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一般人ですが、頭の中に勇者と魔王を飼ってます。  作者: 本間□□
サブストーリー:いたずら娘とゆうれい娘
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第32話

 お待たせしました。予定では四話ぐらいのショートストーリー的な物で考えていたのですが、がっつりメインストーリーに登場する予定のキャラに関わる上、なんか倍ぐらいのボリュームになっちゃいました。

 あれれーおかしいなー。


 これはまだミナトが中等部に通うよりも前、ある日のアヴァロンでの出来事。


 その日、九姉妹のいたずら娘(ティテ)は一人暇をしていた。


 三人娘の眠り姫(ティロ)はどこか隠れて居眠りしてるらしく探しても見つからず、ドジっ子(ティト)は次女のモロノエにお菓子作りを習っているらしく今邪魔するのはおいしくない。お菓子だけに。


 ボートゲームやビデオゲームがミナトによってアヴァロンに持ち込まれたことでティテの日常に娯楽が増えたわけだが、一緒に遊ぶ姉妹が居なければ楽しさも半減である。


 何をして暇をつぶそうか考えながら敷地内をぶらぶらしていたティテであったが、ちょうど見知らぬダンボールを運ぶリトンを見掛けた。


 ミナトがまた外から何か持ち込んだのだと一瞬で察したティテは好奇心に目を輝かせながら彼女の周りをくるくる回る。


「あるじさまー、リトねえ、これなにー?」

「ティテ、邪魔あっちいけ」

「ひゃう!」


 取りつくしまもない様子で妹のことを一蹴するリトン。想像していなかった罵倒にティテの口から悲鳴が上がる。


「はいはい、そう邪険にしなくてもいいだろ。悪さしないならティテも見ていく?」


 お宝を守るドラゴンが如くダンボールを守るリトンを宥めつつ、ミナトがダンボールの中身を見せてくれた。


「魔道具やらDデバイスを作るための教材と材料を色々仕入れてきたんだよねー」


 中にはDデバイスやダンジョン産の魔道具(アーティファクト)――それも特に身に着けることができる小物類を中心に――が詰まっていた。


 オシャレ関連になるとリトンは沸点が著しく低くなる。それはオシャレ目的ではない魔術用のアクセサリーであろうと関係ない。それに装飾品ではないといっても身に着ける物である以上は不格好なものは少ない。


 外へ出るのがまだ難しいゴート娘にとって、こんなモノでも立派なオシャレアイテムである。


 手伝ったらお礼に気に入った物をくれるとミナトが約束したのもあってリトンはやる気に漲っていた。そこにタイミング悪く来たのがいたずら娘のティテだ。

 

 これは普段の行いが悪いティテの自業自得と取るべきか。リトンの理不尽と取るべきか判断に迷うところではある。


 さてそんなわけでティテは邪魔にならないようちょこんと椅子に座り、遅れて現れた魔王も一緒にミナトが買ってきた物の鑑定を行う様を大人しく眺めることにした。


「これは魔力を流すと火が付く、ただの火付けの魔道具。こっちは軽い電撃を放つスタンガンのようなものか。ダンジョン産の魔道具も、大したものはないのう。それよりもこっちの動かない自作(ジャンク)品のほうがまだ見ていて面白い」

「裏で売られてる出処の怪しい奴だからね。でもそういうのって浪漫があって良いと思わない?」


 魔王の言う自作品とは生産系のスキルや技術を持つ者が作ったハンドメイドのデバイスのことだ。


 ミナトが集めてきた物の一部はジャンク品――本来、ダンジョン関連の廃棄品は専門の業者に引き取ってもらって使える部分は再度素材としてリサイクルして残りは安全に処分することが法律で定められている――のだが、時々裏へ流れることがある。


 好奇心でミナトはそういったものが集まりやすい非統括エリア――何らかの理由で統括機構の管理を拒んだ独立都市や地区のこと――のブラックマーケットに変装して遊びに行き、これらを購入してきたのであった。


「一理ある。きちんとした企業の作った既成品にはない。裏特有の掘り出し物には

余も興味がある。今度……」

「どしたん、本当に掘り出し物でもあった?」


 ひとつの指輪を手に取ってじっくり眺めている魔王に気付いたミナトが尋ねる。


「これは……呪われた(カースド)アイテム、いやまだ呪いの(カース)アイテムか。ベースはダンジョン産にはよくある魔術やスキルを保存できる機能を持った魔道具のようじゃな。しかも主に銀で作られているようじゃが、少量含まれてたミスリルがヒヒイロカネに変異しておる。売れば結構な高値になりそうじゃ……こいつの中にある呪いのような魔力が無ければ、だがな」

「カースとカースドの違いって?」

「呪物といってもその在り方には二種類ある。カース“ド”アイテムは文字通りそれ自体が呪われている呪物を指す。当然制御なぞされておらんからな。そこにあるだけで周囲に災いをまき散らす。対してカースアイテムはあくまで《《呪いを内包した》》だけの呪物じゃ。呪術が込められたアイテムと言っても良い。大抵はきちんとした封印がなされておるか、制御されておる。器を壊すか特定のトリガーを引くなどせん限りは害はない。指輪これであれば指に嵌める、とかな」


 ただしこの指輪は長年正しい管理がされてなかった影響で、半ばカースドアイテムと化しているとのこと。


 ヒヒイロカネが含まれているのもそれが原因だろう、と。


 ヒヒイロカネは特殊な性質を持ち、別名“生きた金属”とも呼ばれる。ダンジョンでも通常の方法では入手できず、特定の条件下にあるオリハルコンやアダマンタイト、ミスリルなどの迷宮産金属が長い時を経て変異したものだとされている。


 Sランクのシーカーでもそうそう手に入るようなものではなく、珍しいオモチャが手に入った彼女はご機嫌であった。


 とはいえ希少な金属といっても呪いのアイテムである。普通の感性をしていればあまり手元に置いておきたくないものだが……、


「当たりか外れでいうなら?」

「大当たりじゃ。所詮呪いなぞ余の前では原始的な魔術の一つに過ぎん。おぬしの教材にはピッタシじゃろうて」


 しかしミラからすればちょっと管理に手間の掛かるだけの面白アイテムでしかなかった。


「余の工房に封印処置を施したケースがいくつかある。取って来てやろう」


 思いもよらない掘り出し物であった指輪をミラは無造作に机へ戻し、保管用のケースを取りに部屋を出る。


 その時だった。


 二人が指輪から目を離した瞬間、ティテが机の上に置かれた指輪を手に取っていた。


「ティテ?!」


 ティテは熱に浮かされたような虚ろな表情で指輪を見つめると、止める間もなく彼女はそれを自身の指に嵌める。


 そして、ばたりとその場で倒れた。


 そんなティテの下に駆け寄り、ミラは彼女の状態を確かめる。


「魔力に乱れは無い、呼吸も正常にしておる。ただ意識がないだけ……いや魂を囚われたのか?」


 まるでただ寝ているだけのように、ティテは穏やかな寝息を立てて眠っていた。


 すぐさま命に別状があるようではないとわかり、ミラは安堵の息を吐くが表情は険しい。


 一方、ミナトにはこの現象に覚えがあるような気がしていた。よくよく考えてみれば《《自分は一体どこでこれを見つけたのか》》。


 身に覚えのない指輪に急に背筋が冷たくなる。


 彼も今までこの《《呪われた》》指輪の影響下にあったのだ。

 

 愕然としつつも必死に頭を動かす。この既視感を思い出そうとして、


「【小紅娘の亡霊】……?」


 無意識から出た言葉を切っ掛けに、頭に掛かっていた霧が晴れる。


 そしてミナトは誰にも届かないほど小さな声で呟く「そっちかー」と。

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