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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第一章 「裏切られた世界」
13/109

【#013】 To the future -未来-

現在、Restart投稿真っ只中でございます。

その為、次話を読み進めても話が咬みあわないことがあります。

ご注意ください。

さてさて、今回のお話は前回の後篇となるPart.IIにして第一章の終わりです。

{2016.1.11}改稿完了。




 夕暮れから夜へ。

 夜から夜明けまで殴り続けた彼等の体力は底をついて、両者とも仰向けに倒れていた。

 もう彼等は覚えていない。

 なぜPVPを終えた後も戦っているのか。

 その理由を忘れて殴り続けた彼等の顔を中心に、青く腫れて利き手の拳は震えている。

 仰向けに倒れ込んだ彼等の目に映るのは同じ夜明けの空。心地のいい微風が、歓迎してくれているような気分になっていたが、彼の一言ですべてを思い出すのだった。


「おい、ヒロキ。お前を仲間として認めよう。

だが、な。妹に手を出したら茹でて。煮て。蒸して。焼いて。炭にして。

この世から抹消するから覚悟しとけよ」


 ああ、これがシスコンって奴か。類は友を呼ぶ。と言うが。

 ゼンさんといい。ギルドメンバーといい。傍から見ればイカガワシイ集団にしか見えないぞ。

 本当に大丈夫か?

 よっこらっせ。と片膝を曲げて立ち上がるクロム。

 足下に青色の魔法陣を仕掛けてイベントリからバンダナ。割烹着。紺色の半袖Tシャツなど取り出して着衣していく。

 腰の武器スロットルには、二つの装備品が見える。

 魚や鳥などを解体するときに用いり、使用中に力を入れても刃先が曲がらずに使えるように刃が厚く重い三角形の形状をした「大出刃包丁」。

 主に野菜全般を切るための包丁だが、かつら剥きや野菜の曲切りなど非常に用途が広い長方形の形状をした「薄刃包丁」。

 両方とも食材を切断または加工するための刃物の調理器具だ。

 しかし武器スロットルに装備しているところを見ると気になって仕方ない。

 包丁まで武器扱い。となるとステーキを切って食べるフォークやナイフ。娯楽を楽しむダーツやボールさえも武器に変わるということになり兼ねない。

 そう思えば、怖いものを感じづには要られなかった。

 だがその思考は一旦打ち止めとなってしまった。足音が耳に入ったからだ。


「青春してるね。でも、ちょっと派手にやり過ぎだよ。クロム」

「はあ…言ってくれますね。クルスさん。

でも一応、アンタに仕込まれた喧嘩殺法ですよ。これでも手加減はした方です」

「えっと、お二人は知り合いか何かで?」


 その質問を聞いた瞬間、二人は苦笑する。

 クルスは俺に手を差し伸べ、それを掴み引き上げてくれる。

 歩きながら話そうか? という提案を持ち掛けてきた。

 俺は頷いて肯定する。

 それじゃあ、お先に。と言ってクロムが駆けていく最中、メッセージが送信されて来た。


{PvP、クロムvsヒロキの対戦はヒロキが勝利しました。}

{ヒロキのステータスが更新。

称号;【*実力者への道*】を獲得しました。}

{ヒロキはレベルアップしました。}

{ヒロキのステータスが更新。

レベル;12→13、体力値;1500→1750、筋力値;85→88、俊敏値;100〈+15〉→112〈+15〉、耐久値;90〈+9〉→97〈+4/9〉、器用値;150→161。コア;10→11。}

{PVPにて防具;足部【ガードマンブランド品闇雲】の耐久値がレッドゾーンに入りました_修理が必要です。}

{クロムからストレートパンチを受けました。}

{ダメージカウント;ゼロ}

{師弟関係にあるプレイヤー;クルスからメッセージが届きました。}


 歩きながらメッセージを見るためにイベントリホームからロジックコードへ接続するとMボックスから新着メッセージを認識すると、自分の視界だけに見える文面が表示された。


 ボイスチャットを提案する。幻想砂漠に入る前に使っていた干渉魔法【テレパス】でもいいが、今の君には色々な方法を知って置いてほしいからだ。

ボイスチャットをするには、イベントリホームからロジックコードへ接続した後チャットルームへ入れば分かる。

 指定された順番でチャットルームに入り込む。

 視界が歪んで吐き気を催すが、気持ちをコントロールして抑える。


「…っぐ、これは」

『悪いな。チャットのデメリットだ。

二重認識すると脳に負担が掛かって、酔ってしまう。

干渉魔法の場合はまずプレイヤーの意識に潜り込むことで酔いを大幅に緩和した状態で会話をしているから負担に感じることはないからね』

『なるほど、大方落ち着いてきましたよ。

でも、どうしてこの方法を取るんです?』

『いま、このギルドには密偵がいるからだ』

『(なるほど、ね。内戦事情、監視対象、密偵と来ればこれは戦争の一歩手前。情報収集が今この場所で行われているってことか)……』


『ヒロキ。あまり、深読みはするな。

今回の騒動は裏だけの問題としてマイトさんや僕が動く。

君はいまある未来だけを追えばいい。

これは師匠と弟子という関係だからという訳じゃない。

先輩としての助言だ。

この件に一切関わるなとか首を突っ込むなとは言わない』

『はい、分かってますよ。

クルスが言いたいことは何となくですが。

それでも立ち向かう必要がある時は戦いますよ。

一流の冒険者は、時には感情に任せてみるのも一興だと言ったのは師匠ですよ』

『そうか。分かってくれるならいい。先に渡しておくよ。みんなからの餞別だ』

『釣竿? 缶詰? 洋酒ですか?』

『うん。用途は後で確認すといい。さて、クロムの作った朝めしを頂こうか』


 大きいな。この人は。

 俺は改めて実感していた。

 異端者イレギュラーと呼ばれる一方で自分の師匠の寛大さに。

 心臓と脈が躍動するほど感激したのだ。

 どうやったらこの人に追いつけるのか。

 遠退いて行く背中を見ることしかできない自分の弱さを克服できるのか。

 少しの不安とこれから向かう【シェンリル】が一体どういう場所で。

 どんなものが自分を待ち受けているのかと言う好奇心に。

 自然と口元が緩んでいたことをまだ俺は知らなかった。

 冒険にハマる瞬間。

 それはもう目の前にあることも。

 それを知った時、自分がどういう表情で何をしているか。


 【居酒屋「つまむ野菜」】のドアノブを回して開けてくれているクルスの元へ駆け寄る。

 店の中へ入ると、そこで待っていたのは「パムチャッカ」のメンバー全員が着席したまま自分を見詰める視線だった。

 昨日と違って全員が騒ぐこともなく着席している姿に、あれあれと戸惑っていると板前のカッコイイ割烹着をシャキッと着て現れたのはクロムだった。


「―――ったく、いつまで待たせるんだよ。

さっさと入って席に着け。俺たちのギルドの朝食は全員揃って食うのが掟だからな」


 そう言われて案内されたカウンター席に座る。

 目の前にクロムが凛々しく仁王立ちして、ゼンに視線を注いでいる。

 ゴホゴホッ。と咳払いするとゼンは自分の座っている位置でガラスコップを持って立ち上がる。

 いきなり食事の挨拶をメンバー全員が復唱して言っている。


「大地の芽吹きは、我らの宝」

「「「「「「「…大地の芽吹きは、我らの宝…」」」」」」」

「大海原の輝きは、我らの誇り」

「「「「「「「…大海原の輝きは、我らの誇り…」」」」」」」

「生きるために大自然の生命を穢すことをお許し下さい」

「「「「「「「…生きるために大自然の生命を穢すことをお許し下さい…」」」」」」」

「穢した生命を土に、灰に、新しい命に吹き込む我らをお救い下さい」

「「「「「「「…穢した生命を土に、灰に、新しい命に吹き込む我らをお救い下さい…」」」」」」」

「我ら、パムチャッカ」

「「「「「「「…我ら、パムチャッカ…」」」」」」」

「愚かな我らに、今日を与えて下さったことに感謝します」

「「「「「「「…愚かな我らに、今日を与えて下さったことに感謝します…」」」」」」」

「いただきます」

「「「「「「「…いただきます…」」」」」」」


 復唱を終えると割烹着を来た店員が全員の器に「飯物」と「お吸い物」を配膳していっている。

 窯の蓋を開けた瞬間から店内を泳ぐこの独特の優しく包み込んでくれそうな香り。

 タケノコ。この感覚を知らない日本人はいないだろう。

 目の前に出された陶器に盛られた「たけのこごはん」を見て匂いを楽しむだけで満足いく。

 微塵切りされたタケノコ、これは食感を楽しむ工夫だろう。

 繊維を断つように根元を銀杏切りされたタケノコ。

 穂先を縦半分にして繊維に沿って、縦に切られたタケノコは見た目を鮮やかにしている。

 タケノコの香りもそうだが、クッションのようにホカホカ漂う白米と染み込んだ出汁が素晴らしいハーモニーを生んでいる。

 極めつけは目に映える木の芽がすべてを支えている。

 まず箸が捕らえたのは、一番大きな穂先部分のタケノコを口の中に入れる。


「……―――ヤバい、美味すぎる」

「当たり前だろ。

この【筍メシ】のレシピは、板前長の許可をもらった俺の自信作だ」


 エッヘン。と威張るだけはある。

 確かな食感と風味がヒロキの神経を通って、心の内で合格点が出ない訳がない。

 そのままマナーなど。気にすることなくがつがつと食べ進める。

 木の芽のさっぱりしたこの感覚が更なる食欲を注ぎ込む。

 周りでは既にオカワリの注文が殺到している。

 お吸い物を啜ると、こちらも中々に美味である。

 穂先部分の縦切りされたタケノコを贅沢に使い、ワカメ。木の芽。不要なものを一切使っていない性か透明度の高い出汁が映し出す朱色の吸物椀の底が美しく感じられる。

 これから動くことを考慮して腹七分目で抑えることにした。

 両手を合わせて合掌する。

 ご馳走様です。と言って席を立つ。


「お粗末様。

ちょっと必要なものを取って来るから裏口を通って待っててくれ」


 そう言って板前の席から外れる。

 あの人が板前長なのだろうか?

 貫録のある長方形のように細顔の人物の前で止まって挨拶を交わしている。

 他の店員にも挨拶しているところを見ると、一体どれだけの時間メンバーと一緒にいたのかが伝わってくる。

 俺には出来ないことだ。と素直に認める自分の姿を見て、髪をぐしゃぐしゃとしてクルスは何か思うことがあるのだろうと横に目を流す。


「大丈夫。ヒロキにも一緒に冒険して笑い合える仲間が出来る。

僕はゼンさんに挨拶をしてくるよ」

「分かりました。えーと、師匠って呼んだ方がいいですか」

「いや、今まで通りクルスでいいよ」


 隣のクルスが席を立ってしまったことでポツンと一人残される。

 矢張り寂しいものを感じてしまうのは、ホームシックになっているのだろうか。

 いや、こんなことはリアルでは日常茶飯事だから。

 有り得ないと言い切るが不安に刈られる。

 そんな不安定な状態の時分に小さな音が聞こえた。

 びくり。と小動物のように身を震わせるヒロキに女の子の悲鳴が耳に入る。


「ひゃああああ。ご…ごめ、なさい。お、お邪魔、しましまた」

「あ、ごめん。驚かすつもりはなかったんだが、―――えーと何か用?」


 もじもじするレインの姿を見る。

 ぬむ。クロムが妹萌えなどと口走る気持ちが伝わってくるほど愛らしく見て取れる。

 ふりふりと左右に腰を振っているのは、どうやら無意識のようだ。

 赤らめた頬に紫の瞳が映えてみえる。

 白いTシャツの胸元から覗く、例え小さなオッパイでも寄せることによって生まれる白い谷間が俺の頬を朱に変える。

 そっぽを向く姿を見て気付いたのか、必死で胸元を隠している。

 お互いに沈黙の時間が続くのも気まずい。

 俺は自分の方から話し掛けることを決意した矢先のことだった。


「オッシャア!!

挨拶回りも終わったしレイン行くぞーって。おい、何をやってんだ?」


 わなわなと震えるクロムの目の先には、怒るには十分な光景が映し出されていた。

 頬を赤らめて必死に胸元を隠して震えている愛する妹。

 おどおどしながら、その妹に近づこうとしているこれから共に旅をしていく仲間の姿に。

 クロムの拳が燃え上がる。

 眉間に皺を寄せて、額やら顔中に怒りマークが浮かぶ中でレインが声を荒げる。


「ま、待って、にぃ。この人は、わ、わるく、ない。

い、いつもの、にぃの勘違い。え、とね。

ん~~~、私はただ挨拶しようとしただけ。だから、怒る必要はどこにもない」

「レイン? お前。俺とゼンさん以外で喋れるようになったのか」


「もう、大丈夫。私だって一人前の薬師になる夢あるから。

にぃの後ろを引っ付いて歩くだけじゃダメなの分かってる。

追いつくもん、絶対に追いついて一緒に横を歩いて…」

「うおおお、レイン。俺は今、猛烈に感動している。夢はでっかくだ。妹よ!!」


「…(にぃの恋路を全力で邪魔して、にぃのお嫁さんになるんだもん)…ありがとう。頑張る」


 おい、いまなんか物凄い心の声が聞こえたぞ。

 この兄妹のこの先が思い遣られるぞ。

 あ、そう言えばと思い出した俺は、

「なあ、そろそろ行かないとクルスにこってり絞られると思うんだが」


 と言う俺の一言で石のように固まる兄妹。

 あたふた。と各自急いで準備を済ませて裏口に回ったのだが必然的に説教されてしまった。

 同等の対価としてクロムには、荷物持ちが課せられたことは言うまでもない。

 こうして俺たちは歩き出した。

 未知の世界に。

 冒険を求めて。

 仄かに香る潮の風に乗って。

 最初の町にコンパスを合わせ自分の意志で。

 自分の夢を叶えるために必要な第一歩を踏み出したのである。



いかがでしたでしょうか?

予告通り、次話より幕間を約五部ほど織り込んで第二章に入る予定です。

これから、盛り上がっていく予定ですので応援して戴ければ幸いです。

因みにどうして、たけのこごはんにしたかと言うと日本料理と言うのもありますが私自身の昼食がそうでしたので書き込んだ次第です。

晩御飯はご飯と呼べない、冷奴オンリーです。

明日の投稿も出来れば頑張る所存です。

それではみなさん、お休みなさい。

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