遺品整理
数年前。
たった一人で暮らしていた母方の祖父が亡くなり、家が取り壊される事になった。
私は他県に住む母に、祖父の家のアルバムや遺品を車で運んでほしいと頼まれた。
週末になると私と母は何度も祖父の家に出向き、遺品を整理していく。
そして、ついに最後の片付けの日が来た。
祖父の家に入り、持ってきた自分のカバンをいつも通り仏間に置きに行く。
私はカバンを置いて、ふと本棚を見上げた。
その本棚の上には、私が生まれる前から二つのガラスケースがあった。
向かって左のガラスケースには男の子の博多人形が。右には女の子の博多人形が飾られている。
とても愛らしい表情をしたこの人形が私は大好きだった。
いつものようにその博多人形を見上げる。
「……あれ?」
二つあるガラスケースの、女の子の博多人形。
その人形がそっぽを向くように体ごと右真横を向いている。
人形の横に添えられている、題名の書かれた小さな木札は正面を向いたままだ。
明らかにガラスケースではなく、中の人形だけが九十度方向転換して右を向いている。
先週この家に来た時には、人形は間違いなく正面を向いていた。
「ちょ、ちょっと、お母さん!」
「何?」
「あの人形、何で横向いてんの?」
「ああ……地震ちゃう?」
「この一週間に人形が一つだけ動くような地震ってあった…?」
「え、先週は正面向いとったの?」
「向いとったよ!」
「ふうん。お母さん触ってないよ」
そう言うと母はさっさと食器の整理に取り掛かりに行ってしまう。
首をかしげつつ、私もそのまま急いで遺品整理の手伝いに向かってしまった。
家が取り壊された後、母にあの博多人形をどうしたのかと聞けば「え、リサイクル業者が買い取ったと思う。横向いとっただけだから、今ごろ正面にキュッと向けて売られてるんちゃう?海外の旅行者とかが買いそうやし」と返ってきた。
私はこの日、今後決して中古の人形は買わないことを誓った。
勝手に動いたこの博多人形だが、その昔、亡き祖父が九州土産として買ってきたものだそうだ。
有名な人形メーカーが作っており、今もネットで買うことができる。




