第3話
ここでこの世界について軽く触れておこう。
とはいってもゲームでの世界観であって、実際の世界とは異なる点もあるかもしれないので参考程度にだが。
まずこの世界は地球のパラレルワールドという設定だが、日本という《《国家》》は存在しない。
正確には今はもうない、と言ったほうが正しいか。地名としての日本列島がなくなったわけではない。
ダンジョン発生時、色々ありました。なにせダンジョンは一定期間攻略できずにいると中からモンスターが溢れる“スタンピード”という現象が起こる。それもあって世界はそれはもうぐちゃぐちゃになったのでしょう(他人事)。ゲームでも一定期間ダンジョンを攻略せずにいると、日本占領エンドというバッドエンドを迎えていた。
スタンピード以外にもダンジョン発生後しばらくして、それまでダンジョンのモンスターに劣勢を強いられる人類の中に現れた、ダンジョンに適合した異能を有する人間の存在も大きな要因であった。
人類は彼らをスキル持ち、異能者、新人類などと呼んだが――現代ではダンジョンシーカーで統一されている――強さ次第では既存の軍隊を一方的に蹂躙しうる存在だった。
どこぞの独裁者が現在で言うAランクシーカーに首輪を付けようとしたら、翌日自分の首が表に晒されていた。なんてことも実際に起こった、と何かの設定資料で読んだ記憶がある。
それ以外にもダンジョンシーカー関連で様々なトラブルが起こった結果、既存の統治機構は事実上の崩壊。なんやかんやあって某「身体は闘争を求める」あのゲームが如く、企業主体の統治システム【世界統括機構】という世界統一政府に近いものが出来上がった。
それだけ上位のダンジョンシーカーはやばい。
その中でもやばい一角が【蒼の勇者フレイア】と並ぶ存在、【紅き魔王ミラジェーン】である。
「クックック! ハッハッハッ!! ハーッハッハッハ!!!!」
|山羊のようなモンスター《デモンゴート》(普通の山羊の何倍もデカくて二足歩行してる)を焼き払いながら、城塞都市型ダンジョンに《《魔王の》》三段活用高笑いが鳴り響く。
まるで吸血鬼のように紅い眼と銀髪に白い肌。そして額から生える小さな赤い角。
残念ながら背は小学生と見間違うぐらい小柄であるが、勇者と並ぶ美少女の類ではある。まさかこっちも本当にあのメスガキだったとは…うーん、原作通り!
『あれでもわたしより年上だったはずなのですが……』
結局、勇者も魔王の運の無さに同情して出番を譲ることにした。まあここでストレス発散しとけばしばらくは静かになるだろう、という打算的な考えもあるのだろうが。
個人的にはあのタイミングでダンジョンが出現したのは作為的な物を感じるが、今は触れないでおこう。
それにしてもこのメスガキさすが魔王。たしかゲームではAランク下位に分類されていた強そうな(実際強かった)モンスターが塵芥のように魔法で一掃されていく。これで全然本気を出してないというのだから、これと対を為す勇者含めこのコンビやばあーい。さすが原作最強候補の一角様。
この様子ならダンジョン攻略は魔王に任せておけば問題ないか。しばらくぶりの自由ということで、こっちの声も全く耳に入ってこないようだし。
さてそろそろ冷静になって考えてみるが、魔王がダンジョンに住もうと提案するのはわかる。魔王だし。しかし真面目な勇者がそれに乗る理由がわからなかった。別に施設に(自分から)預けられたって構わない。むしろ今後のことを考えるとそのほうが良いはずなのだ。
そこんとこどうなん?
『わたしも魔王も、そして前世の記憶を持つ君もこの世界では異端の存在です』
それはそう。でも二人の協力があればすぐシーカーの最高ランクであるSにも届くだろ? そうなれば少なくとも衣食住にだって困ることはない。
それに異端だと言ってもSランク自体が人類の異端のようなものだ。そうそう排斥されるようなことはない。ダンジョンショックが落ち着いたとはいえ、未だ一部地方はモンスターに支配されて解放できてないのだ。人類側に強力な戦力はいくら居たって困らない。
『ええ、わたしも大筋の考えは一緒です。しかし、問題は我々が前世の記憶を持って生まれ変わった、という現象です』
それってそんなにマズいの?
『前世を持って生まれ変わる――言い換えれば、ある種の不死性を持った、とも言えるのでは? 不老不死は権力者の夢です。不完全な不死性とはいえ、バレたら間違いなく狙われますよ? たとえ相手が勇者や魔王だろうと。それが人間ですから』
あっ、終わったわ。言われてみれば全くもってそうですやん。
今世はダンジョンもあればスキルも魔術なんてオカルトが実在する世界。不老不死やそれに近い物がある、と本気で思われていてもおかしくない。
そんな中現れた転生者のオレ。転生のメカニズムを解析して疑似的な不死を得ようと考える人間が現れるのは火を見るよりも明らか。
オレ自身なぜそうなったかわからないが、これが露呈すれば冤罪だろうがなんだろうが指名手配からのモルモットコースは免れない。
『そういうわけですから、今はヒトとの接触を最低限にして対策を用意する時間が必要だと考えました。魔王なら時間さえあれば大抵のスキルにも魔術にも対応してみせるのでしょう』
読心術みたいなスキルがあったら隠し通せないからね。まあ現状でも勇者と魔王の耐性を突破できる人間なんてそうは居ないと思うけど。
さすまお。さすゆう。
けど用心に用心を重ねるのは大事。二度目の人生、モルモットは嫌どす。
『あと君の場合、もう少し体の成長を待たないと中身とのズレでバレる、とまではいきませんが不審には思われそうですからね』
赤ん坊の中に大学生だからなあ。どうあっても違和感が拭えないのは仕方あるまい。
うん、勇者が色々考えてくれてたのはわかった。ありがとう。
『どういたしまして』
『おい、何イチャイチャしてるのじゃ。目的地に着いたぞ』
魔王ちゃんもありがとうね。これで隠れ家作りを始められるね!
ひとつ屋根の下もとい体の下、数か月にしてようやく心を一つに動けてる気がする。以前まではひど過ぎた。主に勇者と魔王の犬猿の仲具合がね……。
『うむ……?。まあ任せろ』
魔王はダンジョンのコアに触れる。するとゴゴゴッと世界が大きく揺れ出した。
モンスターの分類は討伐に必要な適正+戦力(位)で表記されます。
Aランク下位はAランクシーカーが単独で討伐可能、ということになります。
捕捉 下位は単独で討伐可能、中位は2~6人以上の小隊規模でなら犠牲なしに討伐可能、上級は犠牲覚悟であれば小隊規模でも討伐可能、という意味合いです。