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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅰ 《ダイア樹林帯での冒険譚》
25/109

【新#025】 金は天下の回り物

{2015.10.25}新規更新→{2015.11.1}改稿しました。

序盤から所々、後半に連れて大幅加筆を加えて改稿しています。

お楽しみ戴ければ幸いです。

サブタイトルも更新しました。

今後の予定;矢張り週一ペースで前話の改稿と新規で一話更新という形が続くかと思いますが、応援のほどをよろしくお願いします。



 貿易都市シェンリル。

 夜間それも天辺を回った深夜という時間帯ということもあり愚生通りの人気はなく、コソコソと小声で話す若者もいれば、大金を払って商品を買い取る商売人に目を光らせる衛兵の姿が見受けられる。

 この町に到着した時点で当初の護衛依頼を完了した二人組だったのだが、その直後二人が所属するギルド「バイスマン」のサブマスター、シトラスと偶然出会ったことが今回の敗因を生むことになっていた。


 天辺を回る二時間ほど前のシェンリル大通り三丁目にどっしりと構えられた朱塗りの壁と中華風の外見が他の店を圧倒する二ツ星の肉料理店「怪物の箱庭」。

 元冒険者が開業している名店の一つに数えられ、その多くは同業である熟練の冒険者から多くの支持を受けるだけあって料理そのものがゲテモノ料理、即ちモンスターの肉や内臓物をメインに調理したものが多いのだ。

 全料理一律、一万セルということもあってシェンリルの住人や海外旅行者からも一目置かれているそんな店の肉料理の前菜がこちらである。


 アヒルの卵を灰の中に埋め二か月間しっかり熟成させた中華料理の皮蛋ピータン、外見は黒い茹で卵のように見える。

 白身の部分は黒いゼリー状でアミノ酸の結晶らしく、黄身の部分は翡翠色で濃厚なたんぱく質の塊だけあって見事な見た目に加えて、希少モンスターの代名詞で知られる金ぴかスライムのテカテカツルツルした球体ジュレで包み込んでいる。

 宝石にしか見えないこの具材を鳥獣種コカトリスの骨から出汁引きした醤油ベースのスープから湧きあがる香りと濃厚な味が次の食を欲しがる最良の一品「ピータンと金ぴかスライムの極上スープ」。


「うっめぇー」

「…、美味いっす姐さん」

「おいおい、堅苦しいことはなしだぜ、バイモン。ゲイル、テメエは相変わらずだがな」


 ピータン単体では少しだけ生臭いので嫌いな人が多いことから、金ぴかスライムのとある内臓物から抽出したジュレを用いた調理法で臭みを浄化して、旨味だけを閉じ込めた具材で味覚云々に関わらず調理技術だけでも三万セルはいけるであろう料理を堪能してそれぞれ感想を述べていく。

 その感想を聞いて男ぽい口調で話す女性プレイヤーはサブマスのシトラスである。


 シトラスと言えば柑橘類、特にミカン属を指す言葉であるが彼女の存在はどちらかと言えばレモンみたいな感じというのがギルド「バイスマン」メンバー全員の認識だった。

 彼女が動く時に関わるのは自殺行為だ、と皆が口を揃えて言うのだ。

 最初はどんな天災を呼ぶ人かと思いきや彼女がメンバーに押し付けるのは、Sランクのような難易度が高いものではないにも関わらず高額報酬もない常に面倒事ばかり。

 だからこそバイモンはこの会食事態に何かの前払いだろう、という風にしか受け取っていなかったのである。

 隣でマナーもなくズルズルとスープを啜っているゲイルもこのことは知っている筈だが、彼の性格上からいって今頭にあるのは料理の味ぐらいなのだろうとがっくりする。


「なになにぃ~、バイモンっちは私の奢る飯を食えんと」

「…、いえ。ただ――」

「すみませ~ん。「コカトリスの手羽先」と「ブラッドドラゴンの霜降り」と「ホワイトダガーの脳味噌煮込み風」に「ダイルワニのソテー」と「辛口ドライビール」でお願いしまーす」

「あいよ」

「ゲイル、オマエは少し自重しろ。私を破産させるつもりか。全く、ギルマスからの勅令で護衛任務に半年なら兎も角な。一年とはなんだ。

一年、三百六十五日、八千七百六十時間、三千百五十三万六千秒を本当に護衛していたのか疑問に残るところが多々あるんだが弁明したいことがあるんならここで言っておけよ」

「「!!?」」

「押し黙るってことはアレだよな。当然あるんだろう…が、まあいい。この件をギルマスにツッコんだら沈黙しか返ってこなかったから大抵のことは分かる。だが、それはそれだ。言いたいことは分かるな?」

「メンツの問題ですか」

「違う。私の気が済まないんだよ。よって二人には、現時点を持ってとある人物と接触して依頼を達成してもらいたい。ああ因みに前払いで全額受け取ったからキャンセル不可な。じゃあ、任せたぞ」

「「え?」」


 まるで逃げるようにすたこらと店内を出ると、厨房の奥から料理長だろうかというぐらいの腕っ節のいいおやっさんが出てきた。

 腕っ節を置いておくにしても形相が怖い…と言うか、がつがつと飯を平らげるゲイルの後ろに立つ存在感は―――一言でいえば鬼のそれだ。

 何か悪いことをしてしまっただろうか、と思い返すバイモンの頭の中で思いつくことと言えばゲイルのマナー違反の弩を越えた食事作法ぐらいだが、それ以外と言うと思いつかない。


「お客さん、本日より英雄祭に向かっての準備のため営業時間を十一時までとなります。従って次の注文がラストオーダーにさせて戴きますがいかがなさいますか?」

「…、えっと」

「じゃあ、「アンゴレドリアンの氷点下シャーベット」と「オレンジチェリーのハチミツケーキ」の二つでよろしく」

「申し訳ありませんお客様。本日、お客様はアルコールを摂取していますのでアンゴレドリアンとの相性が悪く、またの注文をお願いできますでしょうか」

「そうなの? じゃあ、ケーキだけで」

「申し訳ありません。ではご注文の確認と精算確認をお願いします。ラストオーダーは「オレンジチェリーのハチミツケーキ」を二品で――『はい』…、「ピータンと金ぴかスライムの極上スープ」が三つ、「サービスメニュー 白銀米」が三つ、「コカトリスの手羽先」がお二つ、「ブラッドドラゴンの霜降り」がお一つ、「ホワイトダガーの脳味噌煮込み風」がお一つ、「ダイルワニのソテー」がお二つ、「辛口ドライビール」が五つ、「オレンジチェリーのハチミツケーキ」が二つ。計十九点で十六万セルになります。また先程の女性から伝言がありまして、『飯は確かに奢ったわ』ということです」


 おやっさんのその最後に言い放った言葉でバイモンは頭を抱え込む。

 その行動に疑問を持つゲイルだが、次第に顔色がブルーになっていっていることから漸く現在自分たちが置かれている状況を掴んだのだろうと察するが既に遅かった。


「ウチの店でツケは出来ませんよ。お客さん、金は天下の回り物。身包み剥いででも代金はきっちり戴きやすんで覚悟は宜しいですか」


 昭和のヤクザかよ、というツッコミを吐く訳にも行かず心の内で押し留める二人は同じアクションを起こして手持ちの所持金を確認する。

 その結果バイモンの所持金が六万セルとゲイルの所持金が百セル、合計で六万百セル。

 はい、この通り全く足りません。

 …と言うのも、マイトさんの護衛任務を終えて直ぐに報奨金を使って装備品のメンテナンスを行ったからに他ならないがゲイルに至っては新しい武器を新調したことが今の所持金を物語っている。

 まあそんな言い訳が通ることもなく一番値が張る武器ではなく、いま着用しているシャツやズボンなどの衣服類をすべて剥ぎ取られ無一文で解放された。

 とある依頼主と接触するために低気温の深夜を歩いているが、正直言って死亡フラグだとしか言えん状況で相方がくしゃみをする。


「ぶえっ、くしょん」


 誰かが自分の噂をしていると直感的に確信したゲイルは、くしゃみに反応して後退るバイモンに近づいて蹴とばすのであった。


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