続けて?
三人とも、僕に背を向けて後ろに走っていった。
結界に近づいて、ナイフで結界を壊そうと刃を突き立てる。
「なんだこれ、びくともしねぇ!」
「おい傷一つ付かないぞ!」
「「姉御、どうするんすか!?」」
「アンタ達はそのまま続けろ。私はヤツの相手をする」
「「了解っす!」」
障壁と短剣がぶつかる音が聞こえる。
「ゼロ、まさかアンタと戦うことになるなんてね。噂の始末人がどれ程のものか……確かめさせてもらおうじゃないのさッ!」
女暗殺者のナイフが首元に迫る。
僕は突き立てられたナイフに興味が持てず、敵をただ眺めているだけだった。
ガキンッ!
「なんだとッ!?」
敵の短剣は、僕の結界に当たって刃の中腹で折れた。
彼女は、一歩も動いていない僕から離れる。
「「あ、姉御……」」
「どうしたッ!?」
「「もうナイフが……」」
二つの短剣は、刃毀れによってボロボロに欠けていた。
僕の作った結界には、傷一つ見られない。
暗殺者達のナイフと、僕の結界スキル。どちらが強力か、一目見てすぐに分かった。
「使え!」
女は自身が使っていたナイフを痩せた男に投げる。
代わりに痩せた男は、自身の刃毀れしたナイフを女に投げた。
「加勢します」
「頼む」
痩せた男はそのままナイフを結界に突き入れ、女はもう一人の男と僕に応戦するつもりらしい。
二人まとめて、僕へ飛び込んで来る。
僕は自身にまとった結界を解くことなく、彼等を眺めているだけだった。
「クッソ、硬すぎる!」
連撃に次ぐ連撃だった。
二人が何度もスイッチして相手を攪乱してテンポも変えていく。
刃毀れした暗殺者達のナイフは摩耗し続け、擦り減っていた。
やがて刃の部分がなくなり、柄だけが残った。
「あ、あぁ……」
奥に居た痩せた方も、全ての刃が削ぎ落されたようだった。
震えた声と共に、地面へ倒れ込んでいる。
僕と向かい合っている二人も、身体が震え始めた。
気丈に振る舞って見えるが、見掛け倒しにしか見えない。
手からナイフの柄が落ち、陰で湿った地面に着地した。
僕は、一番遠くに居る痩せた男へゆっくり歩み寄る。
その途中で二人の暗殺者とすれ違ったが、視線を動かすだけで身体は動かない。
二人とも、僕が通り過ぎた後で地面に膝を付けたのが分かった。
僕は柄だけになったナイフを拾い、痩せた男へ手渡す。
「続けて?」
男は目に涙を浮かべながら、僕の言った通りに結界へナイフだった残骸をぶつけていった。
彼は背を向けて一心不乱に結界へ残骸を叩きつけていく。
ガンガン、という音を聞きながら僕は背を向けて来た道を戻る。
体格の良い男にも、同じようにしてナイフの成れの果てを手渡した。
さらに、二人の上司である女の暗殺者にも同じように小さな鈍器を握らせる。
僕は元の場所に戻り、胡座をかいて頬杖を突いた。
「続けて?」
二人は弱々しい足取りで走り、僕に小さな棒をぶつけてくる。
「「ウぁああアアァアアぁァアッッッッ!」」
顔はぐしゃぐしゃだ。
暗殺者達は泣きながら何度も何度も僕へ殴り掛かるが、結界には傷一つ付かない。
三人全員が息を切らし、身体が倒れた。
口を覆っていた黒い装束は取れ、素顔が晒されている。
ナイフだったものは、もう既に曲がって使い物になりそうにない。
僕は、倒れていた痩せた男を投げて全員を一ヶ所に集めた。
「君達は何も見なかった」
三人が頭を動かし、僕を見る。
「何も知らないし、何も起きていない。帰ったら美味しいご飯が待っていて、お風呂に入って一日の疲れを取り、ベッドに入って明日もいい日になりますように、って目を閉じる」
この中で一番偉そうな女に近づいた。
僕は、彼女の顎を優しく持ち上げて目線を合わせる。
「今日は一日、何も無かった。何事もなく平穏無事に過ごせて楽しかった」
女の目から涙が溢れる。
「いいね?」
コクコクコクコク、と勢いよく首が縦に振られた。
「さて、じゃあ最後に一発ずつ景気よくぶん殴られてくれ」
「「「……え、許してくれたんじゃないんですか?」」」
「だって、他の全員が気を失わないと結界解除されないし」
僕は拳を鳴らし、結界スキルで障壁をまとわせる。
暗殺者達は逃げようとするが、全員腰を抜かして動けそうにない。
セリオン公爵家に来てからずっと過去の恥ずかしい黒歴史を晒され続けてきたのだ。
ストレス発散の為に誰かをぶん殴るくらいしないと、僕の心は壊れてしまう。
それに相手は、屋敷に勝手に入って来た侵入者だ。
心も特別痛まない。
プライド粉々にされて一発殴られて終わるだけなんだ。
全くのお咎めなしなんて、ステラやルーナが許しても僕が許さない。
いや、ステラは嬉しそうに殴るだろうな。
理由があれば何をしてもいい、が信条のお嬢様だ。
二つ名は暴君怪獣だが、本人は全く気にしていない。
むしろ喜んでいる。
だから偶には、執事である僕もお嬢様に倣うとしよう。
「「「これがゼロ……!!!」」」
「だから、……」
もう我慢の限界だ。
「だから、その名前で呼ぶなァ!」
僕は三人を一発ずつ殴って、障壁に叩き付けた。




