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オルゴール、平家も、ヒサシ、わからず屋!

掲載日:2025/12/29

 だんうらへ私たちはやって来た。

 その昔、源平が激しく最終決戦を行ったという、関門トンネルのたもとだ。しかし今はもう、戦いを繰り広げる両軍の姿はもちろん、どこでどうやって戦をしたのかを想像することもできなかった。


「キムチの匂いがするね」


 私が呟くと、隣に並ぶヒサシが、それに答えた。


「下関は韓国から近いんだ」


 早鞆はやとも高校の女子生徒が若々しく下校するのを見ながら、私は待った。

 ここでヒサシが、私に愛の最終決戦を挑んでくることを。

 彼がプラチナの指輪リングをこっそり買っているのを知っていた。


「ねぇ、みちよ……」

 ヒサシが私の名前を呼び間違えた。

「ふぐ、食いに行かね?」


「みちよって誰よ!」

 私は思わず名乗りをあげた。

「我こそは平家へいけさとみなり! みちよとはどこの誰なりや!?」


 慌ててヒサシが逃げだそうとした。

 私は武蔵坊弁慶のごとくその前に立ち塞がると、問い詰めた。


「浮気する者は壇ノ浦から突き落とす! 巌流島まで流れてそこで武蔵を待つがよい!」


 するとヒサシがいたずらな笑いを浮かべ、ポケットからそれを取り出した。

 今、こんな状況でプラチナ指輪を取り出すのなら、崖の下へ投げてやる──私がそう思っていると……


 彼が取り出したのは、かわいいオルゴールだった。


 舞い踊る静御前をデフォルメしたちびキャラのオルゴールから流れ出したのは、カーペンターズの『トップ・オブ・ザ・ワールド』のメロディーだった。


「これだよ、これ」

 意味のわからない笑顔でヒサシが言う。

「さっきのは、これのこと。冗談だよ」


「カーペンターズが何のことなりや? 名のらずともくびをとて人に問へ。見知らうずるぞ!」


「えっ? カーペンターズ? これ、平家みちよの『卒業』って曲だよ?」


 調べると、確かにカバーしてた。

 ふーん……。平家みちよって歌手がいたのね。30年ぐらい前だ。


「よくそんな古い曲、知ってるね?」


「さとみと付き合いはじめてから知ったんだ、じつは。同じ『平家』って名前繋がりで」


「そんなの知らねーよ。わかりにくい冗談かましてくんじゃねーよ!」


 しかもこんな時に、と思っていると……


 ヒサシがまたポケットから何かを取り出した。


 今度こそあれだ。指輪だ。

 私がそう思っていると──


「みさと……。これを受け取ってくれ」


 彼が取り出したのは、なんだこれ。


「祇園精舎の鐘の音だ」


 もぉっ! ヒサシのわからず屋! 私が待っているのは──


「結婚してくれ」


 そう言って、大音量の鐘の音の中、彼が指輪を私の指にはめた。





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― 新着の感想 ―
思わず名乗りをあげた、ってキミらもしかして、いつもこういうやり取りをしてるの?(-ω-;) なかなかこの名乗りは出て来ないわ(・д・)~。 しかも結局名前間違えてるし。 指輪の名前は大丈夫かい? ヒ…
 平家物語ネタでプロポーズってどういうセンスの男なんだか……。  諸行無常の響きありとか盛者必衰の理なんてことにならないことを祈ります。(苦笑)
あ、好きです!私は大好きです! 刺さりました刺さりました(๑>◡<๑) この絶妙な分からなさと分かるかもライン 微妙な乙女心の怒りと切なさ アホな男への腹立たしさと愛しさ 迎えるラストのハッピーエンド…
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