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第7話

 はい、あれから数年が経過しました。

 

 生活環境の改善に、勇者の戦闘訓練、魔王と魔術や科学についてのお勉強をしていたらあっという間だった。


 危うくイベントを見逃すところだったが魔王の仕掛けた監視システムが、ターゲットの草壁シオンが件のダンジョンと思われる場所に現れるのを発見した。


 ここで彼女がとあるA級企業のイリーガルシーカー“掃除屋”黒鵜恭司くろうきょうじに殺されることで、妹である草壁ミカゲが復讐鬼となり五年後、Sランクシーカーとして本編に登場するわけだ。


 逆に言えば、ここで草壁シオンを助けたら妹は復讐鬼とはならず、Sランクシーカーが一人欠けた状態で来たる決戦に挑まなければならない可能性が出てくる。


 それにあまり大きな原作ブレイクを起こすと今後オレの与り知らぬルートへと進むことにもなり、未来を知っているというアドバンテージを放棄することにもなる。


 だがそれがなんだ。


 例えより確実に世界が救われるルートだとしても美少女を見捨てるぐらいなら、オレは茨の道だろうが美少女を救って世界も救う道を選ぶ。そしてあわよくばダンジョン資源の売却ルートとネット環境をゲットするのだ!


 と、決意するオレの本日のコーデはデモンゴート製の《《ゴシック&ロリータ》》であった。


ねえ勇者さんや、オレはどうしてこんな格好(女装)をさせられているのでしょうか?


『おそらく肉体的成長のない我々より、今後確実に成長して容姿が変化する君のほうが人前に出るには適任だと魔王が。あと女装なのは本来の姿からかけ離れた姿のほうが効果的だからだそうです。大丈夫、似合ってますよ』

『くくくっ、口調もしっかり作っておけ』


 魔王! お前の仕業か!


 そうこうしてる間に美少女と掃除屋が交戦していた。ぐぬぬっ、仕方ないからこの恰好で行くか。


 途中、伝言として飛ばされた精霊が居たので事前に拉致――保護しておいた見張りの人達どもども隔離しておいた。できれば彼女とは一対一で話したいからな。これで多少話すぐらいの時間稼ぎにはなるだろう。


 さあ、ある意味原作シーンだ。魔王ちょっと良い感じに演出よろしく。こう風とか吹かせる感じで。









 こうしてオレ――改め私は彼女の前に現れた。


「助けは要る?」


 一応原作にもあるシーンを直接この目で見られて大興奮な私は内心荒ぶるファン魂をおくびにも出さず、淡々とした口調で話すことを心掛ける。


 ってあれ? 皆さん固まったまま動きませんね。やっぱり女装が駄目だったか。


『そりゃ魔王オーラをバンバン出してるからな』


 いや原因は魔王(お前)かい。ってか魔王オーラってなに? こう服が風でなびくぐらいのかっこいい演出を想像してたんだけど? 今の私ってどうなってるの?


『魔王降臨……?』


 オウ……演出過剰!


 恩を売りつつ付かず離れるで警戒してる猫、ぐらいの距離感で行こうと思ってたのに。必要以上に警戒されてはうまく協力関係を築けるかわからないじゃないか。まあやっちまったもんはしょうがない。


「まさか……おまえが【正体不明アンノウン】かッ!」


 真っ先に正気に戻ったのは掃除屋だった。


 おそらく基本的なスペックでは草壁シオンも掃除屋もそこまで大差はないんだよな。あるのは純然たる経験してきた修羅場の数だろうか。


 掃除屋は大ベテラン、それも裏で対人戦闘ばかりしてきた対人シーカー。一方、草壁シオンはAランクといってもここ最近なったばかりの、それも対ダンジョンを想定されて純粋培養されたシーカーである。


 事前に手の内を把握されて、徹底した対策を取られた状態で奇襲されたらさすがの草壁シオンでも勝ち目はない。これで掃除屋を一瞬でも足止めできる仲間が居れば話が違ったんだけど……《《わざと》》だろうな。


 で、アンノウンis何? うん、答えてくれないよね。めちゃくちゃ警戒されてるし。


 その間にシオンもフリーズから戻ってきた。


「お願いします!」


 美少女の懇願だ――はい、喜んで!


 とりあえず掃除屋は死なない程度に勇者の≪光魔法≫で追い払う。


 私、あの人のキャラ嫌いじゃないんだよねえ。飄々としたカッコいいおっさん枠は良き。イリーガルハンターやってるのも事情があってだし。


 どっかのクソエルフとか老害みたいな真正のクズは許さんがな! 


 そもそもこいつなんでここに居るん? 


 どうせ自分が望んでいたハイエルフに生まれ才能溢れん姪が憎くて、無様に敗北する様を見に来たんだろうけど。お前、立場的に万が一でも姿を見られないよう慎重に立ち回れよと言いたい。


 そうこの姉妹と血が繋がった叔父とは思えないクソエルフ、本編ではとある企業と結託――実際には良いように使われてるだけの小物である――して亜人会を乗っ取り、同胞を商品扱いしていたというゴミオブゴミである。


 というわけでクソエルフはここで退場でーす。


「貴様! この私が――――――――ッ」


 草壁シオンはこのクソエルフから掃除屋を派遣した黒幕の正体を聞き出したいはずだ。


 だからその前にヤっておく。


「待ってくださいこの男にはまだ聞くことがッ!」


 ごめんね。こいつが生きて囚われるのは色々まずいんだ(主に原作ブレイク的な意味で)。


 たしかにこのクソエルフの立ち位置的は章の中ボスぐらいで、退場させると本編に多少影響は出るがその程度だ。それよりも生かしておくとこいつから亜人会に黒幕の正体が漏れかねない。いずれ潰れてもらう予定ではあるが、あそこと全面戦争を起こすには《《まだ早い》》。


 なんなら歴史の修正力とかが起こって本来の歴史に近づいてくれたりしないだろうか。いやそれだとこの娘も消される可能性があるから駄目か。


 あと初めて人を殺めた――童貞を卒業したわけだが、特に思うことは無いな。


『元来生物には他者を殺めることに躊躇ったり罪悪感を持つといった機能は存在せんのじゃ。弱肉強食こそ自然の摂理故にな。言ってしまえばそれは倫理観という後天的に植え付けられたものに過ぎん』


 突然どしたん? 話聞こか?


『君が殺しに抵抗がなかったのは我々の魂に少し引っ張られているからであって、表層に変化があったとしても君という魂の本質が変わったわけではない、と魔王は言いたいのです』


 あー慰めてくれたのね。ありがとね、で問題はこのあとよ。


『いや、こいつのメンタル強靭過ぎて初めからビクともしておらんだけではないか?』

『……そんなことはありませんよ、きっと、おそらく』


 今から大事なお話なんだから、外野二人はお静かに。


「怪我はない?」

「ええ、ありがとうございます。それであなた様が【正体不明アンノウン】なのでしょうか?」

「あなた様? アンノウン?」


 魔王オーラのせいでなんかおかしな呼ばれ方されてるんだけどー? ちょっと魔王ー?


『演出しろと言ったのはおぬしではないか。余はしらーん』


 なに? どっちが悪いかこれから討論しようか? 勇者に審判とゴング頼む?


 脳内でこんな醜い言い争いをしているとは想像もしていないだろうシオンがアンノウンについて話してくれる。


「最近になって現れた正体が掴めないままダンジョンを攻略してまわっている、統括機構に登録のないSランクシーカーのことです!」

「そ……そう、ならそれで合ってると思う」


 推しについて話すオタクかな? ってぐらい早口で少し引いちゃったよ。


「ねえ私と取引する気はない?」

「それは私個人とでしょうか。草壁家それとも亜人会とでしょうか」

「どれでもいい。私が求めるのは物資か、それを買うための資金。対価はこれまでにダンジョンで集めた品」

「物資とは具体的には?」

「そうね。携帯端末、Dデバイス、生活用品、服、調味料、色々」

「それは……いえ申し訳ありません。ダンジョン資源の売買はどちらにも統括機構の認可が必要になります。どうでしょう、今からでも統括機構に登録なさっては……正式なシーカーとなればこのような裏取引の真似をせずとも、堂々と取引ができます。ダンジョンの件も問題にならないようこちらから統括機構に働きかけることも!」

「今はまだ無理。統括機構が信用できると私自身で判断できるまで登録する気はない」

「……登録する意志はあるというなら、今はそれで十分です。わかりました。取引に関しては私がなんとかしましょう」

「良いの?」

「ええ、あなたは命の恩人。事情を話せば父もわかってくれると思います。最悪私個人で用意します。ただ登録を保留にしてる間の取引は草壁家のできる範囲で、となりますが」

「それで十分、ありがとう。それとあなたと話すのに邪魔な監視の人間は気絶させて隔離したのだけど……」


 別に間に合わなかった体でいっても良かったんだけど、助けたほうがイメージ良いよね? ってことで我が家に招待してました。意識がない状態で、だけど。


「あれに殺されたわけじゃなかったのですね……良かった。それならそちらも私にお任せください」

「そう、ごめんね」

「いいえ、むしろ殺されるはずだった者たちを救ってくれて感謝しかありません」

「それじゃあ話は以上ね」


 やったね魔王ちゃん、現代技術が手に入るよ!


 これで娯楽のない生活から、おさらばだ!


 いや魔法や魔術の勉強は面白くはあったんだけど、やはり現代の娯楽を経験した身としては物足りなかったのだ。


「あの……」

「なに?」


 重要な話し合いが無事終わって安堵する私に向かって、草壁シオンは恐る恐るといった様子でとある質問をした。


「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」


 その質問に私たちの答えが一致する。


 『『(あっ、考えてなかった)』』


 三人揃って、私が名無しの権兵衛であることが頭からすっぽり抜け落ちていたのであった。

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