.ゆびなめ
灰色の空をうつしたような細雪のなかで、ぼくはさいごにきみをみた気がする。
そしてふりつもった空のかなしみも、雨の中で色褪せていく。
手で、せいいっぱいきみをたぐり寄せてみても、ぼくのなかに結局きみはいなかった。
つまらない、と言われればそれでおしまいかもしれないが、終わらせてしまえる勇気なんて、ぼくには到底見つからない。
セピア色の海のなかで、長い間眠りについた白色の真珠のように、ぼくはきみをうつしだす。
でもそれはあまりに鮮やかすぎて、きっとこれもぼくにはたぐり寄せれないのだろうか。
「しとしと、こっちもあめがふってる」
窓の中からのぞく景色は、なみだがにじんでよく見えない。
いや、きっとそれも錯覚なのだろう。
「きえてよ、りょーちゃん」
いきなりきっとにらまれて、きみは暴言を吐いた。
「りょーちゃんといると、いらいらするの」
「じゃ、なんでぼくの家にくるの」
「あたしのかってでしょ」
ああ、きみはほんとうに自己中心的な人間だ。
その証拠に、ついさっきまでぼくをにらんでいた顔が笑みをうかべている。
まったく、感情の起伏のはげしいやつだ。きみをみていると苛々するんだ。
「ねー、どっかいきたい」
ぼくのベッドから足をぶらぶらさせて、さらにはアイスまで食べながらきみはいった。
赤茶色のかみのけが、きみの動きにあわせるようにゆさゆさうごく。
ぼくは机にかじりついて、勉強をするふりをしながら「だれと?」と聞きかえした。
「りょーちゃんと」
「ぼくのこと、消えてよとかいってなかった?」
ぼくが怪訝な顔をしてふりむくと、きみは
「そんなこと、いったっけ?」
と図々しくもとぼけてきた。
「りょーちゃんのこと、すきよ」
そうつけくわえて、笑みをたたえながらぼくのくちびるをさっさと奪っていってしまった。
またアイスは歯型をのこされてく。
赤く染まったぼくと、けらけらわらう、きみを見ながら。