと気付くのだった。



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