車庫の中(前編)
ある日、上司が仕事中に迷子の犬を拾ってきた。
小さい雑種の、非常に大人しい犬だ。会社の人間の誰にでも尻尾を振り、ワンとも吠えない。
会社に置いておくと備品を壊すかもしれない。
話し合いの結果、一晩会社に泊まって犬の面倒を見る事になった私は、食べ物と充電器を用意して泊まる準備を整えた。
幸い、会社には布団がいっぱいある。納棺練習用の棺布団だが……
犬は大人しく布団の上にちょこんと座った。
さて、寝るかと私は電気を消して布団に潜り込む。
目を瞑ったその瞬間、そばに居た犬がスッ、と身体を起こし一目散に走り出した。
「ギャンギャンギャンギャンギャン!!」
あれほど大人しかった犬が狂ったように吠え始めた。
「どうしたのー?暗いの怖い?」
私も起き上がり、犬の姿を探す。
暗闇で目を凝らすと、犬はドアの前にいた。
そのドアは玄関とは真逆の位置にあり、車庫への廊下に繋がっている。
社用車と、細々した備品が置いてあるだけの車庫だ。
夜になると分厚いシャッターが降りていて、人が入ることはできない。
誰もいるはずがない。
だが、犬は唸り声を上げながらドアの向こうを見たまま死に物狂いで吠え続けている。
私が部屋の電気をつけると、犬はピタリと吠えるのをやめた。
そして、しばらくドアをじっと見つめ、何事もなかったかのように布団へと戻ってきた。
電気を再び消す勇気は、私には無かった。
頭の中に、いつかの上司の言葉が浮かぶ。
「この会社には故人様用の棺置き場や引き取ってきた遺品置き場があるでしょ?でもね、みんな口を揃えて『車庫が一番怖い』って言うのよ」
私はある夏の出来事を思い出した。




