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お嬢様お願いやめて僕の黒歴史を魔法にしないで!?メイドが邪魔して封印できない!  作者: 雲川ぬーぬー


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5/5

執事とメイドは過保護です

「ルーナ……ステラの様子はどうだ?」

「お陰様で、ステラ様も大喜びです。魔法も次々に覚えて、毎日とても楽しそうでメイドとしても喜ばしい。当家使用人を代表して感謝を」


 ルーナは、スカートの裾を持ち膝を軽く曲げる。

 僕はルーナの耳元に手を当て、ステラには絶対に聞こえないようルーナと話す。


「(そうじゃなくて、いつまで僕は黒歴史を晒され続けなくちゃいけないんですか!?)」


 僕は小さな声で怒りながら、ルーナに詰め寄った。


「(お嬢様に自分の考えた魔法を使ってもらえるなんて、光栄なことでしょう?)」


 しかし、このメイド長はお嬢様第一主義だ。

 僕の言うことには、一切耳を貸す気が無いらしい。


「(あれは、僕が考えたんじゃない! 前世の僕が考えて、誰にも見られないように封印してたものだから! わかる!? 使ってほしくないんだって!)」

「(だから、その魔道具を貸したんですよ? レイ様=ゼロ様とバレないから問題なしですね)」


 ルーナは、僕が付けているマスクに触れた。

 目元だけを隠すマスク型の魔道具は、ルーナが腕利きの魔道具師に作らせた逸品だ。


 魔道具は、魔法が籠められた不思議な道具だ。

 魔力が既に込められて誰でも使えるものもあれば、魔力を込めなければ使用できないものもある。

 使用に制限の掛かったものもあれば、誰でも使うことのできる懐の深いものもある。


 僕がルーナから貰った魔道具は魔力を込めなければ使えないが、使用する時の制限は特にない。


 推定等級は一級、魔道具名は『偽証ペルソナ』だ。

 一級ダンジョン『偽証の丘』のコアを使用し、ルーナが一級魔道具師に作らせた仮面型の魔道具である。

 その効果は、ペルソナを付けた使用者が誰かに見られた時、存在を誤認させるというものだ。

 効果は付けている限り半永久的に続き、知人であっても効力は抜群だ。

 ステラに正体がバレないようルーナから僕へ手渡され、以来よく使っている。


 魔道具やダンジョンはもちろん、魔物、冒険者、魔道具師は全て三級、二級、一級と各ギルドによってランク付けが徹底されている。

 最初の等級制度は、魔物に挑む冒険者が無茶しないように取り決められた。

 それが徐々に広がり、今では多くのものに使われている。

 数が少なくなるほど希少な存在となり、冒険者や魔物はより強く賢く、魔道具や魔道具師はより技術や知識を持っていることを示す。


 中には特級と呼ばれる人やものもあるらしい。

 生ける伝説とまで呼ばれているが、詳細は知らない。


「(そもそもどうやって、僕の前世なんてわかるんだよ!?)」

「(女神様を助けた時に貰った魔道具が教えてくれたんですよ。セリオン家にこれから来るステラお嬢様の護衛役は異世界転生者で、前世は霧島零という名前らしい。恥ずかしい黒歴史をノートに書いては痛い台詞を叫び、周囲にドン引きされていた厨二病(笑)だって……フフッ、滑稽でございます)」

「(もう無理! 助けて!)」


 頭が痛い。身体を丸めて地面に倒れた。


 僕の前世がバレるなんて思っても見なかった。

 どうしてこんなことに、と思いながら空を見上げる。


(あ~、消えたい)


 ルーナは溜め息を吐き、目を細めて僕を見る。


「(……わかりました。では、こうしましょうか)」

「(もしかして、助けてくれる?)」

「(えぇ、貴方は私の大切な部下ですから)」


 メイド長は、息を大きく吸い込んだ。


「(おい、いったい何を……)」


 狼狽える僕を放って、彼女は大きく口を開ける。


「お嬢様~、ゼロ様から大事なお話があるみたいですよ~」

「はーい!」


 ステラは、ルーナの声を聞いてすぐに飛んできた。

 僕の前には、もう目を輝かせたステラがいる。


「ではゼロ様、どうぞ」


 ルーナは、僕の後ろに下がった。

 突然のことに驚いた僕は、振り返ってルーナに抗議する。


「(なんて無茶振りだよ! 何をどうすれば!?)」

「(そのまま伝えるだけで充分です。『もう僕は君の師匠ではいられない。その黒歴史ノートも返してもらう』と)」

「(ステラが泣いちゃうでしょうがッ!)」

「(安心してください。その時は、貴方もボコボコにしてあげますから)」

「(安心する要素どこにあった!?)」

「(大丈夫です。必ず想像以上に殴ります)」

「(もうイヤだ。このメイド長)」


「師匠ー、ルーナとお話終わった?」


 お嬢様は、相変わらず瞳を星のように輝かせながら僕のことを待っていた。


「ステラ、その、なんだ。これからも修行に励めよ」


 結局、これだけしか言えなかった。


「わかりました!」


 ステラは、黒歴史ノートを開ける。


(え、やめて? まさか、まだ魔法を撃ち足りないんですか!?)


「我は世界を拒絶せし魂の残響、ここにその姿を示せ――『闇蝕ダークエクリプス』!」


 それは、闇から這い出てきた触手達だった。

 何もすることなく蠢いているだけではあるが、本来は主の命令に従って敵を闇の中へ引きずり込む。

 そして引きずられた者達は、一生光の下へ出ることができず短い一生を終えるのだ。


「のぉぉぉオオオーーーーーーーンンンンッ!」


 僕は、ばら撒かれる黒歴史で頭を抱えて地面を転げ回った。

 闇触は、僕が転がっている間に消えたらしい。

 疲れて頭が全く回らない中、僕はステラに土下座した。


「ごめんなさい! 許してください! だから魔法は止めて!」


 しかし、ステラの隣にはルーナが居た。

 にやり、と僕の上司は笑ってステラを安心させる。


「ねぇルーナ、師匠が苦しそうだけど本当に大丈夫なのよね?」

「大丈夫ですよ、お嬢様。きっと弟子の成長を喜んでおられるだけです」

「うんわかった!」


 お嬢様は走り去って、黒焦げのチンピラ共で魔法実験を再開していた。


 僕は、ルーナに肩を叩かれて顔を上げた。

 メイド長は、僕の耳元に口を寄せる。


「(異世界転生って面白いですね、レ・イ・さ・ま?)」

「(この鬼畜メイドがぁ!)」


 こうして、僕の黒歴史が魔法にされる恥辱の異世界生活が始まった。


 公爵令嬢で僕の主人ステラ・セリオンに拾われた。

 メイド長のルーナには前世の記憶を覗かれて、体よく使われている。

 さらに他のメイド達と、公爵家を狙う謎の刺客達も現れる。


「師匠、これもかっこよくない?」


 ステラが黒歴史ノートを開いて迫ってきた。

 見えたのは、星の描かれた魔法陣だ。


「だからやめてぇぇェェ!!!」


 僕は目を覆って、膝を曲げて座り込んだ。


「……ルーナ。本当にゼロ師匠は大丈夫? アタシ、何か失礼なことしてるのかしら?」

「いいえ、お嬢様。彼は正に感無量です。ほら涙まで浮かべて」

「よかった! ちゃんと見ててね!」


 僕は、大きく口を開けて全世界の人間に届くよう叫ぶ。


「誰か助けて!」


 しかし、誰も助けに来る気配は無かった。

 僕は、厨二病のままの方が良かったのかもしれない。


 あはは、と乾いた声が僕の口から出ていた。

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