第二話 流せ! ささらのささのはさらさらボートレース
「そういえば、アニメの話で思い出したんスけど……話変わっていいッスか?」
「お? おお」
「今期始まった新しい深夜アニメなんスけどね……」
「全然話変わってないだろうが!」
いやいやいやいやいやいやいや。
「いやそれが違うんスよ。そのアニメ、うちらの地元が舞台になってるみたいなんス」
「あー、なんかこないだ電話したとき両親が言ってたな」
「そ、そんなインサイダーな特ダネを持ってて、なんで教えてくれないんスか!」
「興味ねーし。お前こそ実家に電話とかしてねーのかよ」
「実家? フフ、僕はバーチャルな存在ッスから実家とかはないのです」
嘘つけ、リンリン♪サイクルショップの次男。
「ッスからこれは元カノ情報なんスけどね、なんでもそのアニメの6話くらいで、豊郷センセイの例のほら、黒歴史」
「……どれだ」
「チョコの」
どあぁぁぁぁ。
「やめ、思い出させるな」
「そのチョコのエピソードとそっくりな話、アニメ化されてるらしいんス」
「なん、だと……」
「お、BLEACHッスね」
「違うわ!」
あれだけは思い出したくもない。
セイとはそれ以来会っていないし、謝るチャンスもなかった。幼馴染なんだ、いつでもごめんっていって、簡単に仲直りできるだろうと思っているうち、俺は東京へ。大学生活、新人社員の時期を忙しく過ごしているうちに、あっという間に年月が経ってしまった。
「まー僕はバーチャルでリリカルな存在なんで、あんまり地元の位置情報に紐付いたエピソードとかはないッスし、おおーけっこう背景の作画リアルだね、見たことある風景だねで済むんスけど。やっぱり豊郷センセイは地元密着型のヤンキーだったッスから、将来的に地元に帰っていろいろ昔ヤンチャもしたけど俺地元最高だYo、俺育んでくれた地元と父ちゃん母ちゃんに感謝をーぅウォウウォウみたいなラップ歌いながらバーベキュー囲んで円陣組んだりするんしょ?」
「オタクサイドからの偏見やめろやコラ」
「おお怖いッス怖いッス、ヤンキーはホント怖い」
言い合ってゲラゲラと笑う。水と油の俺たちにだって、思えばいろいろあったもんだ。
「じゃあ、豊郷センセイサイドとしては全然寝耳に水、ってことでいいんスか?」
「おーおー、寝水寝水」
「じゃあ当時の事情を知る誰かがインタビューされて、そんでネタを提供しちゃったんスかねー」
誰か、って。俺じゃなけりゃセイしかありえないじゃないか。
あの事件さえなければ。なぜあんな時にあいつがあの場所に。何度も悩んで、何度も悔やんで、本人にはとても聞けなかった例の事件について。セイの視点からの答えが、そのアニメとやらにそのまま残されているんだろうか。
「とりあえずPPVの動画サイトかどっかでレンタルして見てみるといいッス。僕は結局詳しいとこまで知らないんで、偶然の一致じゃね? 程度の感触なんスけど」
「そーだよなー」
「ま、いずれ地元へUターニングしてできちゃったニング結婚して暖かい家族を連れてミニバンでバーベキューしたりする豊郷センセイですから、あんまり地元に帰りにくくなるようなことになるとかわいそうじゃないッスか? もう百人に百人が鷺宮さんらしきヒロインの方に肩入れしてしまいそうなくらい、豊郷センセイらしきヤンキー主人公がキング・オブ・クズとして描写されてたッスからね」
「最悪だなオイ」
話しながらパソコンで「笹楽沢 アニメ」と検索。まとめサイト、聖地巡礼ブログなどがヒットし、「ささら さらさら」という作品名にたどり着く。
『神様だって、バーベキューしたい!』
ささらさわに住む川の神見習い、『ささら』が河原で出会ったひとびとと紡ぐ、素朴なハートフルストーリー。だそうな。そんないい町かよ。
「あったあった。なんだこれ、ゆるキャラ? こんなんいたっけ」
「なんか上流のほうに簓神社ってあるらしいッスから、その擬人化じゃないッスかね」
「ふーん。わかった、とりあえず見てみるわ」
「はーい、ではどもどもー」
「おう」
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「ささら さらさら」は、まあ、いいアニメだったんじゃないだろうか。
いまのところ最新16話までPPVで販売されていて、一話100円程度。まとめて見るとそれなりに金がかかるので、テレビ放送の時間を調べて毎週録画設定にしておき、続けて実家に電話しようとして、朝5時だったのでやめておいた。
オタクではない。決して俺はオタクではないが、やっぱり地元の見たことのある河原やススキ野原、通っていた学校が舞台になるのはなんだか妙に刺さるものがある。
セイにも電話しようとして、ためらう。あれからもう5年だ、電話番号も変わっている可能性がある。思い切ってかけてみて繋がらないなんて、俺はそういう無駄が一番嫌いなんだ。
だがしかし、第6話で語られていたセイ視点の「涙で溶けて川に溶けないもの、なーんだ」の回、あれには参った。参ったし、とんでもない勘違いをしていた。この誤解だけはなんとかして解いておきたい。セイの方が先に謝るべきだ、とずっと思い込んでいたし、俺に非がないわけじゃないが、そこまで悪くないだろう、と思いこんでいた。
今なら、俺も大人になって、ちゃんと話ができる気がする。