お嬢様による無自覚な精神攻撃
「ふぅぅ~、スッキリした!」
この時の為に、僕は生きていると言ってもいい。
相手を殴ってでもストレスを発散しなければ、身体が色々とおかしくなりそうだ。
僕の黒歴史が世界を股に掛けて活躍するなんて、神が許しても僕は絶対に認めたくない。
暗殺者三人は、僕が張った結界に叩き付けられて地面に寝そべっていた。
全員完全に気を失ったらしく、白目を剥いている。
その証拠に、結界が効力を無くしていった。
壁が消え、徐々に外の様子が見えるようになる。
壁の向こうで、ステラとルーナがこちらを見ているようだった。
やがて結界が完全に消え、僕と暗殺者三人の姿が晒された。
(マズい!)
僕は、ルーナから貰った仮面を身に付けた。
「あ、ゼロ師匠だー! なんでー? もしかして遊びに来てくれたのー?」
ステラが僕の前まで走ってきて、ぴょんぴょん跳ね回っている。
「そ、そうだね。ちょっとステラの様子を見に来たんだ」
ゼロ。
それは僕が仮面をつけて、ステラお嬢様に正体を隠している時の名前だ。
今日と同じように、ステラお嬢様が僕の黒歴史ノートを使って魔法をぶっ放した時のこと。
僕はメイド達が取り逃した敵を殴り倒し、陰でストレス発散をしていた。
その姿をステラに見られ、何故かカッコ良く思われてしまった。
名乗る必要もなく立ち去ればいいのに、咄嗟に仮面で顔を隠し厨二病の時の後遺症で「ゼロ」と名乗ってしまう。黒歴史ノートの作者であることもバレて、本当に一生の不覚だった。
結果、どうなったか。
「ねぇねぇ師匠、アタシの戦い見てくれた? 今日は雷魔法でやっつけてみたよ!」
強引に師弟関係を結ばされて、僕の考えた黒歴史の魔法を見せられ続けている。
感想まで求められる日もあるから、ただの拷問でしかない。
お嬢様は、黒焦げになった侵入者達を指し示した。
ステラの後ろでは、ルーナがチンピラ共十人を縄で縛っている。
全員雷に打たれた時のように、全身真っ黒焦げで髪の毛をアフロにさせながら打ちのめされていた。
一人ずつ縛るのは面倒臭い、とルーナはチンピラ共の首や腰を曲げてはいけない方向に曲げながら三~四人にまとめていく。アフロが鬱陶しい、と髪の毛全部引き抜かれている者もいた。
ウチのメイドがすみません。
「さすが師匠の魔法だよね! 『雷帝覚醒』めちゃくちゃ良かった!」
グサッ! と抜き身の刃が心臓に突き刺さった気がした。
僕は前世からの侵食に耐える為、胸を押さえる。
「そ、そうだね。でも、あの魔法は身体に大きな負担が掛かるから使うのはできる限り控えようね?」
「え、イヤ! だって『雷帝覚醒』カッコイイじゃん! 『雷帝覚醒』好きだもん! 『雷帝覚醒』お気に入り!」
グサグサグサ、と僕の心に幻想の刃が刺さり続ける。
ステラに止めるよう言った結果、思わぬ反撃に遭ってしまった。
恥ずか死にそうだ。
僕は、ステラからの無自覚な精神攻撃に耐え切れず地面に倒れた。
「え、え、師匠どうしたの? どこか悪いの? もしかして、誰かにやられた?」
ステラは、僕に駆け寄って背中を擦っている。
「……いいや、違うよ。ちょっとお腹の調子が悪くてね。たぶん昼間に露店で買った串焼き、かな?」
口から出任せを言って、何とかやり過ごそうとした。
「任せて! お店の名前教えてくれたら、説教して潰すから!」
ステラは、とんでもないことを言い始めた。
露天商の評判を下げる為に、あることないこと言い触らすに違いない。
公爵家の権力は、もっと違う所に使ってくれ。
「いやいや、そこまでしなくても……」
「大丈夫! セリオン公爵家の名前使えば大体のことは何でもできるから」
さすが我儘お嬢様、暴君怪獣の名前は伊達じゃない。
でも買ってもいない串焼き屋の人に、冤罪着せるのはちょっと気が引ける。
「あ、あ~間違えた。だいぶ前に買ったパン、あれ確かちょっとカビ生えてたっけな~。これは、もう僕の落ち度だよな~。だからお店の人達は、何も悪いことしてないよな~」
僕がお嬢様に目配せすると、ステラは察してくれたらしく引き下がってくれた。
「あ~も~、わかりましたー。ホント、ゼロ師匠ってばお人好しなんだからな~」
いや、そもそも僕が倒れ込んだのは自分の黒歴史がお嬢様に晒されて苦しんでいただけなんだけど。
「その人達、ウチで預かるね」
ステラお嬢様は、気を失った三人を浮かせてルーナの場所まで移動させた。
ルーナが受け取り、手早く縄でまとめていく。全員身動き取れないようにした後、彼女は騎士団へ連絡していた。彼らが引き取りに来るまで、セリオン家のゴミ捨て場にでも置いておくらしい。
「ゼロ様」
ルーナがステラと入れ違いに立っていた。
ステラは捕まえた三人の暗殺者をオモチャにして遊び始めている。
僕とルーナのことは、お構いなしらしい。




