第5話
試される大地、北海道。
現代この地に住まう大半は亜人化した人類となっている。
亜人化とは変身系スキルの一種で、エルフや獣人、小人、ドワーフなど異なる種族に強制かつ永続的に変化するというものである。これは子孫にも受け継がれる珍しい遺伝型スキルでもある。
この亜人化、発見された当初は世界がちょうど混乱期だったこともあって、モンスター相手に手一杯な人類にそこまで関心を寄せる暇はなかった。
問題はダンジョン関連の混乱が収まってからである。
ある程度状況が落ち着いてくると余計な事を考えるのが愚かな人類だ。見た目がよく特異な能力を持つ亜人は富裕層や権力者の受けがよく、犯罪者にとって格好の得物であった。特に普通の人間より明確に老化が遅いエルフなどは研究目的で大勢攫われいた。
しかし亜人化した人類は数には劣るが素のスペックは人間よりはるかに高い。
のちのランク制で言うところのCやBランクという戦力も少なくない。そのような同じ亜人系スキル持ちで団結した結果、人攫い連中はそのバックに居た連中諸共返り討ちとなった。
その後も団結した亜人たちはこれからも同類たちが安心して暮らしていける居場所を、と自分たちで企業を設立し都市を持つことにした。この時点で既に【世界統括機構】は存在しており、企業主体の統治が始まっていたのも大きかっただろう。
そうしてできあがったのがスタンピードによってモンスターに占領され無人となっていた旧北海道を解放してできた通称、【亜人都市】と統治企業として君臨するようになったB級企業【亜人会】である。
『亜人に見える余なら潜り込めるというわけじゃな』
一見、魔王は吸血鬼や鬼人などの亜人種にも見える。少なくとも亜人の中に紛れても目立たな――いこともないか。調子に乗るから本人には絶対に言わないが、そうそうないレベルの美少女な時点で嫌でも目立つ。
どちらにせよ統治企業はそんな簡単な連中じゃないんだけど。亜人だろうが身元不明の人間は要警戒対象さ。
『ならなぜわざわざこちらに? 亜人種ではないわたしと君も目立ちますよね?』
そこはまだ秘密。先にゲートの設置を済ませよう。それからちょっとした調べ事と色々準備ね。
それから数か月――――――合間合間に転移で動物を運んだりダンジョン狩りでプライベートダンジョンの整備もしつつも、こっそり情報収集に勤しんだ結果、『彼女』の《《存在と生存》》を確認できた。
これでオレは今が原作の本編開始から最低でも一〇年以上前だと確信した。
本編の登場人物の一人が将来Sランクシーカーとなる切っ掛けとも言える事件が本編の七年前に起こるからだ。
今後、この事件がいつ起こっても良いよう監視する必要があるな。
もしこのイベントが発生するようであるならば、原作同様に世界崩壊エンドも存在する可能性が一気に高まる。起こってほしくない気持ち半分、原作ファンとしてはちょっと見てみたい気持ち半分といったところ。別に起こらなくてもバッドエンドの可能性が完全に潰えるわけではない分、起こってくれたほうがメリットはあるか。
それとさすがに原作を知っていて動いていることを二人に隠すのが厳しくなってきた。
なので、『原因はわからないが』オレには少しだけ未来のことがわかるとして伝えることにした。
さすがに世界崩壊エンドはふわっとしたことだけだ。ノストラダムスのような「世界の終わりが近い!」みたいなことを言って信用を下げたくないので、「嫌な予感がする」程度に抑えておいた。
『予知系スキルは希少なだけで存在しないわけではないですからね。もしかしたら≪勇者≫と≪魔王≫のスキルを同時に持つことでおかしな現象が起きているのでは?』
『複合スキル三つ持ちだからのお。≪鑑定≫はたしかアカシックレコードにアクセスして情報を引き出すタイプのスキルだったか。≪光魔法≫の【神託】も似たような魔法か。あと≪魔王≫と≪勇者≫の≪直感≫スキルも影響していそうじゃ。うむ、複雑すぎてどれがどう作用しておるか余でも解析する気になれん』
というわけでイベントが起こるまで準備期間だ。
本編の時間軸まで最低でも七年以上あるとわかったおかげでこっちもじっくり備える余裕ができた。目的のイベントが起こるのは数年先になるかもだけど、それならそれでこっちは準備を進めるまでだ。