キミの隣で愛を育む
登場人物。
エリザ・スカーレット……大貴族スカーレット家の三女。現・近衛騎士団団長にしてヒロイン(三十路)。
ユノン・リュドエル……第一王子。次期皇帝として帝国中を駆け回っている。
エリザ・スカーレット。
大貴族スカーレット家の三女にして近衛騎士団団長と言う帝国でも一目置かれる存在の彼女。
そんな彼女には一つ、悩み事があった。
「はぁ……結婚したい」
久方ぶりの休日。実家の自室に籠ったエリザの手には帝都で流行している恋愛小説が広げられている。
齢三十にしてエリザは恋愛への興味が沸いた。それもそのはず、エリザは生まれてから恋と言うものをしたことがない。
縁談も無ければ浮わついた話も無い。大貴族の子として生まれた時から敷かれたレールのような人生を歩み、兄や姉と違い婚約者もいない。
「恋かー……」
年の割に恋愛経験の無いエリザにとって恋愛とは創作小説のような夢見ガチなもの、言わば禁じられた恋や劇的な恋が基準になっている。
現実離れした理想を胸にすらすらと小説を読み進める。
「…………」
すらすらと読んでいた視線がピタッと止まる。『無名文通』その文字をなぞるように読み返す。
「そう言えば、最近帝都で流行っていたな……」
無名文通。
その名の通り無名の相手から送られてきた手紙と文通することだ。元々はこの小説での創作物に過ぎなかった。
だが、帝都では今、これが流行っている。中には貴族の結婚にまで影響が出ている程だ。
「私もやってみるか……!」
久方ぶりの休み。
気分が高揚したエリザを止める者も居らず、早速手紙を書く。
──拝啓、無名の貴方へ。
こんにちは、今お元気ですか?私は元気です!
空の日差しが差し込む部屋で私は今、帝都の流行り?である無名文通と言う物に触れてみました!
私は初めての名前も知らない貴方に文通を送ることに胸がドキドキします。
気が向いたらお返事いただけると嬉しいです──。
ランダムに記入した住所の手紙が誰かに届く。
数日後。実家からスカーレット宛ての手紙が送られてきた。
「き、来た……ついに、来てしまった……!」
初めての無名文通。
期待を胸にスカーレットは手紙を手に取り、封を開ける。
──拝啓、無名のキミへ。
初めまして、お手紙ありがとうございます。
僕も初めての無名文通と言うことで少し緊張しています。
僕は今、帝都の外れにある別荘で家の仕事をしています。ここは帝都よりも人は少ないですが、美味しいお店が建ち並んでいます。
そちらでは、どのような景色が見えていますか。
こちらからも、お返事待っています──。
なぞる視線が手紙を読み終える。
「お、おお……!ほ、本当に返ってきた……!!」
エリザの胸は満足感でいっぱいだ。
初めての無名文通。お互いにとっての初めての相手であり、エリザが夢見た小説のような出来事。
「ハッ!早速返事を書かなきゃ!!」
ペンを取り出し、真っ白な手紙を広げる。
数日後。エリザの書いた手紙が別荘から第一王子ユノン・リュドエルの元へ届いた。
──拝啓、無名の貴方へ。
お返事いただきありがとうございます!
私の場所から見える景色様々で日々景色が変わっていきます。
ここ最近は帝都にいることが多く、夜になっても街は綺麗に輝いています。
見える景色は違えど、私はこの文通を楽しんでいるように感じます!
貴方からのお返事嬉しかったです。楽しみに待っています──。
作業の手を止め、手紙を読み進める。
「……可愛いな」
綺麗な文字に初々しい文章。その情報からユノンは相手の姿を想像してみる。
「文章的には女の子……な感じだけど、男かな?……いやいや、でも…………」
ん~、と悩むユノン。
相手が男であろうと女であろうと、ユノンにはどうでもいい事……だったが、この数日でのやり取りですっかりその気は変わっていた。
初々しい感じの印象を受ける文面にユノンは微かながらに恋と呼ぶには小さい感情を抱え込んでいた。
コンコン、部屋の扉がノックされ外から声が聞こえる。
「王子、今大丈夫でしょうか」
「大丈夫だ。入れ」
「失礼します」
そう言って入ってきたのは近衛騎士団団長エリザ・スカーレット。
彼女の任務は第一王子の護衛だ。
「エリザ団長か、どうした?」
「新たな書類を持ってきたのですが……そちらは何ですか?」
「あっ!これは……」
読んでいた手紙が入った封を指差し、ユノンは慌てて隠す。
「友人からの手紙でな」
「そうでしたか」
「ああ、書類は空いている所に置いておいてくれ」
「かしこまりました」
執務机の空いているスペースに書類の束を置く。
「ユノン王子もそろそろご休憩なされてはいかがですか?」
「そうだな」
「では、私はこれで」
エリザが部屋を出る。
「危なかった……流石に父上達にこの手紙を見られるのはまずいだろうね」
そっと手に取った手紙を鍵の付いた段にしまう。
一国の第一王子ともあろう者が帝都の流行に乗せられて恋をしたともなれば大問題だ。
それでもユノンの心は幸せで満ちていた。
「さて、次はなんて返事を書こうかな」




