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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅲ 《千年蟹と骸骨坊主》
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【#106】 Secret peace Part.Ⅰ -夢、叶えし鎮魂歌《序篇②》-


◇黒結晶洞窟 4F 鬼火山◇


 俺たち遠征組後衛チームは、地獄の戦場跡を片してココラの精霊魔法【浄化の兆し】でモンスターの亡骸を消滅させて休息場を設けていた。テントを張ってはいるが、あの戦闘で深い痛手を負った三人の治療に専念するためだ。


 <アイスヘル>のセファリヤは、多量の魔力を消費したことによる魔力欠乏症と過労でダウン。<ジャイアントスレイヤー>のジャイガードは、スキル【集中】の乱用で状態異常【昏倒】と浅いが多くの【噛傷】【切傷】【打撲傷】が身体のあちこちに出来ていた。<孤高の銀狼>のディアンマも同じようなものだが血統能力【再生治癒】の効果が相まって外傷はない。それでも疲労そのものをなしには出来ないのだろう。


 一度は目を醒ましたものの俺たちの寝床までやって来て倒れ込んだらしい。今もスゥースゥー寝息を立てて大きな筋肉と白銀の毛並みを持った胸板を獣の手で掻いている。俺としちゃあモフモフの尻尾が丁度いい枕になって有難いのだが、そろそろ準備に入った方がいいだろうと重い腰を上げる。


 ――パキ、


 起き上がる時確かにそう聞こえた。尽かさず自分の手を見れば、肌が割れて通常は赤い血が黒く変色して結晶化して端から砂となり塵となって崩れていく。


 肉体の限界が訪れようとしているのだ。俺の身体は、鋼で出来ている訳じゃない。ヒトの構成元素、酸素・水素・炭素・アンモニア・石灰・リン・ナトリウム・硝石・硫黄・フッ素・鉄・ケイ素等を含む全三十五元素。モンスターの構成元素、魔素・魔硝鉄等を繋ぎ合わせたもの。内側からカルマが縫合コントロールして支えてはいるが、無茶が祟ったってとこだな。


 幾度となく禁忌魔法を行使。スキル【物理限界突破】で何度も荒い戦法で身体を酷使。終いには魔人化と魔神化で魂を犠牲にして戦ったが、その何れもが常人の為す業ではない。だから、何時死んでもおかしくないことは分かっていたことだ。


 それでも俺が力を求めたのは、守りたい存在があったから。何時も脳裏の片隅に浮かぶ顔は、レインとクーアの笑顔だった。泣き顔が見たくなくて・・・自分の為に自分を犠牲にしている。実に滑稽な話だ。そう思いながら自身にスキル【解析】を使う。


―――――――――――――――――

Penalty;状態異常[右腕]【崩壊の呪い】

―――――――――――――――――


「スキル発動、【解析Lv.2】。」


―――――――――――――――――

Penalty;状態異常【崩壊の呪いLv.2】

Penalty effect;禁忌域踏み込み限度を超えたことによる人体裂傷。→+状態異常【治癒力低下】;通常飲食で体力回復は望めません。・+状態異常【因果の呪いLv.1】;アルティメットスキル発動に体力値の半分を消費します。

―――――――――――――――――


 ああ・・・これではっきりした。あの時、スキル【竜の威圧】をジャイガードとディアンマに使って脅しをしたあの時ごっそりエネルギーを持っていかれたとは思っていたがコイツのせいか。竜、竜の力、ドラゴンライジングはアルティメットスキルだ。それがアルティメットスキルに分類されてなくても関係するだけで持っていかれるのはツラいな。


「どうして、だ。」


 どうして黙っていた。カルマ。・・・・・・いや態と黙っていたのか。俺に使わせないようにするために。アルティメットスキルをもしも発動させていたなら一瞬で片が着いただろうことは明白だ。それでもカルマが封印の解析と解除のことを教えてくれなかったのは、そういうことだろう。


「俺は・・・無力だ。」


 そう声を溢した俺の眼下に影が落ちる。直後、モフモフした温かい毛布の心地が何度も頭部を叩いてきた。


 何事?


 直ぐにディアンマの手だと分かり振り向こうとしたのだが、あっさりと痛くない程度で髪を摘ままれて呼吸で揺れ動く胸上に置かれた。


 ふむ。


 こうして見れば随分と大きな体つきをしていることがよく分かる。巨鬼の半分くらいで顔はオオカミ、身体は極上の銀色毛並みの絨毯にモフモフでフモフモの尻尾枕は寝心地がいい。こんな有料物件をどうして怖がるのか分からないが・・・・・・。


「お前。今、ものすごい失礼なこと考えたろう。」


 咄嗟に目を逸らす俺に『まあ、いい。』と言って目を瞑り本題を口にする。まだ疲れが癒えていない弱い声で言葉を紡ぐ。


「それよりな。無力なんて言うもんじゃない。お前は俺たちの英雄なんだからな。」

「何言ってんだ! 俺は小鬼兵ホブを倒しただけだぞ。あっ悪い大声だして。」


 声が頭に響いたらしい眉間に皺を寄らしている。『・・・いい。』とディアンマは言うが辛そうに見える。


「いいかヒロキ。お前がやったのは、英雄が為す偉業だ。ホブはホブでも[強化種]に進化した個体のランクは一段階から二段階跳ね上がる。・・・。どういう内訳か強化種コイツらだけじゃない。最近聞いた噂じゃあ、[太古種]がダンジョンから現れている。・・・。お前、何を隠してる?」


 別に隠しちゃあいないし、口止めもされていないから問題ないだろう。そう思った俺はベルさんから依頼された本命サイドクエストを話すことにした。


「・・・・・・なるほど。調査兵団行方不明の噂は、耳にしていたがよりにもよってこのダンジョンの深層か。」


 溜め息を吐くが、今の言い方が気になる。


「それはどういう意味だ。」

「・・・大抵な。ダンジョンは旧世代、<英雄王>の時代にコンプリートされてるんだが近年、未発見の深層への入り口が次々と見つかっている。・・・。その中でもこのダンジョンを中心に周囲一帯の環境さえも変化している。白金砂丘にオーロラ、怪物級モンスターのシロザメは太古からやって来た新種に惨殺。それが・・・。その全部がダンジョンの深層にあると、あのベルさんが睨んでいるとなれば・・・引き返すことを提案するぞ。」


 あ・・・あのシロザメを一方的に惨殺? 惨殺と言うからには酷い殺され方をしたに違いないが、[強化種]に[太古種]。そんな情報は聞いていない。ベルさんが態と黙っていた? イヤ、それはない。仮にも今回の依頼は自分の身内を救い出すこと。と資源調査だが・・・? そういやぁ、どちらかと言えば資源調査の方を強く印象づけられる言い回しだったような。ワインやビールに食文化、魔素の関係、まさか最初から!?


「どうした。青ざめた顔して?」


 俺はどうも騙されたらしい。イヤイヤ、まだ確定じゃない。なんて色々自分の中で自問自答を繰り返していると、ココラからメシの支度が整ったらしいので動けないディアンマを置いてきぼりに朝御飯を頂くことにした。


 後衛チームの中でまともな食卓を用意できるヤツがココラと運搬班のフゥさんだけらしく、カノジョを亡くした役立たずな男と不器用な女性メンバーは手負いの英雄たちに消化のいいお粥を運んでいった。つまるところ、食卓を俺一人が占領したみたいになって食べづらいのだが腹拵えは必須だと腹の虫が鳴くので仕方なく頂くことにした。


 炊飯釜や調理道具の片付けを終えて食卓に着くココラとフゥさんは、ほとんど手を着けていない食事の様子をお互いに見て苦笑するなり『・・・優しい人ですね。』とフゥさんが、ココラはと言うと呆れた顔を予想したのだが『御主人様は・・・本当に変わった方です。』と告げて俺に食べる為の許可が欲しいと言うが、なんと言うか主従関係ってメンドイ。でもそのやり取りなしでは奴隷は生きていくことが出来ない、とフゥさんは言う。


―――――――――――――――――

Skill;スキル【主従契約Lv.1】

Skill effect;奴隷と主従の契約をしたことで入手。奴隷を縛る契約スキル。危機的状況下に陷ない限りは主人の許可が必須。但し、主人自らが奴隷を危機的状況へ追いやった場合は、自由の尊厳が剥奪される。

―――――――――――――――――


 まさに理不尽。クーアも昔はこうだったのだろうかと考えただけで背筋がゾッとする。花札とか野球券知ってるだけで、色んなことを経験したのが分かる。女の子が奴隷ってだけで『だった』って言う過去形になっても変な誤解や偏見を持たれる。


「・・・・・・。」


 クーア、なにしてっかな。


「あの・・・本当は美味しくなかったとか?」


 フゥさんがショゲながら言ってきた。


「え? ああ、ゴメン。置いてきた仲間が心配になってさ。」


 仲間、ってとこをどう曲解したのかフゥさんは頬を赤くして食べ終えた器を持って逃げるように俺から離れていった。俺はイマイチ何故逃げられるのか理解及ばず首を傾げていればココラが、


「あの御主人様いいです?」

「あ、うん。なに?」

「御主人様がその・・・。」


 ん? なんだこの煮え切らない。歯切れの悪い言い方は。言葉が詰まるほど言い難いことなら無茶に言わないでも、と思ったのだがどうも違うらしい。


「あの怒らないで下さいね。」

「うん。怒んない怒んない。」

「御主人様がレイン様を押し倒して無理矢理に純潔を奪ったって本当ですか?」


 はい?


「え、ゴメン。なんて言った?」


 えーと、聞き違いってヤツだな。そうだそうに違いない。


「あー、ですから。レインさんをゴウ・・・・・・したんですか?」

 

 あれはそう言う訳か。だから皆が口々に俺を『ヘンタイ冒険者』だと。イヤ、問題はそこじゃない! どうして俺とレインがそう言う痴情の・・・・・・、アホか! まだ結ばれてねぇーよ。ってちげーよ!論点はそこじゃなくて、誰がどんな目的でそんな悪質な情報を流したんだ!



   ◇◆◇◆◇



◇黒結晶洞窟 某所◇



「巧くコトは、運びまして御座います。」


 淡くも儚くも見える翡翠の煙を蝋燭から炊いてバシャッバシャッ、と重い水の上を歩く男はそう口にした。既に瞳から光を失い視覚と鼻も潰れて嗅覚もない男だが、水上に浮く腐敗した障害物を難なく避けて足を止めないでいた。勿論、側に彼以外の人間はいない。


「はい。・・・・・・そうですか、それは何よりで御座いますな。」


 笑顔を作って笑う男は、最後の蝋燭に火炎魔法【ファイラ】で用意に灯を点すと『それでは。』と話を打ち切って自分に課せられた仕事を始めた。男がバックパックから取り出したのは、何の変哲もない箱である。


「ふん、ブタの貴族めが。」


 男は、幾度となく先刻まで会話していた人物の汚物にまみれる程の汚れ仕事をこなしては多額の報酬を受け取ってきた。依頼人と傭兵と言う仲だったが我慢の限界が来ていた、と言うのも例の『灰色事件』から報酬は半減。臭いメシにありつく毎日だった。


 そこへ奇妙な仮面を被って身分を明かさない如何にも怪しいヤツが現れた。男は素性の知らないヤツとは仕事をしたくはなかったが、魅力的な報酬と前金の手前ではひとつ返事で仕事を引き受けた。それがこの箱をこの血塗られた場所で開く、と言うだけの簡単で割りのいいバイトの筈が・・・。


「? なんだ、不良品か。」


 いくら見つめても開く為の取っ手が見当たらないのだ。箱に集中していると男は背後から近付く。天井を這う世にも奇妙な新種の怪物に気が回らなかったのである。


 ――ズ、


 不気味な音がしたので反射的に視覚が失われていても咄嗟の事に振り向くが何もない、と肌が告げている。奇妙に思いながら顔を戻そうとした時だった。ある異変に男は漸く気付く。下半身の感覚がまるでない。痛覚を遮断する魔法薬は持っているが服用してはいなく、男は汗を拭おうと腕を動かすが――。


 ――キュルルルル、


 それが最後に聞いた音だった。そして、それが新種の怪物にとっても最期の遺言となった。


 霰もない姿に変貌を遂げた男の手元から零れ落ちた箱はドップン、と赤い水の中に吸い込まれるや否や何もかも物理の法則を無視して『赤い水』も『腐敗した障害物』も『新種の怪物』さえもズズズズ、と品性のない下品な啜る音を響かせながら吸引されていく。がその全てではなく煙は悠然と漂っていた。


 暫くして翡翠の煙と箱だけが残った場に変化が訪れる。宙に浮き上がる一つの箱は、四つに分裂する。カチャカチャカチャカチャ、と箱から素早い音が漏れ出すかと思えば分裂に分裂を繰り返しその全ての箱が黒く変色しイビツな魔法陣が展開する。


 ――ピッシャァ、と黒い稲光が走らせ空間を歪ませて現れた面妖な集団の一人が男とも女とも言えない声を発する。


「さあ、仕事を始めますよ。」


 ニタリ、と口元を歪ませて片方の眼下から一筋の赤い血を流したように見える能面を外す。赤い血色帯びた目を顕にしてひっそりと身を隠すように赤い閃光だけが翡翠の煙の中で揺れながら、一つに収まった箱を手中に収め粉塵状に分解させるのだった。


①は②の三日後の未来。

②は【#104】の続きを描いた①までの三日間を描いていく予定です。

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