【#016】 Reasoning -とある鍛冶師の推理-
こんばんは。幕間の三話目になります。
主人公がこっそり出たり出なかったりする幕間では、次第に第二章へと繋がっていく内容になっています。
{2015.8.30}→{2016.1.26}改稿完了しました。
貿易都市シェンリルで最も多くのプレイヤーが行き交う繁華街。
十字路を含むシェンリル大通りは、午後十時を過ぎた辺りから食欲を誘う肉汁や炭火の香る食事処を求めた冒険者たちの心を動かす。
一定の時期に公開されている『最も成りたい職業ベストランキング』のトップに輝く冒険者はどの町でも需要が高く、町に大きく貢献していることは言うまでもなく誰もが知っていることだろう。
例えば、ギルド商会が管理運営している地下の迷宮ダンジョン「聖域トワイライト」や鬼の第百層を越えた先にあるという未踏破ダンジョン「グレードラビリンス」。この町の付近で発見されている採掘ダンジョン「水晶洞窟」。水晶洞窟の第二階層「黒結晶洞窟」やフィールド「白金砂丘」などで、討伐したモンスターから素材を剥ぎ取れる。
牙や爪。毛皮や皮膜。重要器官や肉などを商人に売却することで素材や食材は、商人を通して自分の店を持つ鍛冶屋や被服店から食事処や錬金術師、魔法使いが買い取ってを繰り返していくと巡り巡って町全体を潤すことに繋がる。
早々に戻って来る新人の冒険者は、当然腹ペコだし武器や防具の耐久値が限界を迎えるものがほとんど。それを知るこの町の生産職は、他の町よりも数段早く開店しているのだ。
繁華街を賑わすのは、熟練の冒険者や金銭に余裕がある層を狙った三ツ星料理店。
超が付くほどの高級食材や珍味扱いのモンスター。例えば堅甲種サソリのホワイトダガーや竜種ドラゴンなどの冒険者が一年に稼ぐクエストの報酬金の五倍の料金が要求される料亭「仙人亭」。
時価五百九十万セルの特殊食材【エンペラードラゴンの心臓】を使った料理『皇帝竜の宝玉』には、一千万セルの値が付いている。
新人の冒険者や転生し立てのプレイヤーなど人種差別のない繁華街入り口付近にある料理店で数百万単位のレシピを取り揃えた。安い・早い・美味いの三拍子を謳い文句にした貿易都市一番の人気と広さを持つ大食堂「食の工房」。
人気メニューはこの町で一番需要を持つ食材【シーランスの肉】を使った料理『赤肉鯨の冷麺』には、最安の二百五十セルの値が付いている。
女性のプレイヤーに集客の目を向けたカロリー計算やギルド「パムチャッカ」が取り扱う世界中の食材や香辛料を取引した食材の他に、お手製の新鮮な農作食材やハーブなどを調理して提供する「太陽の恵み」。
一品のカロリー計算上、百三十二カロリーの料理『芭仙葱と筍のスープ』には五百二十セル。
鶏、豚、鰐、蛙、鯨、鮫、魚、兎、熊、牛、蠍、竜、肉料理の全てを熟知した冒険者が料理人となって追求した味覚・香り・見た目を堪能できる専門店。なぜか熟練の冒険者から圧倒的な支持を得て二ツ星の肉料理店と認定された「怪物の箱庭」。
三ツ星料理店「仙人亭」に劣らず客人が所持している食材をすぐさま調理でき、ギルド「竜の渦」のギルドマスターが所持していた高級食材【カジキマグロの肉[かまとろ]】と【黄金竜の肝臓】を使った料理『炙り黄金レバーのカマトロ尽くし』。一律一万セルだが、食材持ち込みに限り一律五千セルだとか。
どの料理店も繁盛する中。この繁華街には他にも雑貨店や被服店と……奥の奥、知っているプレイヤーしか知らない隠れた名工の鍛冶屋が開店している。
ただこの店に訪れるプレイヤーの多くは、鍛冶屋の鍛え抜いた刀剣であったり防具であったり、そういう血生臭いことに興味のないお茶菓子や心の安らぎを求めてくる女性がほとんどを占めている。
そう、ここは一風変わった鍛冶屋「黄金の薔薇」。
店主である彼女の卑猥なムチムチな容姿。おっとりした性格で熟練の冒険者を引っ掻けては、巻き上げた金で築き上げた鍛冶屋の性能は大陸で一番と評される。一方で、彼女は何と言うか自分の目で見て気に入ったプレイヤーにしか槌を振うことがない。
その性もあって、ほとんどの時間を自分の趣味に合わせて増築した喫茶店で貴族や富豪娘の相談を聞いたり、地下にも増築した農作畑で希少な食材を作って茶菓子の材料にしたりという日常を送っている。
『チリン、チリーン』
高らかなベルが喫茶店の入り口を通って、厨房で仕込みをしている店主の耳に入る。
午前十時という時間帯は繁華街の開店時間だが、この鍛冶屋もとい喫茶店は違う。
貴族の女性や富豪娘の起床時間は一般プレイヤーとは別物。お昼前に起きるお惚けが多いことを把握しているのでこの時間はまだ仕込みの途中なのだ。
喫茶店の茶菓子の多くは生クリームやチョコクリームが乗ったケーキや手間をかけて作るアップルパイなどの洋菓子が多いが彼女がいまボウルの中でこねているのはパンの生地だ。
厨房の流し台の水道蛇口を捻って、井戸の湧き水で手を洗い流してエプロンの布地で水滴を拭いながら入り口に向かう。
「はいはい。オープンは午後二時からなので…って冒険者の方ですか」
水滴を拭いながら入り口に向かっていた彼女は見ていなかったのだ客人を。
客人の容姿は、見ての通りガッチリした鋼の肉体を持っているだろうことは鎧の上からでも分かるほどの岩壁のような大男。重装備として見て取れる黒銀の鱗を扱ったスケイルメイル。腰に装備したスケイルコートに加えて、背中の武器スロットルに装着している一本の大剣。装備品に傷付いた痕や悪臭からして彼女は直感する。
この大男が採掘ダンジョン「水晶洞窟」の秘密エリアにしか生息しないで堅虫種ワームのゴロンムシが吐く毒物を浴びたのだろうと。
ゴロンムシは決して強いモンスターではない。しかし敵と認識した相手には躊躇なく、紫の毒物を吐いて防具を溶かすのだが、彼の黒銀のスケイルメイルはほとんど溶けていないことから相当の手練れであることが分かる。
「ここが鍛冶屋「黄金の薔薇」で間違いないか?」
「そうだけど…。一見さんはお断りの鍛冶屋だと知らないなら、早急に帰って戴けませんか」
「そういう訳にはいかない。この紹介状を預かって来ている」
大男が差し出したのは、紹介状と記された紙束。
署名には見覚えのある有名な竜が蜷局を巻く姿をした印鑑で締めくくられている。
偽装の使用がない。なぜなら、この証印を押すことが出来る人物はこの世に一人しかいない。
ギルド「竜の渦≪ドラゴンストーム≫」のギルドマスターにして、≪五芒星英傑≫の一人。ガイアス=マギ=ドラゴン。
「紹介状―――って、この署名はギルド「竜の渦」ギルドマスターのもの。
へー、そういうことね。あの人の弟子なら断る理由はないわね。
それでどういう装備品を求めているのかしら?
ウチの鍛冶屋は、刀剣から大楯に装飾品や防具と多種多様だけど…鎧の方かしら?」
「俺が欲しいのは武器の方だ。工房はどっちだ。武器の具合を見て貰った方が早い」
「そうね、ここにこれ以上悪臭を放ってもらう訳にも行かないし。
水魔法【バブルレイン】――。炎熱魔法【ヒートディフェンド】――。
これで問題は解消ね。ついて来て」
ドアも窓もない壁の前に立った彼女は、レンガ造りの壁の一部にコツンと爪先で当たると揺れを感じた大男は剣の柄を持つが、心配ないと右腕を横に払って伝える。
隠し扉だ。両サイドに開いていくレンガの壁の先から差し込む光になれると工房が見えてきた。
最新式の魔法炉が三つ並び、他所の鍛冶屋では見かけないドデカい金床。極小から極大の金槌がレンガの壁に吊るされ、完成品なのか未完成品なのか分からないが、透き通った白刃の日本刀の刀身や虹色の波紋をしているレイピアが無残に机の上に置かれている。見たことのない虹色のインゴットやザラザラした皮膜。折れた大牙などの素材が隅できらめいている。
大男が隠し扉を抜けて、工房に足を踏み入れることで地揺れと共に閉まっていく。
「さっ、ここに置いて貰おうかしら」
白刃の刀身と虹色のレイピアを無造作に隅っこに撥ねると、置く様に指示されて背中に装着していた武器スロットルから一本の大剣をゴトリと机の上に置く。
彼女は矢張りと言った表情で置かれた剣を見る。
「これは鍛冶屋「大黒天」の店主トム=クロバの作った刀剣ね。
彼の作る武具の材料の全ては鋼鉄よりも硬い黒鉄鋼をメインにしたものが多いから。
あなたの防具も黒鉄鋼メインのところを見ると「大黒天」の客人がなぜわたしのところへ?」
「いや、これは師匠の昔使っていたお古とかで…戴いたものだ」
「………」
「………」
変な間が開く。
ん? 首を傾げる彼女を見て、大男も首を傾げながら疑問に思う。
「へ? その臭いはゴロンムシの毒物を浴びたんじゃ」
「元からこういう匂いなのでは? ―――『じゃあ、その傷痕は』…師匠の攻撃を躱す時に付いてしまって…」
突然がっくりと頭を下げる。
なににガッカリしているのか理解できない大男は、さらに戸惑うばかりであった。
「がっかりだよ。
それっじゃあ、ステータスを確認してもいいかな。
特注品のオーダーメイドを作るには必要なことなの」
「わかりました。どうぞ」
自己紹介も兼ねて大男はプロフィールを提示する。
Status
Name;リュウオウ
Age[Sex];19[♂]
Tribe;人間[ヒューマン]
Job[Rank];冒険者[E]
Level;24
Days;120
DNALevel;2
Ability
HP;体力値5897
STR;筋力値150〈+10〉
AGI;俊敏値141
VIT;耐久値146〈+21〉
DEX;器用値140
MP;魔力値143〈風+20%〉
Core;コア5
Tolerance;耐性【―――】
Penalty;状態異常【―――】
Skill
CombatSkill;武装スキル【虎の力Level.2】
EffectSkill;技術スキル:調合スキル【調合】【採取】【解体】【解剖】
ConstructionSkill;構築スキル【加速】【跳躍】【硬化】【集中】
PersoSkill;身体技能スキル【瓦割り】
SwordSkill;剣術スキル【兜割り】【一閃】【撃滅一点華】
SurvivalSkill;サバイバルスキル:【サーチ】
UltimateSkill;アルティメットスキル【タイガーライジング】
Weapon
Right;右手武器【―――】
Left;左手武器【―――】
Both;両手武器【大黒天ブランド品[大剣]:大蛇逆鱗丸】
WeaponBonus
STR+10;筋力値+10
Armor
Head.1;頭部1【大黒天ブランド品:クジャバネヘッドギア】
Shirt;アンダーシャツ【ノーブランド品:V字シャツ[黒]】
Body;胴部【大黒天ブランド品:大王のスケイルメイル】
Arm;腕部【大黒天ブランド品:大王のスケイルアーム】
Hand;手部【大黒天ブランド品:大王のスケイルハンズ】
Waist.1;腰部1【大黒天ブランド品:大王のスケイルコート】
Pants;アンダーウエア【ノーブランド品:トランクス[トラブルピンク]】
Leg;脚部【大黒天ブランド品:大王のスケイルレッグ】
Foot;足部【大黒天ブランド品:大王のスケイルブーツ】
ArmorBonus
VIT+21;耐久値+21
大王オロチセット;洞窟エリア移動中、モンスターに警戒・発見されにくい
Accessory
Head.2;頭部2【―――】
Eye;目部【―――】
Ear;耳部【―――】
Nose;鼻部【―――】
Neck;首部【ダンジョンアイテム品:琥珀のネックレス】
Back;背中【大黒天ブランド品:大剣用スロットル】
Finger;指部【ダンジョンアイテム品:オメガクロス】
Waist.2;腰部2【ノーブランド品:スロットル】
AccessoryBonus
オメガの力;風魔法の効果が二割上昇
幸運I;採取・採掘でレア素材の獲得率が二割上昇
大剣用武器スロットル+1
武器スロットル+1
「大体、分かったわ。
君は攻撃メインの突破タイプ、必要になるのは…(【虎の力】と「オメガの力」を取得しているということは風魔法を得意とするスピード系に対して重装備は腑に落ちないし、魔力値はレベル二十四にしてはかなり高い。これはDNAレベルの性もあるけど、彼自身の潜在能力が上乗せしていると見ていい)…ふふふ、面白い。使いこなせるかどうかは君の潜在能力に賭けましょう。
これを持って行きなさい。まだ試作段階だけど、無いよりはマシでしょ。
三日…いえ二日で仕上げてあげるわ。
あなただけの最強の武器をね。このわたし、「黄金の薔薇」店主シロナが!!」
一瞬、魔女のような黒い一面をした彼女から渡されたのは見たことのない二本の大剣。柄同士を繋ぐ黒鉄鋼の魔法鎖でどこまでも伸びるが用途が分からないリュウオウは、さっさと出て行けと言わんばかりに追い出されたのだった。
名工と呼ばれる隠れた職人の噂がある。
彼女は魔性の女だ。関わったら骨抜きになるまで金を貪り取られるが、知人に微笑むその笑顔は氷ではなく黄金の太陽のようだと。鐘ではなく鍛冶の音は彼女が楽しんでいる証。久々に聞こえる金音は、骨抜きにされた男性プレイヤーの叫びに聞こえるのは知人だけ。
いかがでしたでしょうか?
今月もあと一日、来週の土日に投稿出来ればいいのですが不安です。
さてさて、この幕間も次話で丁度半分となる四話目。どんな展開になるかはまた次週です。お楽しみ下さい(=゜ω゜)ノ