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知らない駅で目を覚ました

作者: ごはん

電車の揺れが心地よくて、つい眠ってしまった。

目を覚ましたとき、そこは見知らぬ駅だった。


「終点です。電車はこの駅で折り返します」


アナウンスの声は変わらないけれど、ホームに立つ人たちはどこか違う空気をまとっていた。

看板の文字も、駅名も読めない。けれど、不思議と怖くはなかった。


スマホを取り出してみても、圏外。時計だけが静かに時を刻んでいた。

「帰らなきゃ」と思う一方で、どこかで「少し、歩いてみようかな」とも思った。


駅の外に出ると、町の風景は見慣れたようで少し違っていた。

電柱のない空、カフェの看板が光ではなく音で光っている。空気が澄んでいて、どこかあたたかい。


ふと、誰かに呼ばれた気がして振り返ると、そこに一人の女性が立っていた。


「やっと起きたんだね」


彼女は僕の名前を知っていた。けれど、僕には彼女の記憶がなかった。


「ここでは、“ほんとうに大切に思ってくれている人”しか、あなたのそばに来られないの」


そう言って微笑んだ彼女の目は、懐かしいものを知っているようだった。


数日この世界にいるうちに、わかったことがある。

この世界では、心の距離がそのまま物理的な距離になる。

偽りのつながりは自然と遠ざかり、想い合う者だけが、近くにいられる。


「誰が自分を大切に思ってくれているのか」

「自分は誰を大事にしたいのか」

それが、自然と見える世界だった。


そして、ある日また電車に乗ると、気づけば元の世界に戻っていた。

けれど、見える景色は少し違っていた。


今まで当たり前だと思っていた関係が、すこし遠くに感じられる。

逆に、何気ない一言や笑顔をくれた人たちの顔が、胸の奥でやさしく光っていた。


「ただいま」と、心の中で呟いた。

これからは、大切にしてくれる人たちに、ちゃんと「ありがとう」を伝えようと思った。


そして、自分もまた――

近くにいる誰かの、心のそばにいられる人でありたいと願った。


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