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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅲ 《千年蟹と骸骨坊主》
103/109

【#103】 Phase down Part.Ⅱ -表裏一体《前篇》-

大変遅くなりました。



 フラグを立てやがったディアンマがこの事態を本当に予測していたかはさておき。俺たち遠征組は嘗てないほど未曾有のイレギュラーに遭遇していた。


 ダンジョン【水晶洞窟】の道筋は、迷う筈のない攻略された通り道であって滅多に『逃げる』という行動はしない。新人冒険者ペーペーならまだしも、熟練冒険者ベテランを含んだ俺たちがどうして逃げ惑う羽目になっているのか?それは大量発生イレギュラーが引き起こした結果だった。


 現在、俺たち後衛チームは水晶洞窟の『ウストルファ渓谷』というエリアを通過して地下に降りる階層階段アンダーステップから第二階層【黒結晶洞窟】へ到達していた。二年前に『ダイア樹林帯』から下層に落ちた階層降下アレは通常は起こり得ないことであって、階層階段という安全なルートを使うのが一般的らしい。


 話を戻そう。大量発生、それ自体は珍しくない。但し、それは小型のモンスターの場合に限られてのことだ。


 ダンジョンでモンスターが産まれるサイクルは、魔素濃度によって変化しているとベルさんやカイエンさんが言っていた。ダンジョンの構造は、天空を目指して建造されたもの。地下まで掘られた抜け穴や洞窟など・・・大昔の遺物が大半を占めている。


 これには理由があると専門家は説いている。その地で大規模な戦争によって生まれた歴史的財産、儀式や実験が残した死体に含まれた残留思念や血肉や魔力などが時間経過と共に変質化したそれらがモンスターの供給源・・・後々の現在では竜脈が眠っているから絶え間無くモンスターが生まれ続けているという。この仮説を証明するべく長年掛けて洞窟暮らしをしていたカイエンさんの話では、少なくともダンジョンは一定の周期を永遠と繰り返していると言っていた。


 周期を知る者は季節のようにシーズンと呼ぶそうだ。俺たちが二年前に落ちてしまった黒結晶洞窟で起きていたデスマーチと呼ばれる繁殖期。それは、竜脈から生まれ出た新生種と交配種のモンスターたち。


 カイエンさんも自分に任された仕事はしていたようだが、冒険者の死体収集は骨が折れるのだろう。"幽鬼ゴースト"にならないように管理をしていても流石に、地下七階層すべてを一人で見回れないでいたに違いない。第一に彼は鍛冶職人であって冒険者ではないのだから繁殖期の周期が訪れれば、あの隠れ蓑で採掘していたとか。


 まぁともあれ、繁殖期という周期を終えた頃合いから混濁期。モンスター同士が自分のテリトリーや頂点を求めるように争いが始まると言っていた。


 縄張りや種のボスが決まれば自分たちの拠点を築こうと同時に、仲間意識が強くなり組織的行動を取ったりと発展期が訪れるとか。そして、今の洞窟内で引き起こっているのは四つ目の交配期を経て再び繁殖期に戻る。こうして並べていくと混濁期が危険そうに見受けられるかもしれないが、実際には交配期が最も危ないとされている。


 理由は簡単だ。オスとメスのカップルが交配を一度でも始まれば、自分たちのテリトリーからそれ以外の同胞たちは外部からの侵入者や脅威を排除するべく厳重態勢に発展するからだ。俺たち遠征組は、悪くその厳重態勢を引いている網の中で遭遇してしまったのである。


 "小鬼ゴブリン"が進化した個体種"小鬼兵ホブゴブリン"。


 小さな鬼が一回り大きくなった姿を見れば納得いくだろうが、単純な成長レベルアップとはまるっきり違う進化ランクアップしたモンスターはより強靭な肉体と大きな力と知識を得て生まれ変わっている。


 未だにゴブリンと同じ全裸に近い深い緑色の体表。溝色の布きれで下腹部から膝でなく太腿までを覆ったことで機動性を上げているのが見ただけで分かる。耳は尖っているが複数のピアスが特徴的な醜い中型の鬼だ。筋肉がついたこともあって、大型の鉄棍棒を悠々と持ち上げた獲物それを見て熟練冒険者の彼でさえどこか萎縮したそんな醜態を晒していた。


 それを見ていたヒロキは首を傾げていた。オカシイのだ。明らかに肉付きも装備も異なった別物の鬼が目の前で棍棒を振り上げていた。知恵も付いているようで素直に驚いていれば、それを颯爽とジャイガードが大剣を両手で持ってホブゴブリン目掛けて先陣を切る。



 ギルド『ジャイアント・フラッグ』所属のサブマスターのジャイガード。ギルド商会所属の運搬班リーダーのセファリヤさん。ギルド無所属の傭兵ディアンマ。同じくギルド無所属の鍛冶職人ガンキチ君とサポーターのココラ。そして俺を含めた六人が戦闘職ってこともあって自己紹介という名目でギルドカードの交換をした。


 信頼という武器がこのダンジョンでは生死を分けることになるからだ。お願いしたのは、俺とジャイガードだったが一蓮托生の遠征を知る運搬班の人達から直ぐに了承を得れた。何故かディアンマは渋っていたが、俺の言う作戦立案にどうしても必要だと言い聞かせればおれてくれた。まぁ、はなっからそんなものは用意していないのだが・・・。


 ジャイガードが後衛チームのリーダーを務めるってこともあって彼からまず挨拶があった。見た目通り寡黙な人柄なのだが、まさに最前線で活躍する戦士そのものだ。


――――――――――――――――

Status

Name;ジャイガード

Age[Sex];27[♂]

Tribe;人間[ヒューマン]

Job[Rank];傭兵[C]

Level;レベル137

DNALevel;DNAレベル3

Ability

HP;体力値49,300

STR;筋力値360〈+40〉

AGI;俊敏値258〈-50%〉

DEF;耐久値299〈+150〉(+30%)

DEX;器用値230〈+20〉

MP;魔力値154

Core;コア3

Tolerance;耐性【物理耐性+30%】

Penalty;状態異常【重量級】

Crown;称号<ジャイアントスレイヤー>

―――――――――――――――――


 うん、っていうかね。はっきり言って滅茶苦茶強くないです? MPはそうでもないにしても装備品がすんごい充実してんのは一目瞭然ですよ。レベルだって百越えてますもん。物理耐性付きの耐久力とか鎧だけでゴブリン倒せそうなんだけど。


 次に挨拶してくれたのはセファリヤさんです。ジャイガードの彼は堅固な甲冑武装に大剣というスタイルに対して、彼女の場合は如何にも魔法使いって印象が強いですね。運搬班の人達は全員ローブを着用しているのですが、セファリヤさんだけが紫色のローブで一見占い師にも見える。


――――――――――――――――

Status

Name;セファリヤ

Age[Sex];25[♀]

Tribe;人間[ヒューマン]

Job[Rank];魔導師[D]

Level;レベル96

DNALevel;DNAレベル2

Ability

HP;体力値7,960〈+100%〉

STR;筋力値90〈+10〉

AGI;俊敏値98〈-50%〉

DEF;耐久値100(+50%)

DEX;器用値130〈+10%〉

MP;魔力値263〈+40〉

Core;コア3

Tolerance;耐性【魔法耐性+50%】

Penalty;状態異常【―――】

Crown;称号<アイスヘル>

―――――――――――――――――


 称号のアイスヘルってなんだ? 氷魔法が使えるってことかな。魔導師ってことは魔法使いを卒業してる訳だし、ステータス見る上でもMPだけが高いけど魔法がメインだとこうなるのかな。よう分からんけど。まぁそれでも、HPが二倍ってのはスゴいな。


 ココラのステータスに関してはみんな納得してくれた。奴隷に降格すれば応じてステータスも低迷する事情もあって素直に受け止めてくれたことには感謝しかない。ディアンマは渋りに渋っていたが・・・。


――――――――――――――――

Status

Name;ディアンマ

Age[Sex];27[♂]

Tribe;獣人[アニマ]<銀狼>

Job[Rank];傭兵[B]

Level;レベル196

DNALevel;DNAレベル4

Ability

HP;体力値66,389

STR;筋力値379〈+40%〉

AGI;俊敏値468

DEF;耐久値251(((+60%)))

DEX;器用値590

MP;魔力値175

Core;コア2

Tolerance;耐性【魔法耐性+60%】【物理耐性+60%】【精神耐性+60%】

Penalty;状態異常【―――】

Crown;称号<孤高の銀狼>

―――――――――――――――――


 バケモノじゃねーか! どこに渋る箇所があるんだよ。DNAレベルが四ってことは限界を四回も越えたってことになる。何れだけ自分を犠牲にしたのか、間違いなくこのメンバーで一番の経験者はディアンマだ。


 俺も含めて驚愕の表情を浮かべていれば、それがイヤだったんだ。と言われて気付いたんだが拗ねられてしまった。次にガンキチ君の挨拶で一気に熱が冷めていれば、扱い酷くないですかって怒られたけど、俺としてはなんかこうね?安心したんだけどね。って言えば、意味分かんないですって言った後に俺のギルドカードが強制公開される始末。


――――――――――――――――

Status

Name;ガンキチ

Age[Sex];17[♂]

Tribe;人間[ヒューマン]

Job[Rank];鍛冶師[A]

Level;レベル25

DNALevel;DNAレベル1

Ability

HP;体力値4,400

STR;筋力値94

AGI;俊敏値63

DEF;耐久値81(+30%)

DEX;器用値100〈+56〉

MP;魔力値60

Core;コア3

Tolerance;耐性【物理耐性+30%】

Penalty;状態異常【―――】

Crown;称号<一級鍛冶師>

―――――――――――――――――


 いやぁ、ホントにこうほっこりするよね。って俺がみんなの顔を見ればどうしてだろうか引きつってるのは。と凝視するメンバーの視線を追えば答えはそこにあった。


――――――――――――――――

Status

Name;ヒロキ

Age[Sex];19[♂]

Tribe;魔人[フェイスマン]

Job[Rank];冒険者[F]

Level;レベル100

DNALevel;DNAレベル5

Ability

HP;体力値169,737

STR;筋力値376

AGI;俊敏値468

DEF;耐久値353(+70%)

DEX;器用値699

MP;魔力値0

Core;コア無制限

Tolerance;耐性【物理耐性+70%】

Penalty;状態異常【―――】

Crown;称号<超越者>

―――――――――――――――――


 なんじゃこりゃあ!って一番驚いたのは俺だった。


 称号は一番最後に獲得したものが記載されるようで、DNAレベルが三も上がっていることから無茶が今になって裏目に出た感じだろう。とは自身で納得が言ってもメンバーからは白い目で見られるわ。気絶する人もいたりとそれぞれのリアクションを苦笑するオオカミがいたり・・・と中々に楽しい自己紹介があっての現状がこれである。



「――――ふん!」


 とホブゴブリンの脚部を一刀両断にしての行動制限と多量出血による足止めをジャイガードとディアンマが担当することになった。


 ジャイガードの武器は大剣。ディアンマの武器も大剣だが、生粋の戦士アタッカーであるジャイガードに対してディアンマは異端の極双戦士デュアルブレイカーということ。


 極双戦士デュアルブレイカーは、両手に大剣を装備して戦う超攻撃的な戦士のことを指すが会得条件が非常に困難であり現存しているプレイヤーは世界でたったの三人しかいないと言う。


 ――と言うのも会得条件その一はステータス上の筋力値が、三百以上であること。その二が両利きであること。その三が伝説クエストを達成しているか・・・らしいので俺も挑戦はしてみたものの持つことは出来ても戦えないのだ。つまり条件を満たしていても何かが欠けている、と言うことなのだろう。


 まぁ俺自体は戦闘スタイルを変える気なんてないからどうでもいいんだけど・・・困ったな。遣ることがない。だってさ、黒結晶洞窟に到達したっていうのにホブゴブリンとゴブリンだけなんて出番ないじゃん。そりゃあさ、希に抜けてくるゴブリンがいるけど弱いからガンキチ君にオマカセだし。


 ツマンネー。って思ってりゃあ来るわ来るわ。ホブゴブリンに混ざって肥大した"巨鬼サイクロプス"に早速反応したのは運搬班のカップルだった。威勢が良いと言うか何と言うか、もう少し声量を下げてもらいたいもんだけどこうなったものは仕方がない。


 突如出現したモンスターパーティーに対して急遽、陣を作成した。最前線にディアンマを置いて固有能力【孤高】による単騎行動ソロプレイ能力向上で底上げしたステータスを持ってして敵戦力を削ぐ。万が一、前線を抜け出た場合を考慮して俺とジャイガードのタッグで仕留める。セファリヤさんは非戦闘メンバーを守るように結界魔法を組んでもらっている。


 こうして出来上がった即席の陣営は我ながら良くできたもんだと感心するセファリヤさん。しかし、そのホンの安堵が地獄へ引き摺り込む。それが本当の意味で知られていないダンジョンの恐怖だからだ。


 一斉に群がるホブゴブリンの多勢に気を取られていた集中力が穴となって血が天井を舞った。


 逸早く気付いたカップルのカレシが感じたのは、人形のように冷たくて肌色が真っ白になったカノジョだった。イヤな予感がした。悪寒が止まらない恐怖が怖くて目がむけられないでいた。それでも見てしまうのが人間のサガなのだろう。


 それはカノジョではなかった。カノジョの形をした肉の塊が"喰鬼グール"に貪られる哀れな有り様だった。叫ぶよりも手が護身用の長剣を握ってカレシが選んだ選択は自決。死してカノジョの元へ逝くという願いは即刻却下された。


「―――、」


 言葉なく平手打ちだけして結界魔法を敷き直したセファリヤは、膨大な魔力をコントロールして密度を高めていく。その最中で激情に刈られて喚きが乱反射するも彼女の耳には届かない。密度を高めるには、繊細なコントロールが必要になるからだ。


 そうと知っていても巻き込んで死のうするカレシの行動を予測したココラは止めにかかるが振り払われて無残に土煙を被る。それがガンキチ君の心を動かした。気付けば槌を振るい気絶させ、ソッと倒れたココラに手を貸していた。


「大丈夫か?」

「あ、はい。ありがとうございます。」


 照れながら感謝の言葉を伝えるココラに、此方も照れ臭そうに返答する二人を見てニヤニヤする運搬班の彼等だが、だからこそ任せられると思った。


 死者一名。死んだ人間を蘇生する技術は持ち合わせていない。あれだけ誰一人欠けることなく依頼を完遂したかったって言うのに、目標を守れなかった俺はどうしようもなく心の奥で歯痒さを噛み締めた。


 報復なんてのは大切な人の為に奮う力であって・・・と自重していた。混み騰がる憤怒を自分の意識と沸き上がる猛烈な衝動が興してしまった彼等・・の意識が表裏一体した俺は誰にも止められない怪物になっていた。


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