【新#027】 インフェルノの囁き
{2015.11.3}→{2015.11.14}改稿しました。
序盤から所々、後半に連れて大幅加筆を加えて改稿しています。
お楽しみ戴ければ幸いです。
サブタイトルも更新しました。
さて、私情を挟みますが先日休暇を頂き、13日から公開されているItouProject劇場アニメ「ハーモニー」を観賞して参りました。
ミァハの壮大な過去と(に)向き合うトァンの泣ける作品ですので、ぜひ劇場に足を運んでみてください。
「罪人には制裁を加えるのが常識だよな」
「にぃ、に同意」
「「「「「「「「「「同感、同意、罪人には死をもって償わせる」」」」」」」」」」
―――!? なに? なにごと!? ちょっと待って。俺はただ単に意識を喪失したレインを抱っこして、テントハウスに運んだだけの筈が…なぜ、カエデ以外のフルメンバーが殺気を放ってんだよ。
訳が分からないヒロキは、答えを求めるべく口を開いた。
「俺がなにをしたって言うんだ!!」
「「「「「「「「「「「「はあ??!」」」」」」」」」」」」
―――おいおい、いつ俺が全員を敵に回すようなことをしましたか。
数十人の男性プレイヤーは揃って互いの目を合わせたかと思いきや、ぐるりと一斉にヒロキの方向に顔を向けてくる。
それは一種のホラー現象に近い物を感じ取れる。
顔をこちらに向けたままじりじりと歩いて近寄って来る彼等は、思い思いの言葉を吐いて話し合うように答えを絞っていた。
「今更、何を恍けてんだ」
「その頭、カチ割るぞ」
「いや、待て。ここは…」
「ここは?」
「水責めだろ」
「いや、酒責めだろ」
「「「「「酒マニアは引っ込んでろ」」」」」
「…はい」
「やっぱりここは、アレだろ」
「ノコギリ、ハサミ、ペンチ、バール、チェーンソー」
「拷問道具じゃねぇーか」
「じゃあ、やっぱりアレだな藁‥」
「呪いアイテムは却下だ」
「なぜ分かったし」
「電気椅子は?」
「それは処刑道具」
「はんだこて」
「なんに使うつもり?」
「サイコパス芸術の一環」
「「「却下だ」」」
「「なら丁度、火柱があるんだ」」
「ああ、なるへそ」
「「「「「火炙りの刑か」」」」」
如何やら答えが出たらしいが、血走った両目の赤い視線と狂気を抑えることもしない暴走状態の彼等を止めることも叶わずにいたヒロキは心の中『人の話を無視するなぁぁぁぁ』という叫び声を上げずにはいられなかった。
第一にその答えは彼等が自分に与える罰の話であって、ヒロキ自身の答えが返っていないのだから無理もない。
ジリジリと迫って来るクロムとレインを含め、しょんぼりしてどこかに行ってしまった大柄の男性プレイヤーを付き添うように離れていった女性プレイヤーたち。
拘束状態にあるオッサン、クルスを除く総勢三十四名が赤い眼差しを放っている。
頭が困惑する中、自分の頭部から何かが離れる感覚があった。
カエデが座って自身の看病をしてくれていた膝枕である。
ちょっと待っててな~、と言うカエデはふわっとする低反発クッションみたいな柔らかい枕を代わりに置いてくれた。
立ち上がったカエデのキツネ尻尾がヒロキの顔を撫でる。
もふもふ感が素晴らしい、と堪能しているヒロキの表情にレインが泣き崩れる。
その時点で理解不能。
解読不能のヒロキは、首を傾げても答えは出ないままである。
「…ヒロキ。拳を交えたからこそお前を仲間として認めたのは事実だ。でもな。妹に手を出したらどうなるか分かってるよな!!」
―――?? いや待て、抱っこ程度で怒るなよ。シスコンにも度が過ぎるだろ。
庇うようにレインを抱きかかえるクロムは、こちらを睨んでいる。
未だに困惑するヒロキの表情を読み取ったカエデは、ヒロキを隠すように立って迫って来る暴走者たちの進行を阻む。
不意のカエデの行動に我が身を震わせながらも陣形を変えて囲んでくるが、それを抑制するように魂の力で暴走者たちの動きを鈍らせる。
「しゃーないな。ウチが説明したる。
そこのカワイイ嬢ちゃん。レインちゃん言うたか? 勘違いはそっちや。全裸の私を抱きかかえとったんやのうて、気絶したヒロを支えとっただけのことや。それをレインちゃんは、抱き合ってたって。そんな事、ヒロがする訳ないがな。女性への免疫力ゼロのチキンやで」
―――ん? いま、何気に酷いことを言われた気がするが…気の性か。
「待ってくれ、それなら俺たちは別に問題ない。そうだな、みんな?」
「「「「いや、まて大将。全裸を見た。それは―――万死に値すのでは?」」」」
「ああ、そうだな。サブマスの権限において殺処分を所望する。皆の者、奴を消せ!!」
―――! ええ、お前サブマス!? 殺処分って俺は家畜かよ。いや待て、さっきカエデがチキンとかって言っていたがそれと関係あるのか。いや、そんなことはどうでもいい。このままじゃあ殺される…、…冷静になって速やかに答えを出すんだ俺。
ということで自分が知る限りの情報を脳内でイメージしていく。
まず始めに記憶に残っていることと言えば…。
意識を失ったレインを抱っこしてテントハウスに入って寝かせたところから記憶がない。
これにカエデの言ったことが真実だとして組み込んでいくと、全裸を見て気絶した自分を支えるような形で倒れる。
目を覚ましたレインが見間違いで抱き付いて卑猥なことをカエデに遣っているように見えたと。
うん?
首を傾げて再確認する。
しかし、レインが泣き崩れたのか説明がつかない。
物思いにふけ込むヒロキだが、サブマスの異を唱えるクロムが攻め立てる。
「記憶を消す? 甘いな。青二才の考えることは砂糖よりも甘いぞ。全裸を見たなら、身包み剥いでpiiiiiiiiiii,piiiiiiiiiiiiiiipiiipiiipiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiだ」
―――マジか。この世界が拒絶する言葉を混ぜやがった。なにをする気だ。シスコンを越えてその目は犯罪者だよ。
「にぃ、言い過ぎ。ヒロキの性じゃない。
わたしが、その…襲われたのも…気の性だと思うし」
―――!!! いま、なんて言った? 襲った? 俺がか…、いや落ち着け。ここで取り乱してはいけない。カエデがメッチャ睨んでんのは俺の性なのか。そうなのか!? 俺の記憶よ、カムバック。
そんなことを唱えても無駄だった。
その間にもレインの言葉が暴走者たちの耳に入って侵食していく。
「おい、いま襲ったって」
「こんなカワイイ女の子を?」
「これは、いかんでしょ」
「全裸どころか、ロリコン罪」
「よーし、全員武器を構えろ」
「「「「「「「「「「「「うーす」」」」」」」」」」」」
「肉体が滅ぶまで奴を消し炭にしろ!!」
サブマスターと名乗るレイモンドの指示でこの場にいる全員が己の武器を持ち構える。
ある者は凶悪と言わんばかりの漆黒の両手斧を振り上げて怒声を放つ。
ある者は魔法陣を手前に設置すると、召喚魔法だろうか『出でよ。ケルベロス』と詠唱して赤と橙の火花を散らせながらもそれを纏う大きなオオカミを出現させる。
ある者は己の魂の力を解放させて全身武装を果たす。
また、ある者は…というように全員が全員、臨戦態勢に入る。
じわじわと迫って来るまさしく絶体絶命のピンチを迎えるヒロキを救ったのは、カエデから聞かされていた三人のサブマスターの筆頭、キリさんだった。
「止めんか。馬鹿どもが―――!!」
キリさんが発動させたのは、魂の力を言葉に含めた強力な強制力を持った抑止。
一斉に静まり返る場の空気にキリさんがビビるにビビった自分の手を握って起こしてくれた。
全員から注目の眼差しが痛く突き刺さる。
ここから見えるだけでも、クロムは煮えている途中…いや沸騰しているのが表情に滲み出ているのが凄くよく分かる。
レインは潤んだ目でクロムの影からこちらを覗いている。
カエデは信じていたのに、という目でこちらを見ている。
レイモンド以下、数十人の暴走者たち「ロビンフッド」のメンバーは怒り狂う寸前の者もいれば、半ばキレている者も見受けられる。
唾を呑み込んでも解消されない完全な修羅場空間に助け舟を出してくれたキリさんの横顔を窺うものの、帰って来るのは静寂と氷点下の眼差しだけである。
全員が委縮しきっているこの場面で口にすることは決まっている。
過去、イジメ経験したヒロキは考えることなく『見せしめにされるのだろう』そんなネガティブな答えに辿り着いていた。
しかし、キリさんの思考と方向性がまるで違うものだった。
「…肉を食え、魚を食え、野菜もしっかり食って、少々の酒盛り、それが冒険者の宴ってもんだろう。いま武器を持ってる奴、肉と魚を食うな。客人を速やかに案内し、メシを食え!!」
上に立つ人間が話題をこの場合は論点を強制的にズラスことで多少の揉め事は解消されると言うが、ヒロキはただただホッと胸を撫で下ろすのだった。
尊敬できる大人の対応を取ってくれたキリさんに感謝するヒロキは、頭を下げてお礼した。
「謝るのはこちらの方だ。そうでなくとも客人の身であるあなた…ヒロキと言いましたか。こちらの非礼をお許しください」
「あ‥頭を上げてください。こっちこそ、勘違いの原因はおれ‥いえ、ぼくにある見たいなので」
逆にお礼を言われたヒロキは、たじろぎながらこちらこそと頭を下げる。
両者ともに頭を下げるという光景にカエデが会話に交わるように、ヒロキの背中をポンと押す。
「へ…、なにご…と」
突然のことに訳も分からず転倒するヒロキは支えを無我夢中で掴んで立ち上がろうとするのだが、何故かカエデが震えた声で『あっ』と聴こえる。
何かしたのだろうかと前を見ると、小さなオッパイに触れた手をそっと退かせるヒロキは一礼して後退るがキリさんの表情は険しい。
妖怪でいう雪女の険しい鬼の顔が冷たい零下の目とシンクロして尚怖いキリさんだが、その冷たい視線は自分に向けてではないことに気付く。
冷凍庫にいるような気分になるほどの冷気と彼女の静かな怒りを含んだ言葉は、この場にいる全員を金縛りにさせていた。
「楓ちゃん。何か言うことはないかしら。私ね。客人には失礼のないようにと念を押した筈よね。レイモンド君は、覚えているわよね――『はっ、はい!!』――ねぇ、キツネの尻尾を剥製にしたら、さぞかし高く売れよるよね…」
―――超怖い。超怖い。怖すぎて、誰も動いてないし。さっきまでの暴走者たちが全員、氷みたく固まってる。サブマスなんか目が金魚みたいにギョロメで震えてるし、カエデは…。
「はん。そんな脅しに屈するキツネのカエデさんじゃないもんね。ヒロ、行こ。ウチが案内したる」
―――ええええ!? 元気すぎだろって…!
割り込むような形でそれを許さないのかは分からないが、さっきまで泣き崩れていたレインが小さな手で引っ張っる姿が目に入る。
「ヒロキは、私と食べるの。ダメ?」
―――なにこれ。どういう状況?
両者ともに譲らないので結局、ズルズルと引き摺れらてヒロキを真ん中に挟まれ右側にレイン、左側にカエデという状態で席に跨って腰を下ろす。
両手に花とはこのことを言うのだろうことよりも、ヒロキには解決すべき案件が二つあった。
一つ目は皆さんお気づきことだろうレインの兄であるクロムのことだ。
こちらを凝視した状態で料理に励んでいる…どんな器用さだよ、と半ば称賛に値するものではあるが危険極まりない。
二つ目は暴走者たちの行動である。
さっきから嫌がらせのように香辛料たっぷりの舌がヒリヒリする料理ばかりを運んでくるそれらを彼女ら二人が争いながら自分の口に次々と押し込むように『食べて』と進めてくる。
ヒロキはこの状況を打開すべく、思考を巡り巡らせて食べ物を口に含んだまま言葉を走らせる。
「ふぉろにこう(風呂に行こう)」




