貧乏神の人
私が個人店の居酒屋で働いていた時、女将さんが突然「貧乏神、っておるんよ」と話し始めた。
それは見えない神様を指しているのではなくて、「貧乏神」の人間がいる。
女将さんの、今は亡き旦那さんが教えてくれたそうだ。
その頃、店にたまに来る社長がいた。
羽振りがよくて、暴れもしないし、失礼なことも言わない良いお客さんだったらしい。
ところが女将さんの旦那さんは、その社長が来ると嫌そうな顔をする。
「どうして?」と聞くと「あの人、貧乏神やから」って言ったそうだ。
「あの社長が来ると客が誰も来なくなる。そういう人がたまにおるんや」
旦那はそういった存在を「貧乏神」と呼んだ。
飲食店ではよく囁かれる話らしい。
そう言いながら、女将さんは勝手口の扉を開けて外の様子を伺った。
大通りなのに人っ子一人、歩いていない。
今日は常連さんが一人で来てから、ピタリと客が来ないのだ。
「あの、さっき来た常連の○○さんって……」と私が聞くと「◯◯さんも、ちょっと貧乏神だと思ってるからこの話ししたんよ」と女将さんは答える。
「◯◯さんが来たら、客が来ない事が多いでしょ」
女将さんは荒っぽく扉を閉めて吐き捨てるように呟く。
「あの社長が死んで安心しとったのに」
この話を実家に帰った時、妹に聞かせた。
IT関連の仕事をしている妹は「確率の問題じゃない?」という反応をする。
だが、「そんなことはありえない、とは言わない」と答えた。
「この人があの椅子に座ると、機械がおかしくなる」
「この人が触った時だけ、特定の電子機器が不調をきたす」
妹の世界でもそういう事はあるそうだ。




