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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅰ 《ダイア樹林帯での冒険譚》
20/109

【#020】 Mining -採掘の魅力-

{2015.9.22}新規更新→{2015.9.23}→{2016.1.27}改稿しました。

序盤から所々、編集を加えて改稿しています。

お楽しみ戴ければ幸いです。


「うぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉおおお!! す、す、すっげぇぇぇぇえええ!!?」


 大声で感動していたのは俺であった。

 他三人は? というと耳を両手で塞いで『煩い!』『洞窟は響くよぉ』『まあまあ』と三者三様の答えを口にしている。しかしだ。それだけ大声で感嘆するに、相応しい光景を目の前にして荒げない訳にいかなかいのだ。

 俺の気持ちをクルスが察して、クロムをなだめている。

 白金砂丘のようなオープンなフィールドでは兎も角。ダンジョンという迷宮や洞窟では、狭く天井もある屋内が多い。その為、壁から天井へ天井から壁へという反響が起こりやすい。この洞窟ではよく耳に通る。


 暗闇の井戸を抜けた先で俺たちを待っていたのは、採掘ダンジョンと呼ばれる鉱山の名所『水晶洞窟』。

 洞窟の岩盤から突き出すピンク、赤、琥珀、青、透明な水晶や鉱石が目に映える。天井の荒い岩盤に群を成す結晶に松明の火が映り、持って歩くことで上から下までが明るい視界を保ってくれている。最も大きな道幅をしている大通りには、新米の冒険者でも相手に出来る最低レベルのモンスターが徘徊している。

 また白金砂丘という厳しいルートを避けたいプレイヤーが多く通る。【セラフ領;ダバブ】から傭兵職に護衛を任せる旅商人たちが交易ルートに使っている珍しい形のダンジョンである。


 クルスからの助言では、ここらのエリア外の大通りに生息する危害を加えてくるモンスターは「悪鬼種オニのゴブリン」か「堅甲種ワームのゴロンムシ」という二種類のみということ。

 ここに訪れたことのあるクロムとレインに聞くと、ゴブリンは雑魚中の雑魚でレベルの上限は二十がいいところらしいが問題はゴロンムシの方だと言っていた。

 レベル自体はゴブリンよりは低い上限らしいのだが、鋼鉄を相手にしているような感覚に陥るほどにとにかく硬い印象だったらしい。

 俺は印象よりもクルスの助言が嬉しくて仕方なかった。

 今まで白金砂丘という広大過ぎるフィールドを歩いていて、出会ったモンスターと言えば大型の「堅甲種サメのシロザメ」というフィールドボスと小型の「甲殻種サソリのホワイトダガー」、両方のモンスターを対比するまでもなく雲泥の差がある。それに対して今回のダンジョンには、格上でも格下でもなく、自分と同じ強さのモンスターがいるというだけで嬉しかったのだ。

 対等な強さで戦えるほど嬉しくて、ワクワクするものはないからだ。


 前衛は仕事上、一番にモンスターと立ち会える絶好の機会だった筈が……、クルスに渡されたのは採掘に必要なメインウェポンのピッケルだった。

 メインウェポンと言っても武器スロットルに仕舞う必要は無い。両サイドの武器を仕舞った状態で掴み取る。ピッケルの場合、採掘メインだが武器としての効果を持つ特殊な装備になる。


「なぜに?」

「あははは、悪い悪い」


 乾いた笑い声をあげるのはクルスだ。


「そんな直ぐに戦闘モードに突入しなくても大丈夫だよ。

 確かにヒロキには、まず生き抜く基礎の一つとして戦闘技術を半強制的に叩き込んだけど。

 まだチュートリアルは終わっていないよ」


 ああ、そうだった。そうでしたね。

 TVゲームを良く知る一般プレイヤーには「チュートリアル」というのはお馴染の言葉だろうが、俺にはゲーム経験がないためにさっぱりだった。

 そこでクルスとマイトさんが考案した。『熟練者が教えるこの世界の基礎講座[チュートリアル]』は、まだ五分の二ほどしかクリアしていなかったのだ。

 俺は、折角の戦う気が削がれ渋々、手渡されたピッケルを掴むのだった。

 掴んだ直後に浮かんでくる「▽」をタッチすると、緑のウインドウに次の事柄が記載されていた。



採掘必須武具;ピッケル【見習い採掘士の誇り】

買取り可能店舗;アルカディア大陸全域

希少価値;レアリティー☆1[200Cセル~]

備考欄;見習いの採掘士に相応しい一品。

採掘可能な鉱石は、レアリティー☆3以下に限り何度でも振るえるがレアリティー☆4以上の鉱石もしくはホットゾーンで振るった場合は武器耐久値が発生する。目指すは称号【*採掘王*】だ。】


 うわぁ、何だこの備考欄。

 ホットゾーンっていうのは良く分からんが、この称号にも何か意味合いがあるのだろうか?

 挨拶の時にレインが提示したステータスには、自分の武器である魔導書の制限と権限が記されていた。つまり必要な称号なら取っておくべきなのか?

 悩み込む俺に頭の中を読んでいるのだろうか? と思うほどドンピシャな解答を言って来るクルス。


「ヒロキ、悩んでいるところを済まないが――。

 その称号【*採掘王*】には、これと言って強力な効果はないぞ…『へ、無いの?』――ああ強いて言うなら達成度を盛り上げるための勲章といったとこだな」

「…ぐぐぐ、納得いかん」


 そんなものを備考欄に記載するシステムの意図が不明だぞ。これ。


「まあまあ、そういう事もあるさ。何事も経験だからね。

 知らないことを一つずつ自分の目で知っていくことが大切なんだ。

 成功し続けることもいいかもしれない…けれど、失敗という経験を積んでいくことで人は強くなっていくものだよ。それに面白くないだろ。

 全部を最初から知ってたら、それ冒険ではなく攻略だからね。

 さあ、ピッケルを持って掘ってごらん」


 クルスが言うことは全部が正論だ。

 確かに全部が分かっていて、理解しているならそこに冒険は生まれない。知らない物事を知ることも立派な冒険に他ならないだろう。


 俺にはまだ鉱脈を見つける目を持ってはいないこともあって、岩盤から突き出ている宝石なのか鉱石なのかは分からない紫の結晶体に触れてみる。

 びくとも動かない。

 この結晶体を傷つけないように掘る方法を模索するところから始める。

 ピッケルに備わっている攻撃力は今装備している右手武器【ダンジョンウェポン:ガーディアンライト】の半分以下、前に使っていた右手武器【訓練用木刀】と同等ではあるが計測しておいて損はないだろう。

 まずは地面目掛けて勢いよくガツンと掘り上げる。


「ぬおおお、痺れ、痺れる」


 ゲーム経験者ならご存知のコントローラの振動機能と同じく、身体に電流が流れるが如く伝わった振動はリアルワールドと同じ感覚を与えるのだった。

 掘り上げた箇所を見ると、僅かに切っ先の部分の痕が残っている程度で、掘り起こせてはいない。

 近距離専用の武器だけあって命中率に補正が掛けられている様ではあるが、狙った箇所から僅かな誤差が生まれているのは一瞬だが目を瞑ってしまったことが原因だろう。

 次は地面に落ちているゴロリとした岩を砕く様に振り下ろすと、すんなりと割れた。この違いは大きい。試しにサイズ別で五百ミリリットルのペットボトル並みの小、バスケットボール並みの中、三角コーン並みの大、自転車並みの特大を一個ずつに分けてチャレンジしていく。

 結果から言うと、岩のサイズが大きくなることに連れて砕け難いこと。小さくなるに連れて壊れやすい当然な答えだった。そんなわけだが、別段と時間を浪費した訳ではない。

 中と大の大きさがいまいち掴みにくい感触ではあるが小さなコツを何とか掴んだ。

 先程見つけた紫色の結晶体の前でピッケルを構える。

 周囲の岩盤をピッケルで『カッカッカツン、カッカッカツンカツン』とリズミカルな音と共に、叩いて砕き、叩いては砕き。それを数回繰り返していくとポロリと落ちるのを何とか拾い見上げた。

 ▽ をタッチしてウインドウを開くと次の事柄が記載されていた。


原石;紫水晶

採掘可能分布;アルカディア大陸『水晶洞窟』『悪魔の泉』『サイオウの深淵洞窟』

希少価値;レアリティー☆2[200Cセル~]

備考欄;宝石の類を成すアメジストの原石です。

細工スキル【研磨】を鍛えて、宝石に変えてみましょう。

1/1000個目です。1000個目指して称号【*採掘の道*】、目指せ【*採掘王*】。


 確かにコツを掴めば掴むほど面白い。

 でもよ。遠過ぎるだろ!? 【*採掘王*】ってどんだけ採掘すればいいんだよ。


「おかしいだろ。これ、納得いかんぞ」


 ぷんぷん顔で入手した原石と睨めっこしていると、採掘経験者のクロムがツッコミを入れる。


「いやだから、達成度を盛り上げるための一つの勲章であって目指す必要はないぞ。

 ―――ってレインがめっちゃテンション上げて次々掘ってるし」


 ツッコミの最中でも聞こえる猛追撃ならぬラッシュする採掘の音は鉱脈を見つけることが既に可能なレインである。俺のステータスを見てチートと言っていた彼女だが、俺から見れば彼女も立派なチート使いの姿にしか見えなかった。

 音のテンポがまるで違うのだ。ノロマなカメと地球外生命体がマッハで競うのと同じぐらいの差がそこにはあった。いや、流石にそれはないけどな。


「にぃ、遅い。既に戦いは始まってるよ。

 採掘量が低い人が、今晩のおかずをゲットするというゲームは」

「「ええ、いつ始まったの!?」」


 いつの間にか始まっていたゲームに付き合わされることになった二人。片や慣れた手付きで、片や徐々に慣らしながら、一時間ほど採掘していった結果は発表するまでもなくヒロキの惨敗で終わりを迎えたのである。


「卑怯だろ。そっちは経験者で、俺はこれが初めてなんだぞ」


 クルスからは初回にしては上出来だよと言われたが、ぐおおお…これは納得いかんぞ。――って俺は何回同じこと言ってんだ。

 後頭部を掻く俺の採掘数二十五でその内、紫水晶が十一個、黒水晶が十個、煙水晶が四個。


「へへへ、クロロコウモリは美味くないから、他の食材を要求するぞ」


 どんなもんだいと笑みを浮かべるクロムの採掘数三十八でその内、紫水晶が十七個、黒水晶が十三個、煙水晶が五個、黄水晶が三個。


「レインの大勝利!!」


 Vサインをして満面の笑みをするレインの採掘数五十五でその内、紫水晶が三十個、煙水晶が十八個、青金石が三個、虫入り琥珀が二個、ピュアクリスタルが二個。


はあ、これは仕方ない。仕方ないさ。と自分に言い聞かせてクルスへ質問する。


「それでこの辺りで、どんな食材になるモンスターがいるんだ?」

「プレイヤーに危害を加えてくるモンスターはさっき話した二種類だけど…。

 他にも十数種類に及ぶモンスターが徘徊している。この付近でいうと…ダイルワニの肉が珍味として知られているね。まだ水脈を見つけていないから―――そうだな、イシガ二ぐらいかな」


 ワニの肉なんて食べたことないから分からんけど。

 イシガニねぇ…。何だろう? 凄くイヤな予感がする。気の性か? いや一応、訊いとくか。


「それって、まさかとは思いますけど…岩や石に化けた蟹とかいうんじゃないでしょうね」


 三人がシンクロしたように頷く姿を見て、肩をがっくりと下げる。

 そりゃあそうだよ。というかどうやって調理する以前に、どうやって肉を傷つけずに捕らえるんだよ!? といってもだ。目的地に向かいながら、食材探しと言うのも何なんで取り敢えずは、安全圏まで移動した後で出掛けるのであった。


 安全圏の場所は、クルスが予めマップにマーカーで印をつけてくれている。

 目的地に設定している【セラフ領;シェンリル】の他に安全圏である三つ場所に記されたマーカーは、エリア『ダイア樹林帯』という地下なのに樹木が生えているファンタジーな場所。エリア『アンダーウッズ』という小さな地下街でプレイヤーが住んでいるらしい。

 もうひとつの安全圏は、クルス曰く最も危険な安全圏だというので詳しくは聞いていない。


 これといってモンスターに遭遇することなく、最初の安全圏にほっと息を着く。一同は懐かしくも瑞々しく潤った苔は広がる地面に疲労した足を下ろす。

 エリア一つの広さは大抵均一でリアルの二〇二〇年に開催された。東京オリンピックスタジアム延床面積の四個分に相当するというが、これはひとつのフィールドと見た方がいいだろう。

 地上の渇きに乾きまくった白金砂丘が嘘のようだ。若い黄緑色の新芽や湿り気のある苔の絨毯を見ているとここが、地下であることをついつい忘れてしまう。

 この緑の性か埃のない清潔で自然の香りが鼻の中を掻き廻る。

 どうしてこんな豊かな場所に居を構えないのか不思議に不図思ったが、直ぐに解消される。

 にゅいっと突然、林を掻き分けて現れたのは森のクマさん。


「おい、何処が安全圏なんだよ!?」


 思わず声を荒げてしまい、ハッと我に返ってクマの方を見る。ネコとジャレ合う飼い主のようにレインが黄色の毛並をなでなでしている姿が見て取れた。

 顎鬚をサワサワサスサスと弄るとクマは、キュ~ンと鳴いて喜んでいる。

 怒る俺に対して、クロムが爆笑している。


「ククク、マジ笑えるわ―――『説明しろ!』――俺とレインはここまでは来たことがあるんだよ。

 まっ、つってもだ。一緒に来たわけじゃねぇけどな。

 俺の師匠はギルド「パムチャッカ」料理長のライアンさんでよ。

 このエリアに生えるキノコ類や川魚の採取。んでだ。

 レインはゼンさんの弟子だからこのエリアで採れる錬金素材や調合に使うハーブが目的で足を運んでたってわけだ」

「それでどうやったら、クマと知り合いになるんだ」


 遠くから見守るような視線をレインに送ったまま話しを続ける。


「レイン、妹はな。リアルでは、いっつも動物に好かれてたからな。

 動物園に行くと決まって飼育員を無視して、ウサギやらクジャクからフクロウにキリンまでが懐いて来ていた。その能力がこの世界にも引き継がれてるんじゃないかって、ゼンさんは言っていたな」


 リアルの力がそこまで引き継がれる? いや、あり得ないだろ。個人にしか分からないか他人が見て漸く分かる力をこの世界に引き継ぐなんて…。


「クロム、この世界は楽しいか?」

「どうしたよ、急に…。

 ただのゲームじゃなくて、人生として考えるなら遣り甲斐に満ちたこの感覚は楽しいぜ。

 リアルよりもずっとな」

「そうか、―――確かに悪くないかもな」


 自身が感じている以上にこの世界に染まっていくのが、どこかで怖く思っていた。

 でもその怖さは今消えて新しい感情が芽生えつつあった。

 俺は天井に背伸びして、苔の絨毯に転がった。

 何かを忘れて…。


「おい、忘れてないよな」


 忘れたかったのに、雰囲気が台無しじゃないか。

 俺は溜め息を心の中で吐いて、そう思った。


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