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寄り道怪談  作者: 昼中
39/40

振り返らない

 まだ私が中学生だった夏の、とある明け方だ。

 私は社宅の団地に住んでいた。

 妹と一緒に寝ている子供部屋で、薄ぼんやりと辺りが見えるくらいの時間に目が覚めた。


 まだ早いのでもう一度目をつぶった瞬間、団地中に響き渡るような金属音がした。


 がしゃあん、と金属製の何かを地面に叩きつけているかのような音。

 思わず目を開けて息を飲んだ。

 それと同時に「あ、ばれた」と思った。

 私が今、目を開けたことが、起きていることがばれてしまったと何故かそんな考えが浮かんだ。


 がしゃあん、と再び大きな音。それは先ほどとは少し遠くから聞こえた。


 それでも私は薄い布団を頭まで被ってギュッと目を瞑る。

 ばれた。起きていると気付かれた。


 がしゃあん、がしゃあん、がしゃあん、と遠ざかったはずの音が確かに近づいて来る。

 そして金属音は、家の中に入り子ども部屋の入口手前で、がしゃあん、と音を立てて止まった。


 子ども部屋の戸は夏の夜の暑さを和らげようと風が通るように開けっ放しにされている。

 そして、私はその入口の真隣に布団を敷いて寝ているのだ。


 必死に寝たフリをするしかなかった。

 呼吸すらなるべくしたくない。

 もし、部屋の入口に「何か」を見てしまったら、きっと二度と立ち直れないと思った。


 何分経ったのかわからない。

 部屋の入口で止まった音は、もう聞こえない。

 自分の中にふと、ある考えが浮かんだ。


 もしかして、もういなくなったかもしれない。


 もう、いいんじゃないだろうか。


 振り返っていいんじゃないだろうか。


 あれほど感じていた恐怖がいつの間にか消えている。

 布団から呑気に顔を出そうとして、ギリギリで踏みとどまった。


 今、何を考えた?

 いなくなった、って何を根拠に?


 音を立ててわざわざやって来たものが、音を立てずに消えてくれるとでも?


 私は断固として振り向かないことを決定した。

 頭の中で、部屋の前にいるであろう「何か」に向かって宣言する。


(言っとくけど、私はお前がいる限り絶対振り向かないぞ!夜が明けるまで、こうして布団被ってやるからな!!)




 がしゃああんッッッ!!!!




 それは、私の頭上で聞こえた。

 凄まじい音量に、思わず布団の中で目を開け、「ひっ」と悲鳴が漏れかける。


 だが、がしゃあん、がしゃあん……と音は遠ざかって行った。

 何も聞こえなくなった後、私はそっと布団から顔を出した。


 少し明るくなった部屋には私と、ぐっすり眠る妹しかいない。

 この金属音を、私がその後耳にすることはなかった。


()()」だが。


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