【#024】 Homunculus -ホムンクルス-
よっし!という気持ちで改稿完了。
{2015.10.19}→{2015.10.25}→{2016.2.13}
「うわああ。魂の力ってのは、すごいな」
鬱蒼と生い茂る森林の中を歩く三人の内のひとりが新しいおもちゃを手にしたように驚いていた。力のことを二人から教わった少年は早速行使して、低い樹木に実っている果実を千切っては口の中へと頬張っていた。
…が、その果実を齧ることは叶わなかった。
「かたっ、なんだこれ?」
食材[野菜];アンゴレドリアン
採取可能分布;アルカディア大陸 寒暖差が激しい森林
希少価値;レアリティー☆6~8[5000Cセル]
カロリー;500kcal[100g]
栄養成分;お酒などのアルコール類と一緒に飲むと大変危険ですが、栄養価が非常に高いフルティーな果実ですが野菜である。
特徴;真っ黒で巨大な果実には栄養と言う名の爆弾が入っている。
備考欄;一口含むだけで体力値が全回復する美味さを秘めていますが、専用の大槌で殻を砕くには注意が必要で、叩き方が悪いと食べられる果実が爆発します。
料理スキル【菓子作り】を鍛えずとも、生食でガッツリ食べれます。
『武装スキル【魂の力Level.1】が見い出せる力量の範囲は、自ずと限られた物になる』
と言ったのはクルスの言葉だ。その言葉に対してカエデが発言した。
『私が使えるレベル一って、索敵と急所なのよね』
この答えから導き出されるのは、個々のプレイヤーによって使えるものが違うということ。
索敵。即ちあの時偶然を装ってエリリンギを一撃で仕留めたという訳でなく、「魂の導き」という青いオーラをモンスターとして認識からのサバイバルスキル【隠蔽】を使ってステルス行動で追っていたのだ。
急所。完全なステルス状態から弓での遠距離射撃。モンスターの急所部位が見える「魂の導き」によって生まれたクリティカルヒットダメージでエリリンギを討伐。
どれもが今の彼女にはしっくりくるものばかりだ。クルスの言った通り、『魂の力とはプレイヤーの本質』なのだ。
俺の手に入れた【魂の力Level.1】は、領域索敵と急所である。
通常の索敵は、モンスターやプレイヤーが放つ敵意。動くことによって生じる音やオーラの色判別を頼りに発見するというものだが領域索敵は、自分の立ち位置を中心に力の消費なく凡そ一キロ圏内の全てを目視できる優れもの。
さらに言えば「魂の導き」によって、夜間であろうとも良質な食材であれば安全な色らしい青色のオーラを視認できるので問題なく果実を口に含んでいる現状。
…なのだが、まだデメリットを把握していなかったこともあって硬い殻ごと丸齧りした性で痛む顎と口元を手で押さえていた。
「クルス様。
彼は一体何者ですか? 私、転生してきてから色んなプレイヤーを見てきたけどあそこまで極端に使える人いなかったと思いますけど…」
何故かカエデは、クルスに対して敬語を使っている。
俺との差が激しい気がするな。かなり恩に感じているようだが、……気になるな。
「ん~。それは僕が、一番驚いてるよ。
強過ぎる力を幾度となく経験して来た性かもしれないな。
素手でシロザメに挑み、レベル百五十オーバーのプレイヤーと戦って、妖精女王から秘宝まで貰っている現状から見ても…『はいぃ!??』――ああ、やっぱり普通じゃないよね」
おお…、カエデが変顔になっている。
ん? 俺のことを話しているのか……?
「当たり前じゃないですか!
何ですか、初回プレイからナイトメアモードですか。
シロザメ相手に素手で戦うとか正気の沙汰ではありませんし、どこの初心者ですかレベル百五十オーバーのプレイヤーに喧嘩を売るとか、ウチのギルマスですか!?」
当然のツッコミだね。と真摯に受け取るクルス。
素質溢れる弟子。俺を見詰めて答える。
「でも、これがヒロキにとっては丁度いいのかも知れないかな。
カエデ。君が将来的に職業「考古学者」になるから言うがヒロキは魔力を持っていない人間[ヒューマン]の中でも珍しい部族の[アルティマ]なんだよ」
「彼が!?」
種族があれば勿論のことだが、この世界には転生した身もしくは誕生を迎えた身に宿る血を辿っていく。所謂先祖を探すことで判明するこれが「部族」である。
もっと簡潔に答えるならば、一族の派生である。
例えば、○○家の本家と分家。『先祖は殿様なんだぜ』と言うように巡り巡った血筋をこの世界の表現でそれらを「部族」と呼ぶのだ。
ギルド「王立調査団」が記したレポートには、[アルティマ]と言う部族は極めて少数しか確認されておらず人間[ヒューマン]ではヒロキを含めても十数人程度の希少な存在であるという記載がある。
また[アルティマ]が古代人の末裔とは称されているものの、事実を証明するものがないこともあってカエデは驚いていた。
「…………、………………」
何やら激しく動揺しているようで、首を傾げて黙々と物思いにふけっている。
そんなカエデを見るクルスは、僅かながら不安からか心が震えていた。
ヒロキis DNA FILE
Tribe;人間[ヒューマン]
DNALevel;3
BloodType;A型
DNAProcess;[ヒューマン]-[アルティマ]
DNASkill;遺伝子スキル【魔力ゼロ】
DNABonus
古代人の末裔;DNALevel上昇に伴い、Abilityが跳躍上昇する
古代人の血脈;DNALevel、NextLevel.4で遺伝子スキル【古代人語翻訳】を習得
クルスはヒロキが銀色の腕輪をしていることを知ってから、バイモン協力の元。秘密裏に血液を採取し、分析スキル【DNAサーチ】で遺伝子情報を調べて知った事実に不安を抱いていた。それは嘗ての銀色の先駆者が成し遂げていった偉業の数々を比べてしまったからだ。
これからの未来。ヒロキの身に起きるであろう非難と苦痛をどう躱せるか心配でならないクルスは、偉業を求めようとせずとも血という一種のプログラムがヒロキを殺してしまうのではないかと窮屈なほど不安がる気持ちが込み上げてくる。
そんなクルスの心を知ってか知らずか、ヒロキは新しい食材を見つけては食べを繰り返していた。
「心配しても仕方ないか…」
「ん? 何か言いましたか、溜め息までついて…」
もぐもぐ。
これ美味いな。
「いや、何でもないよ。
それよりも早く、セーフティーポイントに戻った方が良さそうだ」
「――せやな。この荒々しいほどの波長はギルマスの本気モードやし、対戦相手はただの賊やないな。このイヤな赤いオーラは、タダ事じゃあないし」
ということで足早に鬱蒼と生い茂る森林を抜けて、完全なる安全圏と称されるはずのセーフティーポイントに向かっていたヒロキたちだった。
…のだが、何かから逃げるように切羽詰まった様子の複数人のプレイヤーに遭遇した。
目視できるだけで四人のプレイヤー。
同じ布色のローブをしているところから見て、パーティーを組んでいるように見えるが、様子がどうも可笑しくヒロキの目には映っていた。
暗がりの闇夜を照らすのは、クルスとヒロキの焚いているランタンの火だけもあってすっぽりと頭を隠したフードの下がはっきりと見えない。
呼吸が巧くできない性か、流石に怖いのだ。
実力と経験豊富な二人がいても、相手の表情が見えない上に魂の導きによって判明する赤と言う危険信号が彼等を敵だと認識している。ということもあるのだが、ただ単に夜だからという心理的作用が恐怖を募らせているのだ。
俺は焦りながら、武器スロットルに差し込まれている短刀のガーディアンライトに手を伸ばす。とそこで四人が手からそれぞれ異なる色の粒子を放ち始めた。
「クルス様…」
「うん、カエデの考えている通りだよ。賊の残党だろうけど…」
クルスとカエデは妙な違和感を覚えていた。
魂の導きは生命が出力する敵対心や安心感といった感情を色別のオーラに変換させたものを見ることが出来る力を単体一つに絞った「魂の波長」が齎す何かに感化されていたからだ。
思考を深読みするわけにもいかない状況を認識している二人は、自分の得意とする獲物を掴むのだった。
片や漆塗りされた長弓。
片や歪なフォルムをした大型拳銃を持って、前方へと重心をずらす。
俺もまた「前衛役」と言う立場ではなく本領発揮できる最良の構え。姿勢を低く保って息を殺して観察していた。
クルスは俺の魂の波長を見て、安心の笑みを浮かべて拳銃を下ろす。
その行動性に疑問を感じずにはいられないカエデだったが、直ぐ目の当たりにすることとなる。
「ヒロキ」という新人が成し遂げる成長の証明を見ることで認識する。
「【加速】!!」
一歩踏み込んだ片足に掛かる力を利用して、最良のスタートダッシュを切った。
移動中に自分の獲物。短刀のガーディアンライトの矛先を緑色の発光粒子を掌から放ち続けるプレイヤーに向ける。
ただ、ジッと動きを観察しているだけではない。
クルスのチュートリアルから教わった魔法を簡単に見分ける方法を色で認識して、このパーティーに潜む決め手となる攻撃を繰り出すことに長けている風魔法の使い手を速攻で倒した方が戦況を大きく変えられると思ったからだ。
しかし、先手を打ってきたのは相手の魔法使いの一人が繰り出してきた火炎魔法【ファイアーボール】。
攻撃の要となる火魔法の使い手を忘れていた訳ではない。
これを利用するために先陣を切ったのだ。
クルスから頂いたガーディアンライトの特性を知ったからこそできる戦略。
俺は、火魔法の使い手が放つバスケットボールサイズの火炎魔法【ファイアーボール】を薙ぎ払うように切り裂く。
本来ならば刀身に接触した瞬間に爆風と爆炎がヒロキに襲いかかるところ。非常に危険な行動でもあるが、爆発が起こることもなく消え去る光景にカエデも敵四人もが絶句する。
絶句しようとも攻撃を緩むことなく前進する。
俺を相手に炎熱魔法【ヒートディフェンド】を展開するが、それさえも切り開かれていく姿に目に虚空が生まれる。―――生まれた物に罪はないだろうが、知らないこともまた罪だろうか?
ガーディアンライトの刀身に嵌めこまれた水晶玉に仄かに散る火花が、俺の魂の力と結び付けられたように強力な火炎を生み出して斬撃にそれが組み込まれる。
「オーダー、ソードスキル【ブラストブレイカー】―――!!!」
燃ゆる火炎に飲み込まれた刀身が放つ袈裟切りは、火魔法の使い手にダイレクトダメージを与えて真横に薙ぎ倒される。
その反動さえも次の攻撃に切り替える力に変えて、水魔法の使い手と風魔法の使い手が繰り出す魔法攻撃の全てをガーディアンライト、ナイフ一本で。時には受け流し、相殺して水と風の魔法を含んだ斬撃で敵を圧倒していく。
その姿に翻弄されるのはカエデだけではない。
未だ無傷の水魔法の使い手は、恐怖で足を震わせて助けを懇願して来た。
「頼む! 後生だ。殺さないでくれ、この通りだ」
荒げる声から判別できる男は、必死に土下座ポーズをして平謝りしている。
何とも情けない姿勢に俺は、矛先を向けて水晶玉に青い魂を集中して生まれる美しくも煌めかせる刀身を真横へ一閃―――。
銃弾のように解き放たれた飛ぶ斬撃は、どこまで飛んだのかは分からないが何かに当たった音ともに遠く離れたここからでも見える大きな樹木が倒れたことからそれを証明する。
ただの脅迫。
何処に逃げても斬撃がお前を追いかけるぞ。と言う意味を持った脅迫によって男は口をパクつかせて俺を見る。一呼吸置いて生唾を飲みこんで両手を差し出した。
クルスは膝をついて拘束用の…とはいうものの何の変哲もないただの紐で血液が止まらぬように両手首と指を絞めていく中、彼に一つ尋ねる。
「なぜ、君だけが助かったか分かっているのか?」
「はい?」
そうか。と言って立ち上がったのはクルス。
ダイレクトなダメージを負って微動だにしないまるで死人のような三人のプレイヤーの一体を見詰める。
ローブを貫いた斬撃は肌を抉り、夥しい血液が地面を流れているが、僅かに臭う異臭と切断された胴体に手を突っ込んで確認を取る。
その異様な行動に声を荒げるカエデをまあまあと言って抑えるが、彼女は軽蔑の視線で俺を睨むのだった。
当然の反応だろう。
ただ、それが…そこに横たわっているのが「プレイヤー」だったらの話だが。
「分かっているのか!?
アンタ等、PKをやったんだぞ。これから先、アンタ等は苦しむことになる。
毎日飲む水は汚物のように腐敗臭を垂れ提げた苦汁を舐めて啜って、生活していくんだ…『それは違うな』――何を言ってる!!?」
「ヒロキがやったのは、プレイヤーキルじゃない」
「「!!?」」
驚愕の表情をするのは男だけではなかった。
「ちょっと、待ってーな。PKじゃないなんて言うたら、それはモンスターなん?」
「違う」
「ヒロ?」
「これは精巧には作られてはいる…けどプレイヤーじゃない。この三体は恐らくロボット、いや人造人間だ」
人型ロボットなど人間を模した機械や人工生命体の総称を人造人間と呼ぶが、この世界ではホムンクルスと命名されているので多少の差異があるのだろうか。と不意に思ってしまう。
クルスが言うには、この三体の人造人間もといホムンクルスは東の島国【ヤマト大国】のフランケンシュタインと呼ばれるカドマツというプレイヤーのオリジナル絡繰り人形に似ているらしい。
しかし、見たところではまるで機械仕掛けとは思えないほど。リアルに生々しく悍ましいほどに、精巧な作りを成したこれが人形には見えないだろう。でもだ。戦った自分だからこそ解かるものがある。
これに…この器からは、生気や心と言う何か人間として必要な大切な物が感じ取れなかった。事実から言ってもそうだろうという認識しかない。
さて、ここで問題なのは必要不可欠なものではない。
クルスの言った『似ている』というところである。
「模造品なんですか?」
「ん~、どうだろうね。
僕自身、彼の思想にはついていけないところもあって興味がないんだ」
「でも見たことはあるんですよね」
「うん。ヤマト大国の生産技術は、アルカディア大陸で一番と言ってもいいからね。
生産職のプレイヤーがその国で競い合い。己を磨き合ってその道を極めていく。
この大型拳銃[マグナム]:デスヘンガーを作ってくれた銃鍛冶師がそこにいるくらいだからね」
ヤマト大国?
日本のことだろうか。絡繰り人形といい、拳銃といえば昔懐かしの江戸時代を想像するけど。
「江戸時代の日本みたいな国ですか?」
「そうだね。
カドマツ・トドマツ・イチマツという三人兄弟が揃って競うように絡繰り人形を作り始めたらしいんだけど、三人とも趣旨思考が全くと言っていいほどに違う。
長男のイチマツは父親の店を継いで子供から大人までが楽しむ安価な人形作りを生業にしている。
次男のトドマツは母親の仕事を継いで鉄を一切使わない木製の絡繰り人形技師になっている」
「普通のいいお話にしか聞こえないんですけど…」
「ここまではね。
三男のイワマツ。四男のニシキマツは変わり者の流行り病に倒れ、それを引き継いだのが五男のトドマツ。
彼は三男の「不死の研究」。四男の「死者の研究」。双方の研究レポートと祖父から受け継いだ「錬金術の法」を用いて完成させたのが、アレらそっくりの人間擬き。ホムンクルスなんだよ。―――それでだ。これがなんだか分かるかい」
「「「…紙?」」」
何の変哲もないただの白い付箋紙か。七夕に願いを込めて記す短冊にしか見えない。腹部から取り出したにしては、キレイ過ぎる。…いや血液すら付着していないが仄かに鼻にツンと来る刺激臭が香る。
直接嗅いだことはないものの。クルマやバイクを連想させてしまうのはなぜかと物思い老け始める前にカエデがその答えを口にする。
「まさかとは思うんやけど…オイル?」
「正解。
紙の方は陰陽師が術式を込めたものだろう。分析スキル【鑑定】がなくては内容が分からない。でもこのオイルは、トドマツの絡繰り人形には使われてはいない。彼は人間を愛しすぎているからね。彼なら本物の血を使う」
「え? ちょっと待ってーな、話しに付いていけないんやけど」
「ヒロキなら憶測ぐらい付けられるんじゃないか?」
「この大陸にない精巧な技術が必要な人形と血液に似るオイル、陰陽師。そして盗賊となるとそこから導き出される答えは…―――…いやわかんないんです」
ズコーーッ、とズッコケるカエデと男から、『何の漫才だ!?』と怒られる。
いやいや勝手にこけたのはあなた達です。とは言えず、クルスが後ろでクスクスと苦笑しているが助け舟を出してくれた。
最初からそうして欲したっかが、まさかウケを狙ったのか?
いや、なにその微妙な表情されても困るんだけど。…ハッ、もしや心を読まれているの、…か?
「いやあ、悪い悪い。
つい調子に乗り過ぎたよ。ヒロキの考えていること、顔に出るから筒抜けだよ」
!!? マジでか。
「うん」
「うむ」
ええええ、それをいま言うところか?
って言うか、普通に会話に入って来てるこのオッサンも大概だろ。
「説明は、セーフティーポイントに行きながらでもいいだろう」
ということで俺たちはセーフティーポイントの帰路。クルスから説明を受ける算段となった。
三体の人造人間をイベントリに回収を済ませたクルスは、紐で拘束している男のトモキチの背後を監視しながら歩いて行っている。
相も変わらずイベントリの回収能力には驚かせてくれる。と俺は内心興味津々ではあるが真横から送られて来る熱い視線が気になって仕方ない。
何かな? と微かに視線をずらして見ると凄い見幕をしているカエデの表情があった。
「何でしょうか?」
驚きを隠せない切羽詰まった俺は、気付けば敬語で尋ねていた。
「年上かも知れんけど、カエデでええよ。
それよりも、どうして見抜けたのか教えて貰えないっかな。プレイヤーじゃないってことにクルス様が一応、確認と言う証明はしてくれたけど私にはさっぱりなんだけど」
うーんと。どう言ったもんかな。
俺は頬を利き手の指先で掻きながら答える。
「えーと、勘かな」
「はい~?」
ですよねぇ。
嘘は言ってないけど…。
「いや嘘だよ。ウソ。あの時、観察して分かったことは三つあるんだよ。
一つは粒子放出から色で見分けてどんな魔法を使えるか。
二つ目は四人の陣形。
三つ目は疲労度だよ」
「ちょっと待って、二つ目までは分かるけど三つ目の意味あるの?」
「切羽詰まった状態で、しかも走って来たにしては息を荒げているのは風魔法の使い手であるオッサンことトモキチさんだけ。魔法使いって言うのは本来、スタミナ切れを恐れて運動できるタイプでもないのに息切れしていない三人は可笑しいって思った」
「それだけでアレをやったの?」
「―――後、一番の決め手となったのは、オッサンと三人と俺たちを含めた上で波長が違ってた点。なによりも心。感情を感じさせない。そこに放っているだけの固定砲台に見えたし、オッサンが小心者で逃げ回っているなら別だけど三人から人間らしいものが欠けているように思えたからかな」
「要するに勘じゃない」
言い切られると何も言葉に出来ないヒロキが縮こまっている様子を見て、クルスがそれをフォローする。
「まあ、いいんじゃないか。
あの時、拳銃を下ろすサインをしたのは僕にも違和感があった訳だし、誰も殺してはいない事実は大きい。矛先を向けて止めを刺すんじゃないか、と思った時は流石に冷や冷やしたけどね。一番の恐怖を与えるには十分すぎる威嚇…ゲイルにでも教わったのかな。教わったのかな?」
え!? いまワザと二度言ったのか。もしかして。
「う、うん」
「そうか」
カエデとトモキチは頭上に複数のクエスチョンマークを作っているが、ヒロキは凍えるような零下の視線から内心『ご愁傷様です』とゲイルに合掌をしたのだった。




