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一般人ですが、頭の中に勇者と魔王を飼ってます。  作者: 本間□□
メインストーリー:人造天使編
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第28話

 駆け引きのかの字もないような、天使の力に任せた愚直なまでの暴力。こちらも正面から受けても構わないけど、勇者直伝と謳ったのに力技というのはいかがのものか。というわけで柔よく剛を制す、としよう。


「さあ、生きたいと願うならば全力で足掻きなさい。さもなくば人形としてここで朽ちなさい!」


 叩きつけるように言葉と一緒に魔力を乗せてそう言い放つ。眠った意識にも届くよう願って。


『おぬしにしては過激な言い様よの。わざわざ発破を掛けずとも、抑制術式と一緒に魔力を直接流し込めば効率良く消費できるぞ?』


 確かに天使化を解くだけならそれでいいんだけどねえ……なーんか気に入らないんだよねえ。


 そんなことを考えながらクローン使徒ちゃんの攻撃を軽く捌いては抑制術式含む色々な魔術を魔力と一緒に打ち込んで天使の魔力を霧散させることしばらく。


 突如として、それまで直線的だった攻撃が途中ではっきりとわかるぐらいに攻め手を変えた。


「動きが変わった?」


 今まで無かったフェイントを交えた攻撃に少し驚きはしたもののまだ余裕だ。


 身長諸々が変わった動きにくさはあるが前世の体に近いのと、長いこと勇者との組手《セクハラ》で鍛えた私がそう易々と負けてたまるか。


 だがこれで理性無き獣から賢い獣ぐらいにはなったかな? と、思ったら今度は両手を光で覆った。


 肉体の変異が進んだ……というわけじゃないな。天使の力を制御しようとしているのか。リリアに比べれば拙い技術ではあるが、たしかに彼女は《《自分の意志で》》魔法を使い始めた。


「良いわね。ならお手本を見せてあげる」


 彼女が作ったのが拳を保護する厚手のグローブだとすれば、私が作るのは鋼鉄のガントレット。その気になれば爪でも刃でも生やすこともできるが、そこまでする気はない。


「第二ラウンドと行きましょうか」


 直接的な攻撃は加えていないが、魔力を流し込むことで体内で天使の魔力と反発してそれなりのダメージにはなっているはず。ちなみにこれ勇者と開発した某国の浸透勁を参考にした技の応用だったりする。


 体の一部を魔力でコーティングしたのはこれを防ぐため、というのもあったのだろう。まあ流す手段はまだいくつかあるが、これ以上ダメージを与えるのも危険か。彼女が自分で魔力を消費してくれるならそれに付き合うとしよう。


「うぅうううううっ!」


 大振りな攻撃は止め、小回りの利く貫手で私の心臓を狙う。狙いが丸わかりだといくらフェイントを入れたところで無意味なんだけどね。


 やはり戦いの駆け引きというか、戦術というものがずぶの素人だな。出力任せの特攻兵器だから技術を磨いたところで無駄と省いたか。


 子供が頭も使って頑張っているのを見てるような微笑ましい気持ちになりつつ、彼女が突き出した腕を取り優しく放り投げる。


「猫ちゃんみたい」


 翼も使い空中で身を捻りながら着地する身のこなしに私は純粋に関心した。


 特に訓練を受けたわけでもないだろうにこれも天使化の副産物か?


 だとしたら星月公司は本当にもったいないことをしたもんだ。いや無いとは思うけど完全な兵器化に成功されてても困るから、こっちとしては助かるんだけど。


「さてそろそろ満足した?」


 さてこれだけやれば嫌でも力の差は理解できる。残りの体力もほとんど残ってないだろう。


 ついでで流していた治癒《《魔術》》のおかげで薬物もかなり抜けたらしく、既に理性の光を眼に宿している彼女だが、諦めは見えない。


 ならどうするか?


 隙を作って一発逆転の大技を狙うぐらいしかない。


 悟られている時点で成功する可能性《芽》はかなり低いのだが、最後に一矢報いたいぐらいの想いはあって然るべしである。ならばそれに応えよう。


「これ以上先延ばしにしても結果は変わらないでしょう? 最後に全力で来なさい」


 あえて鎧《ガントレット》を解いて挑発する私。


 灯滅せんとして光を増す。


 蝋燭の消える瞬間の、激しく明滅する灯りが如く。彼女から発せられる魔力が一段と強くなる。


『さて何を見せてくれるやら』


 魔王がウキウキした声で話しかけてきた。チラッと横を見ればポテチとコーラを両手に観戦する魔王の姿が、それ私が買いだめておいた期間限定(現在は販売終了)のヴァーチャルライバーズチップス――ッ!!


『いや保管庫は共用空間であって、おぬし専用のものではないからな?』


 ふっ、魔王は所詮…推しのグッズも満足に追えない情弱…… 敗北者じゃけェ……!!!


『な、なっ――誰が敗北者じゃ!』


 ポテチ(お菓子)はいいけどカード(オマケ)は私に頂戴ね?


『いやじゃー余も全種コンプ……はしなくていいか。じゃが推しのカードだけでもコンプするんじゃ!』


 そんな馬鹿話をしてる間も準備は進みつつあった。


 彼女の手にあるのは一言で表すなら“光の槍”。圧縮も甘く形も不安定だが、それは間違いなく槍を形取っていた。


 こちらも同様の槍を作ってぶつけても良いが、同じ手を繰り返すというのも芸がないな。


「|咲き乱れるは戦女神の花《アイギス・ブロッサム》」


 女神の盾を冠したそれは何枚もの結界が花びらのように展開する多層型結界魔術。本来であれば特性の異なる一〇〇層にも及ぶ結界で構築される物なのだが、さすがに大人げないからほどほどの強度で一〇層ぐらいにしとくか。


「少しでも槍の制御が甘ければ複数の結界に阻まれてこの盾を貫くことは叶わないでしょう。もし私の下にまでその槍を届けることができたならば、あなたの願いをひとつ聞きますよ?」

「……真的《本当》?」


 ポツリと今にも消え去りそうなか細い声が聞こえた。


「ええ、なんでもとまでは言いませんが――《《姉妹ともども匿うぐらいなら》》なんら問題ありませんよ」


 いやまあ最初から全員とまではいかないが、救える命は救うつもりではあった。

 

 あえて賭けにしたのはこの子のやる気を引き出すため……だったのだけれども、あ、あれ?


 ちょっとやる気出させすぎちゃった? なんかぎゅんぎゅん魔力が高まってるんだけど、大丈夫? 限界以上の魔力を引き出そうとしてない?


 これ本体《私》まで貫かれない? 


 今なお輝きを増すクローン使徒ちゃんの槍を見て、ちょっと不安になる私。


 『安心せい、いざという時は余が守ってやるのじゃ』


 きゃーさすが魔王様、さすまお!


『良いぞ良いぞ。もっと余を讃えるのじゃ』


 うん、これ以上ヨイショすると調子に乗るな。魔王は褒めすぎるとすぐ調子に乗ってやらかすから容量用法は守らねば。


「光あれ(フィアット・ルクス)」


 御大層な言葉と共に彼女は槍を放たれた。


 たしか聖書の一節だったっけ。なぜその言葉が出てきたのか少し気になるが、まあ今は置いておこう。


 それよりも槍《アレ》だ。


 槍が結界の中心に命中すると同時に五枚ぐらい一気に持ってかれた。


 オウ……やっばーい。想定してたより威力が高い。本当は何枚か割れたら努力を認めるって形で収めようと思ってたのにッ! ひーんっ、また割れた!?


 結界にぶつかったのになんで止まらないの??


 あれか? 必中必殺を含む魔術だったりしない? 確か、欧州《あっち》にはそういう逸話を持った槍があったと思うけど、天使の力でそこまで再現できちゃうの!?


 追加で結界を張れば簡単に防げるんだろうけど、カッコ悪いから却下!


 魔王を信じてこのまま何もしない? いやいや怖いってば。ええい、女? は度胸。


 最後の結界が割れた瞬間、


 ――――――――バシュッ!


 魔力で保護した人差し指と中指で挟むように槍の先端を掴んだ。


「おめでとう」


 内心、「うまくいった!!」と大はしゃぎしてるが、余裕綽綽《クールビューティー》な笑みは忘れない。いかにも一切動じてませんよー、みたいな顔で。


『なんじゃ、せっかく直前で霧散するよう魔術を仕掛けておったのに。いやしかしそっちの強者ムーブもアリか』


 そういうことはもっと早く言ってくれませんかねえ!?


 力尽きたクローンを回収しながら、私は魔王に叫んだ。

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