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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅲ 《千年蟹と骸骨坊主》
109/109

【#109】 Secret peace Part.Ⅰ -夢、叶えし鎮魂歌《秘密篇》-

お待たせしました。

仕事の多忙により一ヵ月以上書けませんでしたが漸くの投稿です。

これからも頑張って執筆活動進めていきますのでよろしくお願いします(=゜ω゜)ノ


『上を見たまえ。』


 そう言われて見上げた先には、何時か見た満天の夜空に星が煌めいていた。何処までも続く永遠の輝きを放つ神秘は、万里などでは到底現せない。何十の何億光年まで輝き続ける宝石箱のようだ。


 此処は自分が作った筈の精神世界なのに、やたら冷え込んでくる。しかし、寒さを和らげてくれる焚き火のお蔭で凍えずにいるのもまた事実。目の前の人物イズマルクは、ハローワールドの創造主の一人と確かにそう聞こえたがそれはつまり・・・此処が仮想世界という立派な証拠だ。


『残念ながらキミのその解答は間違いだ。順を追って説明するとキミ達が行き着いた『異世界』と言う解釈が正しい。霊魂が情報媒体だからと言って世界までが情報体ではないのだから。そして、キミ達の肉体は殻なのだよ。キミ達寄りに言い換えればアバター。』


 アバターだと!?


 食って掛かるように前のめりになった俺にイズマルクは苦笑して『そんなに驚くことかい。』と呟く。


 アバターはプレイヤーの分身だが彼曰くは『殻』と言う。現実世界から仮想世界にログインするには自分が作ったアカウントやパスワードが必要なのは誰もが知る常識。ゲームに没頭していなかった俺でさえ分かること。でもそれじゃあ説明がつかない。アバターだって立派な情報体なのに・・・。そもそも魂の証明もなしに有り得ないことが多過ぎる。


『魂の証明か。なるほど。でもキミは既に魂の証明を済ませている。経験がある筈だ。死した肉体が、血と骨と肉に変貌して広がっているのに『其処に居る』という認識があっただろう。それが魂。強いては霊魂の証明であり、私が研究した成果と偉業でもある。』


 凍てつく寒さと爽快感が鼻を突き抜けた。誰が泣いたか弧を描く一筋の閃光が瞳いっぱいに流る星は感動をくれるのに時間だけは待ってくれない。


"どれだけ願っても同じ幸福が訪れることはない。"


 誰の言葉だったか。忘却の彼方に追いやった記憶は思い起こすことはできなかった。


『その言葉を私は知っているよ。でも今のキミに話しても意味がない。は自分からすがる以前に、自分から答えを見つけるべきだ。答えを提示するのは簡単だが悩むこと、式を作り過程を見つけ出す物語があってこそ人間は強くなる。そう言うものだろう。』


 確かにそうだ。地図アプリを広げて最短ルートを交通情報から読み取って示してくれるナビゲーションは効率面に適していても面白気もない一本道を進むのと同じこと。道を間違えても目的地に到着できる機能性は素晴らしくとも計算式を自分から解いていく面白さは他では味わえない。


 それならイズマルクの存在理由とはなんだっていうんだ。まるで謎をバラ撒かせているみたいじゃないか。


『さあ、どうだろうね。』


 しらばっくれやがって。


 イズマルクの外見は魔導師の格好では既にない。やけに細身で何かを研究している人物なのかと思わされる白衣を着た冴えない中年男性にも見えるが・・・俺のこの推測さえも暴いているのだろう。嘲笑う如く苦笑するだけして物事を進めようとするのだ。


『さて、そろそろ本題に入るとしよう。私を含めた天涯の王たちはハローワールドを創造と言ったが多少の差異がある。元々この世界を幻想現実世界ソウルファンタジアと呼んでいた。』


 ソウルファンタジア?


『キミ達に語り継がれるゲームの世界ではない。本当の意味で自由を追及した楽園。覚醒した幻獣たちは、誰に対しても歯向かうことはなく両者が共存共栄するそんな優しい世界だった。』


 だった、過去形だな。


『その通り。幻想現実世界ソウルファンタジアはもうない。しかし既存はしている。ハローワールドという異世界の下。もっと平たく言えばハローワールドはソウルファンタジアのアップグレード版と言うことだ。キミが・・・・・・する時にアナウンスが流れた筈だ。バージョン3.00とかなんとか。』


 あ!そういえばそんなこと言ってたな。


『バージョンアップはコンマ単位で変動していく。一から二へ。二から三へ。整数が変動すると言うことは・・・・・・』


 大きな変化があったってことか。


『そうだ。大変動、キミ達の言葉で言えばゲームのクリアに値する。』


 クリア・・・。


 俺はもう一度、虚空を見詰めるが如く空を見た。言葉を絶え間なく連想する。クリアから生まれるのは何も完結ゴールでは決してないこと。三度の全てがもしも終焉デッドエンドを迎えていたなら・・・、・・・いや待てよ。ソウルファンタジアとハローワールド。御伽噺と神話。完結と終焉。整数、コンマ、単位、積み重ね、歴史、時間、霊魂、殻、創造主、天涯の王・・・・・・違和感があった。


『さて、キミの答えを待つには少々時間が惜しい・・・と言うのもだ。此処はキミが想像したであろう世界とはまるで違う異なる場所だからだ。キミは、自分で思っている以上にキミの殻は崩壊しているのだよ。【炭化侵食】は本来、吸血鬼に発症するものだがキミとて例外ではない。その理由は彼に聞くといい。』


 彼だと?一体誰のことを言ってるんだ。


『俺様ァのこと忘れたってのかい。俺様ァは、ヴァルス。ヴァルス="V"=スーサイド。不死族の頂点にして偉大なる原初の吸血鬼魔王ヴァンパイア・ロード。ヴィネア=”V”=クリストファーの十二番目の血族をよ。』


 吸血皇帝。嘗て俺が倒したらしい魔王の一躍である吸血魔王ヴァンパイア・ロードの十二番目の血縁者。灰色事件で暗躍していた黒幕。オグワードのカラダを支配して神書【アポロンの予言書】を目当てだけの為に多くのプレイヤーを巻き込んで偽って・・・畜生が!


『怒るのは分かるぜぇ。でもな、ソイツはテメェの勝手だろうがぁ。俺様ァは、まだ諦めちゃあいねぇーぜ神書【アポロンの予言書】だけじゃない。神話級の力で躍進する野望はこのにしっかり刻み込んでるんだからなぁ。』


 魂だと?そうか。ここは俺が作った精神世界じゃない。本物の精神世界なら拒絶反応の影響を受けて侵入は愚かこうして会話も儘ならないのに、あの戦闘時分の容姿を保って接触している事実は本物。会話も成立している。でも此所は認識出来ている。なら・・・、


『答えは出たようだね。キミの殻は崩壊して抜け落ちた魂の情報体だけがある状態。此所は、天界と地獄界の狭間。霊道という輪廻転生の場所さ。』


 イズマルクの奴ここぞという時に不敵な微笑を浮かべやがって。


『さて、此処が明確に分かったところで契約に移ろうか。キミを死の淵から甦らせる唯一無二の王印契約の鍵を渡そう。』


 王印契約?


『持ち掛けられるプレイヤーの条件は、世界に隠された九つの謎の一つを解明と証明すること。また、単騎で王位級モンスターを討伐可能であること。種族限界を突破し生存していること以上を含めて最後に契約者が、世界に大きな影響力を与えるプレイヤーに限定される。ヒロキ君。キミは、充分過ぎるほどに当て嵌まっているのだよ。』


 確かに俺は単独で死神シスを倒した。吸血皇帝がどの階級だろうと天災級以上は確定だと図書館の資料が証明している。爵位級悪魔も葬ってきた。人間[ヒューマン]から魔人[フェイスマン]となり種族限界、禁忌魔法を複数回繰り返しても恩人は救えなかった。


『確かにキミは、恩人であるアルファガレスト卿を救えなかったが彼は彼でキミとキミの約束を守った。そして思い知った筈だ。痛みと願いと命の重さを。託された限りある命の使い方を知っている筈だ。』


 ああ、そうだ。そうさ。此処でくよくよ悩んでいる時間はない。蟠りも、余計なプライドも、過去の過ちも、仇への殺意も・・・此処に置いていく。


 ・・・・契約の前に一応確認なんだがいいか?


『構わんよ、何かね。』


 相変わらずのヘラッとした顔がムカつく。コイツは何処からどこまでが本気で真剣なのか未だに判らん。


『失礼だね。これでも一応はキミを此処に招待した時点から真剣に向き合ってきたつもりだがね。それはそれとしてキミの思考は読ませてもらったついでに質問に答えよう。』


 地獄耳め。


『王印契約を交わしたプレイヤーは、世界各地に八人控えているが争いごとが起こる可能性は国家間の戦争を除けば極めて低いし、王印を有したプレイヤーの全員が国王ではない。まず王印契約とは、何れ訪れる災厄に備えた世界を束ねる<真王>選定の第一段階ファーストフェーズに相当する。』


 災厄・・・それが時代の終わりと節目ってことか。


『フッフフフ。答えに辿り着いて何よりだ。その通り大変動バージョンアップという災厄を経て新世界が構築される。』

『オイオイ、そんな昔話はどうだっていい。それで王位契約ってのは、その<真王>を確立する為の前段階なのは分かったが効果はどうなる?まさか、ないって訳じゃないだろうがよォ。』


 あ、居たんだ吸血皇帝。


『ああん?俺様ァを忘れてただァ。殺すぞォ!』


 ・・・・それで勿論あるんだろうイズマルク。


『無論だ。』

『無視か、テメェ粋がってんじゃねぇぞ。』

『王印契約者は老若男女問わず八人まで【血の盟約】を交わすことができる。【血の盟約】は魔法契約だからね。契約した従者たちは、主人の命令には絶対遵守。奴隷に似るが自由と拘束くらいに違う意味を持つ。そして従者の命は主人と共にある。つまりは主人の命が尽きれば従者も死に至り、主人の能力の一部を共有することができる。』


 分かった。王位契約を結ぼう。そして直ぐに【血の盟約】を交わしたい奴がいる。



◇◆◇◆◇



◇蒼銀洞窟 ジェラ熱帯域◇


 ガンキチ曰く裏切られたらしいが、ジェラ熱帯域という第一階層をギルド『トーテムバード』主戦力の一躍を担うハイルもモナークも完全に嘗めて掛かっていた。ここが深層ということを頭では分かっていても目の前の無慈悲な現実からは逃げられないでいた。


 安全圏セーフティーエリアを確保しつつ、不足資源と食糧確保に務めモンスターを発見してもマーキングだけを重ね重ね遣ってきていた。しかし、まさか採掘していた岩盤そのものがモンスターでしかもよりによってドラゴンという生態系の頂点と相手取るのは予想の範疇ではあった。エリアボスとの戦闘はダンジョンによっては避けられない強制イベントなんて良くあること。問題なのは、


「モナーク、無理っぽいか?」

「ムリ。」


 自分が仲間に聞く時点でハイルは予想はしていた。でも希望は捨てたくはなかったが、これが深層ダンジョンの手痛い歓迎である。全然嬉しくない出費だが仕方あるまい。とモナークに事前指定した合図の口笛で後退させ固有能力を発動させる。


 ハイルの持つ唯一無二の固有能力【投資】が発揮する力は私財カネをステータス向上の起爆剤に使う要は課金である。金貨百枚で十倍向上するその圧倒的な向上値は、モナークのステータスを一時的に飛躍させ重力剣のハイパワーで本体を真っ二つにする目論みは粉砕した。


 一般プレイヤーのレベル百五十にも相当する強力な一撃に致命傷を与えるどころか重力剣の方が真っ二つに折れたのだ。一気に血の気が引いていく自分たちを助けに来る者などいない。と頭を過った直後だった。モナークよりも小さく真っ白な着物姿でこれまたキレイな銀色の髪をした少女が現れたかと思えば遠くで数人の声が聞こえた。


 クーちゃん。と聞こえたがこの幼い少女のことを言っているのか。ハイルは自分の目を疑った。モナークよりも若い少女にあんな非情な顔が作れるものかと。ふとモナークを見れば突然現れた少女を見て硬直していた。と言うよりも戦慄を覚えていた。


 それは真っ黒な刃だった。より正確には少女の下方で蠢く影が一つの意思を持っている生命のように真っ白な着物を包み込んで武装を施していく。整った武装に安堵することなく流星の如く加速した黒い影は、自分たちが悪戦苦闘した岩窟竜の頭部を撥ね飛ばした。


 何が起こったのか理解出来ないでいたが、辛うじて目で追うことが出来たモナークは称賛を送るよりも悔しさが込み上げていた。


「まっ、世界は広いってこった。」


 その初めて見せるモナークの表情に苦笑してハイルは、モナークのオレンジ髪をくしゃくしゃする。のだが、直ぐ様に反撃という痛手を負って脇腹を擦りながら安全圏にクーちゃんことクーアを含めた救出部隊と共に帰って驚いた。生死の境を彷徨っていたとは到底思えない全快した二人の英雄は何故か逆にココラを介抱していたのだから。


 一時はどうなるかと思ったがホッとしたハイルは帰りの挨拶を交わす前に物凄いスピードで駆け寄っていく黒い影に新手の敵襲を予想したのだが早とちりだったらしい。いきなり待ったの合図で止めてきた此方も和装の美人に鼻の下を伸ばしていれば、モナークが背後から肘打ちで沈黙させるその行動にドッと笑いを溢す者も入れば、必死に口元を押さえる者がいれば感動の再会に泣いて喜ぶ一人の少女をそっとしてやりたくて立ち去る者もいた。


「う・・・ううう、よかっだ。良かったよぉ。こんどぉは今度こそ離さないから。ヒロギぃずっと・・・ずっと傍に居でくれる?」


 涙と鼻水を啜って鼻声のクーアを抱き締めたヒロキは、再構築して復活した自分の右掌に継承された王印を一瞥。イズマルクとの王印契約を思い返す。


『・・・さて、ではキミが王印継承するに当たって聴いておきたい。夢はなんだね?』


 それは答えないとダメか?


『質問に質問で返さないでほしい。ならば聞き直そう。願いは何かね?』


 俺は―――。



「ああ、勿論だ。クーアとレイン。それだけじゃないんだぜ。ココラに、ガンキチ君、ディアンマ、そしてジャイ・・・いやブラッドがいるパーティーが俺の帰る場所だ。何時だって戻るさ。」



 俺が攻略してやる。全部の謎を解き明かして自分の過去も。そんでもって大変動の災厄を俺たちの時代で打ち止めてやる!


『それは多くを望みすぎるのではないか。』


 そうかもな。でも、これが今の俺だ。ヒロキっていう一人のプレイヤーと仲間たちの物語にするって決めたんだ。


 最後に契約を終えたイズマルクはまたもや微笑していたけれど何に対しての笑みだったのか俺には分からない。けれど、俺の中で何かが変わった気がしたのは事実で仲間を意識する機会をくれたイズマルクに感謝した。


 でも、それは彼にとってただの決められた役割であって後々に長い旅を経て後悔する俺が囀ずる絶望の叫びも彼は知っていたのだろう。俺は知らなかった。でも結局知っていても拒否権なんかある筈もない。仲間の死に目を見たくない俺には契約する他に道などないのだから。


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