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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅰ 《ダイア樹林帯での冒険譚》
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【#022】 Secondplayer -妖精女王-

いま、何時? 六時かぁ。いけるかな、二話目という気分で現在執筆中です。

まだしばらくはエリア『ダイア樹林帯』のお話が続きます。

二話目書けなかったらごめんなさい。次週の三連休の休みがありましたら上げていきます。

{2016.2.7}改稿完了。



「なあなあ、どないした?」


 俺の周りをグルグルと回っている少女がいる。

 紺色の髪の上に黄色のキツネ耳を生やし、自分のことを「獣人のキツネのカエデ」と名乗っていたが如何やら本当のようだ。

 ゼンさんが言っていたことを思い出す。

 『…「HelloWorld」のプレイヤーの種族は人間[ヒューマン]。獣人[アニマ]。白亜人[エルフ]。黒亜人[ダークエルフ]。小人[ドワーフ]。魔人[フェイスマン]。幻人[デウス]…』

 と言っていたか。

 恐らく獣人という種族[アニマ]と言うだけあって、様々な種類の動物アニマル人間ヒューマンが融合したような存在なのだろう。

 少女のお尻よりやや高めの腰付近に生えた可愛らしい黄色い、もふもふ――ふっくりした尻尾からして、キツネで間違いはない。

 がだ…。


「ニャアニャア、どないした? 

 眉間にシワを寄せっとたら、直ぐにでもおじいさんみたいに老けちゃうよ」

「言っておくぞ!――『お、おう』…キツネはイヌ科だ。ネコじゃない」


 俺は我慢ならずに、一喝した。

 その言葉にたじろいでしまうカエデ。


「ほぉえ? ―――えーと、う…うん。知ってるよ」


 知ってんのかよ! と内心ツッコミを入れる。

 俺は怒りでワナワナと身を震わせている。

 ハハハ! と苦笑するクルスは、悪い悪いと言ってヒロキに詫びを入れた後、知り合いのようにカエデに話しかける。


「久しぶりだね。カエデ」

「わあああ、お久しぶりです。ここで会えるとは、ダバブの町ではお世話になりました。あの時の御恩は忘れもしません。我が身に変えても必ずや恩返しさせて頂きます所存です」


 片膝を地面について目を瞑って顔を下に向けるカエデの様子から過去。クルスの世話になったことが窺えるものの少々方向性が異様に見える。

 一体何が過去にあったのかが気になるところではある…しかしこの世界に来る者来る者の多くがリアルで傷ついていることが分かっている以上…詮索は不要であると、俺は頭の中で答えを絞り上げて自分を抑える。


「まだ、そんなことを言っているのかい?

 僕はただの通りすがりで、転生し立ての新人に手を出す盗賊団が悪い。

 それで―――、ここにいるってことは出るのかい英雄祭のメインイベントに」

「はい。その通りです。クルスさま。

 あの後、多くの同世代の仲間たちにも出会いギルドにも所属しています。私たちが所属するギルド「ロビンフッド」のマスターが言うには、『一番の経験は冒険だ。世界を自分の目で見てこい』だそうです」

「ロビンフッドか。いいギルドに入ったな。あそこのギルマスは変わり者の酒マニアではあるが、懐は広いし何よりも仲間想いのいい奴だ―――」


 あれれ、俺。空気になってないかい?


「カエデ、もうじき夜が来る。歩きながらでもいいかい?

 ヒロキもまだ、チュートリアルは終わっていないよ」

「へ? それはどういう…」


 これは白金砂丘のフィールド上でも感じたことなのだが、ひんやりとするものの寒くはなく寧ろ活動しやすい朝の気温。

 太陽が頭上に浮かぶ頃には汗だくで、シャツが蒸れる程の強烈な紫外線が降り注ぐ。昼の気温からの氷点下の夜間に、当然の如く身体が着いて行かずに安全圏セーフティーポイントで焚き火をして暖を取る。

 その環境を知っている俺は、ああなるほど。と頷く。


 不図。夜かもわからない天井を見上げるが目に入ったのは、驚くべきことに地肌ではなかった。

 クリスタルの天の川が見えていた。

 より正確には地肌に生えている透明度の高い石英の結晶体が外の景色を映しているようにキラキラギラギラ。と輝いて琥珀色からの真っ赤な夕焼けを再現する見事なまでのグラデーションが天井を染め上げている。


「ス、スゲェェェエェ!!」

「美しいだろ。

 この光景を写真に収めたいが為にここを訪れる観光客も少なくない。

 君が見たクリスタルレインに並ぶ希少な光景の一つだよ。マイトさん曰く、『ガーネットスカイ』琥珀色の夕焼けだそうだ」

「えぇ? ちょっと待って、アナタ、あのクリスタルレインを生で見たの?」


 ぽかんと口を開いたと思ったら、いきなり両肩を鷲掴みされて超接近してくるカエデ。近い近い。と内心で声を荒げてクルスにアイコンタクトで助けを求める。あちゃー…。という顔で目を瞑っている。

 その間、子供のようにキラキラと目を輝かせるカエデは、なあなあニャアニャア。と擦り寄って来る。

 サイズの合っていないエバーグリーンの忍者な軽装備の胴部には、胸当てと思しき小さな盾が急所となる心臓の位置に固定されている。その下には窮屈そうな黒の布地が胸を隠すように巻かれているが、生地自体が薄いのだろうか彼女の体温が直に伝わってくる。

 胸の局部を隠しているつもりだろうが、隠しきれていない布の隙間から見えてしまっている谷間が何ともイヤらしい。

 ぐぐぐっ…。と理性を押さえて赤らめる顔を隠そうと向きを変えようとするが、遅かったようで甘い息を吹きかけて『教えて…♪』とねだる彼女だが首根っこを掴まれたように誰かに持ち上げられる。

 他の誰でもないクルスだ。


「はい。そこまでだよ」

「わあわあ、待ってよ―――と言うか降ろして降ろして!!」


 あと少しだったのに、という顔でクルスに身体を下ろされた後でもする姿を見てぬいっと表情のない怖い顔で『まだ、するのかい?』と威圧感のある問いをかける。

 所謂、脅しとも取れるその行動に押し黙るカエデはしょんぼりしながらここまで来たケモノ道を歩いていく。


 夕闇に包まれてより一層。日陰が多くなっていく森の中でヒロキは聞いたこのある音を耳にする。

 知っている。

 この音を生んでいる楽器もこのメロディーもヒロキは知っていた…でもタイトルが分からない…いや、違う。

 思い出せないでいた。

 こんなに悲しそうなメロディーなのに。こんなにも壊れそうなメロディーなのに。今にも泣きたくなるはずの曲調なのに。タイトルを思い出せない。

 俺は気付けば、自然と足が動いて駆けだした。


「―――ヒロキ!?」

「クルス、ごめん。

 俺いかなきゃ、思い出さないといけない気がするんだ」


 真っ先に飛び出したつもりが数秒で追いつかれてしまった。

 これが師匠であるレベル二百五十オーバーのクルスとレベル十三の自分の差なのだと噛み締める。

 知り合ったばかりのカエデも器用に木から木へと跳び移って自分を追って来ている。


「ふっふっふ。このキツネのカエデから逃れるとでも思うたか。

 教えてもらうまでは、引けを取らんのが性分。覚悟しいや」


 ハア? 何言ってんの。

 なんか、この人から逃げたことになっているんだけど。


 全力疾走に加えて構築能力【加速】で走る勢いを速めて音が奏でられる方向に向かっていく最中で俺はあることに気付いた。

 夕闇に乗じて秋らしい鈴虫の羽音も聞こえてくることはさて置き、どんどん暗くなるはずが。まるで科学的なLEDの美しい光が作り出すトンネルをくぐっていると思っていたがそれは違った。

 ホタルの群れが作り出す幻想的で懐かしい日本の風物詩でもない。

 あちらこちらで小さな声が聞こえてくる。


 【加速】の効果切れと共に息を荒げるヒロキは一旦立ち止まって、両膝を僅かに曲げてその上に手を置く。

 後ろから甘い香りをした白い腕がにゅいっと出てきて掴まれると彼女も疲れたのだろう息を切らしている。その言葉にはまるで覇気がない。


「ちかまえたでー、ヒロキ言うたか自分。やる‥やないか。…――ここは!?」

「ヒロキ、もしかして聞こえるのかい? 彼女の弾くメロディーが」

「え? 聞こえちゃあマズいのか」



 採掘ダンジョン『水晶洞窟』の階層構成は二段階に分けられている。

 一つ目は交易路を含めたこの第一階層で未踏破エリアがない筈なのに攻略率は三十パーセント。

 二つ目は一階層のとあるエリア内部の遺跡から下った先の第二階層で、中堅者から上級者の冒険者しか足を踏み入れない。危険極まりないダンジョンになるが攻略率百パーセント。

 攻略率と言うのは、百人の熟練冒険者がソロで挑んでマップの詳細な情報会得結果がそれになる。つまり、この一階層は百人中実に七割のプレイヤーが完全攻略できなかったことを指すのだ。

 その大きな原因があるスキルを持っているか、持っていないかで左右される。

 武装スキルに【魂の力】というものがある。

 入手条件で明かされているのは次の一項目のみ。

 『感情の爆発。自分自身に立ち向かい、心身を受け入れた者に司る大き過ぎる力』

 邂逅したプレイヤーには見えるという。

 今まで見えていなかった力の気配やモンスターの闘争心が色別で、呪われた力も他人の考えもオーラで見分けて、時には出会えなかった具象化した精霊から妖精までもが見えるという。


 世にも希少価値の高いとされる「煌虫種ホタル」の交際ダンスが作り出す七色の淡くも美しい幻燈郷が泉。水の中で彩られた光景にカエデが疲れ切っていた体を起こして目を見開いている。

 俺はいつの間にか目覚めていた新しい力で、到達率三十パーセントの秘密領域バケーションポイント『妖精の泉』に辿り着いていた。


 妖精には古くから多くの伝承がリアルにも残されている。

 人間と神の中間的な存在だとか。西洋の神話や伝説に登場する超自然的な存在だとか。ケルト族の神話や伝説には、いろいろな種類の数多くのフェアリーが登場している。ドワーフやレプラコーン。ゴブリンやメネフネなど他の神話の生き物で多くは小人と言われている。

 人の姿をした者。同じ呼び名を持つ者でもその身長についてはさまざまな言い伝えがある。昔から伝わる妖精フェアリーは、人間と同じか。もしくは人間より背が高いとされている。

 俺の目に映る白い麗人もそうだった。


 この光景を歪だと思う者もいるだろう。

 彼等の目に映るのは幻ではなく確かな現実。しかし矢張り、夢なのではないかと内心では疑っている自分がいた。

 夕闇に溶け込んだ森を響く鈴虫の羽音が白い麗人の奏でるメロディーの一部になるように溶け込んで、彼女の指先がそのすべてを調和する。

 木陰から覗く白いスポットライトに照らされるのは、この緑が生い茂る苔の絨毯と相性がいいのか悪いのかはどうでもいい。

 緑の世界に生えた黒の楽器を奏でる白い麗人。

 三色の色彩が織り成す見事なコントラストに、大自然を目覚めさせる素晴らしい音色に三人はどこか委縮していた。

 結局メロディーが終わるまで、声を掛けることさえ出来なかったことは言うまでもない。


 演奏を終えた彼女は、音のない息を吹きかける。譜面は白い光を帯びると粒子状になってまるで天国に行くように空へ消えていった。

 イスから立ち上がり、三人に向かってお辞儀をしてきたことに二人が驚く。

 お辞儀したことにも驚きを隠せないが、そんなことよりも白い麗人から離れた直後から黒の光沢をしていたピアノが自然と一体化したように苔が生えていったことの方に目を驚かせていた。


「ご静聴ありがとうございました。

 先に申し上げておきます。わたくしはプレイヤーではございません。

 あなた方、プレイヤーにとってのモンスターという位置表現でもありません。

 ですが、わたくしを殺すことも奴隷にすることも出来る存在。言い換えれば、プレイヤーとモンスターの中間でしょうか。わたくしはシルファ。

 妖精女王のシルファにございます」

「「!!?」」


 二人は固まっていた。

 そんな生命の存在など聞いた覚えもないし、ゲーム経験豊富な少女もゲーム経験皆無の少年も同じ答えに辿り着いていた。

 ただ、この世界にそれは存在しないと言われていた。

 ノンプレイヤーキャラクターの略であるNPCは、VRMMOというオンラインゲームのジャンルにとってもどんなに古いゲームソフトにも必ずと言っていいほど存在する世界の基盤そのものと一緒に組み込まれた仮想プレイヤー。


 カエデは知っていた。

 今まで幾度なくプレイしていたMMORPGタイトルにおけるNPCは「ゲームの進行」「イベント発生」「バランス調整」という世界のコントロールを担う位置づけだったと。


 ヒロキは知っていた。

 NPCの内面的プログラムに施されたAI機能によってゲームの中だけではなく現実世界のいたる所に設置されたヒューマノイドのハードやハイテク産業のロボットにも組み込まれていると。


「彼女はNPCじゃないかって思っているなら、それは違う。

 彼女たちのような妖精や精霊、幻獣や霊獣などの共通点はプレイヤーの言語を理解しているが不死ではないという点。

 何時から存在しているかも不明の彼等を二番目としてこう呼ぶ。

 セカンドプレイヤー」

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