【#012】 Now -現在-
こんばんは、今回のお話はPart.IとPart.IIに分けることになりました。
わたしの夏休みが今日を入れてあと二日と短いですが、頑張って執筆していきます。
{2015.8.15}→{2016.1.11}改稿完了しました。
バイモンとゲイルは一応、そのギルドの名前を聞かされていた。
ただし噂程度の他愛のない世間話。として受け取っていた。
彼等は真実の端っ切れを垣間見た瞬間から恐ろしく感じていた。
ギルド「六王獅軍」。
レベル二百クラスの六人それぞれが一番隊から六番隊まで組織している。と聞けば誰しもが古参の大ギルドだと思うことだろう。しかし違うのだ。
彼等は魔法戦争後に組織されたギルドであり、その実績のほとんどが紛争地帯への介入である。
ギルドを創設した者の多くは、何かしらの目標を抱いている。
例えば物資や素材の収集を始め。
大型モンスターの討伐や捕獲遂行の為にメンバーを動かしていく。
それが常識なのだが、彼等は根本的に違う。
ギルド「六王獅軍」の目的は、この世界から争いごとを無くすこと。
それだけを考えに考え抜いた。一つの答えとして紛争地帯に介入しているのだ。
彼等は知っているからだ。魔法戦争という悲劇と結末を。
自らの目で見て。心で受け止め。
四肢を捥がれたからこそ、その現実を食い止めるが為に、未来へと繋げるために組織したのだ。
例え自分自身の命が尽きようとも全身全霊を持って、目的を達成するべく闘争心と士気を一定値で固定されたその意志と士気は、遠方から探知しているバイモンの神経を圧迫していた。
額に汗を募らせるバイモンの姿を間近で見るマイトは、そっと肩に手を置く。
「もういい」
「……すみません」
生唾を飲み込んで額の汗を拭う。
青ざめた顔で膝を折るのを見て、ゲイルは尽かさずバイモンの前に仁王立ちする。
片膝を九十度直角に曲げて、【加速】を乗せて鼻にヒットさせる。
「へへへ、思い知ったか肉壁」
「……」
「反応なしか、おい。
ビビッてんじゃあねぇーよ。
俺等の任務はなんだ。護衛だろうが。
護衛がへっぴり腰で任務が務まるとでも思っているのか。
ああん? オマエのそれは、任務放棄意外にねぇんだ。
傭兵ギルドの役目はなんだ。このままなら…」
「分かってる」
「いいや、オマエは分かってない。
ギルドマスターの首が飛べば給与はお預けの上、途方に暮れることは間違いなしだ。
オマエはそもそもだな…」
愚痴が続く中、いやそっちの話かよ。という顔をするバイモンを見て苦笑するクルスは話を戻す。
「分かりました。マイトさん、いえ師匠。
僕はそもそも傭兵ギルドの出でも。
依頼を受けた側でもありませんしね。
ここからは弟子が迷わないように誘導しますよ」
やれやれ、という表情で目的地に行こうとするマイトを呼び止める。
「あ、出来れば彼女に会ったら誤って戴けませんか。
僕は留まれる人間ではありません。もう、あんな経験は二度と御免だ」
「お前の気持ちは分かるが、それは自分で伝えろ」
すれ違うように足を再度止めて、耳元で囁くように言葉を続ける。
「それと、どうもイヤな胸騒ぎがしてならん。
何か途轍もない陰謀がバックに潜んでいるような。そんな気配がする。
クルス、弟子として聞け。
会いたくはないだろうが、賢者ルナ。鍛冶師シロナ。薬師コハク。商人ベル。情報屋クモ。
その五人と言えば分かるだろ」
「……まだ、安心は出来ないということですか。ですが、最後の一人は…」
「確かに奴は簡単には見つからない。
ゼンからの情報によれば、クモはいま闇市に住んでいるらしい」
「―――貴方の弟子になって漸く分かりましたよ。こんな危険極まりない道を歩けるのは僕だけのようだってことが、でも感謝してますよ。死の淵こそ、僕は生きた心地を味わえる」
▲
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幻想砂漠の闘技場。
闘技場といえど、それほど大きな建物でもなければ、広くもない。
小さな空き地に設けられた面積にして三百平方メートルの平地。
そこで二人の転生者が激突していた。
一人は片手にナイフを握り、スキルと構築能力を組み合わせて対戦者に近寄ろうとしている。
一方でもう一人は火炎魔法【ファイアーボール】をナイフ使いに向けて、連射しながら罠魔法【焔】を砂地に設置している。
火炎魔法を得意とする魔法使いは、勢いを殺すことなくMPが切れる寸前でナイフ使いの立ち位置から最も近い付近に仕掛けた罠魔法から発動していく。
罠魔法の本来の使い道は、魔法陣に触れた瞬間に発動するものが多いのだが、小さな魔力を注ぎ込むことによって発動する自爆を利用した技術で相手の動きを封じていた。
PVP残り時間。二分を切った辺りで、ナイフ使いは今まで急ぎ足で動いていた足を止めた。
「どうした、もう限界か?
この八分間。オマエの動きを見てきたが、回避技術も攻撃も素人同然だぜ。
まあ、俺もだけどな。でもな。なぜ、本気を出さない。
なぜ、魔法を一切使おうとしない。
その程度でこの先を進もうなんて甘い考えは捨てろ。
悪いが全力を出さない人間は信用しない主義だ。
ゼンさんには悪いが…『ちゃんと、全力は出してるよ』…はあ? なら証明して見ろ」
「もう、詰みだよ。チェスでいうチェックメイトだ」
何を言っているんだコイツは!? という表情に加えて首を左右に振る魔法使い。
彼が動こうとした瞬間。自分の立ち位置と魔力探知を使ってどういう立場にあるのかを知る。
踏み止まる魔法使いを見て、観戦していた白い割烹着に白い三角巾をした女の子がどうして? とこちらを窺っている。
それもその筈だ。
残り時間が一分二十一秒で止まりデジタルナンバーが崩壊した。
『Winer_Hiroki』。と大きく闘技場の中央に設置されたホログラムに表示されていた。
「いつ罠魔法を仕掛けた?」
「その罠魔法【焔】の爆発脅威のある範囲は魔法陣の中心から凡そ一・五メートル前後。
連発できるように魔力量は均一で爆発脅威が跳ね上がる確率は低いと計算した。
移動パターンと連発できる最大量数からMPを把握。
あとは簡単だったよ。チェックポイントに誘導どうさせるだけ。
…『答えになっていないぞ』…それを仕掛けたのはクロム、お前自身だよ」
「なに?」
「この石は知っているよな」
「ああ、赤い石にこの仄かな火山灰の臭い。火打石だな。
サバイバル生活の中で使う必需品で…あっ。
そうか。そういうことか。でも、そうなると火力が足りていない筈だが」
火打石。冒険者の必需品として出回っているアイテム。
石の内部に魔力が溜まっているファンタジーな鉱石。
本来の使い道は、キャンプファイアや焚き火をする為に他の物質に叩き付けることで石自体の成分と魔力が化学反応を引き起こして発火する常識的に考えれば危険物。しかし彼の言う通り、火力がない性もあって非常に安価で市場取引されている。
多くの冒険者は焚き火をする際、必ず燃えやすい枝木や火薬あるいは液体燃料を用いて暖を取る。
ナイフ使いはそれらを使ったようには見えなかったのだろう。
実際にその通りだった。
「構築能力【増幅】この力の一番いい使い道は、物質に籠めることによって最大威力を上げること。
それが投擲できる武器なら尚更だ」
「もし、そうだとして。一つ可笑しなことがある。俺は全部の罠魔法を自爆させたはずだ」
「それは魔法陣の特性を利用させてもらったのさ」
魔法陣。魔法使いや魔導士など魔力を使いこなすプレイヤーが用いる常套手段。
主に起動する魔法へ増幅作用を齎す他に、時間差で発動することや遠隔操作で起動させるなど千差万別の手法を取ることが出来る。
「特性だと」
「これはクルスから聞いたことなんだが――。
九十九・六パーセントのプレイヤーには、体内には血液の他に精神エネルギーつまりは魔力が流れている。でも流れていない者。魔力が乏しい者は、魔法の効果を受け難いらしい。それで実際に実験体になって見た結果から利用させてもらったんだ」
「――!? 偽装に。
火打石を放って自爆したように見せ掛けたのか。
完敗だよ。でも経験者からのアドバイスだ。
戦い方は人それぞれだがもっと冒険してもいいんじゃないか?」
背伸びして、イベントリに防具をその場で仕舞いこみ戻ろうとするクロム。
そこへ駆け寄る女の子は、走る中で三角巾を解ほどいて『にぃ』と何度も読んでいる。
ぼふっ。とクロムの胴体にぶつかりその場の流れで抱き込んで泣きじゃくっている。
じろっ。とこちらを睨んでいる姿を見ると矢張り兄弟のようだ。
「こらこらレイン、そんなに引っ付くな。
せっかくの美人な顔が台無しだぞ。
それにそんなに睨んでやるな。これから一緒に【シェンリル】に行くんだから」
「う~、わ、かった。でも、にぃ。忘れないで。私が、にぃの一番」
そう言って離れていく。
まだナイフ使いを信用していないのか立ち止まる少女は、下瞼を引き下げて舌を出し、あっかんべーをしている。
「なあ、口調も変わってるし、少しブラコン過ぎやしないか」
「何を言ってる!?
あの素晴らしいプロモーション。小さなオッパイ。
安産型のキュートなヒッブウウウウウウウウ、って何でいま殴った」
「―――正義の鉄拳を喰らわしただけだ。問題ない」
「問題大アリだ。妹萌え。最強だってのが分かんねーのか。
誰だって兄妹同士で、一緒に買い物したり。遊んだり。
お医者さんごっこしたり。あ~んってしあって食事したり。
お風呂に入った後にマッサージし合ったり。添い寝するだろ!!」
ダメだ。
ブラコンの元凶、コイツだった。
この後、大いに殴り合い続けたことを全員が知ったのは、クルスが到着して直ぐのことだった。
いかがでしたでしょうか?
本来ならば昨年最後の投稿でしたが、Restart投稿によって大部分を修正中です。
次話にて第一章を打ち止め、幕間に入りたいと思います。
よろしくお願いします。