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一般人ですが、頭の中に勇者と魔王を飼ってます。  作者: 本間□□
メインストーリー:人造天使編
30/39

第30話

 モルゲンたちが魔王の代わりにテロの後始末に奔走してる頃。


 魔王はアヴァロンでクローン使徒たちの治療を行っていた。一方、本体ミナトは帰ってきたミカゲのご機嫌伺いにと、どこぞのスイーツ店へ出かけているので不在である。


「お前が一人で会いに来るとは、珍しいこともあるものじゃ」


 ミナトやモルゲン達が暮らす建物の傍にある魔王のアトリエに急遽用意した治療室。そこに訪れたのは勇者――フレイだった。


 実はこの二人がこうしてミナト抜きに話すのは珍しいことだ。昔ほど喧嘩することがなくなったとはいえ、勇者と魔王は本能的な部分でどうしても合わなかった。


 だからといって積極的に自分から喧嘩を売りに行くほど暇ではないので、お互い二人きりになることは避けていた。そんな暗黙の了解を破ってフレイはミラのアトリエへやってきていた。


「彼女らをここに入れて良かったのですか?」

「うむ、天使についてはある程度分かった。おそらく問題なかろう」

「もう、ですか」

「一〇年前から色々と仮説は立てておったからな」

「一〇年?」


 聖女たちを保護した時期と明らかに合わない年数にフレイは首をかしげる。


「余らは何者だ?」

「そ、それは……」


 そう問い掛ける魔王に勇者は言葉を詰まらせる。質問の本質が勇者や魔王などといった表面的なものではなく、もっと根本的な部分だと彼女は理解したからだ。


「余は魔王と名乗っておきながら、前世についておぼろげな記憶のようなものしか持たぬ。確かにおぬしと戦ったというような記憶はある。だがなぜどこでどのようにして戦ったかは一切思い出せん。他も具体的なモノはなにひとつな。この記憶は一体何なのか、疑問に思ったことはないか?」

「生まれ変わり、あるいは世界を渡った後遺症と思っていました」

「その可能性も無きにしも非ずではあるだがな。薄々察しているのではないか?」

「……わたしたちは元から生物ではなかった」

「うむ。余らは人類の想念から生じた≪魔王≫と≪勇者≫という概念が形となったモノではないか、そう余は考えておる。そしてその考えを補強したのが≪天使≫の存在じゃ」


 勇者は≪直感≫によって感覚的に、そして魔王は≪解析≫によって論理的に自分たちが人間ではない可能性にたどり着いた。


 普通の人間であればアイデンティティが揺らぎかねない出来事であるが、そこは勇者と魔王。ミナトと同じく「我思う、ゆえに我あり」の精神でそれほどショックは受けていなかった。


 魔王に至ってはむしろ面白いと感じるほどだ。ミラにとって前世がどうこうというのは興味のない事柄でしかなかった。


「集合的無意識という言葉は知っておるか?」

「なんとなくですが」

「まあ簡単に言ってしまえば共通認識よの。イチゴといえば赤くて甘い、犬は毛に覆われて四足歩行する獣。文化や地域によって多少の差異はあるが、だいたいの者はそのようなイメージ――原型アーキタイプを思い浮かべるだろう」


 これは長くなるな、と勇者は自分の分の飲み物とお茶請けを保存庫から取り出す。当然ながら、魔王の分まで用意する気はないのでミラも若干イラっとしつつ自分で用意する。


「この集合的無意識が魔力を介することで、人類の間にある種のネットワークのようなものが形成される。リリアがエリーゼの存在を察知したのも、天使というアーキタイプを窓口にして魔力を介した人類の集合的無意識のネットワークと繋がったからと思われる。つまりは天使とは意思ある存在ではなく、人の無意識下で機械的に動く意思のない概念システムではないか、ということじゃ」

「それなら我々はなんだというのですか。こうして自分の意志で話ができれば、動くこともできる。あなたのいう天使と同様なら私たちも機械的であるはず。それ以前にあなたの仮説には大きな矛盾点があります。我々の持つ魔術に関する知識はどこから来たのでしょう。人々の無意識から生じたとするなら、人類にとって未知の知識を持つのはおかしくありませんか」

「知性持つ者はなにもこの世界の人間だけとは限らん。《《あちら側》》にも同様の存在がいたとしたら?」

「まさかダンジョンの向こう側……異世界の民が存在する、と?」

「今も生存しているか。あるいは滅んだがダンジョンの魔力に残留思念が残っていたかはわからんがな。ダンジョンを中継地点にこちらとあちらの魔力が繋がったとすれば、あちらの集合的無意識がこちらと混ざってもおかしくない。それに集合的無意識に必要なのはニンゲンかどうかですらなく、一定の知性を持つかどうかだけが重要だ。なにせ無意識下では異なる言語ですら障害にはならんだろうからな」

「共通認識、つまりは似通ったイメージを持つならば多少混ざったとしても問題ないと。だからわたしたちは異世界の知識を持ち合わせていたのですね。逆にこちら側の知識が極端に少ないのは?」

「さあのう……現代で勇者や魔王と言えばゲームや漫画の登場人物のイメージが強いからそれに引きずられて異世界人ベースになったんじゃないか?」

「適当ですね」

「まあ所詮これらは仮説に過ぎん。まだ確証となるものは何一つとして見つかっておらん。しかしアヴァロンのような明らかな人工物がダンジョンの中にある以上、異世界の文明は存在する可能性は十分に高い」


 ダンジョンの中に発生する建造物はそのどれもが地球の建築様式と一致しない。そのことから『ダンジョン=異世界説』は昔から唱えられていた。


 魔王も《《異世界の知識》》からその可能性が高いと考えていた。


「さて本題から随分逸れたが……おぬしは天使を警戒しているようじゃが、あれは意思を持った存在ではない。故に天使と繋がりのあるこの娘たちをここに入れても天使から何か仕掛けてくる、なんてことはありやせんよ」

「星月公司がクローンを介してこちらに仕掛けてくる可能性は?」

「奴らが余以上の知識と技術力を持っておるなら警戒するに値するが、どう思う?」

「しばらくはありえませんね」

「『しばらく』は余計じゃ」

「失礼。そういうことならあとのことはわたしに任せてくれて構いませんよ?」

「そうさせてもらうか。姉妹たちは好きに使え」


 今日まで魔王もクローンたちの経過観察をしていたのは主に健康面での観察をしていた勇者に対して、魔王は天使化が彼女らに与える影響を確認するためだ。


 本来であれば医療は勇者の担当であるが、天使化に関してはミラのほうが詳しい。そのため容体が落ち着くまで協力していた。


 それも数日経過して、容態が急変するようなことはないと確認できたのでフレイはあとの看病は自分に任せるよう言ったのである。




 



 部屋から離れたミラは少ししてポツリと呟く。


「勇者はまだ本体の違和感にまでは気付いておらんようじゃな……」


 魔王は自分たちの正体に気付くと同時に、ミナトの特異性について改めて考えていた。


「ミナトは一体何者じゃ。余や勇者のように概念をアーキタイプとして、伝承や神話によって記憶ガワが作られたというわけでもない。曰くパラレルワールドから転生してきた自称一般人というが……あれが一般人のわけなかろう」


 自分たちが前世と思っていたものは伝承や神話によって作られた偽物だった可能性が高い。ではミナトの前世の記憶とは何なのか。


 記憶とは脳の持つ機能のひとつに過ぎない。基本的に肉体を失えば当然記憶も消えてなくなる。


 例外があるとすればそれは魔力だ。


「魔力に残った何者かの残留思念が赤子の脳に焼き付いた? それも並行世界だろうと異なる世界に魔力だけを、肉体に影響を与えるほどの強烈なモノを送り込む? 人為的だったとしても偶然だったとしてもありえん。そもそもミナトの話では魔法のない並行世界という話だ」


 本人も勇者も、転生の仕組みについて深く考えることはしなかった。しかし魔王だけは好奇心からずっと思考していた。


 だからこそミラジェーンだけがミナトにはまだ秘密があると気付いた。


「ヴェールに包まれたモノを覗いてみたいと思うのが人情よ。悪いが勝手に調べさせてもらうぞ?」


 純粋な興味から、ミラは悪い笑みを浮かべる。それがパンドラの箱だったとしても、自分勝手に開くのが魔王だった。


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