【#011】 Dream -冒険者の夢-
こんばんは、今回も遅い投稿になりました。
小学生と中学生の夏休みは一ヵ月ちょい、高校生は長くて三週間程度、大学生は二ヵ月までは行かないでしょうが、大人の夏休みは一週間あれば上出来でしょう。
わたしの夏休みは四日と短いですが、頑張って執筆中です。
{2015.8.13}→{2016.1.11}改稿完了しました。
和食のコース料理の順番は大抵。
「先付」もしくは「付き出し」と言われる酒の肴が運ばれてくるという。
料亭なら季節に因んだ趣向を凝らしたメニュー。
例えば「柿の白和え」や「胡瓜の浅漬け」などが定番だろう。
しかしこのお店もとい、パムチャッカのギルドホームで用意されるメニューの趣向は世界中の料理を掻き集めたように感じられる。
最初に出された品は、瑞々しいトマトのほのかな酸味とすっきりした甘みの二つがチーズのコクと絡みあい、大葉独特の香りと爽やかな風味がアクセントになって生ハムの深い塩味が包み込んでくれる「蕃茄のカプレーゼ」はイタリア料理だ。
次に出されたのはスープだ。
ピリッ! と辛みがある輪切りにされた赤い唐辛子と酸味の強い甘酸っぱさがなんなのかは分からないが、スイートコーンとインゲンとキャベツそれぞれの旨味が心地いい「サユールアッサム」はインドネシア料理。
先程運ばれてきたのは「お造り」は刺身の盛り合わせだ。
店員が言うにはこの地域一帯に生息している甲殻種サソリのホワイトダガー十匹分のプリッとしたエビのような肉を贅沢に盛り合わせ。
彩りを持たせて滅多に食べることが出来ない大獣種クジラのシーランスの最高級尾肉と言われる霜降り肉を刺身にした「サソリとクジラの喧嘩~東国の伝統料理風~」は日本料理。
よくよく見ればどんな器用さだろうか? と疑うほど見事な胡瓜やミニトマトの木の葉切りに。胡瓜松や大根の飾り付け。そのどれもが美しく想える。
二人で食べても、もう満足感に浸れるほどに満腹である。
「ゼハハハ、美味かろう。
この一品は日本料理の刺身だが、どの食材も普通の商人の貿易ルートでは絶対に入手出来ん。
ここでしか食えん上、どの食材も器用値が百三十以上のシェフクラスでないと調理不可だからな」
器用値百三十と言えば、俺の器用値は確か…百五十だった筈だが。
これだけ成長率が高ければ、誰でも料理長に成れそうな気もするけど。
今の言い方は…。
「ゼンさん、プレイヤーの成長率って個人差があるんですか?」
「ん? ああ、そうだな。
プレイヤーにも色々いるからな。
ステータスにDNALevelと言うのがあるだろ。
「HelloWorld」のプレイヤーの種族は人間[ヒューマン]。獣人[アニマ]。白亜人[エルフ]。黒亜人[ダークエルフ]。小人[ドワーフ]。魔人[フェイスマン]。幻人[デウス]。
その七種族に分かれるが、常人ならレベルが一。上がるごとにステータスのポイントは多くとも「+3」。非凡なら「+1」。超人なら「+5」だった筈。
だから、お前さんぐらいの年齢で一週間の経験値持ち転生者の平均的なステータスポイントは良くて八十ってところだな。
おーい、キリノスケ。
キンキンに冷えた【辛口ドライビール】とコクの深い【マメチーズ】追加な。
―――『うっす、注文承りました』…っで、なんにょはにゃしだったけ」
うわあぁ、べろんべろんじゃん。
既にうとうとしている。
前のコースメニューの時に注文した【辛口ドライビール】×中瓶二本が堪えたのか?
瓶を両手で抱きしめたまま、目が泳いでいる。
言葉も日本語ではなく猫語ぽく感じられるのは、呂律が回っていない証拠だ。
明らかに酩酊状態。
これでは話しを聞けそうにない。どうしたものか?
悩んでいる内にゴトンとビール瓶が机の上に倒れて転がる。
両肘を机に付いたまま顔を真っ赤になって、物凄い鼾をかいて寝ている。
「ぐがあああ、があああ、ぐむ、ぐみゃぐみゅ…」
仕方なく倒れたビール瓶を机の中央に移動させる。
ゼンの周りに置かれている汁物から片付けていく中。
メモ書きされた紙切れが青い畳に落ちているのを発見する。
なんだろう、と拾い上げる。
「えーと、俺宛て?」
幼き冒険者へ。ゼン=ヘドリック。というタイトルで始まる手紙。
どこかのスパイアクション映画で使われるセリフから始まり、伝えたかった言葉が綴られていた。
この手紙を開いて読み終えたら二十秒後に自動的に破棄されるので注意してくれ。
本来、君のような転生し立ての新人冒険者宛てに書く文面ではない。
それでも君があの異端者クルスの弟子であることを信用して、ここに依頼を記す。
Qカード;グレー☆10
依頼人[関係];ゼン=ヘドリック[個人]
依頼内容;英雄祭のメインイベント「カーニヴァル」に出場及び上位入賞
依頼報酬;「カーニヴァル」参加賞→マグナイト鉱石×5、ドラゴンのヘッドギア
「カーニヴァル」上位入賞品→マグナイト・インゴット×5、100,000セル
「カーニヴァル」準優勝賞品→奈落のバックパック、白銀の英雄杯、500,000セル
「カーニヴァル」優勝賞品→領主主催晩餐会入場券、黄金の英雄杯、奴隷解放券、太陽の結晶体、マグナイト・インゴット×10、1,000,000セル
上位入賞を果たした時点→剣術指南書[全巻;本]、初心者の薬学知識書[全一巻;本]、素材の使い道[全一巻;本]、太陽盤の欠片[1/4;重要品]
依頼助言;英雄祭は四年に一度アルカディア大陸で開催されるビックイベントだ。勿論のことだが、開催地はマイト=ゴルディーの目的地でもあった貿易都市【シェンリル】。町総出で行われるこのイベントには、大陸中から冒険者や商人以外に各国の要人が多数出席する。今回のイベントには内戦事情が絡んでいる。多少言葉を省くが、吾輩と貿易ギルド「パムチャッカ」も監視対象となっている為、派手な動きや軽々しい言動が出来ない状態にあるのだ。故にこういう形になってしまったことを許してほしい。これを読んで数分後に訪ねてくる同世代の転生者クロムとレインの二人と共に幻想砂漠を離れて【シェンリル】に向かってほしい。冒険ギルドまで二人を頼るといい。それでは幸運を祈っているよ。
読んだ紙切れを机の上に置く。
ボッと火が付くとマジックで使われるフラッシュペーパーのように一瞬で燃え尽きてしまった。
フラッシュペーパーの原理は知っている。
これも魔法かな? と疑うように首を傾げる。
因みに作り方は簡単。
紙に含まれるセルロースを硝酸と硫酸の混酸処理した後よく洗って乾かせば、手品に使うフラッシュペーパーが出来上がり。洗うのを忘れると自然発火したりするので十分な注意が必要。
ゴトンと突然の物音にびくりと、身を震わせると後ろから声が聞こえた。
「やあ、君がヒロキだね。そんなに驚くことはないよ。レインの兄でクロムだ」
振り向くと、板前のような白い割烹着を身に纏った青年が立っている。
紺色のバンダナを解き白の上着だけを脱いでイベントリに仕舞いこんでいる。
軽装の鱗がジャラジャラと付き纏う防具に換装するとナイフを渡された。
「このナイフは?」
「俺は、よ。
世界中の料理を研究してレシピをつくって、いつの日かでっかい自分の店を持つことが夢なんだ。
その為にはまず手始めに冒険者になって食材を見極めたい。
見た物しか信じない主義だからだ。
だから、よ。
ゼンさんの言葉だけじゃあ俺は信じねぇことにしてる。
つまりだ。今から俺と勝負をしよう」
「実力を見極めたいってことか」
「そうだ。
負けても勝っても一緒に行動はする。
でもな。家族でもない人間に優しくする義理はないだろ。
…と言うのは建て前で、俺たちには実戦経験がないからな」
全然、建て前に聞こえないのは、気のせいじゃないな。
彼の顔を窺うまでもなかった。
この冷えた空気はクルスとの実戦訓練で体験したことがある。
魔法ではない。
空間を恐怖で支配する感覚的作用の殺気だ。
ヒロキは否応なく二度目のPVPを承諾するほかなかった。
▲
▼
ヒロキと幻想砂漠で分かれたマイトたちはそれぞれ魔法や構築能力で、基礎能力を補強して今までの数十倍の移動速度で目的地に到達しようとしていた。
猛烈に吹き荒れる風をゲイルの体術で蹴散らしていく。
幻想砂漠を抜けた一帯のみに生息する狂獣種ウルフのガーネットキャットの群れに大抵の冒険者は苦戦するのに対してクルスとマイトの強烈な魔法攻撃で易々と突破していく。
その間、バイモンは持ち前の採取スキル【早拾い】【解剖】と構築能力【加速】を活用して白金砂丘に生えている薬草や鉱石と二人が倒していったモンスターの素材を回収していく。
【増幅】でサバイバルスキル【サーチ】の視野範囲を大幅に拡張した状態で探知を続けている。
その最中でバイモンの動きが停止する。
後衛のバイモンが停止したことにいち早く気付いた前衛のゲイルの停止で歩幅を縮める最大火力を誇る二人が足を止める。
「知らなかったのは、我々護衛役だけですか」
「悪いな。騙すつもりはなかったんだ。
ゼンから隠語を受け取った以上はこうする他なかったと思ってくれ」
「どういうことですか? マイトさん」
「ゼン=ヘドリックに娘はいない。
二ルディーは、魔法大戦中にマイトさんがスパイ捜索時に使った隠語。
その意味は…『言うな。木っ恥ずかしいだろ』
―――ハニートラップ後の暗殺とスパイに失敗したプレイヤーの名前」
「言うなって言ったろ。もういいクルス。
お前はヒロキのところへ行け。
これから落ち合う予定になっているのは、ギルド「六王獅軍」の六番隊だからな」
「僕の助けはもう要らないでしょ。
ゼンさんのことですから、同世代の転生者ぐらいは付けるでしょう。
それとも何か他にイヤな予感でも?」
「バイモン、増幅薬を使ってサーチをしてみろ。何が見える?」
「…………この陣形は、一体何に対しての牽制ですか」
バイモンが見た物は嘗て魔法大戦中に複数のギルドと手を組んだギルド連合が模した対黒魔導士戦術に用いた最大級の防衛陣形。
凶悪な魔法攻撃を防ぐため後衛に結界防衛や前衛の兵士にエンチャントさせている。
守護魔導騎士を待機させ、中衛に魔法攻撃を連発できる魔法使いを構えさせている。
前衛には魔法剣士の最前線部隊の大隊が三つずつ幻想砂漠に向けて四方に陣取っている。
その後ろにも同じ隊列を組んだ大隊が三列で形成された三十六の大隊は勇ましい士気を纏って警戒を続けていたのである。
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。
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次話で第一章は完結の方向ですが、第二章執筆前に幕間的なものを入れたいと思います。暫しお待ちを。