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寄り道怪談  作者: 昼中
32/40

車庫の中(後編)

 

 それは、迷子の犬がやってくる数カ月前の夕方だ。

 風邪を引いて会社を休んだ私の元に、上司から電話がかかってきた。


「大丈夫?」

「ちゃんと水分取ってる?」


 心配そうな様子の上司は人混みの中にいるのか、電話越しにザワザワと人の喧騒が聞こえた。

 雑踏の中で喋っているかのように大勢の声がぐちゃぐちゃに混じった音がする。

 上司は疲れた様子で愚痴をこぼした。


「今日は忙しくて、まだ片付けの途中なんよー」


 私は言葉を失った。

 片付け中、という事は会社の備品のある車庫にいるはず。何故たくさんの人の声が聞こえるんだろう?

 会社は田舎の辺鄙な所にあり、夕方はほとんど人が通らない。

 小さな会社なので、その日出勤している人間は上司の他に一人だけ。

 それなのに、人混みの中にいるようなこの話し声は何?

 私は「後ろの声は何ですか?」と上司に聞こうと口を開いた。


「あの……」


 そこまで言いかけてやめた。

 話し声が、聞こえなくなったのだ。

 あれほど騒がしかった音が、ぴたりと止んだ。

 まるで私の言葉にじっと耳をすませて、告げ口をしないか伺っているかのようだった。


 結局何も言えなくなってしまった私は、翌日上司に「昨日はどこから連絡してきたんですか?」と聞く。

「昨日?車庫だけど」と、思った通りの答えが返ってくるだけだった。


 会社の中には多くの物がある。

 棺も、遺品も、葬儀に関わる備品がたくさん。


 それでも会社の誰もが、意味もなく、あの車庫を何より恐れていた。

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