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ダウンジャケット
電車に揺られて通学していたある日。
いつものようにドアの近くに立って外を眺めていた。
ドアの窓ガラスに人が映り込む。
私の後ろを、ダウンジャケットの襟を立てて、深く、深くうなだれた男が歩いて来たのだ。
ゆっくりと歩く男は私の背中の真後ろでピタリと立ち止まった。
しかし、後ろに誰もいない事は分かっている。
真後ろにいるはずなのに、気配が全くしないからだ。
怖いとは思ったが、私は勢いよく振り向いた。
案の定、誰の姿もない。
ただ、斜め後ろに座っていた女性が一人だけ私の方を見ていた。
目を見開いて、ぽかんと口を半開きにしながら。
ダウンジャケットの男の姿はそれ以来見ていない。
だから私は困っている。
歩いてやって来た姿は見たのに、私から離れていく姿を見ていないからだ。
私の知らない間にどこかへ歩き去ってくれたのならいい。
だが、もしもまだ私の後ろにいるとしたら。
もしも誰か、私の背後にダウンジャケットの男を見ることがあれば。
その時は近所の神社に駆け込んで、即刻お祓いをしてもらうと決めている。




