【#010】 Past & Real -過去と現実-
遅くなりました。
今回は途中までです。御免なさい。
次週には必ず仕上げますので暫しお待ち頂ければ幸いです。
{2015.7.26}途中まで改稿→{2015.8.2}タイトル変更。
{2016.1.11}改稿完了しました。
現代治療と治癒魔法でゼンの鼻の止血を施すのはバイモン。
その最中、クエスト発注からの経緯をゼン自身の口から聞くことになっていた。
聞くところによると……。
マイトとゼンの関係は、冒険者と商人という付き合いだったらしい。
しかし戦争が始まってからは、お互いにわだかまりが出来たらしく不仲だったという。
マイトが【ダバブ】を通る。と聞きつけたゼンが人脈を利用して興味ありげなクエストを発注。
尚且、誰も遣らないよう内容に仕込みを入れて発注したという。
その内容というのが……。
幻想砂漠という場所でコンタクト。盗賊団に攫われた娘が【鯨の墓場】にいる。と記載された「★10」のクエスト。……なんじゃそりゃあ、最上位のプレイヤーにしか出来ない上にバレバレじゃんか。
要人護衛の立場にあるバイモンやゲイルは顔を顰めている。
「マイトさん。まさかとは思いますが例の件に絡んでいるのですか?」
「―――だろうな。
このタイミングで俺の旧友に反抗的な態度を取るとすれば、それは俺たちの足止め。
これ以上時間を割く訳にはいかん。…が旧友の頼みを断るほど俺は落ちぶれちゃあいない」
「…スマン、取引場所は鯨の墓場だ。娘を。二ルディーを頼む」
「分かったから涙を拭け。見っとも無い。それでもかつて俺の相棒だった漢か」
「おおう、おおう、ぐす…。任せたぞ、相棒」
目から鱗のように落ちるボロボロと大きな滴。
巨漢の大の男が泣き崩れる姿が、こうもヒドイ有り様だと初めて知る。
お、おう。これは凄まじい破壊力だな。……色んな意味で。
「―――【鯨の墓場】か。
クルス、バイモン、ゲイルは三方に散ってサバイバルスキルで敵陣を遠方から警戒してくれ。
一盗賊団でも人質に何をするか見当が付かない以上は手を出せん。
ヒロキにはスマンが、ここで待機だ」
「え、‥…分かりました」
「スマンな。まだお前を連れていくには荷が重すぎる。
人質救出後、ここに戻って来るから心配はするな。
それまでこの町で満喫していればいい。娯楽を味わうのも冒険者の特権だ」
町に一人取り残された俺は、ゼンの案内で同世代の転生者がいるという集会所に連れて来られた。
自分と同じ境遇。
クルスが言うには、この世界に転生してきた二度目の人生を歩む者に多い共通点があるという。
その過半数を占めるのが、自分やクルスのような「自殺者」だという。
生半可な人生を送っていないトラウマ持ちの人間の仲間と会うなんて、胸が苦しくなる。
生唾をゴクリと飲み込んで木製のノブに手を掛ける。
俺の心境など知ったことか。と言わんばかりにゼンがドアを押して開く。
ドアを開けた先で見た物は料理店ではありがちの「本日オススメのメニュー」。
【居酒屋「つまむ野菜」】。
なんとも変わったお店の名前だ……ってなぜ読める!?
あれ? さっきの碑石の文字が読めなくて、この字はなぜ日本語なんだ。
「ゼンさん、ここは?」
「む。ここは吾輩の。
いやこの幻想砂漠に住むプレイヤーの集会所であり。
パムチャッカのギルドホームだ。皆、客人をモテナシてくれ」
「「「「「はーい。ようこそ、おいで下さいました。パム」パムチャ」チャ」チャカ」へ」
おいおい。
そこは揃えるように努力しろよ。と言いたくなるが我慢。
というか、今何気に物騒な言葉が最後に聞こえたぞ。
咬んだだけかな?
「…って、いや待って。
なんで? ここどう見ても居酒屋なんですけど」
「む。なにを今更言っている。集会所と言えば、酒とつまみと女だろ」
「な…なっ」
口をパクパクさせて動揺する俺を見て苦笑するお店の人。
まあまあ、どうぞどうぞ。と席まで案内される。
案内されたのは日本人なら誰もがこの匂いが懐かしむ青畳の個室。
草原にいるような爽快感と夏の季節を味わうには、丁度良い涼しい風鈴の音色が心を落ち着かせてくれる掘りごたつのある一室。
白い土壁にはしっかりとした窓枠にガラスが嵌り込んでいる。
お店の中に作り込んだ日本庭園を思い出す小さな庭。
カポーン! という鹿威しが心地いい筈が、空気が重く感じられる。
その原因はまあ、言わずともお分かりだろう。
敢えて明かすなら相席している人物が物凄い威圧感を孕んだ溜め息をついているからだ。
「あの、ゼンさん。大丈夫ですよ」
「……。小童、ヒロキと言ったか。ヌシはこの世界に来て何日になる?」
「え、えーと一週間は経っていない筈ですけど…」
「最初に謝っておく。
本当ならお前さんのような新人を巻き込むつもりはなかったんだ。
本当に済まない」
いきなりの土下座で反応に困るんだが。
「ちょ、ちょっと、顔を上げてください。
何が、何がどういう事なのかは分かりませんが……、説明して頂けますか。
出来れば、クルスが言っていた『例の件』と言うのも」
如何やら長話になりそうなので、冷めて仕舞ったら持ったないので割り箸を割る。
最初に運ばれて来た料理もそうだった。
この店内では陶器ではなく、すべてが木製の皿を使っているようだ。
冷水が注がれたコップでさえ木製なのは、この地域特有な物だろうか? と考える。
陶器と違って木製の食器というのは、見るだけならばいいかも知れないが使い勝手が悪い。
まあ、ここで頭を捻っても仕方ないので割り箸で料理を小皿に装う。
未成年の身分で居酒屋には立ち入り出来ないが予備知識と知っている。
大抵のお店で定番と言えば、葱と生姜の薬味が乗った冷奴。刺身のような食欲を高めるために出す軽い料理即ち前菜だ。
前菜は、お店の顔になる品がほとんどだろうことに店名然り、サラダの前菜である。
お店の人が言うには、「蕃茄のカプレーゼ」蕃茄と言うのはトマトのことだ。
肌色の木皿を色づけている赤い食べ頃のトマト。スライスされたチーズ。青紫蘇の葉として知られる大葉。美しい透明感ある極薄の生ハム。その順で円を形取るように構成された見事な前菜だ。
生ハムに箸を掛けて、器用に他の三種を包み込むように丸めて口の中へと運ぶ。
一度目の咀嚼で味わうのは、トマトのほのかな酸味と水分がチーズを絡みあい、大葉独特の香りと生ハムの深い塩味が包み込んでくれる。
「―――、旨い‼」
「当然です。
わたしたち、パムチャッカの商人が独自のルートで入手したレア食材ばかりですから」
「えーと、君は?」
「申し遅れました。わたしはレインです。
あなたと同じ転生者です」
前菜を絶賛していると巨漢のゼンの後ろからひょこっりと出て来た。
少女は満面の笑みで挨拶してくれた。
転生者と聞いて僅かに眉がピクリと反応する。
逆に疑ってしまうのだ。
こんな可愛らしい少女が何らかのトラウマを抱えている様には見えないからだ。
レインと名乗る少女は、整えられた栗色の髪に白い肌。
現実世界では決してあり得ない紫の瞳を持っている北欧女子という雰囲気。
ほっそりした華奢な体型は戦闘向けには見えない。
まじまじ見ているとレインはあわわわ、と視線から避難するようにゼンの後ろに隠れる。
ひょこひょこ、と顔を出したり引っ込めたり。とこちらを警戒するように観察している。
これこれ隠れるでない。と大きな手で摘み取られるが俺と目があった瞬間。
ふぉえ?ふわあああ!! と言って顔を真っ赤にして猛ダッシュで何処かに行ってしまった。
「すまない、アレは人見知りが激しくてな。
兄貴のクロムがいないと、ああなる。気にすなるな。って言っても仕方ないが。
まず君には知って置かなければならんことがある。
君は…ヒロキ君はこの世界をどう思う? 率直な意見でいい」
どうして、急にそんな話に?
最初の話の論点からズレている気が…。
「この世界「HelloWorld」がですか。
ハッキリ言って、リアルではないかと疑うほど現実味を帯び過ぎているように思います。
とても感覚が通っている。
まるで本物の血液がこの身体を流れているような。
でもこれは、この世界は仮想世界なんですよね?」
「それは吾輩にも分からん。としか今は言えない。
実際にクリアした人間がいるという話だけあって鵜呑みには出来んしのう。
この目でクリアした瞬間を目の当たりにしたわけでもない。
だが、その件に関して、とあるプレイヤーが推測を立てた」
「推測?」
「仮説。と言った方がいいかもしれんが。
エルリオット=フェメルという新生者が遺した文献「仮説定義」によれば、だが。
すべてのプレイヤーの共通項『死の直前に現れるメッセージ』と『不可避のトラウマ』が該当する。
人間がこの二つの事柄や兆候に行き着いて要る点に関して。またこの世界。共通認識の総称で「HelloWorld」の行動範囲を考慮した結果。
肉体を離れて魂もしくは、感覚を備えた個人の意識がプレイヤーという情報体。つまりはアバターに介入しているのではないか。というそんな仮説がある」
「…えーと。
中学生時代に読んだ「タイムマシン」とか「時をかける少女」みたいなSFぽい内容ですね」
「中々にコアと言うか。
年代的にも可笑しい気がするが。(…なぜ、両方ともタイムトラベルに関する小説なのかはこの際、ツッコまんほうがいいか…)まあ、大凡はそんな感じだ。実際理論上タイムマシンは、過去には戻れないが未来に行くことは現実に可能だからな」
「すいません。話を脱線させたみたいで」
「む。構わんさ。それでだ。
仮設の裏付けとして最後にこう綴っている。
肉体を離れた魂であろうとも意識であろうとも、時間が経過していると認識できている現状から考察して一つの答えを述べる。ここは現実ではないが、ひとつの認識できる現実である…と」
え?
それってVRWの定義じゃないか。
「その書、語っているのは…「VRWか」―――え!?」
「コイツを書いた奴は天才的だと思うだろ。VRWを知らなければ。
でも、そうじゃない。コイツは二百年も前に書かれたもんだからだ」
はぁ!?
「いや、そんなことある訳ないじゃないですか。
そうだ。この世界の時間経過が狂っているとかなら何の問題も――「今は西暦で二〇四一年だろ」…―――…だって、あり得ない。
インターネットが商用化されたのは一九八八年のことで。
ネットワークシステムの原初は一九六九年から始まったと言っていい。
なら、この世界は何時からあるんだ?」
その質問の答えにヒロキは絶句した。
これが現実ではない。と叫びたいと思うほどに。
この世界に裏切りを感じずには要られなかったからだ。
最古書。名前の通りこの世界で最も古い図書には、こう綴られている。
まるでヒロキのような存在が現れることを予期してか。
その言葉はずっしりとした重みで潰される序文と助言だった。
転生者のギブソンが遺した書物「過去の栄光」より記された言葉。
過去に囚われることは自分の弱さを克服することに相違ない。
しかし見詰めているだけでは弱くなるだけである。
後ろをひたすら向いていても時間が経過するだけ。
前を向かなければ解決には及ばない。
一度人生で掴んだ栄光や摘み損ねた名誉は、縋るものでも、飾って置くものでもない。
過去をバネにすることが大切である。
何かを追いかけることは、そこに希望があるからだ。
二度目の人生を悔いなく生きるために、私はここにこれを記し残す。
未来を歩くプレイヤーへ。
「ヒロキ君。
吾輩はマイトのように良き師ではないから、回りくどくなったな。
申し訳ない。君には知って置いてほしかったんだ。
ここが紛れもない現実であると」
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。
今後の予定ですが、このままいくと仕事量にもよりますが夏休みがない可能性も考慮して、八月一杯には次章に進みたい処です。
勿論、体調管理を怠らず精進してまいります。
小説執筆から二年目に入りましたが、これからもお付き合いのほどをよろしくお願いします。